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第八章 遠回りこそが近道
32.自由奔放が売りです
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「レイさん、私、勉強以外も頑張ってみるわ」
別れを惜しんで泣き付くカンナを胸に抱き、母親と同じく強い自分を宿した目をするセリーナに見送られつつサザーランド家の屋敷を後にした。
復興途中のカナリッジの空を風の絨毯に乗って町の入り口を目指せば、俺達が今日、町を去るのを耳にしたであろう町の人達からの歓声が聞こえてくる。
復興に携わったのはたったの六日、俺がやれた事と言えばララの協力を得て三百軒程を建て直しただけ。町全体からしたらほんの一部ではあったが、多少なりとも貢献する事が出来ただろうとは思う。
それに対して点在する医療院を巡り、大きな怪我をした人達を優先して魔力が続く限り人々を癒し続けたサラの功績の大きい事大きい事。そのおかげでカナリッジでは動けないものは居なくなったという噂を聞いたほどで、この歓声がサラに向けられたモノだと思うと少しだけ悔しい思いに駆られる。
「この六日でみんながしてきた努力に対する感謝の声よ、ちゃんと聞いてあげてね」
俺の胸中を察したサラが近寄り耳元でそんな事を囁く。
「そうよ、レイのした事も町の人の役に立つすごい事なんだからねっ、胸を張りなさい」
サラとは反対側から顔を覗かせたララにまで心を詠まれて背中を叩かれた。
「痛ってーな。結局お前は誰なんだよ。なんでリリィの中に入り込んでるんだ?」
あれからずっとリリィに取って代わり俺達と共に居るララの素性は教えてもらえないまま……と言うか、害が無さそうだったのでそのまま受け入れてしまい聞いてもいなかった気がする。
リリィの順番で一緒に夜を過ごす時はどうしようかとも思ったが、身体はリリィのララに迫られてドギマギしていた俺を笑うだけ笑ってその晩だけはリリィに交代してくれた訳の分からない奴。
結局、激怒するリリィには事情を聞けず、久しぶりの再開を喜んだのも束の間、やる事だけヤッた後は二人で寝てしまったのだが、朝起きた時には再びララに変わっており罪悪感に苛まれた事はトラウマになりかけている。
「あれ?言わなかったっけ? 旧世界が滅びる直前に人間に転生した神の話は聞いて来たでしょう?私はこの世界を創った二人の神の娘ララ。リリィ達スピサ王家の始まりの人間、つまりご先祖様って事ね。
貴方達とはクレルトルで会ったじゃない。ほらっ、レインボーローズから現れたキュートな女の子がいたでしょう?」
キュートとか自分で言っちゃうところがリリィらしい、と言うか、リリィの大元はララなのだから似ていて当然なのか?
「ま、まぁ、それは分かったけど、なんでリリィの身体を乗っ取ってるんだよ」
「たまには外を歩きたかった!なんてのは八割で、本当はリリィをもっと強くする為よ。
リリィが私を抑えられるまで強くなったら私は出てこられなくなるわ。それまではこの身体は私のモノ、だからこんな事もしちゃうわっ!」
俺の膝へと倒れ込んできたララは、太腿にグリグリと顔を押し付けて甘えてくる。
八割も自分の為に身体を乗っ取ったのかと呆れていると、調子に乗って顔が股間へと移動してきたので手刀を叩き込んだ。
──他人様の体で何してやがるんだ、この馬鹿は。
町の入り口まで辿り着けば、見送りは要らないと言っておいたはずなのにケヴィンさんとイルゼさんが待ち構えていた。しかもそれに加えて五十人ものむさ苦しい元海賊の男達と、そのリーダー二人に老人一人。
地上に降り彼等を代表してすっかり元気になったルナルジョさんと挨拶を交わすと、ケヴィンさん、イルゼさんと握手を交わして魔導車に乗り込んだ。
静かに町を去るつもりが、結局、町の門を塞ぐようにしてズラリと並んだ大勢の町の人達にも見送られる事となった。
この町が元の姿を取り戻すのにはまだまだ時間はかかるだろうけど、この町特有の前向きな心と強い協調性があれば先に同じ被害を受けたゾルタインよりも早くに復興が終わるかもしれない。
「頑張れよ」
独り言のように呟いて手を挙げるとカナリッジを後にし、何ヶ月かぶりのリーディネへと魔導車を走らせた。
▲▼▲▼
海辺の山間にあり、周りを森に囲まれた小さな町で一泊すると、傾斜のきつい街道に『こりゃ馬車より船の方が物も運びやすいな』と思いつつ、街道に合わせてフワフワと上下に揺れる魔導車を走らせて行くと、その日の夜も更けてからようやくリーディネへと到着した。
迷う事なく以前お世話になったロンさんの経営する宿の前に魔導車を停めてコレットさんと二人で受付へと向かえば、食事の時間も終わり人気の無くなった受付で話をする真っ直ぐな金髪を肩まで伸ばした女の姿がある。
「ラン?」
この宿の娘である双子なのは分かったが、姉なのか妹なのかは自信が無い。それでも口元のホクロがなんとなく姉であるランのように思えて声をかけたが大正解だったようだ。
「レイさん!?」
受付のお姉さんと共に驚きを露わにすると、高いヒールを履いているにも関わらず器用に駆け寄ってくるので、しなやかに揺れる金髪よりも更に激しく揺れる胸に視線を奪われつつどうしようかと対応に迷う。
しかし彼女の気持ちを無下にするのも忍びないという言い訳に至り抱き留める事にした。
「こんな時間にどうしたんですかっ!?元気そうですね!一先ずお座りになりますか?そうだ!お父さん!お父さーーんっ!!!」
静まり返ったロビーにランの声と床を叩くヒールの音が響き渡る。確か妹のリンよりランの方が大人しかったような気がしたがと受付の女性を見れば苦笑いを浮かべていた。
「またあの部屋を借りたいんだけど空いてる?」
「すみません、レイ様がお泊りになられたお部屋は他のお客様が使っておいでです。ですが、その隣にある同じ感じのお部屋でしたら今日空いたばかりでご宿泊可能となっておりますが、そちらでも構いませんか?」
その部屋は俺達が世話になっていた時にアリサ達魔族が泊まっていた部屋。
なんとも言えないむず痒い感じもしたがただの部屋なので気にしない事にしてお願いすると、宿泊の受付をしてくれるコレットさんを置いてみんなを呼びに一旦魔導車へと戻った。
「なんか高級そうな宿ね。レイ君ってばいつもこんな高そうな宿に泊まってるの?」
貴族の屋敷にも負けず劣らずの重厚な造りのロビーにアリシアとジェルフォがキョロキョロするのをライナーツさんが頭を抱えながらも「二人ともおちつけっ!」と小声で宥める。
それを目の当たりにしたエレナは「お母さん……」と呟きながらこめかみをもみほぐす。
自分の子供より子供っぽい自由奔放さは羨ましいと思うが、エレナから見たら恥ずかしいようだ。
そんなエレナの肩に手を回し一緒になって受付まで行けば、遅い時間にも関わらず宿主であるロンさんに奥さんのヴィオレッタさん、双子の娘の姉ランに妹リンの四人勢揃いで俺達を待っていてくれた。
「サラ王女殿下、レイ様、ご無沙汰しております。またお越しくださり心から感謝します」
時間も時間だったので軽い挨拶だけで済まそうとしたら、片付けも終わった頃だろうに料理長が自ら顔を出し「夕食がまだなら是非」と有難いお誘いをしてくれるので甘んじて受ける事にしてみんなで食堂へと移動した。
「お刺身なんて何年振りかしら……んん~っ!これこれっ!ワサビのツーンがっ!?くぅ~~っ!」
サラがサルグレッドの王女なのを知っているからか、突然の来訪にも関わらず珍しい食材をふんだんに使った料理長自慢のパエリアや、見るからに豪華な舟盛りなど贅沢な料理を堪能させてもらった。
アンシェルにカナリッジと立て続けに港町を回ってきた後なので俺達の感動は薄かったが、ずっとレインボーローズの中にいたらしいララはそうでは無かったようで “何年振り” ではなく “二千年振り” の筈の海辺の食べ物に舌鼓を打っていた。
部屋へと案内されると、以前泊まった部屋よりも広いような気がした。聞けばどうやら勘違いではないらしい。
雪を含めて五人で使うにはあまりにも広い部屋だったし、以前の部屋でも十分すぎるほど素敵な部屋だったのだが、あの時、空いてなくて宿最上級であるこの部屋に通せなかった事を謝られてしまった。
「バルコニーに出てみてください。この部屋には特別なモノがあるんですよ」
気を取り直したランの勧めでバルコニーに出れば五メートル四方の可愛いプールが設置されていた。
「すご~いっ!こんなところにプールがあるっ!?ねぇっ、ライナーツ、今から入らない?私着替えてくるねっ!」
お義理母さん、時刻はすでに皆が寝静まる十一時ですよ?と心の中で突っ込めば、返事も待たずに適当な部屋へと駆け込んだアリシアの姿が見えなくなった。
呆気に取られて固まっていたランだったが僅かな時間で立ち直り、事前に声をかければここで海鮮バーベキューなども用意出来ると説明してくれる。
「いっちばーんっ!!」
ドボーーンッ!
プールに入りながらバーベキューなんて涼しげでいいなと想像が膨らんだところで早着替えの終わったアリシアが膨よかな胸を揺らして水柱が立つほどの勢いでプールに飛び込んだ。
皆様は就寝しているだろう時間帯に立つ大きな音。我慢の限界を突破したライナーツさんがゲンコツを落し、死体のようにプールに浮かぶその妻アリシア……これは誰に見せるためのコントなのだ?
「レイさん私、あれから色々と考えたんです。それで、今はこの宿の経営に関わろうと勉強中なんですよ。……あの、何か気になる事があれば遠慮なく仰ってくださいね」
指を絡めた手をお腹の辺りで組み、何故かモジモジと恥ずかしそうに視線を逸らすランの肩に手を置き「頑張れ」と間違ってない筈の言葉をかけると、ララが ジトッ とした目で何か言いたげに俺を見ていた。
「鈍ちんっ」
「いつもの事よ」
「そうなの? 貴女達も大変ね」
「昔からだからもう慣れたわ」
ティナと二人して俺の目の前で俺の悪口を言ってるが、先ほどの対応のどこに非があったというのかサッパリ分からなかった。
別れを惜しんで泣き付くカンナを胸に抱き、母親と同じく強い自分を宿した目をするセリーナに見送られつつサザーランド家の屋敷を後にした。
復興途中のカナリッジの空を風の絨毯に乗って町の入り口を目指せば、俺達が今日、町を去るのを耳にしたであろう町の人達からの歓声が聞こえてくる。
復興に携わったのはたったの六日、俺がやれた事と言えばララの協力を得て三百軒程を建て直しただけ。町全体からしたらほんの一部ではあったが、多少なりとも貢献する事が出来ただろうとは思う。
それに対して点在する医療院を巡り、大きな怪我をした人達を優先して魔力が続く限り人々を癒し続けたサラの功績の大きい事大きい事。そのおかげでカナリッジでは動けないものは居なくなったという噂を聞いたほどで、この歓声がサラに向けられたモノだと思うと少しだけ悔しい思いに駆られる。
「この六日でみんながしてきた努力に対する感謝の声よ、ちゃんと聞いてあげてね」
俺の胸中を察したサラが近寄り耳元でそんな事を囁く。
「そうよ、レイのした事も町の人の役に立つすごい事なんだからねっ、胸を張りなさい」
サラとは反対側から顔を覗かせたララにまで心を詠まれて背中を叩かれた。
「痛ってーな。結局お前は誰なんだよ。なんでリリィの中に入り込んでるんだ?」
あれからずっとリリィに取って代わり俺達と共に居るララの素性は教えてもらえないまま……と言うか、害が無さそうだったのでそのまま受け入れてしまい聞いてもいなかった気がする。
リリィの順番で一緒に夜を過ごす時はどうしようかとも思ったが、身体はリリィのララに迫られてドギマギしていた俺を笑うだけ笑ってその晩だけはリリィに交代してくれた訳の分からない奴。
結局、激怒するリリィには事情を聞けず、久しぶりの再開を喜んだのも束の間、やる事だけヤッた後は二人で寝てしまったのだが、朝起きた時には再びララに変わっており罪悪感に苛まれた事はトラウマになりかけている。
「あれ?言わなかったっけ? 旧世界が滅びる直前に人間に転生した神の話は聞いて来たでしょう?私はこの世界を創った二人の神の娘ララ。リリィ達スピサ王家の始まりの人間、つまりご先祖様って事ね。
貴方達とはクレルトルで会ったじゃない。ほらっ、レインボーローズから現れたキュートな女の子がいたでしょう?」
キュートとか自分で言っちゃうところがリリィらしい、と言うか、リリィの大元はララなのだから似ていて当然なのか?
「ま、まぁ、それは分かったけど、なんでリリィの身体を乗っ取ってるんだよ」
「たまには外を歩きたかった!なんてのは八割で、本当はリリィをもっと強くする為よ。
リリィが私を抑えられるまで強くなったら私は出てこられなくなるわ。それまではこの身体は私のモノ、だからこんな事もしちゃうわっ!」
俺の膝へと倒れ込んできたララは、太腿にグリグリと顔を押し付けて甘えてくる。
八割も自分の為に身体を乗っ取ったのかと呆れていると、調子に乗って顔が股間へと移動してきたので手刀を叩き込んだ。
──他人様の体で何してやがるんだ、この馬鹿は。
町の入り口まで辿り着けば、見送りは要らないと言っておいたはずなのにケヴィンさんとイルゼさんが待ち構えていた。しかもそれに加えて五十人ものむさ苦しい元海賊の男達と、そのリーダー二人に老人一人。
地上に降り彼等を代表してすっかり元気になったルナルジョさんと挨拶を交わすと、ケヴィンさん、イルゼさんと握手を交わして魔導車に乗り込んだ。
静かに町を去るつもりが、結局、町の門を塞ぐようにしてズラリと並んだ大勢の町の人達にも見送られる事となった。
この町が元の姿を取り戻すのにはまだまだ時間はかかるだろうけど、この町特有の前向きな心と強い協調性があれば先に同じ被害を受けたゾルタインよりも早くに復興が終わるかもしれない。
「頑張れよ」
独り言のように呟いて手を挙げるとカナリッジを後にし、何ヶ月かぶりのリーディネへと魔導車を走らせた。
▲▼▲▼
海辺の山間にあり、周りを森に囲まれた小さな町で一泊すると、傾斜のきつい街道に『こりゃ馬車より船の方が物も運びやすいな』と思いつつ、街道に合わせてフワフワと上下に揺れる魔導車を走らせて行くと、その日の夜も更けてからようやくリーディネへと到着した。
迷う事なく以前お世話になったロンさんの経営する宿の前に魔導車を停めてコレットさんと二人で受付へと向かえば、食事の時間も終わり人気の無くなった受付で話をする真っ直ぐな金髪を肩まで伸ばした女の姿がある。
「ラン?」
この宿の娘である双子なのは分かったが、姉なのか妹なのかは自信が無い。それでも口元のホクロがなんとなく姉であるランのように思えて声をかけたが大正解だったようだ。
「レイさん!?」
受付のお姉さんと共に驚きを露わにすると、高いヒールを履いているにも関わらず器用に駆け寄ってくるので、しなやかに揺れる金髪よりも更に激しく揺れる胸に視線を奪われつつどうしようかと対応に迷う。
しかし彼女の気持ちを無下にするのも忍びないという言い訳に至り抱き留める事にした。
「こんな時間にどうしたんですかっ!?元気そうですね!一先ずお座りになりますか?そうだ!お父さん!お父さーーんっ!!!」
静まり返ったロビーにランの声と床を叩くヒールの音が響き渡る。確か妹のリンよりランの方が大人しかったような気がしたがと受付の女性を見れば苦笑いを浮かべていた。
「またあの部屋を借りたいんだけど空いてる?」
「すみません、レイ様がお泊りになられたお部屋は他のお客様が使っておいでです。ですが、その隣にある同じ感じのお部屋でしたら今日空いたばかりでご宿泊可能となっておりますが、そちらでも構いませんか?」
その部屋は俺達が世話になっていた時にアリサ達魔族が泊まっていた部屋。
なんとも言えないむず痒い感じもしたがただの部屋なので気にしない事にしてお願いすると、宿泊の受付をしてくれるコレットさんを置いてみんなを呼びに一旦魔導車へと戻った。
「なんか高級そうな宿ね。レイ君ってばいつもこんな高そうな宿に泊まってるの?」
貴族の屋敷にも負けず劣らずの重厚な造りのロビーにアリシアとジェルフォがキョロキョロするのをライナーツさんが頭を抱えながらも「二人ともおちつけっ!」と小声で宥める。
それを目の当たりにしたエレナは「お母さん……」と呟きながらこめかみをもみほぐす。
自分の子供より子供っぽい自由奔放さは羨ましいと思うが、エレナから見たら恥ずかしいようだ。
そんなエレナの肩に手を回し一緒になって受付まで行けば、遅い時間にも関わらず宿主であるロンさんに奥さんのヴィオレッタさん、双子の娘の姉ランに妹リンの四人勢揃いで俺達を待っていてくれた。
「サラ王女殿下、レイ様、ご無沙汰しております。またお越しくださり心から感謝します」
時間も時間だったので軽い挨拶だけで済まそうとしたら、片付けも終わった頃だろうに料理長が自ら顔を出し「夕食がまだなら是非」と有難いお誘いをしてくれるので甘んじて受ける事にしてみんなで食堂へと移動した。
「お刺身なんて何年振りかしら……んん~っ!これこれっ!ワサビのツーンがっ!?くぅ~~っ!」
サラがサルグレッドの王女なのを知っているからか、突然の来訪にも関わらず珍しい食材をふんだんに使った料理長自慢のパエリアや、見るからに豪華な舟盛りなど贅沢な料理を堪能させてもらった。
アンシェルにカナリッジと立て続けに港町を回ってきた後なので俺達の感動は薄かったが、ずっとレインボーローズの中にいたらしいララはそうでは無かったようで “何年振り” ではなく “二千年振り” の筈の海辺の食べ物に舌鼓を打っていた。
部屋へと案内されると、以前泊まった部屋よりも広いような気がした。聞けばどうやら勘違いではないらしい。
雪を含めて五人で使うにはあまりにも広い部屋だったし、以前の部屋でも十分すぎるほど素敵な部屋だったのだが、あの時、空いてなくて宿最上級であるこの部屋に通せなかった事を謝られてしまった。
「バルコニーに出てみてください。この部屋には特別なモノがあるんですよ」
気を取り直したランの勧めでバルコニーに出れば五メートル四方の可愛いプールが設置されていた。
「すご~いっ!こんなところにプールがあるっ!?ねぇっ、ライナーツ、今から入らない?私着替えてくるねっ!」
お義理母さん、時刻はすでに皆が寝静まる十一時ですよ?と心の中で突っ込めば、返事も待たずに適当な部屋へと駆け込んだアリシアの姿が見えなくなった。
呆気に取られて固まっていたランだったが僅かな時間で立ち直り、事前に声をかければここで海鮮バーベキューなども用意出来ると説明してくれる。
「いっちばーんっ!!」
ドボーーンッ!
プールに入りながらバーベキューなんて涼しげでいいなと想像が膨らんだところで早着替えの終わったアリシアが膨よかな胸を揺らして水柱が立つほどの勢いでプールに飛び込んだ。
皆様は就寝しているだろう時間帯に立つ大きな音。我慢の限界を突破したライナーツさんがゲンコツを落し、死体のようにプールに浮かぶその妻アリシア……これは誰に見せるためのコントなのだ?
「レイさん私、あれから色々と考えたんです。それで、今はこの宿の経営に関わろうと勉強中なんですよ。……あの、何か気になる事があれば遠慮なく仰ってくださいね」
指を絡めた手をお腹の辺りで組み、何故かモジモジと恥ずかしそうに視線を逸らすランの肩に手を置き「頑張れ」と間違ってない筈の言葉をかけると、ララが ジトッ とした目で何か言いたげに俺を見ていた。
「鈍ちんっ」
「いつもの事よ」
「そうなの? 貴女達も大変ね」
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