異世界最強のセンセイ~王女の妹と令嬢達の先生になったんだが、教え子たちが可愛すぎて授業どころじゃない~

古澄典雪

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第一章

第二十九話 魔剣は雨降る小径で振るわれる

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 城を出て、小径へと向かう。木々に囲まれる、あの小径へ。

 そこは春風家へ向かう道であると同時に――『最古ノ魔術師』と交戦した道でもある。

 雨は降り続いている。辺りは静寂に包まれていく。路面が白く煙る。風が強く吹いた。俺は――ただ、足を前に動かす。

 そこに――奴はいる。

 老翁の面をつけた妖しい容貌。奇妙で現実離れした雰囲気が満ちている。

「なあ――お前さ」

 俺は返事を期待せずに話しかける。

「俺がどれ程強く自制して――お前を逃がしたか分かってるのか」

 奴は微動だにしない。

「魔力をかき乱して――望海と未來を魔力酔いの状態にさせて」

 動きはない。言葉はない。

「でも実際に二人を傷つける事はなかったから――追いかけなかったし、見逃してやったんだ――耐えてやったんだ」

 雨が強さを一段と増した。

「でもさ」

 木の枝が折れて、道に転がった。

「悠可は今日――元々魔力が乱れていた。そしてそこに、お前が乱した魔力の影響が加わった。

「あのままだったら――魔法が一生使えなくなるレベルまで、消耗してしまうところだった。

「……なあ、耐えてやったんだ。

「堪えてやったんだ。

「でももう――限界だ。

「そのつもりなんだろ?

「お前も。

「そのつもりで――来たんだろ。

「手加減なんか……要らないよな。要ると言われたって、出来ないけどさ」

 声が届いているかは分からない。

 実のところ――知りたくもなかった。

 俺は鞘から剣を抜いた。階段を下りている間に、自室から魔力で引っ張ってきたものだ。

 刀身に雨が降り注いで、水滴が地面に滴り落ちた。

 それが合図だったように――俺たちは同時に動き出した。

 奴も剣を持っていた。

 先の戦いは小手調べだったらしい。この戦いは――終わらせるためのものなのだから、本当の実力が出せるのは剣と魔法を組み合わせるスタイルなのだろう。

 だからどうということでもないが。

 俺は地面を強く蹴って、相手に接近する。

 左脚を大きく踏み込んで、剣を振るった。

 奴はそれを剣で受けた――受けようとした。しかし二秒も持たずに、俺は剣を跳ね返す。

 相手の肩口に剣が迫る。

 しかしそれは姿勢を低くされ、躱される。

 俺は剣を切り返しながら魔法陣を展開した。相手が姿勢を変えようと――低くすれば魔法に、高く戻せば剣によってダメージを与えられる。

 相手も魔法陣を展開し、俺の魔法を相殺して切り抜けようとした。魔法陣から生み出された二つの現象が、衝突して消える。

 しかし俺の魔法陣は二重になっている。重なって存在していたもう一つの――発動を間近に控えた魔法陣を見て、奴は息を漏らした。大きく飛び退る――のを、俺が見逃してやる義理はない。

 俺は剣を構える。

 この魔剣に宿る能力は――『停止』。

 息を止めた。そして魔力だけが存在する世界に目を向ける。

 人間の体を魔力が循環するとき、要となるのは心臓だ。

 古くからの儀式に見られるように、多くの魔力は血に宿る。それを送り出す心臓に、魔力循環の基幹部分が存在するのは道理だ。

 相手の心臓から流れる魔力。それが集中している――基幹部分に。意識を全て注ぐ。

 ―――――捉えた。

 魔剣を振った。
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