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鬼島
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照之介一行は、この辺で一番大きい村の庄屋の家に着いた。
この庄屋が照之介を鬼の手先と勘違いしたことを謝り、お詫びの印とばかりに歓迎をしてくれた。その席で色々教えてくれる。
百年程前の大戦で浜辺に打ち捨てられた膨大な数の亡骸が波に運ばれ、少し離れた島の入り江にある洞窟内に漂着したのだと。
そしてその数多の怨念がいつか形になり、鬼の姿となって辺りを荒らし出した。
挙句の果てに、この近辺一番の長者の館から家宝の宝珠を盗み出してからは、それの霊力によって強大な力を獲得し手がつけられなくなったそうだ。
それを聞いた照之介は(なんと!わしが間に合わなんだ大戦で多くの武者が亡霊になったというのか…それは何とかせねばなるまい!)
一つ頷いて「ならばこのわしが鬼どもを退治て、宝物を取り返して見せよう」
「お前達もついて来るが良い」
「お…おう……」
「何だ?どうした?」
「いや、大兄者!わしら、その、鬼だの妖怪の類は苦手じゃ!」
「なんだ?その『大兄者』とは」
太郎坊が「この三人のうちでは、わしが一番強いので兄者であるが、そのわしより強いから『大兄者』とわしらの間では呼んでおる」
「おいおい、しっかりしてくれい。お前達も言わば僧侶の端くれであろうが」
「わ、わわっ、わしらが得意なのは争い事の仲裁で…つまり法力よりも腕力を」
それは仲裁とは言わないだろうと思いながらも、有無を言わせず同行する事を認めさせた。
夜が明けてから舟を出す。三郎坊が舟を操るのが上手いとの事なので、櫓を任せて「鬼ヶ島」へ向かう。
陽が昇れば鬼の力も少しは弱まるかと思っていたが、見えてきた島の洞窟からは禍々しくドス黒い気が渦巻きながら吹き出している。
だがやはり太陽の光は苦手らしく、洞窟からは出てこようとはしない。
洞窟内がはっきり見える所まで近づくと、何やら人の形に見えるおどろおどろしい物が渦巻くようにこちらに悪意を叩きつけてくる。
照之介はその「鬼」の中に親類縁者の気配を感じ、はらはらと涙を流した。
自分の知人が成仏もできず、人に仇為す浅ましい亡者に成り果てている。
「皆様をお慰め致そう」一声呟くと彼は笛を取り出し、奏で始めた。
はじめは怒り狂っていた亡霊達も、あまりの悲しい調べに徐々に大人しくなり始め、気が付けば全ての鬼が跪いて笛の音に聞き入っていた。
犬猿雉の三兄弟は「これは凄い!我らもお助け致そう!」と般若心経を唱え出す。
亡者達は「色即是空空即是色」の言葉は知っていたが、笛の音に聞き入ったところでこの経文を聞き、自分達の妄執に意味実態の無いことを悟った。
そして悟った者から次々と成仏をしていった。美しい光を放ちながら皆天に向かって昇って行き、気が付けば洞窟の中に亡者は一人もいなくなった。
この庄屋が照之介を鬼の手先と勘違いしたことを謝り、お詫びの印とばかりに歓迎をしてくれた。その席で色々教えてくれる。
百年程前の大戦で浜辺に打ち捨てられた膨大な数の亡骸が波に運ばれ、少し離れた島の入り江にある洞窟内に漂着したのだと。
そしてその数多の怨念がいつか形になり、鬼の姿となって辺りを荒らし出した。
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だがやはり太陽の光は苦手らしく、洞窟からは出てこようとはしない。
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