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第一章

第三十八話 最近の子は勉強熱心だよなぁ……

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 と言うわけで勇者との話し合いは無事終わり、正直もう聖命国に来た目的は果たしたのだが――夢乃にお願いされ、そして答えてしまった以上、三日間滞在することにする。

 ……なにしようかな。ずっと王宮に居ると気を遣わせちゃいそうだし、どこか外出せねばならんかもしれない。

「ちなみに王様は仕事が片付いたら――つまり夕食くらいから顔を見せるらしいぞ」

「…………オッケーです」

「で、どうする?姫様に話し合いが終わったことを報告しに行った方がいいかもしれないが……」

「……そうですね。報告しに行きましょうか」

 来た道を戻って広間へと赴くと、姫様は広間の端の方に備え付けてあるテーブル席について、読書に勤しんでおられた。

 邪魔をするのも忍びないとは思ったのだけれど、何しろこの広間の入り口の扉は大きいので、扉を開けただけで夢乃は俺と仁さんに気づいた。

「話し合いは上手くいきましたか?」

「ああ。殿下に心配かけるようなことは微塵もなかった」

「良かったです」

 ――人の容姿をじっと見るのは失礼だとはわかっているけど――もう一度改めてみても、本当に綺麗になったなと思う。三年前に会った時から、将来は飛び抜けて美しくなるんだろうなとは思ってたけど、三年しか経ってないのにここまで大人びてしまうとは想像も出来なかった。

「……お兄ちゃん?」

「ああ、どうした?」

「お兄ちゃんは極星国で先生をやっていると聞いたのですけど、本当ですか?」

「……まあ、ね。一応先生と言うことにはなってる」

 え、まじ、こいつが?みたいな視線で仁さんが見ている気配を感じたが、無視しておこう。

「……少し、魔法の事で質問したいことがありまして」

「……殿下。それはちょっと……」

「いや、大丈夫」

 仁さんが夢乃を窘めようとしたのは、魔法技術と言うものは国の宝――いや、国の力そのものと言ってもいいかもしれない――だからだ。非常に高い価値を持つ情報であり、おいそれと他国に漏らすわけにはいかない。

 確かにそうではあるんだけど。

「協力関係も結びましたからね。問題はありませんよ」

「……そうか。すまんな」

「いえ、全然」

 俺は仁さんに笑みを返した。

「……んじゃあ、俺はちょっと陛下に用事があるから」

 ……ん?あの親父は夕食まで仕事があるんじゃなかったっけ。

 そう思ったときには、仁さんは目にも止まらぬ速度で広間から去っていた。

 ……まあ、何か言いにくい用件なのかもしれないしな。

「えーと……それで、何が質問したいんだ?」

「ちょっとこちらに」

 夢乃に手を引かれて、さっきまで彼女が向かっていたテーブルまで移動する。

「これなんですけど……」

 彼女が眺めていたのは魔法学の教本だったらしい。

 それにしても、最近の若い子は勉強熱心なんだなぁ……ってちょっと思いました。

 夢乃が示したのは、短文詠唱についての記述だった。……ふむふむ。

 じゃあ、授業を始めようか。
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