31 / 51
地元妖怪
しおりを挟む
「地元妖怪か……」
部活の帰り道、康人が突然変なことをいい出したのは、塀に変な貼り紙が貼られているのを見たからだと思う。
誰が書いたのかは知らないが、微妙に汚い字で『一反木綿に注意!』と書かれている。
「それってもしかして一反木綿のこと言ってる?」
実は僕らの地元には一反木綿っぽい伝説がある。
でも本物の一反木綿とはちょっと雰囲気違うし、多分それが原因でウィキペディアにも載ってないんだと思う。
「他にいる?」
いや、いない。いないけど。
「でもここの一反木綿って、名前は一緒だけどなんか違わない?」
「まぁなー」
ここの一反木綿は、姿かたちや人に巻き付くのは一緒なんだけど、血じゃなく口を吸う。
もっとも口を吸うのは一反木綿じゃなく、巻き付かれた者同士なんだけど。
「しかもこの道だろ? 並ばず通り」
この並ばず通りを男女二人で歩いて一反木綿に出遭うと、二人一緒に一反木綿にぎゅっと巻き取られて、そのときに互いの唇同士が必ずぶつかって、古風な言い方でいうところの「口吸い」が発生するという、なんとも痴妖怪みのあふれる言い伝えだ。
だからこの通りは、未婚の娘や夫が居る女性は歩いてはいけない、なんていう暗黙のルールがあったりもする。
「そうそう。おかげで近隣の学校では近道だってのにこぞって通学路から外すっていうね」
康人の笑い声がやけに高く見える空へ吸い込まれる。
そうなんだよな。
だからこの道はいつも空いている。
「騒ぎすぎとは思うよ。僕らこの道何度も通ってるけどさ、見たことないもんな」
何気なく言った言葉。
だけど康人の表情がやけに固い。
「こないだ、うちのじいちゃん亡くなっただろ?」
「あぁ、うん」
もしかしてアレか?
康人のおじいちゃん、もしかして一反木綿で町おこし企んでたりしてて一反木綿関連ディスる発言はNGだったり?
「遺品整理で蔵の中を大掃除してさ、そのときに古い巻物を見つけたんだ」
「巻物?」
まさか昔の人が一反木綿捏造するために使った白紙の巻物とかだったり?
「アレがなんでウィキペディアに載らないのか、その巻物を読んでわかったんだ」
「すごいなヤッスー、昔の巻物読めるのか!」
康人は僕をじっと見つめた。
急に風が強くなったから目を細める。
「アレは妖怪じゃないんだ」
アレって、一反木綿のことだよな?
でもその言い方……巻物に書いてあったって本当なのか?
「妖怪じゃなく人の手で作られた巻物でしたってオチ?」
空気を変えたくておどけてみた。
「半分合ってる」
「合ってるのかよ!」
マジか!
「アレは式神の一種なんだ。一反木綿を模して作られたんだ」
「それ面白い設定だな。マンガにしてSNSにアップしなよ」
軽口で返してはいるが、辺りの空気はなんか重いまま。
風はますます強くなる。
「男女とか関係ないんだよ」
康人の声と同時にひときわ強い風。
思わず目を閉じた、その間際のわずかな一瞬に見えた。
康人の背後に細長くて白い布みたいなのがはためくのが。
「俺っ! 昔からお前のことっ!」
その直後、何かに包まれた。
<終>
一反木綿
部活の帰り道、康人が突然変なことをいい出したのは、塀に変な貼り紙が貼られているのを見たからだと思う。
誰が書いたのかは知らないが、微妙に汚い字で『一反木綿に注意!』と書かれている。
「それってもしかして一反木綿のこと言ってる?」
実は僕らの地元には一反木綿っぽい伝説がある。
でも本物の一反木綿とはちょっと雰囲気違うし、多分それが原因でウィキペディアにも載ってないんだと思う。
「他にいる?」
いや、いない。いないけど。
「でもここの一反木綿って、名前は一緒だけどなんか違わない?」
「まぁなー」
ここの一反木綿は、姿かたちや人に巻き付くのは一緒なんだけど、血じゃなく口を吸う。
もっとも口を吸うのは一反木綿じゃなく、巻き付かれた者同士なんだけど。
「しかもこの道だろ? 並ばず通り」
この並ばず通りを男女二人で歩いて一反木綿に出遭うと、二人一緒に一反木綿にぎゅっと巻き取られて、そのときに互いの唇同士が必ずぶつかって、古風な言い方でいうところの「口吸い」が発生するという、なんとも痴妖怪みのあふれる言い伝えだ。
だからこの通りは、未婚の娘や夫が居る女性は歩いてはいけない、なんていう暗黙のルールがあったりもする。
「そうそう。おかげで近隣の学校では近道だってのにこぞって通学路から外すっていうね」
康人の笑い声がやけに高く見える空へ吸い込まれる。
そうなんだよな。
だからこの道はいつも空いている。
「騒ぎすぎとは思うよ。僕らこの道何度も通ってるけどさ、見たことないもんな」
何気なく言った言葉。
だけど康人の表情がやけに固い。
「こないだ、うちのじいちゃん亡くなっただろ?」
「あぁ、うん」
もしかしてアレか?
康人のおじいちゃん、もしかして一反木綿で町おこし企んでたりしてて一反木綿関連ディスる発言はNGだったり?
「遺品整理で蔵の中を大掃除してさ、そのときに古い巻物を見つけたんだ」
「巻物?」
まさか昔の人が一反木綿捏造するために使った白紙の巻物とかだったり?
「アレがなんでウィキペディアに載らないのか、その巻物を読んでわかったんだ」
「すごいなヤッスー、昔の巻物読めるのか!」
康人は僕をじっと見つめた。
急に風が強くなったから目を細める。
「アレは妖怪じゃないんだ」
アレって、一反木綿のことだよな?
でもその言い方……巻物に書いてあったって本当なのか?
「妖怪じゃなく人の手で作られた巻物でしたってオチ?」
空気を変えたくておどけてみた。
「半分合ってる」
「合ってるのかよ!」
マジか!
「アレは式神の一種なんだ。一反木綿を模して作られたんだ」
「それ面白い設定だな。マンガにしてSNSにアップしなよ」
軽口で返してはいるが、辺りの空気はなんか重いまま。
風はますます強くなる。
「男女とか関係ないんだよ」
康人の声と同時にひときわ強い風。
思わず目を閉じた、その間際のわずかな一瞬に見えた。
康人の背後に細長くて白い布みたいなのがはためくのが。
「俺っ! 昔からお前のことっ!」
その直後、何かに包まれた。
<終>
一反木綿
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
清掃員と僕の密やかな情状
MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。
青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。
肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。
44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる