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24.夜会
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人を好きになるきっかけは単なる入り口に過ぎない。その先の親愛を育むためには、お互いを尊重し相手を思いやることが必要になる。
人の心は難しい。一目惚れをしたのにいざ付き合ってみると幻滅することもあるし、何とも思っていなかった人を為人を知ることで惹かれることもある。
スコットは努力しても私を好きになれなかったと言った。あの時はエイダと一緒になれないことでエイダへの思いが募り、余計に私に好意を抱けなかったのではないだろうか。
ところが想いが叶ったものの、エイダに幻滅して私に復縁を迫った。でもそれは楽な方へ逃げる行為でしかない。復縁を迫る理由をはっきり言うあたりが正直というかなんというか……普通なら「やっぱり君が好きだった」くらいは言いそうなのに、絶対に私を好きだとは言わなかった。(言われても気持ち悪いが)スコットは私を現実から逃げる手段に使おうとした。
(本当に本当に本当に、許せないんですけど! 結婚式で自分を攫えとか、よくここまで私を馬鹿にできるわね。ふん!)
あの件は終わりにしたのにふいに思い出して怒りが再燃してしまう。私は行き場のない気持ちをクッションにぶつけた。力を込めてグーでポカポカ叩いた。
しばらくするとクタッとなったクッションをごめんねと撫でる。八つ当たりはよくない。詫びるようにぎゅっとクッションを抱きしめた。
軽い注意のみで許したことで気持ちが不完全燃焼しているのかも。でも後悔はしていない。だって厳しくしたらエイダが苦労することになる。スコットを許す気はイチミリもないけれど、エイダには幸せになってほしいと思う。この成立が難しい相反する気持ちのせいでモヤモヤするのだ。ああ、思い出すのはもうやめよう。
それよりヴァンスとの関係を進展させたい。せっかく会えても結婚式の打ち合わせで時間が終わってしまい、ヴァンスへの質問がまだできていなかった。好きな食べ物すら知らないまま。これは婚約者として由々しき問題。
でもチャンスがやって来た! 心のメモ帳にヴァンスへの質問を書いておく。
今日はヴァンスが午前中だけ休みを取れたとのことで、私は早い時間からオルブライト公爵家に向かった。ふいに会えることになって浮かれながら馬車に揺られていると、公爵家の門の付近で見覚えのある馬車とすれ違った。窓から一瞬だけ顔が見えたが、見間違いでなければあれは――。
「えっ! エイダがなぜここに?」
視界の隅に見えた馬車の家紋はベイリー侯爵家のような? もしかしてスコットから別れを切りだされてヴァンスに乗り換えようとしているとか? 思わず悪い想像をしてしまう。
「いくら何でも考えすぎよね」
スコットとエイダの結婚式は来月だ。もう破談にできる時期ではない。スコットがごねてもよほどの理由がなければベイリー侯爵も結婚を強行するだろう。
それに万が一エイダがヴァンスに粉をかける真似をしても、ヴァンスが応じるはずがないから不安になる必要はない。
「セシル。急な休みの変更で振り回してすまない」
出迎えてくれたヴァンスは白いシャツに黒のトラウザーズでラフな格好をしている。前髪を下ろして少しだけ幼い雰囲気なのだけどそれも素敵だった。いつもと違う姿にドキドキと高鳴る胸の音が、ヴァンスに聞こえないことを願いながら微笑んだ。
「大丈夫です。それに会えて嬉しいですし」
「ありがとう。私も嬉しい」
嬉しいという気持ちにヴァンスが同意してくれたことに胸が高鳴った。
私たちは結婚式の話と数日後の王家主催の夜会についての話をした。この夜会は私がヴァンスと初めて婚約者として公の場所に出るものになる。
「今からすごく緊張しています」
「気負わなくても大丈夫だ。当日は会場で合流するのでそれまでは伯爵の側にいて欲しい。護衛も付けているが見知らぬ奴について行かないように」
「ふふ。はい。わかりました」
ヴァンスはワイアット殿下のサポートをしなければならず、途中までは殿下の側を離れられない。
「ヴァンス様。そういえば今日、どなたか来客がありましたか?」
エイダのことが気になってさりげなく問いかけた。
「いいや? それがどうかしたのか?」
「いえ、何でもないのです」
ヴァンスの表情は変わらない。嘘を吐いているようには見えない。それならエイダはたまたま近くを通っただけ。そう自分を納得させてみたが……不安は残ったままだ。でももう一度ヴァンスに訊ねる勇気はなかった。それなら信じるしかない。そのことで頭がいっぱいになりヴァンスへの質問をすることを忘れてしまった……。
夜会当日。レックスはまだ参加できないのでお留守番。寂しそうな顔をしたがそれでも手を振って見送ってくれた。
私はヴァンスからもらったドレスを着ている。彼が選んでくれたと思うと背筋が伸びる。不思議と守られているような気がして、強い気持ちになれた。
会場に着くと私たちを見た人たちがヒソヒソと何かを話している。スコットと婚約解消後にヴァンスと婚約したことで、上手くやった女だと批判的な声を覚悟していたが、不思議なことに嫌な空気感はない。
首を傾げたが今はお父様たちが一緒だから、みんなあまり態度に出さないのかもしれない。
少し離れたところにスコットとエイダがいる。二人はベイリー侯爵夫妻と一緒に色々な貴族に挨拶をして回っている。どことなくスコットの顔色は悪いが、対照的にエイダはにこやか……ん? よく見ると緊張しているかも。瞬きが異常に少なくなっている。
あの日以降、エイダがヴァンスに近づいている様子はなさそうでほっとしている。きっと偶然だったのだ。
ふいにスコットが視線をこちらに向けた。私と目が合うと救いを求めるような縋る表情をした。私は当然ながら目を逸らし無視をした。
しばらくするとオルブライト公爵夫妻と合流した。まるで私を守るように寄り添ってくれている。心強くありがたいが、それに甘えているわけにはいかない。みんなに報いるためにも毅然としよう。俯く必要はない。私は顔を上げると堂々と周りを見渡した。
夜会の開始の合図とともにざわめいていた会場内が静まり返る。
壇上を見上げれば国王ご夫妻と王太子殿下、そして殿下の隣にはアイリーンがいる。貴族たちの視線がそちらに一斉に集まった。
「セシル。遅くなった」
「ヴァンス様」
「迎えに行けなくてすまなかった」
「いいえ。お忙しいのですもの。今は大丈夫なのですか?」
「ああ、この後はずっとセシルと一緒にいられる」
「よかったです」
やはりヴァンスがいてくれると心強い。ヴァンスは私の肩に手を回しポンポンと優しく叩いた。顔を上げて彼の顔を覗き込むと柔らかく目を細めて安心させるように頷く。胸いっぱいに温かいものが広がっていく。
壇上では国王陛下の挨拶が終わり、続いて王太子殿下がお話をされている。留学での出来事や今後の展望などを朗々と語られている。
ワイアット殿下の声はよく通り人を引き付ける力がある。貴族たちは聞き入っては頷く。ワイアット殿下の隣でアイリーンがまっすぐな眼差しを向けている。殿下もそれに応えるように時折アイリーンに視線を送っていた。お二人の仲睦まじさがよくわかる。微笑ましく二人を眺めているとワイアット殿下が言葉を切りこちらを見た。ヴァンスとアイコンタクトをしているようだ。すぐに大きな声で言った。
「オルブライト公爵子息、その婚約者バセット伯爵令嬢。こちらに」
「はい」
ヴァンスは私を見下ろすと一つ頷き腕を差し出した。
(ええ!! 私も行くの?)
引き攣りそうな顔に全力で笑みを浮かべるとヴァンスの腕に手をかけた。そのまま促されるようにヴァンスと一緒に壇上に上がった。緊張でガチガチな上に手には汗がジワリと滲む。
「すでに公示されている通り、ここにいる我が友オルブライト公爵家のヴァンスとバセット伯爵家のセシル嬢がめでたく婚約を結んだ。大切な親友が聡明な女性を射止めたことを心から喜ばしく思う。みなも祝って欲しい」
両陛下も頷いている。ワイアット殿下が貴族たちを見渡すと、一斉に「おめでとうございます」との祝辞とともに拍手が起こった。純粋に祝ってくれる人もいるが、一部の貴族とくに婚約者が決まっていない令嬢たちからは嫉妬交じりの視線を向けられている。
ヴァンスの帰国後にお見合いをしたいと独身令嬢たちから申し込みが殺到していたことは、フローレンスから教えてもらっていた。きっとポッと出の伯爵令嬢に抜け駆けされたと思っている。
でもこれで表立っての抗議はできなくなった。正式にワイアット殿下が祝福してくださったのだ。それは大々的に王家が認めたことになる。大げさに言えば私にケチをつけることは王家に逆らうも同然となる。恐れ多いけれどありがたい。
だが同時に大きな責任も伴う。私は王家を支えるオルブライト公爵家の一員になる。すなわち発言や行動の一挙手一投足を監視される。
それを考えると身が竦みそう。弱気になったその気持ちを察知したかのように、私の手をヴァンスが握った。思わずヴァンスを見ると、彼は私を見ながら柔らかく微笑んだ。その顔に肩の力が抜けた。
(私にはヴァンス様がいる。大丈夫!)
そう安堵した。すると一瞬会場が静まり返った。ん? と首を傾げると次の瞬間には会場中が騒めき出した。一部では若い女性の悲鳴も上がっている。いったい何が起こったのかと困惑していると、ワイアット殿下が目を丸くしてヴァンスを見ている。
——どうやら会場にいる人たちは、ヴァンスが笑ったことに対して驚いたらしい。
(少し微笑んだだけで多くの人が動揺した! そういえばいつのまにか慣れたけれど、最初は私もヴァンス様の微笑みには激しく動揺してたなあ。ワイアット殿下の反応を見ると、ヴァンス様は殿下の前でも笑うことがなかったのだわ。それはやっぱり寂しいことだと思う)
ヴァンスの昔の苦労話を思い出す。ああ、美人さんは笑うだけで苦労する、私はそれを目の当たりにしたのだった。
人の心は難しい。一目惚れをしたのにいざ付き合ってみると幻滅することもあるし、何とも思っていなかった人を為人を知ることで惹かれることもある。
スコットは努力しても私を好きになれなかったと言った。あの時はエイダと一緒になれないことでエイダへの思いが募り、余計に私に好意を抱けなかったのではないだろうか。
ところが想いが叶ったものの、エイダに幻滅して私に復縁を迫った。でもそれは楽な方へ逃げる行為でしかない。復縁を迫る理由をはっきり言うあたりが正直というかなんというか……普通なら「やっぱり君が好きだった」くらいは言いそうなのに、絶対に私を好きだとは言わなかった。(言われても気持ち悪いが)スコットは私を現実から逃げる手段に使おうとした。
(本当に本当に本当に、許せないんですけど! 結婚式で自分を攫えとか、よくここまで私を馬鹿にできるわね。ふん!)
あの件は終わりにしたのにふいに思い出して怒りが再燃してしまう。私は行き場のない気持ちをクッションにぶつけた。力を込めてグーでポカポカ叩いた。
しばらくするとクタッとなったクッションをごめんねと撫でる。八つ当たりはよくない。詫びるようにぎゅっとクッションを抱きしめた。
軽い注意のみで許したことで気持ちが不完全燃焼しているのかも。でも後悔はしていない。だって厳しくしたらエイダが苦労することになる。スコットを許す気はイチミリもないけれど、エイダには幸せになってほしいと思う。この成立が難しい相反する気持ちのせいでモヤモヤするのだ。ああ、思い出すのはもうやめよう。
それよりヴァンスとの関係を進展させたい。せっかく会えても結婚式の打ち合わせで時間が終わってしまい、ヴァンスへの質問がまだできていなかった。好きな食べ物すら知らないまま。これは婚約者として由々しき問題。
でもチャンスがやって来た! 心のメモ帳にヴァンスへの質問を書いておく。
今日はヴァンスが午前中だけ休みを取れたとのことで、私は早い時間からオルブライト公爵家に向かった。ふいに会えることになって浮かれながら馬車に揺られていると、公爵家の門の付近で見覚えのある馬車とすれ違った。窓から一瞬だけ顔が見えたが、見間違いでなければあれは――。
「えっ! エイダがなぜここに?」
視界の隅に見えた馬車の家紋はベイリー侯爵家のような? もしかしてスコットから別れを切りだされてヴァンスに乗り換えようとしているとか? 思わず悪い想像をしてしまう。
「いくら何でも考えすぎよね」
スコットとエイダの結婚式は来月だ。もう破談にできる時期ではない。スコットがごねてもよほどの理由がなければベイリー侯爵も結婚を強行するだろう。
それに万が一エイダがヴァンスに粉をかける真似をしても、ヴァンスが応じるはずがないから不安になる必要はない。
「セシル。急な休みの変更で振り回してすまない」
出迎えてくれたヴァンスは白いシャツに黒のトラウザーズでラフな格好をしている。前髪を下ろして少しだけ幼い雰囲気なのだけどそれも素敵だった。いつもと違う姿にドキドキと高鳴る胸の音が、ヴァンスに聞こえないことを願いながら微笑んだ。
「大丈夫です。それに会えて嬉しいですし」
「ありがとう。私も嬉しい」
嬉しいという気持ちにヴァンスが同意してくれたことに胸が高鳴った。
私たちは結婚式の話と数日後の王家主催の夜会についての話をした。この夜会は私がヴァンスと初めて婚約者として公の場所に出るものになる。
「今からすごく緊張しています」
「気負わなくても大丈夫だ。当日は会場で合流するのでそれまでは伯爵の側にいて欲しい。護衛も付けているが見知らぬ奴について行かないように」
「ふふ。はい。わかりました」
ヴァンスはワイアット殿下のサポートをしなければならず、途中までは殿下の側を離れられない。
「ヴァンス様。そういえば今日、どなたか来客がありましたか?」
エイダのことが気になってさりげなく問いかけた。
「いいや? それがどうかしたのか?」
「いえ、何でもないのです」
ヴァンスの表情は変わらない。嘘を吐いているようには見えない。それならエイダはたまたま近くを通っただけ。そう自分を納得させてみたが……不安は残ったままだ。でももう一度ヴァンスに訊ねる勇気はなかった。それなら信じるしかない。そのことで頭がいっぱいになりヴァンスへの質問をすることを忘れてしまった……。
夜会当日。レックスはまだ参加できないのでお留守番。寂しそうな顔をしたがそれでも手を振って見送ってくれた。
私はヴァンスからもらったドレスを着ている。彼が選んでくれたと思うと背筋が伸びる。不思議と守られているような気がして、強い気持ちになれた。
会場に着くと私たちを見た人たちがヒソヒソと何かを話している。スコットと婚約解消後にヴァンスと婚約したことで、上手くやった女だと批判的な声を覚悟していたが、不思議なことに嫌な空気感はない。
首を傾げたが今はお父様たちが一緒だから、みんなあまり態度に出さないのかもしれない。
少し離れたところにスコットとエイダがいる。二人はベイリー侯爵夫妻と一緒に色々な貴族に挨拶をして回っている。どことなくスコットの顔色は悪いが、対照的にエイダはにこやか……ん? よく見ると緊張しているかも。瞬きが異常に少なくなっている。
あの日以降、エイダがヴァンスに近づいている様子はなさそうでほっとしている。きっと偶然だったのだ。
ふいにスコットが視線をこちらに向けた。私と目が合うと救いを求めるような縋る表情をした。私は当然ながら目を逸らし無視をした。
しばらくするとオルブライト公爵夫妻と合流した。まるで私を守るように寄り添ってくれている。心強くありがたいが、それに甘えているわけにはいかない。みんなに報いるためにも毅然としよう。俯く必要はない。私は顔を上げると堂々と周りを見渡した。
夜会の開始の合図とともにざわめいていた会場内が静まり返る。
壇上を見上げれば国王ご夫妻と王太子殿下、そして殿下の隣にはアイリーンがいる。貴族たちの視線がそちらに一斉に集まった。
「セシル。遅くなった」
「ヴァンス様」
「迎えに行けなくてすまなかった」
「いいえ。お忙しいのですもの。今は大丈夫なのですか?」
「ああ、この後はずっとセシルと一緒にいられる」
「よかったです」
やはりヴァンスがいてくれると心強い。ヴァンスは私の肩に手を回しポンポンと優しく叩いた。顔を上げて彼の顔を覗き込むと柔らかく目を細めて安心させるように頷く。胸いっぱいに温かいものが広がっていく。
壇上では国王陛下の挨拶が終わり、続いて王太子殿下がお話をされている。留学での出来事や今後の展望などを朗々と語られている。
ワイアット殿下の声はよく通り人を引き付ける力がある。貴族たちは聞き入っては頷く。ワイアット殿下の隣でアイリーンがまっすぐな眼差しを向けている。殿下もそれに応えるように時折アイリーンに視線を送っていた。お二人の仲睦まじさがよくわかる。微笑ましく二人を眺めているとワイアット殿下が言葉を切りこちらを見た。ヴァンスとアイコンタクトをしているようだ。すぐに大きな声で言った。
「オルブライト公爵子息、その婚約者バセット伯爵令嬢。こちらに」
「はい」
ヴァンスは私を見下ろすと一つ頷き腕を差し出した。
(ええ!! 私も行くの?)
引き攣りそうな顔に全力で笑みを浮かべるとヴァンスの腕に手をかけた。そのまま促されるようにヴァンスと一緒に壇上に上がった。緊張でガチガチな上に手には汗がジワリと滲む。
「すでに公示されている通り、ここにいる我が友オルブライト公爵家のヴァンスとバセット伯爵家のセシル嬢がめでたく婚約を結んだ。大切な親友が聡明な女性を射止めたことを心から喜ばしく思う。みなも祝って欲しい」
両陛下も頷いている。ワイアット殿下が貴族たちを見渡すと、一斉に「おめでとうございます」との祝辞とともに拍手が起こった。純粋に祝ってくれる人もいるが、一部の貴族とくに婚約者が決まっていない令嬢たちからは嫉妬交じりの視線を向けられている。
ヴァンスの帰国後にお見合いをしたいと独身令嬢たちから申し込みが殺到していたことは、フローレンスから教えてもらっていた。きっとポッと出の伯爵令嬢に抜け駆けされたと思っている。
でもこれで表立っての抗議はできなくなった。正式にワイアット殿下が祝福してくださったのだ。それは大々的に王家が認めたことになる。大げさに言えば私にケチをつけることは王家に逆らうも同然となる。恐れ多いけれどありがたい。
だが同時に大きな責任も伴う。私は王家を支えるオルブライト公爵家の一員になる。すなわち発言や行動の一挙手一投足を監視される。
それを考えると身が竦みそう。弱気になったその気持ちを察知したかのように、私の手をヴァンスが握った。思わずヴァンスを見ると、彼は私を見ながら柔らかく微笑んだ。その顔に肩の力が抜けた。
(私にはヴァンス様がいる。大丈夫!)
そう安堵した。すると一瞬会場が静まり返った。ん? と首を傾げると次の瞬間には会場中が騒めき出した。一部では若い女性の悲鳴も上がっている。いったい何が起こったのかと困惑していると、ワイアット殿下が目を丸くしてヴァンスを見ている。
——どうやら会場にいる人たちは、ヴァンスが笑ったことに対して驚いたらしい。
(少し微笑んだだけで多くの人が動揺した! そういえばいつのまにか慣れたけれど、最初は私もヴァンス様の微笑みには激しく動揺してたなあ。ワイアット殿下の反応を見ると、ヴァンス様は殿下の前でも笑うことがなかったのだわ。それはやっぱり寂しいことだと思う)
ヴァンスの昔の苦労話を思い出す。ああ、美人さんは笑うだけで苦労する、私はそれを目の当たりにしたのだった。
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