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第30話「待ち人の気配」
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カランカラーン♪
入店を告げるカウベルが鳴る。
今まではなかったものだが、どうやら急造したらしい。
ほんの数日前まで、ギルドマスターの不正だとかの調査のため、王都からきた監察が入ったせいでドタバタしていたが、だいぶ落ち着いたようだ。
やむを得ず、外に引っ張り出されていた依頼用掲示板や、臨時受付も今は片付けられている。
閑散とした雰囲気の、シンと静まり返ったギルド内。
奥に併設されている酒場では数人の冒険者が管をまいており、安酒をチビリチビリと飲んでいた。
一瞬だけ鋭い視線をアルガスに飛ばすも、話題の人物だと気付いたのか、そそくさを視線を逸らす。
そんな視線はガン無視しつつ、
アルガスがカウンターに向かうと、数人のギルド員がデスクに突っ伏してぐったりとしていた。
「おい、……おい!!」
コンコンとカウンターをノックしても反応がないものだから、ついつい声を荒げてしまった。
すると、ようやく一人の職員が起き出しノロノロとカウンターまでやってきた。
「ようこそ当ギルドへ」
「よぉ」
最近、馴染みになってきたギルド職員。
聞けば、コイツ───実は副ギルドマスターだとか。
名は、
「───リーグです。いい加減覚えてください」
疲れた顔のリーグ。
結局ギルドマスターは名前を覚えるまでにくたばっちまった。
「すまんすまん。ところでどうした? 随分疲れてないか?」
「あ、す、すみません……色々ありまして、その───」
あーうん。
まぁ、だいたいわかる。
「ようやく本格的に再開ってことでいいんだよな? そういえば、セリーナ嬢は逮捕されたんだって?」
「え、えぇ、まぁ、はい……。他にも、王都の監察が早馬で来まして」
ありゃまぁ?!
「おいおい、話には聞いてたが、マジかよ───どれだけ離れてると思ってるんだ?」
「たはは……驚きました。すでに色々内偵が進んでいたみたいです───こんなチャンスを窺っていたんでしょうね」
そう言って、あのマスターのせいですよ。と疲れた口調で言う。
先日の騒動があってすぐに、ギルドの監察が乗り込んできたという。
目的はギルドマスターの不正と代官との癒着。その他諸々だ。
まぁ叩けば埃の出る人物だったらしく、出るわ出るわのテンヤワンヤ。
「大丈夫なのか? そんな調子でこのギルド……」
「さぁ? なんとも……。取りあえず、出来ることをやるだけですよ、私どもは」
そう言って、力なく笑うギルド員に同情する。
どうせなら、こうした真面目な職員が報われて欲しいものだ。
「それで、本日のご用向きは?」
「あぁ、スマン。クエスト達成報告と──」
「はい……「光の戦士たち」の動向ですね?───残念ですが、まだ……」
そうか……。
もし情報があるならば、あの市長を頼らなくて済むのだが……クソッ!
「───申し訳ありません。当ギルドがご迷惑をおかけしたことも含めて、最重要案件として照会しております。今しばらく……!」
本当に申し訳なさそうにリーグが頭を下げる。
このやり取りも随分と続いている。
仕方がないこととはいえ、いら立ちは募る一方だ。
「ですが───その、アルガスさんに会いたいという人物が来ておりまして……」
クエスト達成の証明として、採取した薬草と、近隣で退治したコボルトの耳とゴブリンの耳をカウンターに置きながら、アルガスは不機嫌な顔で言う。
「市長ならお断りだぞ……しつけーんだよ、アイツ」
一日に、何度も顔を見たい人物ではない。
リーグは受け取った証明を、奥の職員に渡しつつ、
「いえ。市長ではなく……その、若い女性でした」
「何?!」
リーグの言葉にアルガスは食い気味に体を乗り出す。
その様子にリーグは仰け反りつつも、
「落ち着いてください。リズさんではありません───もちろんメイベル女史でもありまんよ」
メイベルはどうでもいい。
……しかし、リズでもないなら誰だ?
俺に知り合いの若い女性なんていたっけ?
居なくはないけど……。
チラッとミィナを見る。
「ほぇ?」
これは若い女性というか、若すぎる女性だしな……。
「今そいつは? というか、何の要件だ?」
「───さて、そこまでは……。今朝方来られて、また顔を出すと言っておりましたね、クエストを受注していきましたので今日にでも戻るとは思いますが」
話ながらも、アルガスとリーグは慣れた様子でクエスト達成の報告を整えていく。
数枚の銀貨と銅貨をコインケースに入れ、恭しく差し出されると、それを無造作に受け取り、ミィナが首から下げているガマグチ財布に放り込む。
「菓子でも買ってこい。───いつものやつ覚えてるな?」
「は~い♪ えっと、『知らない奴から物を貰わない。知らない奴に着いていかない。ジェイスは殺す』♪ だお!」
うん、最後のは……ちゃうねん。
いつも口癖みたいにいってたから、ミィナちゃんが勝手に覚えただけやねん。
り、リーグさんや? そ、そんな目で見るない!
「──子供に、なに教えてるんですか……」
そんな呆れた風に言うない。
………………事実だけどな。
「よく言えたな、行ってこい」
「ありがとー。アルガスさん!」
ジト目のリーグ。
職員の前で言う事じゃねーな。
「み、」
あっ、ミィナのやつ止める間もなく言っちまった。
ギルドの向かいにある露店街に行ったのだろう。ちょっと心配だが、この距離なら目が届く。
ガマグチ財布をブンブン振り回しながら、あっちこっちの露店に顔を出しているミィナの姿が見えた。
「…………子供は元気が一番だ」
「いや、誤魔化せてませんから───どうします? 彼女に何か言付けます?」
ふむ……。
もう昼過ぎだし、待ってりゃそのうち帰ってくるらしいしな。
実際、ギルドからの連絡待ちをしている以外にこの街でやることはない。
宿に戻ってゴロゴロするのもミィナの教育上よろしくない。
「……いや、奥で待つ」
そう言って、併設されている酒場を指した。
入店を告げるカウベルが鳴る。
今まではなかったものだが、どうやら急造したらしい。
ほんの数日前まで、ギルドマスターの不正だとかの調査のため、王都からきた監察が入ったせいでドタバタしていたが、だいぶ落ち着いたようだ。
やむを得ず、外に引っ張り出されていた依頼用掲示板や、臨時受付も今は片付けられている。
閑散とした雰囲気の、シンと静まり返ったギルド内。
奥に併設されている酒場では数人の冒険者が管をまいており、安酒をチビリチビリと飲んでいた。
一瞬だけ鋭い視線をアルガスに飛ばすも、話題の人物だと気付いたのか、そそくさを視線を逸らす。
そんな視線はガン無視しつつ、
アルガスがカウンターに向かうと、数人のギルド員がデスクに突っ伏してぐったりとしていた。
「おい、……おい!!」
コンコンとカウンターをノックしても反応がないものだから、ついつい声を荒げてしまった。
すると、ようやく一人の職員が起き出しノロノロとカウンターまでやってきた。
「ようこそ当ギルドへ」
「よぉ」
最近、馴染みになってきたギルド職員。
聞けば、コイツ───実は副ギルドマスターだとか。
名は、
「───リーグです。いい加減覚えてください」
疲れた顔のリーグ。
結局ギルドマスターは名前を覚えるまでにくたばっちまった。
「すまんすまん。ところでどうした? 随分疲れてないか?」
「あ、す、すみません……色々ありまして、その───」
あーうん。
まぁ、だいたいわかる。
「ようやく本格的に再開ってことでいいんだよな? そういえば、セリーナ嬢は逮捕されたんだって?」
「え、えぇ、まぁ、はい……。他にも、王都の監察が早馬で来まして」
ありゃまぁ?!
「おいおい、話には聞いてたが、マジかよ───どれだけ離れてると思ってるんだ?」
「たはは……驚きました。すでに色々内偵が進んでいたみたいです───こんなチャンスを窺っていたんでしょうね」
そう言って、あのマスターのせいですよ。と疲れた口調で言う。
先日の騒動があってすぐに、ギルドの監察が乗り込んできたという。
目的はギルドマスターの不正と代官との癒着。その他諸々だ。
まぁ叩けば埃の出る人物だったらしく、出るわ出るわのテンヤワンヤ。
「大丈夫なのか? そんな調子でこのギルド……」
「さぁ? なんとも……。取りあえず、出来ることをやるだけですよ、私どもは」
そう言って、力なく笑うギルド員に同情する。
どうせなら、こうした真面目な職員が報われて欲しいものだ。
「それで、本日のご用向きは?」
「あぁ、スマン。クエスト達成報告と──」
「はい……「光の戦士たち」の動向ですね?───残念ですが、まだ……」
そうか……。
もし情報があるならば、あの市長を頼らなくて済むのだが……クソッ!
「───申し訳ありません。当ギルドがご迷惑をおかけしたことも含めて、最重要案件として照会しております。今しばらく……!」
本当に申し訳なさそうにリーグが頭を下げる。
このやり取りも随分と続いている。
仕方がないこととはいえ、いら立ちは募る一方だ。
「ですが───その、アルガスさんに会いたいという人物が来ておりまして……」
クエスト達成の証明として、採取した薬草と、近隣で退治したコボルトの耳とゴブリンの耳をカウンターに置きながら、アルガスは不機嫌な顔で言う。
「市長ならお断りだぞ……しつけーんだよ、アイツ」
一日に、何度も顔を見たい人物ではない。
リーグは受け取った証明を、奥の職員に渡しつつ、
「いえ。市長ではなく……その、若い女性でした」
「何?!」
リーグの言葉にアルガスは食い気味に体を乗り出す。
その様子にリーグは仰け反りつつも、
「落ち着いてください。リズさんではありません───もちろんメイベル女史でもありまんよ」
メイベルはどうでもいい。
……しかし、リズでもないなら誰だ?
俺に知り合いの若い女性なんていたっけ?
居なくはないけど……。
チラッとミィナを見る。
「ほぇ?」
これは若い女性というか、若すぎる女性だしな……。
「今そいつは? というか、何の要件だ?」
「───さて、そこまでは……。今朝方来られて、また顔を出すと言っておりましたね、クエストを受注していきましたので今日にでも戻るとは思いますが」
話ながらも、アルガスとリーグは慣れた様子でクエスト達成の報告を整えていく。
数枚の銀貨と銅貨をコインケースに入れ、恭しく差し出されると、それを無造作に受け取り、ミィナが首から下げているガマグチ財布に放り込む。
「菓子でも買ってこい。───いつものやつ覚えてるな?」
「は~い♪ えっと、『知らない奴から物を貰わない。知らない奴に着いていかない。ジェイスは殺す』♪ だお!」
うん、最後のは……ちゃうねん。
いつも口癖みたいにいってたから、ミィナちゃんが勝手に覚えただけやねん。
り、リーグさんや? そ、そんな目で見るない!
「──子供に、なに教えてるんですか……」
そんな呆れた風に言うない。
………………事実だけどな。
「よく言えたな、行ってこい」
「ありがとー。アルガスさん!」
ジト目のリーグ。
職員の前で言う事じゃねーな。
「み、」
あっ、ミィナのやつ止める間もなく言っちまった。
ギルドの向かいにある露店街に行ったのだろう。ちょっと心配だが、この距離なら目が届く。
ガマグチ財布をブンブン振り回しながら、あっちこっちの露店に顔を出しているミィナの姿が見えた。
「…………子供は元気が一番だ」
「いや、誤魔化せてませんから───どうします? 彼女に何か言付けます?」
ふむ……。
もう昼過ぎだし、待ってりゃそのうち帰ってくるらしいしな。
実際、ギルドからの連絡待ちをしている以外にこの街でやることはない。
宿に戻ってゴロゴロするのもミィナの教育上よろしくない。
「……いや、奥で待つ」
そう言って、併設されている酒場を指した。
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