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22.元婚約者の運命の相手の真相
「ベイリー侯爵子息。あなたはご存じないようですが、私はオルブライト公爵子息と婚約しました。すでに公示しています。ですからそのような提案をされても迷惑です」
スコットは目を丸くした。すぐに怪訝そうな顔になるととんでもないことを言い出した。
「婚約した? 嘘だろう……こんな短期間で? 信じられない。まさか僕と婚約していた時から浮気を――」
それは私とヴァンスを侮辱する発言だ。浮気を疑われた瞬間、怒りに我を忘れ叫んだ。
「違います!! あなたが一方的に婚約を破棄した後にお話を頂いたのです。オルブライト公爵子息と会ったのも婚約破棄の後です!」
浮気を疑うのはヴァンスが婚約者がいる女性に手を出したことを意味する。彼はそんな不誠実な人ではない。そもそもヴァンスは留学中だった。ヴァンスが帰国する前にオルブライト公爵夫妻が、アイリーンの勧めを受けて婚約を打診してくれたのだ。スコットにそこまで説明するつもりはないが、ヴァンスを侮辱する言葉は到底看過できなかった。スコットは私が大きな声を出したことに怯んだ。
「あれは婚約破棄ではなく解消なのだが……す、すまない。そうだな。セシルは僕一筋だったはずだ」
そう言われると不愉快で否定したくなるが、当時はそうだったので否定できない。
「今は違います」
「そんなことを言わずに考えてくれないか?」
必死に懇願されても頷くわけがない。私はふとスコットがエイダを好きになったきっかけが気になった。婚約解消を言われたときはショックで聞きそびれていた。エイダの顔が好みなのはさっきの話で理解したが、そもそもの経緯を知りたい。
「無理です。ところでベイリー侯爵子息がエイダを好きになったきっかけは何だったのですか?」
「きっかけ? ああ、それは……彼女が僕の苦境を救ってくれたのだ」
「へえ……」
遠い目をして微笑を浮かべるスコットを見て、思わず淑女らしくない相槌が漏れる。
「あれは二年生になってすぐの頃。午後一番の数学の授業で指されることがわかっていたのだが、その問題がどうしても解けずに頭を抱えていた。友人たちも難しすぎてわからないと頼りにならない。気分を変えれば解けるかもしれないと中庭の噴水で考えていたら、予鈴が鳴って慌てて教室に戻ったんだ。その時、うっかり教科書を噴水に忘れてしまって慌てて戻ったが教科書は見つからなかった。絶望しながら教室に戻ったらなんと教科書があった。実は親切な女性がわざわざ届けてくれたのだ。その女性は金髪で緑の目の綺麗な女性だったと友人が教えてくれたよ。彼女は名前を名乗らなかった。僕は……その奥ゆかしさに感動した」
(え……? それってもしかして)
「僕はその女性にお礼を言おうと教室を出た。ギリギリ後姿が見えたよ。窓の光が彼女を照らしていて、小走りに髪を揺らして走る姿がとても美しかった。追いかけたかったのだが、先生が来てしまいお礼が言えなかった。授業が始まり教科書を開いたらそこには答えが書かれていた。彼女は教科書を届けただけじゃなく、正解も記入してくれていたのだ。まさに僕を救ってくれた女神だろう? 好きにならずにはいられない!」
スコットは顔を上気させ熱弁する。
(え……どうしよう。その出来事、身に覚えがある)
私はいつもお昼休みを中庭の噴水のある場所で過ごしていた。あの日は先にスコットがいたので、仕方なく私は隠れるように木陰のベンチで過ごしていた。教室で『計算問題集』を解くと、変な顔で見られて面倒くさいので中庭に来ていたのに、避難先でも変な目で見られるのは嫌だった。
スコットはお昼休み中ずっと教科書を見て「うんうん」と眉を寄せて唸っていた。予鈴を聞くなり教科書を置いて行った。教科書は開きっぱなしで小さく「誰か解いてくれ!」と魂の叫びが書かれていたので、おせっかいかなと思ったが気の毒に思えて正解を記入しておいた。あれは私だったのだけど、どうしてエイダだと思ったのだろう?
「ベイリー侯爵子息はその後ろ姿がエイダだとどうしてわかったのですか?」
「翌日、廊下を歩いていたらあの時見た後姿を見つけたので慌てて追いかけた。そして声をかけて振り向いたのがエイダだった。彼女の顔を見た瞬間運命だと、まるで雷に打たれたような衝撃を受けた。お礼をさせて欲しいと言ったら、自分ではないと否定して……その謙虚さに胸を打たれた。可愛くて頭もよくて控えめで理想の女性だと思ったんだ」
――真実は残酷なり。
この人、何度私とエイダの後ろ姿を間違えているのかしら? 私だと思ってエイダに声をかけて顔が好みだから運命を感じたらしい。きっとエイダではなく私が振り向いたら、運命など感じずにお礼を言って終わっていたと思う。そう、結局は顔!
真実を知ったらスコットは私こそが運命と言い出しそう。恐ろしい……。この時、エイダはちゃんと自分じゃないと否定している。でもプロポーズを受けたということは、あれは自分だったと認めたことになる。エイダは嘘を吐いてまで婚約者がほしかったのだ。
とにかく! 私はこの真実を絶対にスコットに打ち明けるつもりはない。というか誰にも言わず墓まで持っていく!
「あなたはエイダに運命を感じたのでしょう? それを信じて歩み寄るべきです。どうぞお二人で幸せになってくださいませ」
エイダは頑張っている。だからスコットが真面目に向き合えば上手くやっていけるはずだ。スコットは誰かに幸せにしてもらおうとしている。自分で幸せになる努力をしない怠け者だ。
「ああ、セシル……君は僕の幸せを願ってくれるのだね。やはり僕の本当の運命はセシルなのかもしれない」
ち・が・う!! 勝手に都合よく解釈して感動している姿に頭が痛くなる。スコットが継いだらベイリー侯爵家、潰れちゃうのでは?
「私のことはバセット伯爵令嬢とお呼びください!」
「あ、えっと、バセット伯爵令嬢。そういうわけで僕とやり直して欲しい。僕と一緒に過ごした二年を思い出して、どうかオルブライト公爵子息ではなく僕を選んでくれ。頼む!」
「その二年を先に踏みにじったのはベイリー侯爵子息ですよね?」
「ぐう……」
自覚はあるみたい。もう疲れたから帰ってもらおう。
「お断りします。話は終わりました。さあ、お帰り下さい」
「待ってくれ。もう一度考えて欲しい。お願いだ」
「騎士に摘み出されたいのですか?」
私は後ろに控える騎士と侍女に頷いた。侍女はさっと扉を開け、騎士はスコットの腕を掴むと有無を言わさず引きずり出した。
スコットが大きな声で「結婚式で待っているからぁぁ~」と騒いでいるが無視。しばらくすると馬車が走り出す音が聞こえた。
スコットは目を丸くした。すぐに怪訝そうな顔になるととんでもないことを言い出した。
「婚約した? 嘘だろう……こんな短期間で? 信じられない。まさか僕と婚約していた時から浮気を――」
それは私とヴァンスを侮辱する発言だ。浮気を疑われた瞬間、怒りに我を忘れ叫んだ。
「違います!! あなたが一方的に婚約を破棄した後にお話を頂いたのです。オルブライト公爵子息と会ったのも婚約破棄の後です!」
浮気を疑うのはヴァンスが婚約者がいる女性に手を出したことを意味する。彼はそんな不誠実な人ではない。そもそもヴァンスは留学中だった。ヴァンスが帰国する前にオルブライト公爵夫妻が、アイリーンの勧めを受けて婚約を打診してくれたのだ。スコットにそこまで説明するつもりはないが、ヴァンスを侮辱する言葉は到底看過できなかった。スコットは私が大きな声を出したことに怯んだ。
「あれは婚約破棄ではなく解消なのだが……す、すまない。そうだな。セシルは僕一筋だったはずだ」
そう言われると不愉快で否定したくなるが、当時はそうだったので否定できない。
「今は違います」
「そんなことを言わずに考えてくれないか?」
必死に懇願されても頷くわけがない。私はふとスコットがエイダを好きになったきっかけが気になった。婚約解消を言われたときはショックで聞きそびれていた。エイダの顔が好みなのはさっきの話で理解したが、そもそもの経緯を知りたい。
「無理です。ところでベイリー侯爵子息がエイダを好きになったきっかけは何だったのですか?」
「きっかけ? ああ、それは……彼女が僕の苦境を救ってくれたのだ」
「へえ……」
遠い目をして微笑を浮かべるスコットを見て、思わず淑女らしくない相槌が漏れる。
「あれは二年生になってすぐの頃。午後一番の数学の授業で指されることがわかっていたのだが、その問題がどうしても解けずに頭を抱えていた。友人たちも難しすぎてわからないと頼りにならない。気分を変えれば解けるかもしれないと中庭の噴水で考えていたら、予鈴が鳴って慌てて教室に戻ったんだ。その時、うっかり教科書を噴水に忘れてしまって慌てて戻ったが教科書は見つからなかった。絶望しながら教室に戻ったらなんと教科書があった。実は親切な女性がわざわざ届けてくれたのだ。その女性は金髪で緑の目の綺麗な女性だったと友人が教えてくれたよ。彼女は名前を名乗らなかった。僕は……その奥ゆかしさに感動した」
(え……? それってもしかして)
「僕はその女性にお礼を言おうと教室を出た。ギリギリ後姿が見えたよ。窓の光が彼女を照らしていて、小走りに髪を揺らして走る姿がとても美しかった。追いかけたかったのだが、先生が来てしまいお礼が言えなかった。授業が始まり教科書を開いたらそこには答えが書かれていた。彼女は教科書を届けただけじゃなく、正解も記入してくれていたのだ。まさに僕を救ってくれた女神だろう? 好きにならずにはいられない!」
スコットは顔を上気させ熱弁する。
(え……どうしよう。その出来事、身に覚えがある)
私はいつもお昼休みを中庭の噴水のある場所で過ごしていた。あの日は先にスコットがいたので、仕方なく私は隠れるように木陰のベンチで過ごしていた。教室で『計算問題集』を解くと、変な顔で見られて面倒くさいので中庭に来ていたのに、避難先でも変な目で見られるのは嫌だった。
スコットはお昼休み中ずっと教科書を見て「うんうん」と眉を寄せて唸っていた。予鈴を聞くなり教科書を置いて行った。教科書は開きっぱなしで小さく「誰か解いてくれ!」と魂の叫びが書かれていたので、おせっかいかなと思ったが気の毒に思えて正解を記入しておいた。あれは私だったのだけど、どうしてエイダだと思ったのだろう?
「ベイリー侯爵子息はその後ろ姿がエイダだとどうしてわかったのですか?」
「翌日、廊下を歩いていたらあの時見た後姿を見つけたので慌てて追いかけた。そして声をかけて振り向いたのがエイダだった。彼女の顔を見た瞬間運命だと、まるで雷に打たれたような衝撃を受けた。お礼をさせて欲しいと言ったら、自分ではないと否定して……その謙虚さに胸を打たれた。可愛くて頭もよくて控えめで理想の女性だと思ったんだ」
――真実は残酷なり。
この人、何度私とエイダの後ろ姿を間違えているのかしら? 私だと思ってエイダに声をかけて顔が好みだから運命を感じたらしい。きっとエイダではなく私が振り向いたら、運命など感じずにお礼を言って終わっていたと思う。そう、結局は顔!
真実を知ったらスコットは私こそが運命と言い出しそう。恐ろしい……。この時、エイダはちゃんと自分じゃないと否定している。でもプロポーズを受けたということは、あれは自分だったと認めたことになる。エイダは嘘を吐いてまで婚約者がほしかったのだ。
とにかく! 私はこの真実を絶対にスコットに打ち明けるつもりはない。というか誰にも言わず墓まで持っていく!
「あなたはエイダに運命を感じたのでしょう? それを信じて歩み寄るべきです。どうぞお二人で幸せになってくださいませ」
エイダは頑張っている。だからスコットが真面目に向き合えば上手くやっていけるはずだ。スコットは誰かに幸せにしてもらおうとしている。自分で幸せになる努力をしない怠け者だ。
「ああ、セシル……君は僕の幸せを願ってくれるのだね。やはり僕の本当の運命はセシルなのかもしれない」
ち・が・う!! 勝手に都合よく解釈して感動している姿に頭が痛くなる。スコットが継いだらベイリー侯爵家、潰れちゃうのでは?
「私のことはバセット伯爵令嬢とお呼びください!」
「あ、えっと、バセット伯爵令嬢。そういうわけで僕とやり直して欲しい。僕と一緒に過ごした二年を思い出して、どうかオルブライト公爵子息ではなく僕を選んでくれ。頼む!」
「その二年を先に踏みにじったのはベイリー侯爵子息ですよね?」
「ぐう……」
自覚はあるみたい。もう疲れたから帰ってもらおう。
「お断りします。話は終わりました。さあ、お帰り下さい」
「待ってくれ。もう一度考えて欲しい。お願いだ」
「騎士に摘み出されたいのですか?」
私は後ろに控える騎士と侍女に頷いた。侍女はさっと扉を開け、騎士はスコットの腕を掴むと有無を言わさず引きずり出した。
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