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第一章
第三十五話 年下に弱いなんてことは絶対にない
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もう一人妹が居た――なんてそんな訳はなく。
何故俺がそんな呼称で呼ばれているのかについて俺の脳内は壮絶な論考を開始していたが、どうにも心当たりが全くない。俺からの反応がないのを見て取ってか、少女は瞳に仄かな悲しみの色を宿して、
「……申し訳ありません。気を悪くされましたよね」
と言った。
その表情が俺の頭を俺史上最高速度で回転させる。
絶対に思い出せる。彼女に俺をそう呼ばせる事実が確実にあったはずだ。
何の理由もなく人を兄と呼ぶ人がいないからして。
そして最高速度の回転によって或る記憶が取り出された。
「……ああ、別れ際の……」
そうだ。三年前、別れ際に「お兄ちゃんって呼んでもいいですか……」って消え入りそうな声で言われたんだった。
そうだ。で、俺は「いいよ……君のお父さんの目が痛いけど。…………そんなに睨まないでくださいよ。え?お前の父親ではない?それは知ってますけど」と言ったんだった。
……王との会話の方が割合が高いような気がするが、それはさておき。
「気を悪くなんてしないよ。好きに呼んでくれ」
「……じゃあ、お兄ちゃんって呼ばせて頂きますね。あと……できれば、私の事は夢乃って呼んでくださいませんか」
「……うん」
「おい由理。お前特別なことは何もなかった的なことを口走ってなかったっけ?」
仁さんが小声で俺に言う。
「いやまあ……ちょっと思い出したことがあったというか」
「……後で聞くからな」
はい。
「えっと、それで……今回は王宮に泊って行かれますか?」
「……んーと、遅くても三日後には帰る予定…………」
そう言うと、少女の上目遣いが俺を射貫いた。
「だから、三日泊って行こうかな……」
「はい!是非そうしてください!」
決して上目遣いの威力に負けたわけではないことをここに明記しておく。
「……お前って、かなり年下に弱くないか」
「弱くないです」
「年下キラーの癖に」
「年下キラーでもないし年下に弱くもないです」
「……えーと、何かありました?」
「いや、何でも……」
「……殿下。とりあえずこいつ――じゃなくて、『祝福されし魔術師』殿と情報を共有してきたいと思うのですが」
「わかりました。では、会議室に案内します」
「え、いやそこまでしてもらわなくても……」
「少しくらい、お兄ちゃんの役に立ちたいんです」
「…………」
「……いやもしかしてお前、妹系に弱いのか?」
「年下に弱くもないし年下キラーでもないし妹系に弱くもないです」
「どの口が言ってんだか……」
あと、お兄ちゃん呼びの破壊力に負けた訳でもないことをここに明記しておく。
何故俺がそんな呼称で呼ばれているのかについて俺の脳内は壮絶な論考を開始していたが、どうにも心当たりが全くない。俺からの反応がないのを見て取ってか、少女は瞳に仄かな悲しみの色を宿して、
「……申し訳ありません。気を悪くされましたよね」
と言った。
その表情が俺の頭を俺史上最高速度で回転させる。
絶対に思い出せる。彼女に俺をそう呼ばせる事実が確実にあったはずだ。
何の理由もなく人を兄と呼ぶ人がいないからして。
そして最高速度の回転によって或る記憶が取り出された。
「……ああ、別れ際の……」
そうだ。三年前、別れ際に「お兄ちゃんって呼んでもいいですか……」って消え入りそうな声で言われたんだった。
そうだ。で、俺は「いいよ……君のお父さんの目が痛いけど。…………そんなに睨まないでくださいよ。え?お前の父親ではない?それは知ってますけど」と言ったんだった。
……王との会話の方が割合が高いような気がするが、それはさておき。
「気を悪くなんてしないよ。好きに呼んでくれ」
「……じゃあ、お兄ちゃんって呼ばせて頂きますね。あと……できれば、私の事は夢乃って呼んでくださいませんか」
「……うん」
「おい由理。お前特別なことは何もなかった的なことを口走ってなかったっけ?」
仁さんが小声で俺に言う。
「いやまあ……ちょっと思い出したことがあったというか」
「……後で聞くからな」
はい。
「えっと、それで……今回は王宮に泊って行かれますか?」
「……んーと、遅くても三日後には帰る予定…………」
そう言うと、少女の上目遣いが俺を射貫いた。
「だから、三日泊って行こうかな……」
「はい!是非そうしてください!」
決して上目遣いの威力に負けたわけではないことをここに明記しておく。
「……お前って、かなり年下に弱くないか」
「弱くないです」
「年下キラーの癖に」
「年下キラーでもないし年下に弱くもないです」
「……えーと、何かありました?」
「いや、何でも……」
「……殿下。とりあえずこいつ――じゃなくて、『祝福されし魔術師』殿と情報を共有してきたいと思うのですが」
「わかりました。では、会議室に案内します」
「え、いやそこまでしてもらわなくても……」
「少しくらい、お兄ちゃんの役に立ちたいんです」
「…………」
「……いやもしかしてお前、妹系に弱いのか?」
「年下に弱くもないし年下キラーでもないし妹系に弱くもないです」
「どの口が言ってんだか……」
あと、お兄ちゃん呼びの破壊力に負けた訳でもないことをここに明記しておく。
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