3 / 99
第一章
第三話 夜空に吸い込まれていくような
しおりを挟む
図書室には(何故か)黒板が備え付けられているので、そこにチョークで文字を書きつけながら講義を始める。
「魔法陣の話をしていた事だし、最も効率よく魔力を現象――魔法に転換できる魔法陣の構成について話すことにしよう。
「今現在、理想的な構成だと世界に認められる構成は――誰が考案した?」
「近代魔術の父、ヴァルシュヴィですね」
「正解。ヴァルシュヴィは魔法陣の対称構造に重きを置いた構成を考案し、以来それが最も効率の良い魔法陣の構成だと言われるようになった。
「しかし本当にそうなのかと、三百年前から研究者たちは反証を試みているわけだ。何を根拠にしてるか、分かる?」
「……えっと、三百年の時間が経っていることと何か関係ありますか?」
「あるある。正確に言うと、二百年経った事に関係しているかな」
「二百年と言うと……詠唱から魔法陣への変換技術が生まれたのが、その頃ですよね」
「……正解。昔から、一部の魔法の詠唱による発動が、他の魔法を魔法陣で発動した時よりも効率がいい事が知られていた。
「加えて、魔法陣と詠唱では消費する魔力量に気にするような差はない。
「なら、当該魔法の詠唱の構成に、何らかの優れた点があるということだと、考えられた。
「詠唱から魔法陣への変換が出来るようになったことで、先に述べた特性を持つ魔法の詠唱を魔法陣に書き換えることができるようになり、詠唱に組み込まれていた効率のいい構成が、魔法陣に備わり、歴史を変える新たな魔法陣作成の体系が生まれる――はずだった」
俺は黒板に直方体を描く。そしてそこに『果ての壁』と書き込んだ。
「完成した魔法陣は、研究者たちが思いもよらないような斬新な構成だった。しかも、机上でシミュレーションしてみれば明らかに――ヴァルシュヴィのものを超える効率をたたき出すものだった。
「でも実際に発動してみると、僅かにヴァルシュヴィのものの方が効率がいい。
「研究者たちが混乱したのが目に浮かぶようだよ。理論的には確かに効率がいいはず。なら何故実際にそうならない――?」
時葉は――これは彼女が深く思考するときの癖なのだが――ぱちぱちと大きな瞳を何度か瞬かせ……苦笑を浮かべた。
「……分からないです、先生」
「俺もわからん。今ので解かれたら国中の教本を書き換えなくちゃならんとこだった」
「……意地悪な先生」
「まあね……。でも――今のは流石に分からないにしても、よく勉強してるじゃないか。ヴァルシュヴィの事も詠唱魔法陣変換の事もよく……」
そこまで口にして、俺は自身の失敗を悟る。
「はい。頑張りましたよ、先生?」
一歳差とはいえ俺より年下とは思えない、大人びたミステリアスな微笑みを浮かべる時葉。何がどうなっているのかわからないが、要求されている褒美は彩希のそれと同じもので……。
黒より僅かに青みがかった綺麗な髪にそっと触れる。薄明の空に見紛う静かで深く、幻想的な色。
彩希の頭を撫でる時との微かな違いは、時葉が俺の目線と同じくらいの背の高さなので、その表情がよく見えてしまうところだ。長い睫毛に縁どられた涼しげな双眸が、柔らかく細められる。
俺は夜空に吸い込まれるような感覚を味わっていた。
「魔法陣の話をしていた事だし、最も効率よく魔力を現象――魔法に転換できる魔法陣の構成について話すことにしよう。
「今現在、理想的な構成だと世界に認められる構成は――誰が考案した?」
「近代魔術の父、ヴァルシュヴィですね」
「正解。ヴァルシュヴィは魔法陣の対称構造に重きを置いた構成を考案し、以来それが最も効率の良い魔法陣の構成だと言われるようになった。
「しかし本当にそうなのかと、三百年前から研究者たちは反証を試みているわけだ。何を根拠にしてるか、分かる?」
「……えっと、三百年の時間が経っていることと何か関係ありますか?」
「あるある。正確に言うと、二百年経った事に関係しているかな」
「二百年と言うと……詠唱から魔法陣への変換技術が生まれたのが、その頃ですよね」
「……正解。昔から、一部の魔法の詠唱による発動が、他の魔法を魔法陣で発動した時よりも効率がいい事が知られていた。
「加えて、魔法陣と詠唱では消費する魔力量に気にするような差はない。
「なら、当該魔法の詠唱の構成に、何らかの優れた点があるということだと、考えられた。
「詠唱から魔法陣への変換が出来るようになったことで、先に述べた特性を持つ魔法の詠唱を魔法陣に書き換えることができるようになり、詠唱に組み込まれていた効率のいい構成が、魔法陣に備わり、歴史を変える新たな魔法陣作成の体系が生まれる――はずだった」
俺は黒板に直方体を描く。そしてそこに『果ての壁』と書き込んだ。
「完成した魔法陣は、研究者たちが思いもよらないような斬新な構成だった。しかも、机上でシミュレーションしてみれば明らかに――ヴァルシュヴィのものを超える効率をたたき出すものだった。
「でも実際に発動してみると、僅かにヴァルシュヴィのものの方が効率がいい。
「研究者たちが混乱したのが目に浮かぶようだよ。理論的には確かに効率がいいはず。なら何故実際にそうならない――?」
時葉は――これは彼女が深く思考するときの癖なのだが――ぱちぱちと大きな瞳を何度か瞬かせ……苦笑を浮かべた。
「……分からないです、先生」
「俺もわからん。今ので解かれたら国中の教本を書き換えなくちゃならんとこだった」
「……意地悪な先生」
「まあね……。でも――今のは流石に分からないにしても、よく勉強してるじゃないか。ヴァルシュヴィの事も詠唱魔法陣変換の事もよく……」
そこまで口にして、俺は自身の失敗を悟る。
「はい。頑張りましたよ、先生?」
一歳差とはいえ俺より年下とは思えない、大人びたミステリアスな微笑みを浮かべる時葉。何がどうなっているのかわからないが、要求されている褒美は彩希のそれと同じもので……。
黒より僅かに青みがかった綺麗な髪にそっと触れる。薄明の空に見紛う静かで深く、幻想的な色。
彩希の頭を撫でる時との微かな違いは、時葉が俺の目線と同じくらいの背の高さなので、その表情がよく見えてしまうところだ。長い睫毛に縁どられた涼しげな双眸が、柔らかく細められる。
俺は夜空に吸い込まれるような感覚を味わっていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる