魔王の使徒『六従衆』〜勇者の手によって殺された騎士は魔王の使徒となる〜

闘魂の矢

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第1話 最悪の勇者

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 魔の大陸と呼ばれる、かつて一人の魔王が支配した地が存在していた。

 遥か昔、そこは魔王の居ない自然豊かで優しい魔力に包まれた平和な大陸だった。
 しかし、賢者と呼ばれた少女の『選択』によって絶望した青年は魔王に生まれ変わり、ありとあらゆる生命を蹂躙させながら変異を起こすとされる『黒魔力』を大陸中にまき散らしていた。

 そんな魔王を打倒するため、賢者と呼ばれた少女は勇者となる器の者を生みだした。

 勇者は非常に強大な力を持ち合わせ、全ての元素と系統を駆使する事が可能であり、魔力の源である生命体の加護を最大に付与された無敗の聖剣『ナーハフォルガー』を装備していたため敗北などあり得なかった。

 運命は近づき、数年の攻防の末に魔王に支配されて枯れてしまった大陸は『魔の大陸』として改名された。
 勇者は討伐軍と共に黒魔力が充満する大陸へと足を踏み入れ、かつて大賢者が住処としていた城へと侵入し魔王の配下と対峙する。

 敵の圧倒的な力で大半の仲間を失いながらも、数人もいた配下を何とか撃退することに成功することが出来た討伐軍。
 しかし、そう素早く戦局を立て直すことができない状況に討伐軍は混乱してしまう。

 勇者も体力を大幅に消耗させた為、魔王との戦闘は難関なものになってしまった。
 だが勇者は決して弱音を吐いたりしない。
 彼にとって魔王とは討つべき復讐の対象であり、そこで諦めれば殺されてしまった者達が報われないと頰を叩いた。

 勇者はかつて、愛していた者が眼前で殺されてしてしまった光景を目の当たりにしたことがある。
 復讐の業、それが彼を突き動かす糧となっていた。

 与えられた使命、役割、存在意義、たとえ他人のエゴに振り回されたとしても魔王を倒せれば勇者はそれだけで良かった。

 そう決意しながら勇者は魔王の待つ広間への扉を、そっと開けるのだった。





 激闘の末、魔王の奥義『乖離の槍』を受けた勇者は聖剣の付与された能力を封印され為す術をなくしてしまう。
 結果、血みどろに等しい抵抗など報われることなく勇者は魔王に重傷を負わせながらも殺されてしまった。

 そうやって勇者は敗北し、魔王が世の中の歴史に名を残してしまう最悪の事態が訪れたのだった。





 しかし、魔王は勇者に負わされた重傷に寿命の大半を削られてしまい死期がすぐ迫っていた。
 魔の大陸を治める者が居なくなる。
 その報告を受けた魔王の使徒七人の中の四人が、その身体を差し出した。

 魔王は粒子に近い自身の因子を四人の身体に埋め込み、さらに魔の大陸に残った唯一の息子となった『サンダルフォン』を器として任命した。

 そうやって魔王は消滅し、四人の使徒の身体で永久に生き永らえるのだった。



 この物語、真実を知る者は世の中でほんの僅かにしかいない。
 魔の大陸、東方に位置する人族の大陸『アズベル』は次第に起きた歴史を忘れていったのだ。

 魔王は消え、勇者を失い、二つもの種族の争いが極稀にしか勃発しなくなっていた。
 そんな平和ボケした時代に、俺は望まず生まれてきてしまった。


 王国の騎士家系、貴族という立派な立場を与えられ不自由もなく生きる事を優雅に満喫していた日常。
 傲慢な両親を愛してはいなかったが、反抗する理由が何一つもなかった。

 しかし、父が王国の『茨城の騎士団』団長という理由で自身の意思さえ尊重される事なく俺は士官学校へと通わされ、訓練を受け、意味のない座学をやらされ、騎士団の一員となった。

 父はそんな俺を当然のような目で見つめ、気にかけようともしない。
 母も同様、騎士になれと命令しながらも会話をロクにしてくれなかった。

 妹と弟はいたって自由であり、将来は自ら決めるらしい。
 それを羨ましく思う自分がいたが、一度成り上がった立場から逃れることは出来ない。

 全部、仕方のない運命に等しいものだった。

 ーー現在、勇者の称号を与えられた者とその仲間達と出会うまでは。





「ぐっ!」

 突然、騎士団本部の訓練所で勇者に俺は頰を殴られてしまった。
 理由も告げず、頰に到達した拳が鈍い音をたてる。

 訓練所へと召集された騎士達は唖然としながら、いま起きた光景を目の当たりにしながら固まる。

「せっかく来てやったのによぉ……んだよテメェのそのやる気のないツラは!  そこは普通、頭を垂れながら犬のように靴を舐めるだろ、なぁ?」

 道理の通らない理由を口にしながら勇者は他に膝をつける俺を見下して、当然のように嘲笑った。
 いま自分の行動が正当かのような口ぶりに怒りが湧いてしまう。

 だが、そんな事は到底許されない。
 奴には勇者の特権というものがあり、王家に近い権利を持ち合わせている。
 もしここで反抗的な態度、行為を行ったりしたら間違いなく無事では済まされないだろう。

 ならばここは、謝罪という一択しかない。

「申し訳ございません勇者殿。自分の行動がまさか、貴殿を不快にさせてしまうなど思ってもいませんでした。貴殿の寛大な懐に免じて、どうか慈悲をください」
「ふん、分かっているじゃねぇか。俺は優しいからよ、ここんとこで勘弁してやるよ」

 唾を吐き、気味の悪い笑みを浮かべながら勇者は背を向けた。

「時期に行われる魔王討伐の為、楽しんでいた旅を中断してきたんだ。それ相応の戦力なんだろうなって、期待して訓練所まで来たがなんなんだよテメェら」

 唖然と立ち尽くす騎士の集団を見渡しながら、呆れたように勇者は指をつきつけた。
 その先には、赤い鎧を全身に纏った俺の父『茨城の騎士団』団長アイガスが平然とした様子で立っていた。

 まるで全てを見通し、冷酷に憐れむ瞳を当てられる。
 頰に伝わる血を拭い、睨み返しながら俺はなんとか立ち上がった。

「我の部下が愚かにも失礼な真似を働いてしまったこと、心から謝罪いたします。しかし、その前に今回の討伐作戦の詳細を説明する会議がもうそろそろ行われます。話しは後々……」
「へーい、分かってる分かってる。さっさと行けばいいんだろ?  だったら案内してくれ、此処に来たのも久々だし会場が分かんねぇ」

 知性がいかに低いかが伺える口調で騎士団長に命令すると、奴も頭が上がらないのか感情を抑えながら大人しく勇者一行を案内した。

「勇者ルーク様、刀剣士ユキハラ様、神官エリス様、大賢者アルフォンス様。どうぞ、こちらへ」

 ペコペコとしながら、騎士団長は勇者とその仲間である三人を本部へと招く。
 二人の女性はウットリした表情で勇者に着いていったが、その中一人が心配そうに振り向いてきた。

 黒髪、青い瞳の爽やかそうな青年。
 賢者と呼ばれながらも杖、武器の一つもない丸腰状態の彼に一瞬だけ困惑してしまったが、勇者がアレなら今さら不思議がる必要はないだろう。

「おい、アルフォンスぅ!  荷物重ぇから持ってくれー」

 荒々しい態度で勇者に呼ばれ、慌てた様子で青年は走り去っていってしまった。

 あんな気の狂ったパーティにも、あんな奴が居るんだなと珍しがりながら頰を抑える。

「大丈夫、ユーリくん?」

 流れてきた血に布が当てられた。
 横を見てみると、見慣れた可憐な少女の姿があった。

 心配そうに見上げながら小さな身長を必死に伸ばして、血を拭いてくれている。

「……ああ」
「やっぱり噂通りの人柄だったね、あの勇者様。傍若無人な態度に捻くれた性格、気に入らないわ!」

 頰を膨らませ、腕を組みながら少女は怒っていた。その姿に似合わず、騎士の服装を身につけている。
 相変わらずだが、彼女が俺と同じ騎士だという実感がない。

「おーい、リーシア」

 彼女の名前を呼びながら近づいてくる男がいた。
 流石は騎士随一のモテる少女と言うべきか、男が四六時中ずっとリーシアに声をかけている。
 まあ、どうでもいいが。

「むっ……貴様、親の七光りユーリではないか」

 急にやってきて随分とボロクソな言葉ではないか、よし戦争だ。
 心の中でそう思いながら、どうって事ない表情で返事をする。

「……やあ」
「ふん、貴様を見ていると不愉快になってしまう。あの勇者殿が貴様に拳を叩きつけた理由が何となく分かるよ」
「こらギース君!  会ってそうそう同期に失礼だよ!」

 そんな彼を一喝するリーシア。
 兎のように怯みながら黙ってしまうギース。

 いつも通りの他愛ない光景に、周囲の騎士達から笑いが起こる。
 賑やかで穏やかな日常、苦に思いながら騎士になれたのもコイツらのおかげだと言っても過言ではないだろう。

 信頼もしている、彼らを頼りにしている。
 何があろうと仲間となら切り抜けられる、なにより俺はリーシアが好きだ。

 もし魔王討伐戦が終われば、告白しよう。



 ーー大丈夫、すべて上手くいくさ。

 目的と決意を胸に秘めながら、リーシアを見つめてそう思うのであった。
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