花のようなる天下のあるじ 鬼のようなるつわもの連れて

ふじのぼる

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再会

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 照之介は洞窟内に舟をぎ入れる。そして一番奥の岩の上にはば二寸(約六cm)ばかりの宝玉が神々こうごうしい光をはなちながらっているのを見つけた。

 傷をつけないように懐紙かいしくるんで、箱か何か入れる物は無いかと考えたが、玉手箱があったのに気がついてそれに入れた。

 帰還して庄屋に事の次第を告げたところ、非常に驚いて「まことでしょうか?本当に鬼は居なくなったのでしょうか?」

 照之介は「そのあかしに鬼が持ち去ったと聞いた宝玉らしきものを持ち帰りました。いざご覧あれ」

 玉手箱を開け懐紙をくと、燦然さんぜんと光り輝く宝玉が現れる。

「この光はかの宝玉に相違ございませぬ、この度は何と御礼を申し上げれば良いか」

「それは良かった。すぐさまお返ししたいので、持ち主の長者の屋敷を教えてくだされ」

 ……………………

 照之介は長者の元へ行くべく歩を進めた。犬猿雉は庄屋の村をまもる者としてやとわれたので、この方も一件落着である。

 三人は是非ぜひともお供したいと泣いてかき口説くどいてきたが、別段護衛は要らぬのでいて置いてきた。

 長者の屋敷が見えてきたが、既視感きしかんにとらわれる。かつて逗留とうりゅうした館にそっくりそのままなのだ。

 戸惑いながら門番に案内を乞うと「今この館の姫君が五人の公達きんだちに求婚されておるところじゃ、早々にお帰りいただくのが宜しかろう」

「その姫君のお名前をうかがってもよろしいですかな?」

十六夜いざよいさまにござりまするよ」


 照之介は家宝の宝玉を取り戻してきた事を述べ、貴公子達の後で控えることを許された。

 (十六夜…まさか…まさかな)と思いつつ歩を進めた。

 この家の娘と、かの公達との会話が聞こえてきた。

 熱烈に求婚する者に対しまったくその気が無い娘が、唐天竺からてんじくの秘宝を持ってくれば望みに応えても良いと投げやりに応対している。

 (真に!本当に!あの、あの十六夜ではないか!!!)

 案内してくれた者が十六夜に耳打ちし、求婚者達に声を上げる「只今姫様並びにこの家における最大の恩人がお越しいただきました。申し訳なき次第ではございまするが、お引き取り願いまする」

 公達は不平を言い募ったが「恥をかいても宜しければその場におられませ」との取り次ぎの者の言葉に黙るしか無い。

「お借りしていた物をお返しに参りました」

 照之介を見た十六夜は目を見開いて「まさか…そんな…まさか…」と呟きながら呆然としている。

 照之介は懐から玉手箱を取り出し、開けて宝玉を見せながら「お借り申しておりました玉手箱、鬼より取り戻したる宝玉。双方をお返し申し上げまする」と静かに述べた。

 十六夜は「お名前を、お名前をお聞かせいただけませぬか」

「望月照之介でございます」

 十六夜の眼から涙が溢れて止まらなくなった。「百年…百年…おもうておりました」

 照之介は再会できたことを感じ取った。「百年…わしには一瞬であった」「不思議な事が重なり合って何が起こったかさえ分からぬ。だがこうしてまた会えたのでそれもどうでも良い」

 二人は幼子のように抱き合って泣きながら再会を喜びあった。

 案内してくれた老人がぽつぽつと話し出す「お二人は月の宮での許嫁いいなづけでござる。幼き頃下界の富士山の噴火で月まで飛んできた石にお二人で触れた為、けがれを得て下界に飛ばされてしまい申した」

「その後急ぎ下界に降りた私どもに姫君は見つけ出せましたが、もうお一方は行方ゆくえがどうしても分かりませなんだ」

「百年前、館にお越しいただいた時『これは、もしや』と思いましたが確証が持てませぬでのう」

「玉手箱にて百年飛ばされれば、下界のものなれば骨も残りませぬ。それがこの様に委細変わらずおられるということは、もはや間違いございませぬ!」

「姫は下界で百年の時を過ごされけがれはらいました。貴方様あなたさま数多あまたの鬼を救って徳を積みけがれはらいました」

「貴方様は十六夜姫の許嫁いいなづけ、月の宮の十五夜もちづき様にございます」

 その刹那せつな、館全体が激しく揺れだした。公達一同はあわてて館の外に逃げ出した。一同振り返ると館がゆっくり浮かびだし、夜空に浮かぶ満月に向かって行くのだった。
 
 公達はいつまでもいつまでも、それを見つめているのだった
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