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第26話「奴らの所業」

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「レイルさん! 無茶ですよ!」

 直ちに行われると思った模擬戦は、結局後日になった。
 ギルドの闘技場は、なんやかんやで使用頻度が高く、急に言って急に使えるものではない。
 しかも、模擬戦の特性上、闘技場の一角でちょっと──というわけにはいかないのだ。

 結局、スケジュールが開いている場所を探すことになったのだが、あいにくとそんな都合の良い日はなく。
 予約待ちのパーティなどに事情を話して日程をズラしたりの調整ののち、5日後と決まった。

 その場のノリに沸いていた冒険者たちの熱も冷め、今はいつも通りのギルドと言った様子だ。

 そして、今この瞬間。
 ギルドに併設されている酒場でレイルがゆっくりと食事をとっているところにメリッサが来襲してきたというわけだ。

 ちなみに、ロード達はボフォートを回収して宿に引き上げていった。
 その際、散々レイルに睨みを利かせていたが、レイルはどこ吹く風。
 むしろ、もう一回ぶん殴ってやるとばかりに軽く睨み返すほどだった。

「無茶って、なにが?」

 塩加減のいい加減な鶏肉の香草焼きを頬張りながらメリッサに問い返す。

「む……無茶は無茶です!────だって、」
 大声を出しておきながら、周囲の目を気にして声を落としたメリッサは言う。

「──ろ、ロードさん達5人を相手にするなんて! Sランクの冒険者パーティなんですよ?!」

「だから?」

「だ、だからって────れ、レイルさん?」

 信じられないといった顔でメリッサが額を抑える。

「勝てっこないですよ! なんでそんなに意固地になるんです? じ、事情は聴きましたけど、その……」

 メリッサはレイルが嘘をついているとは微塵も思っていないらしい。
 つまり、ロード達がレイルを囮にするために連れ出したことは事実だと認識しているのだ。
 それでも、レイルに妥協しろというのは、圧倒的にレイルが不利だからに事ならない。

 ギルドマスターは中立に見えて、明らかにロード達の肩を持っているし、
 そして、ロード達のSランクパーティという肩書は伊達ではない。多少の無理を推しとおせる武力と発言力。なにより、名声が段違いだ。
 それだけに、今までだってこうしたピンチはいくらでもあっただろうがそれを潜り抜けてきた圧倒的なまでの地力がある。

 メリッサの目からはレイルなど塵芥にも等しいのだろう。
 だから、やめてくれと懇願するのだ。

 ──……心からの心配しての言葉。
 それが分かるだけにレイルも無下にはしない。

「──メリッサさんの心配はわかりますよ。俺だって、端からみれば無謀に見えます。だけど──」

 そう。
 だけど、引き下がれない。

 引き下がるわけにはいかない……。

 このまま放置して、ロード達に従い、報酬を分けた後パーティを抜けたとして、……ロード達はレイルを見逃しはしないだろう。
 きっとどんな手を使ってでも、レイルを排除するはずだ。

 そしてまたどこかの町のどこかのギルドで、名も知らぬ孤独な冒険者を食い物にするのだ。

「それだけは許せないんです……」
「レイルさん……」

 荷物の中の56人分の冒険者認識票。
 彼らはレイルと同じだ────。何かが違っていればレイルもあの中にいたのだ。

「わかりました……。レイルさんの勝算を信じます。……ですが、」
「えぇ。たとえ勝っても──」

 コクリとメリッサは頷いた。

 そう。問題はここだ。
 例え模擬戦に勝ったとしても、レイルには何の得にもならない。

 レイルの証言が認められるわけでもないし、ロード達が罪を告白するわけでもない。
 ただの意地と意地のぶつかり合いでしかない。

 だから──。

「メリッサさんにお願いがあります」
「お、お願いですか?」

 レイルからの頼みに、パァと顔を輝かせるメリッサ。
 新人のことから親しいレイルにメリッサなりのシンパシーを感じているのかもしれない。

 ともかく、メリッサ以外に頼るすべのないレイルは彼女にすべての事情を話した。
 事情聴取でも話しきれなかったすべてのことを。


 かくかくしかじか


「そ、そんなことが……」

 わなわなと震えるメリッサ。
 ロード達のやり方があまりにも非道だと知ったのだから当然だ。

「だから、俺は絶対に負けられないんです」
「当然ですね!………………ですが、勝算はあるんですか?」

 シュンと眉尻を下げたメリッサに、
「今は話せません。ですが、その時にはわかるはずです」
「わかりました。………………レイルさんを信じます」

 今度は深く頷いてくれるメリッサ。
 ……このギルドでも疫病神として忌み嫌われているレイルだが、メリッサのような理解者がいてくれるのはありがたいことだ。

「ありがとうございます。それと、メリッサさんに頼みたいことは別にあるんです」
「へ? べ、別の頼み事ですか?」

 どこまでメリッサを信頼してもいいかはわからないが、他に頼るべき人のいないレイルには彼女以外に手段がなかった。
 だから、メリッサが信じてくれたように、レイルも彼女を信じることにした。

「……ロード達のやったことは明らかに許されることではないと思います」
「そうですね……。本来なら、ギルド側で対処しなければならないことです。場合によっては司法機関の手を借りることもあるでしょう」

「はい。ですが、ギルドとロード達は癒着している可能性があります」
「………………えぇ、おそらくは──」

 少しの沈黙の後、メリッサは頷いた。
 彼女もギルドマスターの態度に思うところがあったのだろう。

 そして、レイルをロードに紹介させたのもギルドマスターの指示であったことをメリッサは知っていた。
 だから、彼女にはレイルの言うことは全て腑に落ちることだったのだ。

「しかし、ギルド全体がロード達を支持しているとも思えないんです。もし全面的にギルドがロードの味方ならもっと違うやり方での支援があるはずです。しかし、現状は現地の有力者が口利きをする程度──つまり、」

「…………ほんの一部勢力が『放浪者シュトライフェン』のパトロンになっていると?」

 黙って頷くレイル。

「なるほど────あり得る話です」
 メリッサは少し考え込むように視線を落とした。

 そして、ふと視線を上げるとまっすぐにレイルを見て、
「たしかにギルドの上層部は一枚岩ではないですし、各地で派閥もあります。私も、研修時代には王都のギルドで学んでいましたが、あそこは凄く人間関係がどろどろしていましたね。ギルドは様々な利権が絡みますから」

 うんざりした表情で息をつくメリッサ。
 彼女なりにギルドには思うところがあるのだろう。

「わかりました。私のほうで、相談できる人に当たってみます」
 力強く頷くメリッサ。
 果たして彼女は信頼に能うのだろうか?

「────ですが、ロードさん達の一件を証明するのは非常に困難な事だと思います。何か、こう……」

 う~んと、唸りつつ、メリッサは言う。

「何か物証があればいいのですが……? 亡くなった方の遺品だとか、目撃者とか──……」

 ジャリン……。

「これを──」
「え? これって……………………………──ッ!」

 メリッサの目の前に広げた袋の中身。
 様々な色の、くすんだ金属片──……。

 そう。
 これは………………。




「ぼ、冒険者認識票────それもこんなに!」




 テーブルの上で小山を作る冒険者認識票ドッグタグの束に絶句するメリッサであった。
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