異世界最強のセンセイ~王女の妹と令嬢達の先生になったんだが、教え子たちが可愛すぎて授業どころじゃない~

古澄典雪

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第一章

第七十三話 展開………(i)

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 城に帰った後、自室で様々な作業をしているうちに、夕食の時間になった。

 昨夜と同じように食堂に集まって、みんなで美味しい料理を食べる。

 ……弥生さんは平常心に戻ったようで、俺にも自然に話しかけてきてくれた。良かった。……本人に訊いたら『元から取り乱してないし』って言われそうだが。

 ……本当に、良かった。

 ○

 俺が城から出ようとしていると、佳那が駆け寄ってきた。

 その表情には、何かしら悲愴な影が差しているように思われた。どうしたのだろう。何かあったのだろうか。

 そんなことを考えていると、佳那が俺の腕を掴んだ。優しく、しかし確かに掴んだ。

「……由理様、こんな時間に、どちらへ向かわれるのですか」

 ちょっとした散歩だよ。と俺は答えた。俺は自分の声が平常通りであることに驚いていた。そして安堵する。

「……思い過ごしだったらいいんです。でも――何か、大切な事を隠していらっしゃいませんか……」

 そんなことないよ。と俺は答えた。これは自分でも驚くくらいに、空虚に響いた。

「すごく嫌な予感がします。あなたが――ずっと遠くに……」

 行ってしまうような。

 大丈夫だよ。と俺は答えた。

「今だけでいいんです。城に居てください」

 どうして?ちょっと歩くだけだ。と俺は言った。

「温かい紅茶を作りますから。悠可様も、お茶を一緒に飲むのを楽しみにしています……」

 俺は頷いた。

 ああ。帰ってきたら頂こう。

 佳那の紅茶は凄く美味しいからね。と俺は言った。

「なんで……どうして、そんなに優しい声で言うんですか――哀しげな目で、見ているんですか」

 そうかな。

 いつも通りだよ。

「由理様……」

 ごめん。

 佳那。

 行かなくちゃならない。

 そんな顔をさせたくなかったんだ。

 だから黙って行こうとしたんだ。

 佳那は本当に、みんなの事をよく見ているね。

 ……君は本当に、素敵なメイドさんで。

 素敵な女の子だよ。

 君の紅茶も大好きなんだ。

 皆と一緒に居られた時間は、本当に幸せだった。

「だから、由理様……」

 また。

 帰ってこられたら。

「美味しい紅茶を、一緒に飲みたいな」

 俺は佳那の腕の中から手を引き抜いた。

 ごめんね。

 背を向ける。歩き出す。

 そして杖を振った。

 城全体を覆うように、結界を展開する。佳那の足音が聞こえた。でも。城からは出られない。

 夜が作る闇の中へと歩き出す。
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