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お題【今どきのセールスマン】
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やたら顔のいい男が訪ねてきた。
「何の御用ですか?」
「セールスマンをしています」
怪しいことこの上ないが、インターホンごしの声もいい。
ちょっとだけ話を聞いてみようかな。
「何を売っているんですか?」
「安全です」
「安全?」
「はい。今どきはネットをはじめとした電波の範囲までケアできるんですよ」
もしかしてアレか?
盗聴器の周波数拾ってしかけられているとこに声かけてくやつ?
でもそう言って入ってきて探すフリして逆に取り付けていく手口ってのも聞いたことあるんだよね。
第一、イケメン過ぎってのが怪しい。
しかも声もいい。
もう少しだけ聞いてみようかな。
「それは、あの、お高い機械を取り付けるとか、そういう……」
「いえ、そんなことは全くありません。取り付け不要、というよりもコンパクトで持ち運びに適しております。いわゆるお守りというものでして。お値段各種ありますが、最も安いもので千円となります」
「お守り?」
「ええ。梅、竹、松と三種類ございまして、安い方から順に、千円、一万円、十万円となっております。全て税込みでございます」
十万、という数字に反射的にインターホン切りそうになった。
つーかそんな額をポンと出すおばさまとかいらっしゃるんか。
いくらイケメンだからといって。
「例えば一番お安いお守りで、効き目とかお聞きしてもよろしいですか?」
我ながらよそ行きの声だなぁ。
「はい。梅ですと、理不尽な危険から守られます。例えば痴漢とか、車の盗難とか、すれ違いざまに肩をぶつけてくる男性とか、SNSの誹謗中傷とか。詐欺電話の類いも防げますので田舎のご両親へ贈られる方もいらっしゃいますよ」
「そ、それが千円でっ?」
思わず声が上ずってしまった。
それが本当ならかなりのご利益。
お守りとしての千円は決して安くはないが、本当に効果があるなら購入も辞さない気持ち――ってまんまと乗せられてる私。
イケメンだからって気を許すの早過ぎない?
「はい。ただ、お守りの効果は一年しか保ちません。ご連絡いただければ私がまた交換にお尋ねさせていただきます。あ、もちろん交換費用はもとのお守りと同じだけいただきますが」
「ください!」
一年で千円なら試してみてもいいかも。
決してイケメンの連絡先が入手出来るからとかそんなやましい理由ではない。
その証拠に、私が梅のお守りを購入したのは、ドアチェーンをしたままドアを開けて。
効果は三日と経たず現れた。
以前からSNSで粘着してきてた人の話聞かない輩がこぞって私のアカウントに構わなくなったのだ。
まさか今まで絡んできてた連中、全部あのセールスマンの自作自演かと疑いたくなるほど。
でもこれは使える。
私は早速あのイケメンセールスマンへ連絡した。
「あの、お守り、すごい効き目です。お礼を言いたくて……」
「お役に立てたようでなによりです」
相変わらずのイケメン、イケボ。
生で見るとその破壊力も相当にすごい。
ええ。今回はもうドアを開けてますとも。
「あの、一万円のってどのような効果なのかお聞きしてもよろしいですか?」
「はい。竹ですと、個人への強い執着を防ぎます。ストーカーに付きまとわれている方には効果覿面です。こちらも効果は一年しか保ちません」
「すごいですね……あのー、十万円のは……」
「はい。松は、恐らくお客様には必要ないかと……こちらは、一族郎党七代祟られているような方へのお守りですので」
「松をください」
「よろしいのですか? お売りする私が言うのもなんですが、お安い物ではありませんので」
「構いません」
そして私はとうとう松のお守りを手に入れた。
今日はとっても嬉しい日。
これでずっとやりたかったことに手を出せる。
ずっとずっとやりたくて、でも、呪い返しが怖くてできないでいた呪詛の数々を、これで安心して試すことができる。
まずは手頃な犬でも見つけてきて、あとはそれを埋めても周囲の人に気づかれないような場所も確保して――ああ、楽しみ過ぎてヤバい!
<終>
「何の御用ですか?」
「セールスマンをしています」
怪しいことこの上ないが、インターホンごしの声もいい。
ちょっとだけ話を聞いてみようかな。
「何を売っているんですか?」
「安全です」
「安全?」
「はい。今どきはネットをはじめとした電波の範囲までケアできるんですよ」
もしかしてアレか?
盗聴器の周波数拾ってしかけられているとこに声かけてくやつ?
でもそう言って入ってきて探すフリして逆に取り付けていく手口ってのも聞いたことあるんだよね。
第一、イケメン過ぎってのが怪しい。
しかも声もいい。
もう少しだけ聞いてみようかな。
「それは、あの、お高い機械を取り付けるとか、そういう……」
「いえ、そんなことは全くありません。取り付け不要、というよりもコンパクトで持ち運びに適しております。いわゆるお守りというものでして。お値段各種ありますが、最も安いもので千円となります」
「お守り?」
「ええ。梅、竹、松と三種類ございまして、安い方から順に、千円、一万円、十万円となっております。全て税込みでございます」
十万、という数字に反射的にインターホン切りそうになった。
つーかそんな額をポンと出すおばさまとかいらっしゃるんか。
いくらイケメンだからといって。
「例えば一番お安いお守りで、効き目とかお聞きしてもよろしいですか?」
我ながらよそ行きの声だなぁ。
「はい。梅ですと、理不尽な危険から守られます。例えば痴漢とか、車の盗難とか、すれ違いざまに肩をぶつけてくる男性とか、SNSの誹謗中傷とか。詐欺電話の類いも防げますので田舎のご両親へ贈られる方もいらっしゃいますよ」
「そ、それが千円でっ?」
思わず声が上ずってしまった。
それが本当ならかなりのご利益。
お守りとしての千円は決して安くはないが、本当に効果があるなら購入も辞さない気持ち――ってまんまと乗せられてる私。
イケメンだからって気を許すの早過ぎない?
「はい。ただ、お守りの効果は一年しか保ちません。ご連絡いただければ私がまた交換にお尋ねさせていただきます。あ、もちろん交換費用はもとのお守りと同じだけいただきますが」
「ください!」
一年で千円なら試してみてもいいかも。
決してイケメンの連絡先が入手出来るからとかそんなやましい理由ではない。
その証拠に、私が梅のお守りを購入したのは、ドアチェーンをしたままドアを開けて。
効果は三日と経たず現れた。
以前からSNSで粘着してきてた人の話聞かない輩がこぞって私のアカウントに構わなくなったのだ。
まさか今まで絡んできてた連中、全部あのセールスマンの自作自演かと疑いたくなるほど。
でもこれは使える。
私は早速あのイケメンセールスマンへ連絡した。
「あの、お守り、すごい効き目です。お礼を言いたくて……」
「お役に立てたようでなによりです」
相変わらずのイケメン、イケボ。
生で見るとその破壊力も相当にすごい。
ええ。今回はもうドアを開けてますとも。
「あの、一万円のってどのような効果なのかお聞きしてもよろしいですか?」
「はい。竹ですと、個人への強い執着を防ぎます。ストーカーに付きまとわれている方には効果覿面です。こちらも効果は一年しか保ちません」
「すごいですね……あのー、十万円のは……」
「はい。松は、恐らくお客様には必要ないかと……こちらは、一族郎党七代祟られているような方へのお守りですので」
「松をください」
「よろしいのですか? お売りする私が言うのもなんですが、お安い物ではありませんので」
「構いません」
そして私はとうとう松のお守りを手に入れた。
今日はとっても嬉しい日。
これでずっとやりたかったことに手を出せる。
ずっとずっとやりたくて、でも、呪い返しが怖くてできないでいた呪詛の数々を、これで安心して試すことができる。
まずは手頃な犬でも見つけてきて、あとはそれを埋めても周囲の人に気づかれないような場所も確保して――ああ、楽しみ過ぎてヤバい!
<終>
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