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第27話「仕込みその1」
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「…………さて、行くか──」
レイルは、青い顔で去っていくメリッサを見送ると、食事を終え席を立った。
いくつかの証言の補足と、冒険者認識票を預けた以上、あとはメリッサの仕事だ。
ギルド内部の調査と弾劾は彼女に任せるしかない。
さすがに下っ端でしかないメリッサがいくら上層部に訴えたところで効果などほとんどないだろうから、気休め程度ではあるけどね。
それよりも、レイルには直近の問題があった。
そう。
5日後に控えている模擬戦だ。
「勝算はある────なんて言ったけど……」
さすがに5人全員を相手にするのは分が悪すぎる。
もっとも、ボフォートはそれまでに回復するかわからないし、フラウは積極的にかかわるような雰囲気ではなかった。
しかし、それでも3対1だ。
近接に優れるロードと、肉壁タンクのラ・タンク。そこに支援役のセリアム・レリアム。
ぶっちゃけ、まともにやって勝てるとは思えない。
「……まぁ、まともにやるつもりなんかないけどな」
そう独り言ちたレイルは、目的を果たすべくギルドの奥に向かう。
そのギルド内は冒険者で溢れており皆が皆思い思いに過ごしていた。
依頼板を確認するもの。
酒場の隅っこで飲んだくれるもの。
新人冒険者に絡むもの。
そして、修練施設で特訓に励むもの────。
「おい、レイル! どこに行こうってんだ?」
特訓に向かう冒険者について修練施設へ行こうとしたレイルを不躾に呼び止める声。
「アンタに関係ないだろ?」
ギルドマスターが腕を組みながらレイルを見下ろしていた。
それを素っ気なくあしらおうとするレイル。
「たかだか、Dランクが偉そうな口を利くな! こんなことでもなければ、俺がお前みたいな下級者に声をかけることもないんだぞ」
(じゃー、声かけてくんなよ)
鬱陶しそうにギルドマスターの言葉を聞き流し、半ば無視する形で修練施設に向かう。
「おい! 聞いてんのか!」
ガシリと肩を掴まれるレイル。
その力が思ったよりも強く、レベルが上がったとはいえ、まだまだ自分は弱いのだなと妙なところで納得してしまった。
「さっきからなんだ?! 模擬戦の場を下見するだけだ」
「けっ! お前みたいな卑怯な疫病神はな、なにか細工でもしようって魂胆を隠していることは見え見えなんだよ」
そうは言いつつも、レイルの行動を完全に止める気はないようだ。
一応は、冒険者なら誰でも使っていいことになっている修練施設をいくらギルドマスターとはいえ、無理やり禁止することはできない。
だから代わりに、
「──まぁそうはさせんがな。ほら見ろ」
懐からゴツイ鍵を取り出すギルドマスター。
それはギルドに一つしかない修練施設の鍵だった。
「コイツが無ければ中には入れん。昼間はともかく、夜は絶対に中には入れんぞ?」
なぜなら、
「模擬戦までの間は俺が徹底的に管理する。朝の開錠から夜の施錠まで、な──」
「鍵ッ子か──っつの」
レイルの軽口など負け惜しみ程度に考えているのだろう。
「くっくっく。何か良からぬことを考えていたんだろうが、そうはさせんということだ」
さらに、クイっと顎でしゃくると、修練施設の中にいたギルド職員がレイルを胡乱な目つきでみている。
「わかったか? 昼間の出入りは自由だが、お前の動きは逐一監視されている。──妙なことは考えないことだな」
「そーかよ」
チラリと鍵をみて、その鍵がかなり精巧なものであるとわかったレイル。
ギルドマスターの言う通り、昼間はともかく、施錠されている間に中に入るのは難しいだろう。
修練施設自体の鍵もかなり大型の錠前なので、華奢なキーピックでは歯が立ちそうにない。
「わかったら、とっととロードに頭を下げてくるんだな────口利きくらいは手伝ってやる」
「ほざいてろ」
コイツは一度ロードにレイルを売っている。
誰にも顧みられない孤独な冒険者──『疫病神』として、グリフォンの餌にすることを良しとしたのだ。
少なくとも気安く口を利くような間柄では断じてない。
「──まぁいい。ついでだから案内してやろうじゃないか」
「余計なお世話だ」
コイツ暇なのか?
妙に厭味ったらしい動作でレイルの前に立つと勝手にズンズンと進んでいくギルドマスター。
修練施設自体はレイルもほんの数回ほど利用したことがあるので、まったく見知らぬ場所ではないのだが、あまりなじみのない場所であるのも事実だった。
使用しなかった理由は簡単。
『疫病神』と忌み嫌われるレイルが修練施設を使っていると、周囲の冒険者がツキが落ちるとして、忌避してしまうのだ。
以来、レイルのほうから気を使って修練施設を使用するのをやめてしまった。
ゆえにもっぱらの特訓は空き地や森で個人修行だ。
そりゃ、万年Dランクのままだわな。
少し自嘲気味の笑みを浮かべているレイルの気などしることもなく、ギルドマスターは修練施設をグルリと回る。
「おら、コイツが当日使う武器だ。死にゃしねーから、安心してロードに伸されろ」
「へーへー」
模擬戦に使う武器──刃の潰した短剣や穂先を緩衝材でくるんだ槍、魔力を抑える杖や、支援職用の様々な小道具が並ぶ武具置き場を見たかと思えば、
魔法使い用の負荷装置や、ダンジョン踏破訓練のための模擬トラップなんかも見物する。
「で、ここがお前が血祭りにあげられる場所だ」
ギルドマスターの案内で、丸い石造りの闘技場の上を見学する。
碁盤目状のブロックを組み合わせて、端を丸く整形した巨大なサークルだ。
「これは?」
「あ゛? トラップシステムだよ──ブロックに不規則に仕掛けてある」
闘技場の碁盤の目のブロックには、いくつかのトラップが仕掛けてあるらしい。
どれも拮抗した戦いに変則的な流れを作るためらしい。
「へぇ……。色々考えてあるんだな」
「ふん、雑魚のくせにトラップなんざ気にしてんじゃねーぞ。お前なんかロードにかかったらワンパンだ」
あーはいはい。
「で、場外は?」
「ねーよ。戦闘不能か、ギブアップするまでだ」
じゃ、サークルの意味ね―じゃん。
ハゲの説明を聞きつつ、施設の位置関係を頭に入れていく。
一応使う武器も確認。
で、最後に、
「──……で、ここが普段鍵をかけておく場所だ。模擬戦でもなければここに鍵は掛けていくんだがな、」
「ふふん、欲しいだろう?」と厭味ったらしく、鍵をチャラチャラと鳴らし、闘技場の大扉の脇にあるフックを示すギルドマスター。
「お前は信用ならん。だから、こうして俺が模擬戦まで預かっておく──」
どうも、なにかにつけてレイルをおちょくりたいだけらしい。まったく面倒な野郎だ……。
「好きにしろよ」
とは言ったものの……。
鍵か────。
どうやら、朝イチで修練施設を開けた後はそこに鍵をかけておいて、夜にはその鍵で施錠する。ロード達との模擬戦でもなければ鍵の管理は割といい加減であったらしかった。まぁ、盗む物もないしね……。
とはいえ、
(……うん、不用心だね────)
「どうだ? 満足したか?──どうせ負けるんだから、今のうちに土下座する柔らかい地面を探しておいた方がいいぞ? ガッハッハ!」
あからさまにレイルを軽んじているギルドマスター。
だが、もはやどうでもいいこと。
「あぁ、見たいもの、聞きたいことはだいたいわかったよ」
「なんだぁ? もーいいのか? だったら、とっとと帰────」
「悪いね」
────スキル『一昨日に行く』発動!!
この瞬間、レイルはスキルを発動し、2日前のギルド闘技場の中へと旅立っていった。
しかし、ギルドマスターや闘技場の中にいた冒険者たちや職員には知るところではない。
一昨日の闘技場でレイルが何をしてきたのか。
そして、何を入手したのか────……。
※そして、一昨日からレイルが帰還する──※
「────とっとと帰りやがれ!」
「はいはい。こっちもアンタの顔は願い下げだよ」
(もう目的は達成したよ、バーカ)
そっと、懐に忍ばせた粘土の塊を大事そうに抱えたレイルは何食わぬ顔で修練施設を後にしていった。
それを訝しげに見送るギルドマスター。
「何だあの野郎? 本当に下見に来ただけか……? いや、油断できねぇな。なにせ嘘か本当かグリフォンを倒したっていうくらいだ────きっと、とんでもない策があるに違いない」
どこまでも慎重で疑り深いギルドマスター。
そっと、子飼いの職員を呼び寄せると指示を出す。
「なんとかして修練施設の予約をずらせ。それと、大至急、ダンジョン産の魔法トラップと物理トラップを入荷してこい」
「はい。…………本物ですよね?」
「当たり前だ! ついでにロードにも声をかけてくれ、念のため打ち合わせをする」
「了解です」
ギルドマスターは職員に指示を出し終えると、ギルドを去っていくレイルの背中をしつこくジッと見ていたとか……。
レイルは、青い顔で去っていくメリッサを見送ると、食事を終え席を立った。
いくつかの証言の補足と、冒険者認識票を預けた以上、あとはメリッサの仕事だ。
ギルド内部の調査と弾劾は彼女に任せるしかない。
さすがに下っ端でしかないメリッサがいくら上層部に訴えたところで効果などほとんどないだろうから、気休め程度ではあるけどね。
それよりも、レイルには直近の問題があった。
そう。
5日後に控えている模擬戦だ。
「勝算はある────なんて言ったけど……」
さすがに5人全員を相手にするのは分が悪すぎる。
もっとも、ボフォートはそれまでに回復するかわからないし、フラウは積極的にかかわるような雰囲気ではなかった。
しかし、それでも3対1だ。
近接に優れるロードと、肉壁タンクのラ・タンク。そこに支援役のセリアム・レリアム。
ぶっちゃけ、まともにやって勝てるとは思えない。
「……まぁ、まともにやるつもりなんかないけどな」
そう独り言ちたレイルは、目的を果たすべくギルドの奥に向かう。
そのギルド内は冒険者で溢れており皆が皆思い思いに過ごしていた。
依頼板を確認するもの。
酒場の隅っこで飲んだくれるもの。
新人冒険者に絡むもの。
そして、修練施設で特訓に励むもの────。
「おい、レイル! どこに行こうってんだ?」
特訓に向かう冒険者について修練施設へ行こうとしたレイルを不躾に呼び止める声。
「アンタに関係ないだろ?」
ギルドマスターが腕を組みながらレイルを見下ろしていた。
それを素っ気なくあしらおうとするレイル。
「たかだか、Dランクが偉そうな口を利くな! こんなことでもなければ、俺がお前みたいな下級者に声をかけることもないんだぞ」
(じゃー、声かけてくんなよ)
鬱陶しそうにギルドマスターの言葉を聞き流し、半ば無視する形で修練施設に向かう。
「おい! 聞いてんのか!」
ガシリと肩を掴まれるレイル。
その力が思ったよりも強く、レベルが上がったとはいえ、まだまだ自分は弱いのだなと妙なところで納得してしまった。
「さっきからなんだ?! 模擬戦の場を下見するだけだ」
「けっ! お前みたいな卑怯な疫病神はな、なにか細工でもしようって魂胆を隠していることは見え見えなんだよ」
そうは言いつつも、レイルの行動を完全に止める気はないようだ。
一応は、冒険者なら誰でも使っていいことになっている修練施設をいくらギルドマスターとはいえ、無理やり禁止することはできない。
だから代わりに、
「──まぁそうはさせんがな。ほら見ろ」
懐からゴツイ鍵を取り出すギルドマスター。
それはギルドに一つしかない修練施設の鍵だった。
「コイツが無ければ中には入れん。昼間はともかく、夜は絶対に中には入れんぞ?」
なぜなら、
「模擬戦までの間は俺が徹底的に管理する。朝の開錠から夜の施錠まで、な──」
「鍵ッ子か──っつの」
レイルの軽口など負け惜しみ程度に考えているのだろう。
「くっくっく。何か良からぬことを考えていたんだろうが、そうはさせんということだ」
さらに、クイっと顎でしゃくると、修練施設の中にいたギルド職員がレイルを胡乱な目つきでみている。
「わかったか? 昼間の出入りは自由だが、お前の動きは逐一監視されている。──妙なことは考えないことだな」
「そーかよ」
チラリと鍵をみて、その鍵がかなり精巧なものであるとわかったレイル。
ギルドマスターの言う通り、昼間はともかく、施錠されている間に中に入るのは難しいだろう。
修練施設自体の鍵もかなり大型の錠前なので、華奢なキーピックでは歯が立ちそうにない。
「わかったら、とっととロードに頭を下げてくるんだな────口利きくらいは手伝ってやる」
「ほざいてろ」
コイツは一度ロードにレイルを売っている。
誰にも顧みられない孤独な冒険者──『疫病神』として、グリフォンの餌にすることを良しとしたのだ。
少なくとも気安く口を利くような間柄では断じてない。
「──まぁいい。ついでだから案内してやろうじゃないか」
「余計なお世話だ」
コイツ暇なのか?
妙に厭味ったらしい動作でレイルの前に立つと勝手にズンズンと進んでいくギルドマスター。
修練施設自体はレイルもほんの数回ほど利用したことがあるので、まったく見知らぬ場所ではないのだが、あまりなじみのない場所であるのも事実だった。
使用しなかった理由は簡単。
『疫病神』と忌み嫌われるレイルが修練施設を使っていると、周囲の冒険者がツキが落ちるとして、忌避してしまうのだ。
以来、レイルのほうから気を使って修練施設を使用するのをやめてしまった。
ゆえにもっぱらの特訓は空き地や森で個人修行だ。
そりゃ、万年Dランクのままだわな。
少し自嘲気味の笑みを浮かべているレイルの気などしることもなく、ギルドマスターは修練施設をグルリと回る。
「おら、コイツが当日使う武器だ。死にゃしねーから、安心してロードに伸されろ」
「へーへー」
模擬戦に使う武器──刃の潰した短剣や穂先を緩衝材でくるんだ槍、魔力を抑える杖や、支援職用の様々な小道具が並ぶ武具置き場を見たかと思えば、
魔法使い用の負荷装置や、ダンジョン踏破訓練のための模擬トラップなんかも見物する。
「で、ここがお前が血祭りにあげられる場所だ」
ギルドマスターの案内で、丸い石造りの闘技場の上を見学する。
碁盤目状のブロックを組み合わせて、端を丸く整形した巨大なサークルだ。
「これは?」
「あ゛? トラップシステムだよ──ブロックに不規則に仕掛けてある」
闘技場の碁盤の目のブロックには、いくつかのトラップが仕掛けてあるらしい。
どれも拮抗した戦いに変則的な流れを作るためらしい。
「へぇ……。色々考えてあるんだな」
「ふん、雑魚のくせにトラップなんざ気にしてんじゃねーぞ。お前なんかロードにかかったらワンパンだ」
あーはいはい。
「で、場外は?」
「ねーよ。戦闘不能か、ギブアップするまでだ」
じゃ、サークルの意味ね―じゃん。
ハゲの説明を聞きつつ、施設の位置関係を頭に入れていく。
一応使う武器も確認。
で、最後に、
「──……で、ここが普段鍵をかけておく場所だ。模擬戦でもなければここに鍵は掛けていくんだがな、」
「ふふん、欲しいだろう?」と厭味ったらしく、鍵をチャラチャラと鳴らし、闘技場の大扉の脇にあるフックを示すギルドマスター。
「お前は信用ならん。だから、こうして俺が模擬戦まで預かっておく──」
どうも、なにかにつけてレイルをおちょくりたいだけらしい。まったく面倒な野郎だ……。
「好きにしろよ」
とは言ったものの……。
鍵か────。
どうやら、朝イチで修練施設を開けた後はそこに鍵をかけておいて、夜にはその鍵で施錠する。ロード達との模擬戦でもなければ鍵の管理は割といい加減であったらしかった。まぁ、盗む物もないしね……。
とはいえ、
(……うん、不用心だね────)
「どうだ? 満足したか?──どうせ負けるんだから、今のうちに土下座する柔らかい地面を探しておいた方がいいぞ? ガッハッハ!」
あからさまにレイルを軽んじているギルドマスター。
だが、もはやどうでもいいこと。
「あぁ、見たいもの、聞きたいことはだいたいわかったよ」
「なんだぁ? もーいいのか? だったら、とっとと帰────」
「悪いね」
────スキル『一昨日に行く』発動!!
この瞬間、レイルはスキルを発動し、2日前のギルド闘技場の中へと旅立っていった。
しかし、ギルドマスターや闘技場の中にいた冒険者たちや職員には知るところではない。
一昨日の闘技場でレイルが何をしてきたのか。
そして、何を入手したのか────……。
※そして、一昨日からレイルが帰還する──※
「────とっとと帰りやがれ!」
「はいはい。こっちもアンタの顔は願い下げだよ」
(もう目的は達成したよ、バーカ)
そっと、懐に忍ばせた粘土の塊を大事そうに抱えたレイルは何食わぬ顔で修練施設を後にしていった。
それを訝しげに見送るギルドマスター。
「何だあの野郎? 本当に下見に来ただけか……? いや、油断できねぇな。なにせ嘘か本当かグリフォンを倒したっていうくらいだ────きっと、とんでもない策があるに違いない」
どこまでも慎重で疑り深いギルドマスター。
そっと、子飼いの職員を呼び寄せると指示を出す。
「なんとかして修練施設の予約をずらせ。それと、大至急、ダンジョン産の魔法トラップと物理トラップを入荷してこい」
「はい。…………本物ですよね?」
「当たり前だ! ついでにロードにも声をかけてくれ、念のため打ち合わせをする」
「了解です」
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