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第3部 他殺か心中か
萌未の残した一文(※グロ注意)
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「ああそうや、拓也も、俺が殺した」
覚悟を決めた翔伍には、もはや嘘をつく必要はなかった。ジクジクと、足先が溶け、緑色の液に自分の身体が同化していく部分が広がっていく……その苦痛状態から、一刻も早く解放されたかった。
「何で…何でそんなに簡単に…幼馴染みを手にかけることが出来るのよ!」
夏美は感情を爆発させ、鋭い目で翔伍を睨んだ。
「俺は拓也も、そしてトラも、ずっとライバル視してきた。俺は感情の無い化け物やからな、そんな二人を殺すことなど何とも思ってない」
翔伍の身体がガクンと左に傾いた。見ると左の足の皮膚が完全に溶けて無くなり、白い骨が剥き出しになっていた。夏美に視線を戻すと、すぐ前に彼女の驚く顔があった。翔伍の身体が傾いたことに驚いて近くに寄ってきたのだろう、ゴンドラのガラスにかぶりつき、泣きそうな顔で、いや、涙をまた溢れさせながら、哀れみのこもった目で翔伍を見つめていた。夏美の罵倒を期待していた翔伍には、その顔が意外だった。
「何でトラを殺したって話やったな。俺は萌未が好きやった。だから、邪魔な拓也とトラを消した、そういうことや」
「トラも…目覚めたトラも、手にかけたの?」
「ああ、そうや。元々消すつもりやったからな、俺もトラの病室を何度か訪れて、カメラの位置なんかは予め把握してた。そして忍び込んでトラも殺した。自殺に見せかけてな」
どうして……夏美はカプセルのガラスに手を滑らせ、その場に崩折れた。翔伍の視界から夏美は消えたが、肩が上下し、また泣いているのが伺えた。すまん……翔伍は心の中で呟く。思えばずっと、夏美は幼馴染の中では潤滑剤のような存在だった。活発なトラ、天真爛漫なまひる、聡明な拓也、マイペースな加代、そして何を考えているか分からない暗い自分……そんな個性的な面々を、夏美がさり気なく気遣ってくれることでずっと繋がっていられたように思う。そんな夏美を泣かせてしまっている自分に、今更ながら懺悔の情が湧いた。
「一つ訂正させてくれ。兄貴は、自殺やった」
ふいに声がし、声の方向を見ると、夏美の後ろに竜神の面をつけた男と、黒いマスクの男が立っていた。二人は翔伍を見据えながら、それぞれに面を外す。竜神の面の下から隆二、黒いマスクの下から涼平が顔を出した。言葉を発したのは隆二だった。隆二は続ける。
「兄貴が亡くなる直前、ちょうど黒田さんが立ち去った直後、俺は兄貴が目を覚ましたとなっちゃんから聞いて、こっそり会いに病室に訪れた。そして首を吊っている兄貴を見つけ、助けた。兄貴はもう虫の息やったけど、まだ生きてた。そんで俺に言ったんや、俺は自殺した、そう通せって。兄貴は黒田さん、あんたを最後まで庇ってた。あんたは実際何人も殺し、そんでここで裁きを受けてる。けどな、兄貴だけは、あんたが殺したんやないって、俺が証言する。それが、兄貴の遺言やからな」
隆二の言葉に、翔伍は目を見開いた。
「トラの……遺言?」
「そうや。あんたはようさん人を殺してきたかもしらん。そやけど兄貴の死に関してだけは、ここで誹られる必要はない」
「そんな訳あるか!俺は、トラの暗殺を企てた……」
思わぬ弁護に声を荒げた翔伍だったが、そこでよろよろと立ち上がった夏美の頭が見える。隆二がすかさず彼女に寄り、肩を貸した。
「トラは…幼馴染としてクロを庇ったのよ。トラは、そういう人。仲間って決めたら、とことん守りぬくの……」
最後まで自分を庇った……その事実に、翔伍は顔を歪めた。溶けている体ではなく、心に痛みが走った。そんな翔伍に、夏美が憐憫の眼差しを向ける。
「クロ……ごめんなさい。私も、もっとあなたの話を聞いてあげるべきだった。クロはいつも冷静沈着で、何でも的確に相談に乗ってくれたから、甘えちゃってた。クロには……クロの想いがあったやろうに……」
そこでまた、夏美が言葉を詰まらせる。そんな夏美の姿が、滲んでくる。
「煩い!俺の弁護をするな!お前ら……は、ホンマに……お前らは……お前らは……」
翔伍の目にも涙が光っていた。そしてその涙は目から溢れ出し、頬を伝った。翔伍は大きく息を吸い、呼吸を整えると、言葉を振り絞るように話し出した。
「拓也が、最後の日に、言った。萌未だけは助けて欲しいって……拓也は気付いていた。俺のやろうとしていることを…そして拓也は、俺に謝った。今の、夏美の、ように……拓也は最期に、俺のことを気にかけて、くれた。俺はそんな…拓也の首に注射器を刺した。そして、動かなくなった拓也を、じっと見ていた……今まで感じた、ことのない、感情が溢れ出た。俺は……ずっと、拓也を妬んで、まひるを殺し、そして詩音も……俺は詩音が拓也と付き合ってるのを知って……それで………それやのに拓也は……」
ボシャン、と、翔伍は膝を折った。最初に流れ込んだ液によって、足首はすでに完全に溶けていた。
「クロ!クロぉぉ!」
夏美がガラスに縋り付く。翔伍は目を細め、懇願するように夏美を見つめた。
「夏美、俺を楽にしてくれ」
夏美は頭を振り、隆二に救いを求めるように目を向ける。が、隆二は鋭い目で一つ頷き、ボタンの前まで夏美を誘導した。後ろから太陽、真奈美、凛が見つめている。いつの間にか、六紗子と鷹八もカプセルの前に寄って来ていた。夏美はその場にいる全員の顔を見回し、それぞれが自分に強い視線を向けているのを確認すると、意を決して前を向く。
「これは、拓也の分……」
バシッと、夏美がボタンを押す。機械音が鳴り、緑色の液が翔伍の下腹ギリギリまで上がってくる。夏美は口を押さえて、隆二に抱えられながら後ろに下がる。涼平が、前に出た。
「で?君が俺に止めを刺してくれるんか?」
喉奥から突き上げてくる胃液を飲み下しながら、翔伍が涼平に向く。
「そうなるかもしれません。本来ここには萌未が立つはずですが、彼女はここには来られません。なので、俺が代わりに立っています」
翔伍はそこで顔をしかめた。太腿の肉も削げ落ち、大腿骨も露出し始めていた。クロは前のガラスに手を付いて少し前屈みになった。もう、気力だけで立っているのかもしれなかった。
「で?何で君は犯人が俺やって分かったんや?」
「萌未に教えてもらったんです」
涼平の意外な答えに、翔伍は眉を潜める。
「萌未に?」
「はい。答えは萌未の書いた文章にありました」
「アホな、俺は萌未が書いた後に読み返した。俺が犯人なんて、一言も書いてなかった」
涼平は一つ首肯し、説明を始めた。
「俺も最初読んだ時は、ああ、萌未が美伽と宮本さんを殺したのかとガックリきました。でも読み返すうちに違和感を感じたんです。その違和感は、主に最後の部分にありました。一番最後に、こう書かれてました。
『どうか、北新地に足を踏み入れてからのことでいいので、あたしとの思い出を大切に、忘れないでいて下さい』
俺の知る萌未は、自分のことを忘れないでなんて言わない。そこに違和感を感じました。そして、北新地に足を踏み入れてから、という部分に目をつけました。萌未の文章のうち、俺と萌未が出会ってからの部分を読み返し、見つけたんです。それぞれの話の書き出しの部分……
まず『起点のなる日』が『判』
『大切なものを仕舞うように』で『人』
『議員秘書を落とすミッション』で『ハ』
『普通でいることへの憧憬』で『苦』
『二つの居場所』で『ろ』
『いつか笑い合えたら』で『だ』
これを続けて読むと、ハンニンハクロダ……つまり、『犯人は黒田』ってなるんです。たぶん萌未にはそうすることがいっぱいいっぱいやったんでしょう……でも、その一文を何とか残したんです」
そこまで聞いた翔伍は絶句し、そして笑いが込み上げてきた。
「そうか……結局俺は、萌未の君への想いに負けたわけや」
声を上げて笑い、怪訝な表情で見つめる涼平に真顔を向ける。
「俺は萌未をずっと見ていた。そして、彼女を愛した。正直に言う。涼平、俺は君の存在が疎ましかった。いろんな手を使って君を邪魔したのは、俺の嫉妬心からや。俺はもう、どうしようもなく萌未のことが好きになってた。あの日、あのクリスマスイブの日、俺は萌未のことだけは助けようと思った。だから萌未に打つ睡眠薬の量を減らした。そして、拓也の手に涼平の名刺を握らせた。それは警察の目が君に向くようにしたかったからや。俺は出来島からの指示に逆らった。俺の…描いた絵は……涼平、お前を…犯人に仕立て上げる……こと……やった」
身体を支えていた翔伍の手が震えだす。夏美が涼平の横に駆け込んだ。
「もういいよ!涼平ちゃん、クロを楽にしてあげて!クロ、もういいよ。ごめんね、クロ!私、何にもクロのこと分かってなかった!もっと、クロに寄り添ってあげるべきやったのに…ごめんね……本当に、ごめん……」
夏美は涼平の上着を掴み、泣き崩れた。それを見て、翔伍の頬が緩む。
「俺は……一人じゃ、なかった。トラもな、最期に、目を開けた、時……俺に、心配かけて、すまんなって……すまんって、言ったんや……俺はそんなトラを………」
「クロ!もういいよ、もういい……」
「楽しかった……なあ、夏美、俺……すごく……楽しかったよ……幸寿……荘……での、日々………」
涼平がボタンを押す。液が翔伍に覆い被さると同時に、バシャンと、翔伍は液の中に倒れ込んだ。赤黒い血が巻き上がり、翔伍の腹から内臓がはみ出し始めた。夏美は思わず目を背けた。
「見ろ!夏美、俺の最期を、見届けてくれ。俺は………こんな……俺を、トラは…拓也は…まひるは……向こうで受け入れて、くれる、かなあ?」
夏美は何度も、首を縦に振った。その夏美の目の前で、ザブンと、翔伍は液体に埋没した。そして、ゆっくりと、溶けていった───
覚悟を決めた翔伍には、もはや嘘をつく必要はなかった。ジクジクと、足先が溶け、緑色の液に自分の身体が同化していく部分が広がっていく……その苦痛状態から、一刻も早く解放されたかった。
「何で…何でそんなに簡単に…幼馴染みを手にかけることが出来るのよ!」
夏美は感情を爆発させ、鋭い目で翔伍を睨んだ。
「俺は拓也も、そしてトラも、ずっとライバル視してきた。俺は感情の無い化け物やからな、そんな二人を殺すことなど何とも思ってない」
翔伍の身体がガクンと左に傾いた。見ると左の足の皮膚が完全に溶けて無くなり、白い骨が剥き出しになっていた。夏美に視線を戻すと、すぐ前に彼女の驚く顔があった。翔伍の身体が傾いたことに驚いて近くに寄ってきたのだろう、ゴンドラのガラスにかぶりつき、泣きそうな顔で、いや、涙をまた溢れさせながら、哀れみのこもった目で翔伍を見つめていた。夏美の罵倒を期待していた翔伍には、その顔が意外だった。
「何でトラを殺したって話やったな。俺は萌未が好きやった。だから、邪魔な拓也とトラを消した、そういうことや」
「トラも…目覚めたトラも、手にかけたの?」
「ああ、そうや。元々消すつもりやったからな、俺もトラの病室を何度か訪れて、カメラの位置なんかは予め把握してた。そして忍び込んでトラも殺した。自殺に見せかけてな」
どうして……夏美はカプセルのガラスに手を滑らせ、その場に崩折れた。翔伍の視界から夏美は消えたが、肩が上下し、また泣いているのが伺えた。すまん……翔伍は心の中で呟く。思えばずっと、夏美は幼馴染の中では潤滑剤のような存在だった。活発なトラ、天真爛漫なまひる、聡明な拓也、マイペースな加代、そして何を考えているか分からない暗い自分……そんな個性的な面々を、夏美がさり気なく気遣ってくれることでずっと繋がっていられたように思う。そんな夏美を泣かせてしまっている自分に、今更ながら懺悔の情が湧いた。
「一つ訂正させてくれ。兄貴は、自殺やった」
ふいに声がし、声の方向を見ると、夏美の後ろに竜神の面をつけた男と、黒いマスクの男が立っていた。二人は翔伍を見据えながら、それぞれに面を外す。竜神の面の下から隆二、黒いマスクの下から涼平が顔を出した。言葉を発したのは隆二だった。隆二は続ける。
「兄貴が亡くなる直前、ちょうど黒田さんが立ち去った直後、俺は兄貴が目を覚ましたとなっちゃんから聞いて、こっそり会いに病室に訪れた。そして首を吊っている兄貴を見つけ、助けた。兄貴はもう虫の息やったけど、まだ生きてた。そんで俺に言ったんや、俺は自殺した、そう通せって。兄貴は黒田さん、あんたを最後まで庇ってた。あんたは実際何人も殺し、そんでここで裁きを受けてる。けどな、兄貴だけは、あんたが殺したんやないって、俺が証言する。それが、兄貴の遺言やからな」
隆二の言葉に、翔伍は目を見開いた。
「トラの……遺言?」
「そうや。あんたはようさん人を殺してきたかもしらん。そやけど兄貴の死に関してだけは、ここで誹られる必要はない」
「そんな訳あるか!俺は、トラの暗殺を企てた……」
思わぬ弁護に声を荒げた翔伍だったが、そこでよろよろと立ち上がった夏美の頭が見える。隆二がすかさず彼女に寄り、肩を貸した。
「トラは…幼馴染としてクロを庇ったのよ。トラは、そういう人。仲間って決めたら、とことん守りぬくの……」
最後まで自分を庇った……その事実に、翔伍は顔を歪めた。溶けている体ではなく、心に痛みが走った。そんな翔伍に、夏美が憐憫の眼差しを向ける。
「クロ……ごめんなさい。私も、もっとあなたの話を聞いてあげるべきだった。クロはいつも冷静沈着で、何でも的確に相談に乗ってくれたから、甘えちゃってた。クロには……クロの想いがあったやろうに……」
そこでまた、夏美が言葉を詰まらせる。そんな夏美の姿が、滲んでくる。
「煩い!俺の弁護をするな!お前ら……は、ホンマに……お前らは……お前らは……」
翔伍の目にも涙が光っていた。そしてその涙は目から溢れ出し、頬を伝った。翔伍は大きく息を吸い、呼吸を整えると、言葉を振り絞るように話し出した。
「拓也が、最後の日に、言った。萌未だけは助けて欲しいって……拓也は気付いていた。俺のやろうとしていることを…そして拓也は、俺に謝った。今の、夏美の、ように……拓也は最期に、俺のことを気にかけて、くれた。俺はそんな…拓也の首に注射器を刺した。そして、動かなくなった拓也を、じっと見ていた……今まで感じた、ことのない、感情が溢れ出た。俺は……ずっと、拓也を妬んで、まひるを殺し、そして詩音も……俺は詩音が拓也と付き合ってるのを知って……それで………それやのに拓也は……」
ボシャン、と、翔伍は膝を折った。最初に流れ込んだ液によって、足首はすでに完全に溶けていた。
「クロ!クロぉぉ!」
夏美がガラスに縋り付く。翔伍は目を細め、懇願するように夏美を見つめた。
「夏美、俺を楽にしてくれ」
夏美は頭を振り、隆二に救いを求めるように目を向ける。が、隆二は鋭い目で一つ頷き、ボタンの前まで夏美を誘導した。後ろから太陽、真奈美、凛が見つめている。いつの間にか、六紗子と鷹八もカプセルの前に寄って来ていた。夏美はその場にいる全員の顔を見回し、それぞれが自分に強い視線を向けているのを確認すると、意を決して前を向く。
「これは、拓也の分……」
バシッと、夏美がボタンを押す。機械音が鳴り、緑色の液が翔伍の下腹ギリギリまで上がってくる。夏美は口を押さえて、隆二に抱えられながら後ろに下がる。涼平が、前に出た。
「で?君が俺に止めを刺してくれるんか?」
喉奥から突き上げてくる胃液を飲み下しながら、翔伍が涼平に向く。
「そうなるかもしれません。本来ここには萌未が立つはずですが、彼女はここには来られません。なので、俺が代わりに立っています」
翔伍はそこで顔をしかめた。太腿の肉も削げ落ち、大腿骨も露出し始めていた。クロは前のガラスに手を付いて少し前屈みになった。もう、気力だけで立っているのかもしれなかった。
「で?何で君は犯人が俺やって分かったんや?」
「萌未に教えてもらったんです」
涼平の意外な答えに、翔伍は眉を潜める。
「萌未に?」
「はい。答えは萌未の書いた文章にありました」
「アホな、俺は萌未が書いた後に読み返した。俺が犯人なんて、一言も書いてなかった」
涼平は一つ首肯し、説明を始めた。
「俺も最初読んだ時は、ああ、萌未が美伽と宮本さんを殺したのかとガックリきました。でも読み返すうちに違和感を感じたんです。その違和感は、主に最後の部分にありました。一番最後に、こう書かれてました。
『どうか、北新地に足を踏み入れてからのことでいいので、あたしとの思い出を大切に、忘れないでいて下さい』
俺の知る萌未は、自分のことを忘れないでなんて言わない。そこに違和感を感じました。そして、北新地に足を踏み入れてから、という部分に目をつけました。萌未の文章のうち、俺と萌未が出会ってからの部分を読み返し、見つけたんです。それぞれの話の書き出しの部分……
まず『起点のなる日』が『判』
『大切なものを仕舞うように』で『人』
『議員秘書を落とすミッション』で『ハ』
『普通でいることへの憧憬』で『苦』
『二つの居場所』で『ろ』
『いつか笑い合えたら』で『だ』
これを続けて読むと、ハンニンハクロダ……つまり、『犯人は黒田』ってなるんです。たぶん萌未にはそうすることがいっぱいいっぱいやったんでしょう……でも、その一文を何とか残したんです」
そこまで聞いた翔伍は絶句し、そして笑いが込み上げてきた。
「そうか……結局俺は、萌未の君への想いに負けたわけや」
声を上げて笑い、怪訝な表情で見つめる涼平に真顔を向ける。
「俺は萌未をずっと見ていた。そして、彼女を愛した。正直に言う。涼平、俺は君の存在が疎ましかった。いろんな手を使って君を邪魔したのは、俺の嫉妬心からや。俺はもう、どうしようもなく萌未のことが好きになってた。あの日、あのクリスマスイブの日、俺は萌未のことだけは助けようと思った。だから萌未に打つ睡眠薬の量を減らした。そして、拓也の手に涼平の名刺を握らせた。それは警察の目が君に向くようにしたかったからや。俺は出来島からの指示に逆らった。俺の…描いた絵は……涼平、お前を…犯人に仕立て上げる……こと……やった」
身体を支えていた翔伍の手が震えだす。夏美が涼平の横に駆け込んだ。
「もういいよ!涼平ちゃん、クロを楽にしてあげて!クロ、もういいよ。ごめんね、クロ!私、何にもクロのこと分かってなかった!もっと、クロに寄り添ってあげるべきやったのに…ごめんね……本当に、ごめん……」
夏美は涼平の上着を掴み、泣き崩れた。それを見て、翔伍の頬が緩む。
「俺は……一人じゃ、なかった。トラもな、最期に、目を開けた、時……俺に、心配かけて、すまんなって……すまんって、言ったんや……俺はそんなトラを………」
「クロ!もういいよ、もういい……」
「楽しかった……なあ、夏美、俺……すごく……楽しかったよ……幸寿……荘……での、日々………」
涼平がボタンを押す。液が翔伍に覆い被さると同時に、バシャンと、翔伍は液の中に倒れ込んだ。赤黒い血が巻き上がり、翔伍の腹から内臓がはみ出し始めた。夏美は思わず目を背けた。
「見ろ!夏美、俺の最期を、見届けてくれ。俺は………こんな……俺を、トラは…拓也は…まひるは……向こうで受け入れて、くれる、かなあ?」
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それでは「よろひこー」!
(⋈◍>◡<◍)。✧💖
追伸
まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。
(。-人-。)
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