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Chapter_3:機械工の性

Note_79

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 街を小さな機体で駆け抜ける。裏路地は小さく古典的な建造物が密集しており、場所によっては跳んで届くほどの近い距離である。隣の建造物から他の場所への侵入が容易たやすい。

 姉弟は謎のライダーの後を追う。彼は道の脇へと進み、シャッターへと駆け込む。姉弟も減速して中へと入っていく。

 謎のライダーはヘルメットを外し、4人の安否を確認する。


「みんな揃ってるかな?連絡出した人は?」

「僕です。」

「リーダーは?」

「ほい。」

「ならよし!」


 レオは軽く手を挙げる。女性も了承した。


「……ちょっとちょとちょっと!!?えっ、きみ、何で生き……」

「キャンプまで案内できますか?着いてから話します。」

「ええ……いいよ、ついておいで。」


 謎の女性は困惑気味ながら、地下通路へと案内する。





 心地よい冷風が肌を撫でる。地下の温度は外より約5度ほど低い。人工惑星を巡る深層水が影響しているらしい。【エンダー家】からの情報であり、検証等のデータが詳細かつ豊富に存在している。

 所々湿っていることから目を瞑れば、熱砂を凌ぐ完璧な住処として重宝できる。

 女性から話しかけてきた。


「私は【ゾーイ】。ここは中央通り直通の地下通路よ。」

「はい!私はライラです。ちょっと質問があります。」

「いいよ。気兼ねなく話して。」


 ゾーイは余裕の表情を崩さなかった。隙のない彼女にライラは緊張していた。


「入り口だと人を見かけなかったのですが、ビルとかに住んでいるんですか?それとも住む場所が指定されてるのですか?」

「良い質問だねぇ。そうだよ。住む場所が限られてるんだ。でも入口付近の大通り付近は“住めない”し、“買えない”し、“凌げない”の。」

「えっ……」


 ゾーイが待ってましたと言わんばかりの笑顔を見せて、質問に大いに答える。


「あそこは全て“闘技場”なの。」

「「「“闘技場”!!?」」」


 女性陣3人が驚いた。ゾーイは話を続ける。


「君は知ってるようね。あの建物自体が“観客席”。今の騒ぎが収まったら分かるわ。すぐに人が集まってビル群が輝くから。

入口付近は特注料金。人はいないけど、砂上で行われる容赦ない空中戦が見られるよ!」


 3人はゾーイにとにかく質問しだす。レオがライラを差し置いて前に出た。


「じゃあ、機械霊が来たらそのままやられるってのか!?その辺のセキュリティはどうなってんの!?」

「セキュリティ?……フフッ、そんなの決まってるじゃない。」


 ゾーイは嘲笑った。


「何をされても自己責任よ。他の人も守らない。知らないの?【シータス家】を。敗れた者達は軟弱者扱いされるの。

個の実力こそすべて。力こそが正義。倒して敵から奪い取る。機械霊の襲来は……成り上がりの勝機チャンスなの!

私達にとってもね……。」


 唐突に自信を無くした。レオは何か変だと目で訴え、話を聞き続ける。


「……そのチャンスも、もう限界かもね。」

「何があったんですか?」

「【シータス家】が全部の街と巨大機体を差し押さえられちゃったの。おかげで今じゃ【エンダー家】の物。活き活きしていたエンジニア達が黙っているの。観客達も規制をかけられて、無理やり抑え込まれているわ。」


 ゾーイは一瞬だけ落ち込むが、それでも立ち直る。出口のドアノブに手を伸ばして、扉を開けて日光が射し込む。


「それでも街の人達はこの世界を楽しんでいる。なぜかは見てからの、お楽しみに……。」


 5人は光の先を目指して歩いていく。





 光の先には道を隔てた上で、青い海が一面に広がっていた。まるで夢のようだ。

 そう感じ取るのはまだ早い。ゾーイはサドに初めて話しかける。


「広場を通るから。君は……どうしようかな。」

「眼鏡を外せば、ただの姉弟でしょう。」

「そんな訳あるかい。機械を舐めすぎ。」


 ゾーイは率直につっこむ。

 レオは事情を1つだけ話す。


「【惑星連合】から指名手配も受けている。目立った行動はできねえな。」

「フッ、そんなの【エンダー家】だってお互い様よ。私達もお尋ね者。でもレジスタンスからも、裏で懸賞金をかけている。そして何より、ここに【惑星連合】はいない。

でも君は別。お尋ね者でも別格よ。生きてる噂が広がって、賞金も相当出てる。レオちゃんも【エンダー家】から“生死問わず”だってさ。」

「別行動ですか?」

「違うな。連合もいないし、いつも通りだ。仲良くやろうぜ。」


 レオが余裕を見せる反面、サドは真に受けて緊張していた。肩を組んでまるで旧友のように緊張をほぐす。

 あまりにもストレートな答えに、ゾーイは反論する気も無くなっていた。

 3人は忘れてるようだ…もう1人の存在を。目を離した隙を確かめ、ウルサはライラに話しかける。


「まあまあ大変のようね。私達、賞金首じゃない人達は安全な場所で身を隠しましょ。」

「私は……」


 悩むライラと調子に乗るウルサに対して、ゾーイが思い出したかのように近づく。ウルサに指を指して話しかける。


「……ウルサ、そもそもお前は懸賞総額トップ2なの。知らない?」

「ええっ!?そんな、いつの間に……」


 ゾーイの口調が急変した。執拗に愚痴を飛ばす。


「黙れ!ユーちゃんに斬り掛かったこと、許していないから。その気になれば、その首を司令部に差し出したいぐらいよ。」

「そ、それよりもさあ私達、気が合うと思わない?ほら、“喧嘩するほど……」

「レジスタンス5100万Uドルと、【エンダー家】7000万Uドル……どっちで死にたい?」

「ああ、ライラちゃん!助けて!売り飛ばされちゃうよお!!」


 ウルサは銃を突き付けられていた。どうやら彼女はこの街でやらかしたのだろう。ライラも距離を置いて先へと向かった。


_____


 密集地にて、ある1人の少年が何かから逃げている。野郎共を掻き寄せては先へと進む。彼を追っていたのは…


「待て!」
「止まれ!」


 【エンダー家】派閥の女性、今では【キエラ】の警備隊として街の治安向上に励んでいる。彼女達を見て、野郎共は自ら影へと逃げるように身を隠す。

 街の人間は元々【シータス家】を慕っていた。彼らの事は気に食わないが、破壊行為に頼っても反乱を招くだけ。今は地道に現行犯の悪ガキを捕らえようと奮起している。

 それで捕まえられるかどうかは別である。少年は階段を登り、屋上を駆け抜けていく。対して警備隊は既に3人だけしか残らず、標的が遠く離れていく。


「クソッ!怒らないってのに!」
「だが、向こうで行き止まりだ!」
「も、もぉ限かぁ……」


 もう1人、ギブアップしそうになっていたが、幸い少年の道の先は大きな空間。次の屋上との距離が大きく離れている。飛び降りれば大怪我すること間違いない。



…少年が立ち止まることなど、なかった。



 隊員達は彼の奇行に動揺していた。リーダーらしき女性が率先して、地を蹴り出す。

 少年は背負っている円盤型の機械を解き放ち、取っ手を掴んで宙を浮く。それは円盤型の飛行ロボットであった。滑空するようにゆっくりと遠い場所へ飛んでいく。

 彼の後を追うことはできなかった。特に期待を裏切られたリーダーは、怒り心頭に発していた。


「あのガキ撃ち落とせ!」
「やってる!」


 何発か撃ち込むが、既に射程から遠く離れていた。あまりにも唐突で集中して狙えなかった。3人は諦めずに、彼を追うため下へと戻る。


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