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第一章

第十五話 令嬢に古代魔法研究をお薦めしてみる

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「俺の研究は、システムに無理矢理組み込まれた魔法――例外的な構成を持つ古代魔法を研究し、元の構成を復元して、より優れた魔法を生み出すことだ。

「ヴァルシュヴィが無理矢理システムにねじ込んだってことは、あんな天才でも手に負えないくらい複雑な構成を持っていたってことだから、世界でも研究は殆ど進められなかったし、今も放置状態が続いている。

「逆に言えば、未開拓の領域だってことだ。だからほんのちょっと研究しただけで、かなりの成果を得ることが出来る。

「……なんでみんな古代魔法の研究をしないんだろうな。ヴァルシュヴィが作った魔法陣たちを一時間眺めてれば一つは改良の余地がある古代魔法が見つかるのに……時葉もやってみるか?」

「……いえ。……多分先生だから出来てるだけじゃないかと」

「いや、ほら見てこれ。これなんかあり得ないくらい無理に改変されて―――」

「……分からないですから。それ分かるの多分先生と……勇者くらいじゃないですかね」

「……まあ、あいつは多分わかるだろうな」

「……化け物ですからね」

「完全に同意」

「――先生と同じくらいの」

「………………」

「冗談ですよ……古代魔法の定義は分かりました。特徴はありますか?」

「あるよ。特徴が定まらないのが特徴」

「………ああ、システムに組み込めない例外を集めて古代魔法、と言っているのでしたっけ」

「そうそう。はぐれ者たちだけをピックアップしてるわけ」

「今の魔法界で喩えると……」

「もういいから俺の話は」

 ○
 古代魔法の授業二時間。

 プラス魔法陣の授業二時間。

「……よし、じゃあ授業はここまでだな。お疲れ様――」

「先生?」

「何でしょう」

「テストはしなくてもいいんですか?」

「……時葉のこと信じてるから」

「今回の授業は気を抜いていたかも知れませんよ……」

「い、いやいや、そんなことないだろ。質問もばんばん飛ばしてくるし」

「分かったようなことを言っていただけですよ。多分」

「………」

「……授業終わりに復習をすることで記憶に定着しやすくなる、ってどなたかから聞きましたけど」

「……はい、どうぞ。制限時間は三十分……」

 ○
 もはや結果を書く必要はないですね。

 その後に何を言われたかも書く必要はないですね。

 彼女の――翠玉のように輝く瞳が、俺を捉える。俺はちょっと目を逸らしつつ、彼女の頭を撫でた。それを見た彼女の、鈴を転がすような美しい声での――ささやかな笑い声が、俺の耳朶に響いた。

 どこか深いところを揺さぶる響きだった。
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