異世界最強のセンセイ~王女の妹と令嬢達の先生になったんだが、教え子たちが可愛すぎて授業どころじゃない~

古澄典雪

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第一章

第六十話  理の外側にある感情

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 尋問タイムが一段落したと思いきや、時葉がおもむろに俺に向かって手を伸ばした。

「……時葉ちゃん?」

 彩希も困惑の声を上げる。俺もなにがなんだかよくわからないがそのまま進んでいくと――。

 時葉の手の、ひんやりとした心地よい感触が頬から脳に伝達された。

「佳那から聞いたんですけど……」

 手が少しずつ移動していく。そしてその手は優しく俺の頬を引っ張った。

「……なかなか柔らかいですね」

 おーい佳那さん?

 何て情報を伝達してしまっているんですかあなた……。

「彩希も、ほら」

「え、えーと……」

 彩希は戸惑いと躊躇をにじませたが、結局は俺の頬をにゅいっとつまんだ。

「……まあ、確かに……」

 伸縮性を確かめるのはその辺にしていただけると……。

「……ちょっと楽しくなってきました」

「そうね」

 ………まあ、二人の機嫌が直ったなら良いけどさ……。

 すまんな俺の頬。あとちょっとだけ耐えてくれ。……別に痛くはないんだけどさ。

 ○

 俺は途中から自分の頬を見限って、あくまで冷静に、この状況は一体いつまで続くのだろうかと考えていた。

 数えてみたんだが、六分三十秒は経ってるねこれ。

へーとえーと……ほろほろそろそろ

 駄目だ上手く喋れない。

 しかし何とか意思は通じたようで、二人は同時に――かつ同様に名残惜しそうに――手を離した。

「……すみません。先生にも事情があることは分かっているのですけど……」

「……いや、勝手に行動した俺が悪いよ。相談する時間があればよかったんだけどね……」

「三年前の件についても、今回の件についても、兄様は全く間違ったことはされてないですよ」

 でもちょっと、と彩希は、はにかみながら言った。

「頭ではわかってても、どうしようもない感情って……あるじゃないですか」

 時葉が小さく頷いた。

「……まあ、感情は、いつも理の外側にあるものだからな……」

 俺はそう呟く。

 ――――どうしても。

 ――――理性で縛り付けても、どうにもならない心の動きが――多分、本当の感情なんだろうね。

 ――――だったらこれは本物だよ。

 ――――こんなに訳が分からないのは――初めてだから。

 ……なんて。

 昔の事を思い出してしまった。

 苦みのような感覚と、痛みを秘めた感情を覚えながら。

 俺は記憶に封をした。

 来るべき時に――それは再び開かれるはずだと、確信しながら。
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