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Chapter_3:機械工の性

Note_53

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 エンジニアとしてこの世界を生きる以上、兵器を動かせるほどの技量は必要不可欠となる。機械を倒した実績は、同時に権力となって形成されていく。

 もしその為の実力を有しなければ、より強い権力に飲み込まれる他ない。長年、政府に苦しめられてきたレジスタンスが勢力を伸ばしたのも生き残るためだ。

 そして今まさに、政府に立ち向かおうと新たなパイロットが鍛錬を積もうとしている。その少女の名は…


『助けてぇッッッ!!!』


…【ライラ・ストリンガー】、地球からエンダー家に連れ去られた叛逆の少女である。

 移動用機体が、エンストしてそのまま下り坂に突っ込む。ライラが操縦し、サドが補助に入っていた。サドがハンドルを下げ、ブレーキをかける。

 レオはタイタン号の入り口から見て、ライラの適性の無さに呆れていた。


(面倒くさがってサドに指導させてるけど、任せてよかったな……あれで死にたくねぇわ。)


 1人で優雅にソーダを飲んで嗜んでいる。

 また移動用機体がエンストした。ライラは初めての操縦で息切れしている。


「ハァ……ハァ……ハァ……フゥ……ハァ……」

「ライラさん!」

「……だ、大丈夫よ。まだいける!」


 サドは心配したが、ライラは練習の続行を希望する。



 タイタン号付近の平地に戻してやり直す。


「速度を確認して、2セカンドギアは大体15km/h、3サードギアは大体30km/hを目安に加減速してください。

今回は2ギアまでで大丈夫なので、簡単に一周しましょ。」

「……他の機体は無いの?」

「【オートマ】は今のところ無いですし、レジスタンス機にも緊急用の移動用機体があるんですけどね。

ただ、この機体がすべての基本です。逃げるにしても戦うにしても、使いこなせれば他の機体も使えると言っても過言ではありません。特に緊急脱出は【マニュアル】が多いです。」

「そうなんだ……なら、頑張る!」


 ライラは早速、起動して1ギアに下げる。また止まらないように慎重にやっていく。徐々に加速しつつ2ギアに上げる。

 簡単な操作は慣れたそうなので、サドはライラの手応えを問う。


「上達していますね。ハンドルの扱いはもう大丈夫ですか?」

「うん!バッチリ!」

「それは良かったです。次の直線で加速して、3ギアに上げましょう。」

「う、うん。」


 ライラには自信が無い。取りあえず“30”となった時に3ギアに上げようとした。


「?」

「クラッチ。」

「あっ!」

「待って!もう一周してやり直しましょう。」


 サドが補助する。一瞬スイッチが動かなかったのは、クラッチトリガーを押さなかったからだ。ハンドルは一本の棒で完結している。片手でも操作できる。

 再び直線に入る。


「では3ギアに上げましょう。」

「はい!」


 3ギアに上げて直線を走る。更地には何も無く、止めるものは何一つ無い。ライラはスピードが生む風を真正面から受け止め、爽快感に浸っていた。

 遠ざかる度に、タイタン号の輝きに見惚れてしまう。巨大な機体をもう一度、目の当たりにして更に強い感動を覚える。


「すごい……タイタン号って……ここまで……」

「【タイタン号】……高さ300mの巨大機体。遥か昔に、開拓に貢献したロボット。この星で初めて造られた有人巨大機体です。」


 ライラはよそ見をしていた。サドは優しくライラに話しかける。


「……帰りますか。」

「うん。それで……」

「どうしました?」

「……どうやって止めればいいのかしら……。」

「この棒を後ろにやれば……」


 先が思いやられる。ライラの道のりは相当険しいようだ。


_____


 レオは帰還した2人を駐機場に迎え入れる。サドが機体の洗浄をしているところに、彼女はライラと一緒に外へと呼び寄せる。


「サド、ライラ、ちょっと来い。」

「はい。」

「どしたの?レオちゃん。」


 レオが2人に要件を話す。


「地図やカメラでは反応していないのに、ここから何か壁みたいなのが見えるんだよ。」


 サドが一目見て考える。


「ジャミング技術……しかも【プラズマネットワーク】を凌ぐほどの……」

「あのデカい建物の正体は分からねぇ。でも、何か宝でもあるんじゃねぇのか?隠すぐらいのものなんだから。」


 レオは考察を深めていく。サドも考察を導き出す。


「……多分だけど、この惑星にとって重要な部分な気がする。」

「重要って、例えば何なの?」

「【フェニコプテラス】やサバンナ、付近の洞窟の特徴からを考えて……“水資源”に関して重要な役割を持つんじゃないかな?

……マークⅢはどう思う?」


 サドはマークⅢに問う。


『……あれはダムです。』

「「「ダム?」」」

『はい。おそらく、惑星が学習によって造った蓄電用の施設と思われます。【プラズマネットワーク】でも記されないほどのジャミング……機械霊から拠点を遠ざけるためてしょう。

……ゆえに、付近に人類の縄張りがある可能性が高いです。その証拠にレジスタンスキャンプの端末がそこで通信を行っていました。』


 レオとサドは顔を見合わせる。そしてマークⅢに頼む。


「そのサブキャンプはどこだ?そこに同志がいるかもしれない。」

「通信履歴を調べられるかい?」

『サブキャンプは地下シェルターになっています。表からは見えないそうです。

直近の通信履歴は……5ヶ月前になります。』


 マークⅢの解析結果に、姉弟は一瞬にして黙ってしまった。既に長い期間も通信が行われていない状況、もはや人はいないだろう。


「……あの場所に行ってみようよ。」


 ライラが沈黙を破ってきた。姉弟は彼女に顔を合わせて、彼女の主張を聞く。


「はっきり分からないまま、有耶無耶うやむやにするより、できるうちに確かめて心を晴らした方がいいと思う!味方の拠点だから、なおさら行くべきよ!

……この星について、まだ何も分からないことばかりだけど、だから言わせてもらうわ。」

『私もそう思います!諦めるのはまだ早いですよ、2人共!』


 ライラは笑顔で姉弟に訴える。マークⅢも同調する。姉弟は思い悩んだ上で、互いの答えを導き出した。


「……生憎あいにく、こちとら観光気分で旅をやってるわけじゃねぇ。でも中々良いこと言うじゃねぇか……乗った。」

「音信不通の状況ってだけで、生き残りがいれば必ず守れるはず……僕も行きます!マークⅢの力は必須です!」


 満場一致。早速、レオが指示を出す。


「あそこに向かうぞ。一応、タイタン号の操縦はサドに任せる。ぶつけんなよ。」

りょ了解!」


 それぞれ、準備を済ませて次の場所へと向かう。砂漠のはずれにある、高さ50m、半径200mの円形の壁に覆われた堰堤。その付近のサブキャンプへと向かう。

 そこは惑星によって造られた、電波障害地帯の一つ…【惑星堰堤】であった。


_____


 堰堤の監視塔から、3人組の少年が巨大機体の存在に気づく。アナログな双眼鏡を両手で持つ、臆病な少年が驚愕している。


「わ、わ、わ!みんな!みんな!」

「何だよ【ナッシュ】。宝探しもしないで何外見てんだ?早く書類探せよ。」

「ででで、で、でか、でかい奴が!」

「そんなにヤバい奴なのかぁ……って、えっ?」


 ダムよりでかい機体がこっちに向かってくる。リーダーらしき少年はすぐにもう一人を呼ぶ。


「【ロビー】、こっち来て。」

「………。」


 無口な少年にも見せた。巨大機体は既に付近にて座り込み、2機の大型機体を向かわせているようだ。


「【ジョージ】君!ど、どど、どうしよう!政府の人達に捕まっちゃうよ!街の時みたいに燃やされちゃうよぉ!!」

「落ち着け!偵察機は2つなんだろ?」


 ロビーが頷く。ジョージはある作戦を提案した。


「……あんなデケェ機体じゃここまで来れねぇだろ。ダムの中に入ったところを盗んでやろうぜ!」

「そ、そうしよう!ジョージ君の考えだし!」

「………。」


 ロビーからは何も反応がなかった。それでもジョージは止まらない。早速、先頭に立って行動を始める。


「よし!んじゃあ、お宝探しをやめて脱出作戦に移るぞ!玄関まで走れ!」

「あっ、待ってよ!」


 2人がジョージの後を追った。


_____


 姉弟とライラはレジスタンス機から降りて、監視塔の入り口前にいた。ダムの外壁は内側に向けて斜めになっており、かつ滑りやすくなっていて登れない。おまけに熱い。

 ライラが愚痴をこぼす。


「なんで……私も行かなきゃなんないの?私は行きたいって一度も言ってないのに……。」

「せっかく啖呵も切ったってのに、自分は行かないとか、ありえねぇだろ。少しは発言に責任を持っておけよ。」

「でも……」

「仲間のためだろ?挨拶ぐらいはマナーだと思ってやっておけばいい。」

「……ふぅん。」


 レオの反応に、ライラは不満を持つ。ただやる気がなかっただけらしいが、背に腹は代えられず前へと進む。

 マークⅢは監視塔に近づいていき、地下シェルターへの道を把握する。


『監視塔のエレベーターを下に行けば、秘密の場所に向かえるはずです。』


 レオとライラが先に塔に入る。サドは何かの気配を感じて足を止める。塔の側面に何がいると予想する。


(……金属の音がするな。軋む音がどこかで鳴っているような……)

「サド君!こっち!」

「あ、はい。」


 ライラに呼ばれて塔内に入り、エレベーターで下の階へと向かう。


(気のせいか。)


 サドは他の事に集中する。まずは地下シェルターへ向かうことだ。3人は静かに待つ。





 ボイスもなく地下に辿り着く。その道筋は、既に何者かによって荒らされた後であった。


「……チッ!」


 レオは先に奥へと向かう。鉄の道を進み、ライトを付けて先へ進む。仲間の姿は見当たらないが、弾丸で撃たれた痕が残っている。

 進んだ先に扉があった。端末で開くタイプのものであり、レオはすぐに起動させて装置に端末を触れさせる。

 扉が開く。そこには誰の姿もなかった。ここは地下の駐機場の管理室で、装置の上に何か書き置きがあったようだ。

 レオはそれを手に持って読む。


“こんちは。

これ読んだってことは、
俺らを消しに来たんだな。
申し訳ないが一足先に、
Kerキエラキャンプ】
に逃げちゃった。
ざまーーーっ!!!(:-b)

ドドより”

「っざけんな!クソ野郎!こっちは心配してるってんのに!」


 レオは一心不乱に紙を散り散りに破いた。追いついたサドは、唐突な彼女の乱心に動揺してしまった。


「どうしたの!?そんないきなり。」

「みんなキエラに行ったんだとよ。」

「んじゃあ、先に逃げ出したんだ。奥は……駐機場だけど機体は残っていない。」


 どうやら余計なお世話だったようだ。様々な場所を物色しても、おそらく何も残っていないだろう。

 ライラは元の文章を読みたいと思い、千切られた紙を集めて元通りにする。


「……プッ。」

「あぁ……なるほど、ドドさんか。」

「知ってんのか?コイツ。」

「絶対にレオの嫌いな人だと思ってた。」

「……ハァ、行くぞ。」


 3人はここから出ていこうと立ち上がったその時に、紙の一部が裏返り、そこにも何かが書かれていた。


「あれ?これって裏にもある奴じゃ……」


 サドが一番先に気づく。レオが指示する。


「……ちょっと裏返してみろ。」

(だったら破らないでくれよ……)


 サドは一枚ずつ丁寧に裏返して、紙の裏を見せていく。しかし、このままでは何も見えない。文章といえば文章だが、白くなっていてよく分からない。


「復元できるかな?」

『AI画像を用いて、修復できるかと。私に任せてください。』


 ここはマークⅢに任せる。サドが書面を見て考える。サドはタブレットを起動させて、2人に解析結果を見せる。


『暗号ですね。おそらく、レジスタンスで使われてるはずのものだと考えられます。』


 結果が出たようだが、レオとライラからしたら何も分からない。サドが解く。


「“上司共へ

バレたかも。
例の物はダム3階の
プレハブにやった。
鍵は塔の最上階にある。
後はヨロシクゥッ!(:-3)

ドド”

……だってさ。」

「無性に殴りたくなってきたな。」

「待ってよ!僕が書いたわけじゃないし……」


 しかし、これで次の行動は決まった。


「んじゃあ、上の階に行けばいいってことか?」

「……取りあえず、僕はレジスタンス機に戻りたい。何か嫌な予感がする。」

「私も!なんか……ね。」


 レオはため息をついて決める。


「……しょうがねぇなぁ。一旦レジスタンス機に戻るか。防犯も兼ねてな。」


 レオ達はこの部屋から立ち去る。廊下を歩いているとき、レオは口笛を吹き、サドは警戒をし、ライラは怖がりサドにくっついていた。


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