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お題【ある日、アメリカが日本に土下座してきた事案】
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「ぬー、まぎー腕時計」
久々に会った親友の第一声がそれだった。
「わかんないって。標準語でしゃべってよ、標準語で」
「なにその大きな腕時計」
「ああ、これ? ひいおじいちゃんの形見の腕時計」
「へぇ……でも、止まってない?」
「ファッションだから」
私がそう言うと親友はけたけたと笑った。もともと明るい子だったけれど、南国の太陽に照らされてその明るさにかなり磨きがかかったみたい。
「ヨーコってば昔からそういうヘンな趣味あるよね」
「ヘンって何よヘンって」
「ううん。ヘンじゃないよ……でさ、荷物早く家においてさ……」
そこでまた笑い出す。
「どうしたの?」
「ううん。地方出身の子が東京で同じ地方から来た子と会うと方言出るって言うじゃない。わたしはその逆で標準語が出るなぁって」
彼女は母方がもともと沖縄の家系で、お父さんの転勤で三年前、高二の冬に那覇に引っ越すまでは小中高とずっと私と一緒だった。
「でさ。ヨーコ、彼氏は出来た? 東京の大学だったらイケメンいっぱいいるんじゃない?」
「出来たら報告してるって。あんたこそどーなのよ」
「んー。気になる人は居るんだけど……」
「えー、やるじゃんやるじゃん……で、どんな人?」
「かっこよくて優しくて、悪い人じゃないんだけど……心霊スポットが妙に好きな人で……おばあがあの男はやめろって言うのさー」
「出た、おばあ! そのフレーズ聞くと沖縄来たって実感する!」
……なんてはしゃいでいたのが8時間前のこと。私と親友は、その心霊スポット好きに「歓迎」と称して連れて行かれた裏通りの古いマンションの入り口ですごい寒気に襲われて、すぐに引き返して親友の家にまで戻ってきたんだけど……私だけ肩がすごく重いのが治らないとかどうなのそれ。
「ごめんね、なんか。わたし、やっぱりアイツと付き合うのやめるわ」
「うん。そうした方がいいと思う……で、私はこれどうしたら治るの?」
「おばあ呼んできたよ」
おばあに治せるものなのだろうか。沖縄のおばあはそんなに万能なんだろうか。私はそんなモヤモヤとしんどい気持ちのまま、お隣から駆けつけてきてくれたおばあの顔をじっと見つめた。
「アメリカーね」
おばあはそう言った。アメリカー? 何それ、外車? 親友はおばあからなにやらゴソゴソと話を聞いている様子。
「あのね、アメリカーが憑いてるって」
「アメリカー? つ、憑いてる? ととと取ってよ!」
「アメリカーってのはアメリカ人の幽霊のことそう呼ぶのね。おばあは視える人なんだけど、アメリカの幽霊は言葉が分からないから説得もできないって」
「へー、幽霊って説得できるんだ……英語もっと勉強しとけばよかったよ」
そんな軽口叩きながらも心の中では絶望に近い状況だった。なんで沖縄来た初日にこんな目にあわなきゃいけないわけ? もう誰か助けてよ。英語をしゃべれるおばあとかさ……。
「えっ?」
親友が急にびっくりするような高い声を出した。そしておばあとまた話しはじめる。
「……あれ?」
急に肩が軽くなった。えええええ。なにこれすごい! おばあがやってくれたの?
「えっとね……アメリカーは土下座して逃げていったって」
「ナニソレ」
「その時計、ひいおじいちゃんのって言ってたじゃない?」
「うん」
「そのひいおじいちゃんが、日本刀でアメリカーに斬りかかったみたい」
「ええええ! ひいおじいちゃんが?」
「でもね」
「今度は何よ」
「ヨーコのひいおじいちゃん、階級低いみたいだから、日本兵の幽霊には敵わないんじゃないかっておばあが言ってる」
そこで親友はまた笑い出す。こいつ……他人事だと思って……。
でも親友とおばあとがあまりにも楽しそうに笑うから、私もつられて笑い出した。
東京に戻ったら、ひいおじいちゃんのお墓参りでもしようかな。そんなことを考えたら、本当に楽しくなってきた。
<終>
久々に会った親友の第一声がそれだった。
「わかんないって。標準語でしゃべってよ、標準語で」
「なにその大きな腕時計」
「ああ、これ? ひいおじいちゃんの形見の腕時計」
「へぇ……でも、止まってない?」
「ファッションだから」
私がそう言うと親友はけたけたと笑った。もともと明るい子だったけれど、南国の太陽に照らされてその明るさにかなり磨きがかかったみたい。
「ヨーコってば昔からそういうヘンな趣味あるよね」
「ヘンって何よヘンって」
「ううん。ヘンじゃないよ……でさ、荷物早く家においてさ……」
そこでまた笑い出す。
「どうしたの?」
「ううん。地方出身の子が東京で同じ地方から来た子と会うと方言出るって言うじゃない。わたしはその逆で標準語が出るなぁって」
彼女は母方がもともと沖縄の家系で、お父さんの転勤で三年前、高二の冬に那覇に引っ越すまでは小中高とずっと私と一緒だった。
「でさ。ヨーコ、彼氏は出来た? 東京の大学だったらイケメンいっぱいいるんじゃない?」
「出来たら報告してるって。あんたこそどーなのよ」
「んー。気になる人は居るんだけど……」
「えー、やるじゃんやるじゃん……で、どんな人?」
「かっこよくて優しくて、悪い人じゃないんだけど……心霊スポットが妙に好きな人で……おばあがあの男はやめろって言うのさー」
「出た、おばあ! そのフレーズ聞くと沖縄来たって実感する!」
……なんてはしゃいでいたのが8時間前のこと。私と親友は、その心霊スポット好きに「歓迎」と称して連れて行かれた裏通りの古いマンションの入り口ですごい寒気に襲われて、すぐに引き返して親友の家にまで戻ってきたんだけど……私だけ肩がすごく重いのが治らないとかどうなのそれ。
「ごめんね、なんか。わたし、やっぱりアイツと付き合うのやめるわ」
「うん。そうした方がいいと思う……で、私はこれどうしたら治るの?」
「おばあ呼んできたよ」
おばあに治せるものなのだろうか。沖縄のおばあはそんなに万能なんだろうか。私はそんなモヤモヤとしんどい気持ちのまま、お隣から駆けつけてきてくれたおばあの顔をじっと見つめた。
「アメリカーね」
おばあはそう言った。アメリカー? 何それ、外車? 親友はおばあからなにやらゴソゴソと話を聞いている様子。
「あのね、アメリカーが憑いてるって」
「アメリカー? つ、憑いてる? ととと取ってよ!」
「アメリカーってのはアメリカ人の幽霊のことそう呼ぶのね。おばあは視える人なんだけど、アメリカの幽霊は言葉が分からないから説得もできないって」
「へー、幽霊って説得できるんだ……英語もっと勉強しとけばよかったよ」
そんな軽口叩きながらも心の中では絶望に近い状況だった。なんで沖縄来た初日にこんな目にあわなきゃいけないわけ? もう誰か助けてよ。英語をしゃべれるおばあとかさ……。
「えっ?」
親友が急にびっくりするような高い声を出した。そしておばあとまた話しはじめる。
「……あれ?」
急に肩が軽くなった。えええええ。なにこれすごい! おばあがやってくれたの?
「えっとね……アメリカーは土下座して逃げていったって」
「ナニソレ」
「その時計、ひいおじいちゃんのって言ってたじゃない?」
「うん」
「そのひいおじいちゃんが、日本刀でアメリカーに斬りかかったみたい」
「ええええ! ひいおじいちゃんが?」
「でもね」
「今度は何よ」
「ヨーコのひいおじいちゃん、階級低いみたいだから、日本兵の幽霊には敵わないんじゃないかっておばあが言ってる」
そこで親友はまた笑い出す。こいつ……他人事だと思って……。
でも親友とおばあとがあまりにも楽しそうに笑うから、私もつられて笑い出した。
東京に戻ったら、ひいおじいちゃんのお墓参りでもしようかな。そんなことを考えたら、本当に楽しくなってきた。
<終>
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