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お題【この街には悪いうさわがある】
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ダッシュしたんだ。学校から帰って、着替えもせず急いで自転車に飛び乗って。
とても焦っていた。
よりにもよって発売日なのに放課後、掃除させられるとか。
だいたいあれは僕が悪いんじゃない。授業中、最初に騒いでたのはモトアキじゃんか。なのにモトアキは先に帰れて僕と山田が居残り掃除とかおかしいじゃん。
あーあ。
この時間だと絶対間に合わないよ。泣きそうな気分。
妖クエは僕らの間で絶大な人気を誇るゲーム。
アニメ化もされていて、このゲームをどこまで進めたかで学校内の偉さが変わっちゃうくらいすごいんだ。
だから新作の妖クエ3の発売日にはおこずかいも貯めて、万全の準備をしていた……ってのに。
「ごめんねぇ。10分前に売り切れちゃったんだよ」
ああああああっ。
あとちょっとだったのに!
居残り掃除がなければ買えたのに!
モトアキへの恨みを抱えながら自転車を押してトボトボと歩いていたその帰り道、よりによってモトアキと会った。
モトアキの自転車の前カゴには、それっぽい大きさのビニール袋が入っている。
「よう、買えたか?」
「買えるわけないだろ! 誰かさんのせいでさ」
「悪かったって……お詫びにいいこと教えるってばさ」
「いいこと?」
「隣町のイケブン堂にはあったぜ」
ビニール袋は確かにイケブン堂のやつ。でも……。
「え、ちょっと待って……隣町ってさ……モトアキ、それ自転車じゃんか……バス使った?」
「バスなんて一時間に2本しかねぇだろ。待ってられっかよ」
「だいじょぶかよ……だって」
隣町まで自転車で行くとなると……バスより早く行くならクルクル通りを通らないといけないはずなんだ。でもそのクルクル通りってのは本当は違う名前なんだけど、皆そう呼んでいて……絶対に近づいちゃいけないって言われている場所。
「何怖じ気づいてんだよ。あんなの噂だろ。噂が本当だったらさ、今頃警察とか自衛隊とか来てあのへん全部撤去するだろ? してないってことはやっぱりただの噂なんだよ」
「……でも……」
「とにかく教えたからな! これで昼間のチャラだかんな! じゃあオレ、早く帰って妖クエ3やろうっと!」
嬉しそうに自転車をこいで遠ざかってゆくモトアキの背中を見つめながら、僕の心はざわついていた。イケブン堂……今からバスで行っても残っているかな……行ってもなかったら、往復のバス代痛いよなぁ。僕は結局そのまま家に帰ることにした。
翌日。
学校に行くとモトアキの周りはみんなが囲んでいた。
すっごい進めたんだろうな。
「でもこれ、ネタバレになっちゃうからなぁ」
モトアキの得意そうな声が聞こえてくるから。
やっぱりムカつく。
僕はモトアキのせいで買えなかったのに。だから無視しようと思ってたんだ……だけど。山田が僕の肘をつついた。
「おい、モトアキ……あれやばいぜ」
「ネタバレしまくりで?」
「ちげーって! お前も見てみろって!」
よく見ると、みんなはモトアキの自慢話を聞いているわけじゃないようだった。しかもなんだかモトアキから距離もとっているような……。
肝心のモトアキは、もうしゃべってはいない。しゃっくりが混ざったような笑い方をしながら、手首を不自然にぐるぐる回していた。
はじめは盆踊りの時の手みたいって思った。
でも違う。なんか、もっと気持ち悪い感じ。それだけじゃない。妙にフラフラしているなって思ったら。足下もぐるぐると動かしている。おかしい。絶対におかしい。
「目玉もぐるぐるしてる」
山田の声が聞こえたのと同時だと思う。僕のナナメ後から女子の悲鳴が聞こえて、つい僕は振り返ってその女子を見たんだ。
結果的にはそれが良かったみたい。
僕がハッと気がついてモトアキを見たときにはもう、駆けつけてきた先生たちがモトアキの周りに集まって、何か大きな布をかぶせて連れ出しているところだった。
僕がモトアキを見たのはそれが最後だった。
モトアキの目を見ちゃった山田もあの後すぐに保健室に連れて行かれて……一週間経った今もまだ学校を休んだまま。
山田だけじゃない。クラスの半分以上まだ休んでいて、学級閉鎖状態。
閑散としたこの教室を見つめていると、時々、先生とか友達とかの声が聞こえなくなる時がある。代わりに聞こえてくるのが、モトアキのあの笑い声。しゃっくり混じりの、耳に残るやつ。
……僕は大丈夫だよね?
僕には伝染していないよね?
僕はモトアキの目玉なんて見てないから……あ。
ゲーム買いにいった帰り道……僕はモトアキと会っている……不安と、恐怖とが僕の頭の中をぐるぐると回り始めた。
<終>
とても焦っていた。
よりにもよって発売日なのに放課後、掃除させられるとか。
だいたいあれは僕が悪いんじゃない。授業中、最初に騒いでたのはモトアキじゃんか。なのにモトアキは先に帰れて僕と山田が居残り掃除とかおかしいじゃん。
あーあ。
この時間だと絶対間に合わないよ。泣きそうな気分。
妖クエは僕らの間で絶大な人気を誇るゲーム。
アニメ化もされていて、このゲームをどこまで進めたかで学校内の偉さが変わっちゃうくらいすごいんだ。
だから新作の妖クエ3の発売日にはおこずかいも貯めて、万全の準備をしていた……ってのに。
「ごめんねぇ。10分前に売り切れちゃったんだよ」
ああああああっ。
あとちょっとだったのに!
居残り掃除がなければ買えたのに!
モトアキへの恨みを抱えながら自転車を押してトボトボと歩いていたその帰り道、よりによってモトアキと会った。
モトアキの自転車の前カゴには、それっぽい大きさのビニール袋が入っている。
「よう、買えたか?」
「買えるわけないだろ! 誰かさんのせいでさ」
「悪かったって……お詫びにいいこと教えるってばさ」
「いいこと?」
「隣町のイケブン堂にはあったぜ」
ビニール袋は確かにイケブン堂のやつ。でも……。
「え、ちょっと待って……隣町ってさ……モトアキ、それ自転車じゃんか……バス使った?」
「バスなんて一時間に2本しかねぇだろ。待ってられっかよ」
「だいじょぶかよ……だって」
隣町まで自転車で行くとなると……バスより早く行くならクルクル通りを通らないといけないはずなんだ。でもそのクルクル通りってのは本当は違う名前なんだけど、皆そう呼んでいて……絶対に近づいちゃいけないって言われている場所。
「何怖じ気づいてんだよ。あんなの噂だろ。噂が本当だったらさ、今頃警察とか自衛隊とか来てあのへん全部撤去するだろ? してないってことはやっぱりただの噂なんだよ」
「……でも……」
「とにかく教えたからな! これで昼間のチャラだかんな! じゃあオレ、早く帰って妖クエ3やろうっと!」
嬉しそうに自転車をこいで遠ざかってゆくモトアキの背中を見つめながら、僕の心はざわついていた。イケブン堂……今からバスで行っても残っているかな……行ってもなかったら、往復のバス代痛いよなぁ。僕は結局そのまま家に帰ることにした。
翌日。
学校に行くとモトアキの周りはみんなが囲んでいた。
すっごい進めたんだろうな。
「でもこれ、ネタバレになっちゃうからなぁ」
モトアキの得意そうな声が聞こえてくるから。
やっぱりムカつく。
僕はモトアキのせいで買えなかったのに。だから無視しようと思ってたんだ……だけど。山田が僕の肘をつついた。
「おい、モトアキ……あれやばいぜ」
「ネタバレしまくりで?」
「ちげーって! お前も見てみろって!」
よく見ると、みんなはモトアキの自慢話を聞いているわけじゃないようだった。しかもなんだかモトアキから距離もとっているような……。
肝心のモトアキは、もうしゃべってはいない。しゃっくりが混ざったような笑い方をしながら、手首を不自然にぐるぐる回していた。
はじめは盆踊りの時の手みたいって思った。
でも違う。なんか、もっと気持ち悪い感じ。それだけじゃない。妙にフラフラしているなって思ったら。足下もぐるぐると動かしている。おかしい。絶対におかしい。
「目玉もぐるぐるしてる」
山田の声が聞こえたのと同時だと思う。僕のナナメ後から女子の悲鳴が聞こえて、つい僕は振り返ってその女子を見たんだ。
結果的にはそれが良かったみたい。
僕がハッと気がついてモトアキを見たときにはもう、駆けつけてきた先生たちがモトアキの周りに集まって、何か大きな布をかぶせて連れ出しているところだった。
僕がモトアキを見たのはそれが最後だった。
モトアキの目を見ちゃった山田もあの後すぐに保健室に連れて行かれて……一週間経った今もまだ学校を休んだまま。
山田だけじゃない。クラスの半分以上まだ休んでいて、学級閉鎖状態。
閑散としたこの教室を見つめていると、時々、先生とか友達とかの声が聞こえなくなる時がある。代わりに聞こえてくるのが、モトアキのあの笑い声。しゃっくり混じりの、耳に残るやつ。
……僕は大丈夫だよね?
僕には伝染していないよね?
僕はモトアキの目玉なんて見てないから……あ。
ゲーム買いにいった帰り道……僕はモトアキと会っている……不安と、恐怖とが僕の頭の中をぐるぐると回り始めた。
<終>
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