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4.会えなくても思いを伝えたい
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翌朝、すぐにお見舞いのための外出許可の申請手続きをしたが却下されてしまった。昨日の留学生の案内で今月分の外出許可日数を使い果たしていた。
「婚約者が怪我をして入院しているんです。一目だけでいいのでお見舞いに行かせてください」
「そうはいっても規則ですから。家族ならともかくまだ婚約者で命の危険はないのでしょう? それなら来月まで我慢してください。どんな身分や事情があっても学園の規則は守ってもらいます」
「そ、そんな……」
私はじっとしていられずせめてと手紙を書いた。いつも使う物より上質で美しい便箋に、いつもの砕けた感じの文章や文字ではなく、気持ちを込めた文章と丁寧な文字で自分の気持ちをペンで走らせる。応援に行けなかったこと、お見舞いに行けなかったこと、それととても心配して会いたい、でも外出許可が出なくて行くことの出来ないお詫びを書き綴った。
「セリーナ。手紙を書いているの?」
「ヘレン。ええ、外出許可が下りなくて手紙だけでもと思って」
「そう、私も手紙を書いたの。一緒に出してきてあげるわ。それと……昨日は私も動揺してしまってキツイ言い方になってごめん。伝言もきっとどこかで手違いがあって届かなかったのね」
思わぬヘレンの優しい言葉にホッとした。私は人に嫌われることを恐れていた。
「いいの。誤解が解けたなら良かった。それにヘレンが教えてくれたおかげでロニーの怪我を知ることが出来たのだもの。ありがとう」
私はヘレンの手に書き終わったばかりの手紙を預けた。
「じゃあ、今すぐ出してくるわ。セリーナは顔色が悪いから少し休んだ方がいいわ」
「ありがとう、ヘレン」
翌月からは学園祭の準備に追われお見舞いに行く時間を取ることが出来なかった。私の落胆する気持ちが表情に出ていたのか生徒会で心配されてしまい、つい事情を話してしまった。
翌日生徒会副会長である公爵令嬢が神殿から取り寄せたタペストリーと刺繍糸を下さった。「このタペストリーと刺繍糸は神殿で聖水に浸たし神官が祈りを捧げた物なの。健康祈願や怪我の治癒を願って刺繍をしてその相手に送ると願いが届くそうよ。気休めかもしれないけど良かったら差し上げるわ」
「こんな貴重なものを? いいのですか?」
これは定期的に神殿に寄付をする貴族にその貢献に対して渡されるものらしい。もちろん、セリーナの家の寄付程度ではもらうことは出来ない。
「セリーナはいつも頑張ってくれていて感謝しているの。本当は外出させてあげたいのだけど今あなたに抜けられるのは辛いわ。ひと段落したら必ずお休みを取れるようにするから許してね」
「お気遣い嬉しいです……。手紙は出しているのできっと彼も分かってくれると思います。ありがとうございます。さっそく刺繍しますね」
「今は忙しい時期だからあまり根を詰めないでね?」
「はい」
私は学園祭の合間や夜部屋に戻ってから夢中で刺繍を刺した。彼と初めて会ったときに案内してもらった花壇に咲いていた、思い出の黄色い薔薇を心を込めて一針一針刺していった。ロニーはこの花を思い出し気付いてくれるだろうか。
その後も彼にはこまめに手紙を送っているが返事は来なかった。まだ怪我が傷むのかもしれない。もしかして怒っているのだろうか。嫌われてしまったのではと想像するだけで涙がこぼれてしまった。
「婚約者が怪我をして入院しているんです。一目だけでいいのでお見舞いに行かせてください」
「そうはいっても規則ですから。家族ならともかくまだ婚約者で命の危険はないのでしょう? それなら来月まで我慢してください。どんな身分や事情があっても学園の規則は守ってもらいます」
「そ、そんな……」
私はじっとしていられずせめてと手紙を書いた。いつも使う物より上質で美しい便箋に、いつもの砕けた感じの文章や文字ではなく、気持ちを込めた文章と丁寧な文字で自分の気持ちをペンで走らせる。応援に行けなかったこと、お見舞いに行けなかったこと、それととても心配して会いたい、でも外出許可が出なくて行くことの出来ないお詫びを書き綴った。
「セリーナ。手紙を書いているの?」
「ヘレン。ええ、外出許可が下りなくて手紙だけでもと思って」
「そう、私も手紙を書いたの。一緒に出してきてあげるわ。それと……昨日は私も動揺してしまってキツイ言い方になってごめん。伝言もきっとどこかで手違いがあって届かなかったのね」
思わぬヘレンの優しい言葉にホッとした。私は人に嫌われることを恐れていた。
「いいの。誤解が解けたなら良かった。それにヘレンが教えてくれたおかげでロニーの怪我を知ることが出来たのだもの。ありがとう」
私はヘレンの手に書き終わったばかりの手紙を預けた。
「じゃあ、今すぐ出してくるわ。セリーナは顔色が悪いから少し休んだ方がいいわ」
「ありがとう、ヘレン」
翌月からは学園祭の準備に追われお見舞いに行く時間を取ることが出来なかった。私の落胆する気持ちが表情に出ていたのか生徒会で心配されてしまい、つい事情を話してしまった。
翌日生徒会副会長である公爵令嬢が神殿から取り寄せたタペストリーと刺繍糸を下さった。「このタペストリーと刺繍糸は神殿で聖水に浸たし神官が祈りを捧げた物なの。健康祈願や怪我の治癒を願って刺繍をしてその相手に送ると願いが届くそうよ。気休めかもしれないけど良かったら差し上げるわ」
「こんな貴重なものを? いいのですか?」
これは定期的に神殿に寄付をする貴族にその貢献に対して渡されるものらしい。もちろん、セリーナの家の寄付程度ではもらうことは出来ない。
「セリーナはいつも頑張ってくれていて感謝しているの。本当は外出させてあげたいのだけど今あなたに抜けられるのは辛いわ。ひと段落したら必ずお休みを取れるようにするから許してね」
「お気遣い嬉しいです……。手紙は出しているのできっと彼も分かってくれると思います。ありがとうございます。さっそく刺繍しますね」
「今は忙しい時期だからあまり根を詰めないでね?」
「はい」
私は学園祭の合間や夜部屋に戻ってから夢中で刺繍を刺した。彼と初めて会ったときに案内してもらった花壇に咲いていた、思い出の黄色い薔薇を心を込めて一針一針刺していった。ロニーはこの花を思い出し気付いてくれるだろうか。
その後も彼にはこまめに手紙を送っているが返事は来なかった。まだ怪我が傷むのかもしれない。もしかして怒っているのだろうか。嫌われてしまったのではと想像するだけで涙がこぼれてしまった。
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