アイドルのマネージャーなんてしませんからっ!

夕紅

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感情

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海斗のリハーサルを間近で見て、私は形容し難い衝撃を受けた。
こんな人がいるんだ、と言うよりも、こんな世界が有るんだ、と言った方が正しいのだろう。
柳生海斗と言う人間、一流のデザイナーが意匠を凝らした衣装、舞台装置、演出、演奏、海斗の歌声と声量、仕草一つ、表情一つが見る者を惹き付ける。
ただ容姿端麗なだけでは無い。
柳生海斗には天賦の才能が有る。
恋愛感情は分からないけれど、私は海斗のファンになってしまった。

海斗のリハーサルが終わった。
ステージから海斗が下りて、こちらへやってくる。
ドキドキしてしまう。
今までは戸惑いからドキドキしていたけれど、それとは明らかに違った。
胸の奥から感情がほとばしる。体が熱い。

「宝城さん」

海斗の事務所の人から、名前を呼ばれる。

「えっ、あっ、はい」

取り乱しながら返事をした。

「これ、海斗さんに渡して」

ペットボトルの飲料が渡される。
そうか、私、マネージャーだったんだ、一応。

「お、お疲れ様です」

私はオドオドと目を泳がせながら海斗にペットボトルを差し出す。

「ありがとう」

優しい声で海斗は微笑みかけて、私の差し出すペットボトルに手を伸ばした。
ペットボトルを持つ私の手と、海斗の手が触れ合い、重なる。
海斗の手の温もりが伝わる。
鼓動が高鳴る。

「どうだった?俺のステージ」

海斗は私を真っ直ぐと見詰める。
海斗の黒い瞳が眩しい。

「あの、凄く良かったです、感動しました」

裏返った声で、私はなんとか感想を述べた。
海斗の指は私の指に絡んだまま。

「そっか、よかった」

海斗の目を真っ直ぐ見れない。ドギマギする。

「海斗さーん!」

女性らしい可愛い声が海斗の名を呼ぶ。
私は咄嗟に手を引っ込めた。
マネージャーもどきの分際で何をやっているんだ、私は。
海斗の名を呼んだ女性をチラリと横目で見る。
その女性は国民的アイドルグループでセンターを務める桐島カレンだった。
桐島カレンは国民的アイドルグループ・エリア49で長らく人気投票ナンバーワンに輝く。
ようするに、国民的アイドルグループの顔である。
目はパッチリしているし、肌も白くて綺麗だ。
髪も艶が有り、スタイルも良い。
女の私でも、間近に見ると魅了されそうだ。

「さっきのステージすっごくカッコ良かったです!」

桐島カレンは私が思っていた事を躊躇う事なく言葉にした。

「ステージってか、リハーサルだけどね」

海斗はペットボトルを掴んでいた手を下ろし、気だるげに答える。

「本番かと思うくらいに迫力ありましたよ!痺れちゃいました!」

「あっそ。で、なんか用?」

「本番も頑張ってください!応援してます」

「そりゃどうも」

そうして二人が話していると、別の所から声がかかった。

「海斗くーん!さっきの演出だけどさ、少し追加したい要素が有るんだけど」

デップリと太ったプロデューサーらしき人が海斗を呼ぶ。

「なんですか」

海斗はプロデューサーの方へと歩き出す。

「海斗さんと話せて良かったです」

桐島カレンは大きな声で遠ざかる海斗にそう言った。
さすが国民的アイドル、と言ったところか。
大きな声でも、声色は澄んだままだ。


海斗がプロデューサーと話し出すと、桐島カレンは私の方を見た。
そしてニッコリと笑う。
私はギクリとした。
その笑顔は、貼り付けた仮面のように感情が見えない。
桐島カレンは私の方へ歩み寄り、すれ違いざまに

「勘違いして調子乗んなよ、ブス」

ボソリと呟いた。

何事も無かったように桐島カレンは歩き去る。
胸がえぐられるような悲しい気持ちになった。
海斗のステージを見て心に湧き出た温かい想いは、どこかに消えて無くなっていた。
胃がキリキリとして、吐き気がする。
消えて無くなりたかった。

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