399 / 562
第七章 母を訪ねて三千里
52.失われた場所
しおりを挟む
胸をくすぐる柔らかい感触に眠りの国に居たはずの意識が水中を昇る泡のように浮上して来る。
それが何かと手を伸ばせば ツルツル とした短い毛に覆われた コリコリ とした不思議な感触。おや?と少し重たい瞼を持ち上げると、少しばかりの黒を含んだ渋みのある銀色の三角の山が二つ ピクピクッ と動いたので全ての記憶が呼び覚まされた。
「気分はどお?」
先に起きていたミアは顔を持ち上げると優しい眼差しで見上げて来る。顔を見ただけで返事も待たずに俺の腕を枕にすると、位置を定めたいのか、抱き付きながらもモゾモゾと身体を動かした。
「ミア、ごめんな。お前を都合良く利用した」
「利害の一致、私は幸せな時間をもらった」
抱いて欲しいと言ったのは俺の為の誘い文句ではなく本心からなのか。それほどまでに俺を想ってくれているミアの事を、ただノアを忘れる為だけの捌け口にした俺は愚か者だな。何故もっとミアに対して愛情をもってやれなかったのかという嘲りが自分の胸を突く。
今はまだノアほどにはミアの事を想う気持ちはない。けど一緒にいればあるいはそのうち……
ミアのおかげでノアにフラれた痛みが落ち着き、だいぶ心が楽になったので、エアロライダーに張られた風幕で向かい来る風を受け流しつつ心地よい程度の風を感じながら何も無い荒野を更に進んだ。
「今日は前」
そう言ったミアの希望通り俺の前に座らせると、運転したいのかと思いきや、そうではないと言う。背を預けて座るミアが落ちないように両腕で軽く挟み込むように支えつつひた走ると、それまで黙っていたミアが唐突に口を開いた。
「寄り道する」
「寄り道ぃ?どこ行くんだ?」
「……ひみつ」
特段急ぐわけでも無いのでミアの意思に従い少し方向を逸らすと、時折小さな森らしきものがチラホラ見えていただけの大地に瓦礫の山、人気のなさそうな廃墟らしきものが見えてきた。
「もしかしてアレか?」
「そう」
エアロライダーの速度を落として町だったモノに侵入すると、ドラゴンか何かにでも叩き潰されたかのように全ての建物が滅茶苦茶に破壊し尽くされている。一瞬フォルテア村の光景が思い浮かんだがすぐに消えて行った。
大きな町だったのだろう、ゆっくり走っているとはいえ破壊された町並みがなかなか終わらない。だがそんな町を見ていると分かってくる事もある、町が破壊された要因だ。至るところに魔法を使用した破壊の後があり、魔物の襲来で滅んだ町ではなく魔族の襲撃でもあったかのようだ。
「こんなところに来てどうするんだ?」
ミアの スッ と指差す方向には一際大きな瓦礫の山があり、そこに辿り着くとエアロライダーを停めた。
他とは比べものにならないほどの大量の瓦礫、破壊されてだいぶ月日が経っているようで雨風に晒されて風化しているようにも見える。これも魔族の仕業なのだろうか?それにしてもこんな大きな町が完全に破壊されるなど聞いたこともない。
「ミア、ここは……」
「かつて栄華を極め、世界で一番強かった国」
国の歴史など全く知らない俺はそれが何という国なのか当然のように知らないし、聞いたとしても分からないだろう。だが何となく歩いてみたい気分になりミアと共に廃墟などという味気ない場所で手を繋いでの散歩をした。
だがやはり廃墟は廃墟、崩れた建物がそのまま放置され瓦礫が散らばるだけの寂しい土地に、ここで生活していた人々は死んでしまったのかと再びフォルテア村が思い浮かぶ。
大きな瓦礫の山を時計回りにグルリと回って行くと、僅かに膨らむ丘の上に枯れてしまって葉っぱすら付けていないが大きくて立派な木が佇んでいた。
手を回してもとてもじゃないが届かないような太い幹が無数の枝を重たげに支えているような姿、それは国が国民を支える絵のような印象を与えてくる。かつては青々とした葉が覆い繁っていただろうソレは、国の崩壊と共に葉を散らし枯れ果ててしまった、何故だが分からないがそんな事を感じさせる悲しい木だ。
「あれはお墓」
「お墓?誰のだ?」
吸い寄せられるような妙な感覚がして、丘の手前で立ち止まったミアを置き去りにその木に近付くとゴツゴツとした幹に触れてみた。表面は水分を失い、少し力を入れると崩れてしまいそうなほどにカサカサになっている。
その時だった。突然湧いた焦燥感に焦りを感じ、ミアを守らなくてはと振り向いた瞬間には全ての景色の色が失われており、ミアもモノクロへと変わり果てて離れた場所で真っ直ぐ俺を見つめたまま微動だにしない。
「何だこれは!?」
走り出した直後におかしい事に気付き、木から少しだけ離れた所で立ち止まると背後から感じた気配に再び木の方を振り返る。
するとどうだろう。枯れ果てて枝のみとなっていた筈の木が桃色の何かに埋め尽くされており、吹き抜ける風にその一部を乗せて灰色の空へとヒラヒラと美しくばら撒いている。
唖然としながらもよくよく見ると、枯れ木の纏う桃色は何処かで見た形の小さな花の集まりで、風に舞うのは抜け落ちた花弁のようだ。
あれは確か俺の持つルイスハイデの王家の証に描かれている、国の花だった筈の “桜“ と言う名の花。ルイスハイデに一本だけしか無い木に咲く花で今では失われてしまったと爺ちゃんに聞いたが、こんなに綺麗な色の花だったんだな。それにしても何故ここに?
そして気配の正体は、さっきまでは居なかった筈の木の根元に静かに座る一人の男。そいつはクルクルと回転しながら落ちてくる花弁を手のひらで受けると、ゆったりとした動きで立ち上がり俺を見据える。
「誰だ!これをやったのはお前か?何をしたんだ!?」
だが言葉を発すると同時に「あれ?」と妙な事を思う。長さは違えど癖のある黒髪に、金色の瞳……ん?俺!?
「ようやく現れたな、一先ず自己紹介してやろう。アベラート・ランドストレム・オブ・ルイスハイデ、俺の名だ。ようこそ、俺と同じ力を継ぎし者よ」
それが何かと手を伸ばせば ツルツル とした短い毛に覆われた コリコリ とした不思議な感触。おや?と少し重たい瞼を持ち上げると、少しばかりの黒を含んだ渋みのある銀色の三角の山が二つ ピクピクッ と動いたので全ての記憶が呼び覚まされた。
「気分はどお?」
先に起きていたミアは顔を持ち上げると優しい眼差しで見上げて来る。顔を見ただけで返事も待たずに俺の腕を枕にすると、位置を定めたいのか、抱き付きながらもモゾモゾと身体を動かした。
「ミア、ごめんな。お前を都合良く利用した」
「利害の一致、私は幸せな時間をもらった」
抱いて欲しいと言ったのは俺の為の誘い文句ではなく本心からなのか。それほどまでに俺を想ってくれているミアの事を、ただノアを忘れる為だけの捌け口にした俺は愚か者だな。何故もっとミアに対して愛情をもってやれなかったのかという嘲りが自分の胸を突く。
今はまだノアほどにはミアの事を想う気持ちはない。けど一緒にいればあるいはそのうち……
ミアのおかげでノアにフラれた痛みが落ち着き、だいぶ心が楽になったので、エアロライダーに張られた風幕で向かい来る風を受け流しつつ心地よい程度の風を感じながら何も無い荒野を更に進んだ。
「今日は前」
そう言ったミアの希望通り俺の前に座らせると、運転したいのかと思いきや、そうではないと言う。背を預けて座るミアが落ちないように両腕で軽く挟み込むように支えつつひた走ると、それまで黙っていたミアが唐突に口を開いた。
「寄り道する」
「寄り道ぃ?どこ行くんだ?」
「……ひみつ」
特段急ぐわけでも無いのでミアの意思に従い少し方向を逸らすと、時折小さな森らしきものがチラホラ見えていただけの大地に瓦礫の山、人気のなさそうな廃墟らしきものが見えてきた。
「もしかしてアレか?」
「そう」
エアロライダーの速度を落として町だったモノに侵入すると、ドラゴンか何かにでも叩き潰されたかのように全ての建物が滅茶苦茶に破壊し尽くされている。一瞬フォルテア村の光景が思い浮かんだがすぐに消えて行った。
大きな町だったのだろう、ゆっくり走っているとはいえ破壊された町並みがなかなか終わらない。だがそんな町を見ていると分かってくる事もある、町が破壊された要因だ。至るところに魔法を使用した破壊の後があり、魔物の襲来で滅んだ町ではなく魔族の襲撃でもあったかのようだ。
「こんなところに来てどうするんだ?」
ミアの スッ と指差す方向には一際大きな瓦礫の山があり、そこに辿り着くとエアロライダーを停めた。
他とは比べものにならないほどの大量の瓦礫、破壊されてだいぶ月日が経っているようで雨風に晒されて風化しているようにも見える。これも魔族の仕業なのだろうか?それにしてもこんな大きな町が完全に破壊されるなど聞いたこともない。
「ミア、ここは……」
「かつて栄華を極め、世界で一番強かった国」
国の歴史など全く知らない俺はそれが何という国なのか当然のように知らないし、聞いたとしても分からないだろう。だが何となく歩いてみたい気分になりミアと共に廃墟などという味気ない場所で手を繋いでの散歩をした。
だがやはり廃墟は廃墟、崩れた建物がそのまま放置され瓦礫が散らばるだけの寂しい土地に、ここで生活していた人々は死んでしまったのかと再びフォルテア村が思い浮かぶ。
大きな瓦礫の山を時計回りにグルリと回って行くと、僅かに膨らむ丘の上に枯れてしまって葉っぱすら付けていないが大きくて立派な木が佇んでいた。
手を回してもとてもじゃないが届かないような太い幹が無数の枝を重たげに支えているような姿、それは国が国民を支える絵のような印象を与えてくる。かつては青々とした葉が覆い繁っていただろうソレは、国の崩壊と共に葉を散らし枯れ果ててしまった、何故だが分からないがそんな事を感じさせる悲しい木だ。
「あれはお墓」
「お墓?誰のだ?」
吸い寄せられるような妙な感覚がして、丘の手前で立ち止まったミアを置き去りにその木に近付くとゴツゴツとした幹に触れてみた。表面は水分を失い、少し力を入れると崩れてしまいそうなほどにカサカサになっている。
その時だった。突然湧いた焦燥感に焦りを感じ、ミアを守らなくてはと振り向いた瞬間には全ての景色の色が失われており、ミアもモノクロへと変わり果てて離れた場所で真っ直ぐ俺を見つめたまま微動だにしない。
「何だこれは!?」
走り出した直後におかしい事に気付き、木から少しだけ離れた所で立ち止まると背後から感じた気配に再び木の方を振り返る。
するとどうだろう。枯れ果てて枝のみとなっていた筈の木が桃色の何かに埋め尽くされており、吹き抜ける風にその一部を乗せて灰色の空へとヒラヒラと美しくばら撒いている。
唖然としながらもよくよく見ると、枯れ木の纏う桃色は何処かで見た形の小さな花の集まりで、風に舞うのは抜け落ちた花弁のようだ。
あれは確か俺の持つルイスハイデの王家の証に描かれている、国の花だった筈の “桜“ と言う名の花。ルイスハイデに一本だけしか無い木に咲く花で今では失われてしまったと爺ちゃんに聞いたが、こんなに綺麗な色の花だったんだな。それにしても何故ここに?
そして気配の正体は、さっきまでは居なかった筈の木の根元に静かに座る一人の男。そいつはクルクルと回転しながら落ちてくる花弁を手のひらで受けると、ゆったりとした動きで立ち上がり俺を見据える。
「誰だ!これをやったのはお前か?何をしたんだ!?」
だが言葉を発すると同時に「あれ?」と妙な事を思う。長さは違えど癖のある黒髪に、金色の瞳……ん?俺!?
「ようやく現れたな、一先ず自己紹介してやろう。アベラート・ランドストレム・オブ・ルイスハイデ、俺の名だ。ようこそ、俺と同じ力を継ぎし者よ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる