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1章 勇者はかつて
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念願の冒険者育成学校へ入学するために移動している最中、たまたま馬車が魔物に襲われているところに出くわした。
当時しがない傭兵だったアインでも倒せるレベルであったことが幸いし、死者を出すことなく馬車を救出。
その馬車の中にいた一人が、目の前にいる少年──ビリーだ。
貴族の一人息子だという彼は、自分を助けてくれたアインに懐いたらしい。
冒険者育成学校に所属していることを知り、こうして度々敷地内に侵入しては会いに来るのだ。
最初の内は見つけ次第教師に突き出していたのだが、二、三度目に『仲良くしてさしあげて』という言葉と共に返却された。
どうやら学校の運営資金を、ビリーの親が一部寄付しているらしい。
世の中結局金か、とアインは大層やさぐれた気分になったものだ。
「お前は悩みがなさそうでいいよな」
呟きつつも、いまだ型を止めない木刀を振るいながらビリーの薄い身体をそっと後ろへ下がらせる。
身に纏うシャツは手触りからして上等なものだ。
頭を揺らすたびに石鹸のいい香りがして、毎日身だしなみを整えていることは嫌でもわかる。
道具の調達に苦労したことなど一度もないのだろう、と、かつて頭皮の脂でべたべたになった己の髪を思い出してアインはうんざりとため息をついた。
「失礼な。いつも能天気に木の枝をブンブン振ってるアインさんよりはありますよ」
「お前のほうが失礼だし、これはちゃんとした練習方法なんだよ! ほんとに俺に懐いてんのか!?」
子供特有の取り繕わない言葉が、先ほどできたばかりの心の傷に突き刺さる。
叫んだアインの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「でも、他の人達がそんなことしてるの、見たことないですよ?」
教本通りの型が、乱れた。
かひゅ、と喉から空気が抜けていく。
言い返すだけの言葉はアインの中に存在しない。
なぜなら全て事実だからだ。
当時しがない傭兵だったアインでも倒せるレベルであったことが幸いし、死者を出すことなく馬車を救出。
その馬車の中にいた一人が、目の前にいる少年──ビリーだ。
貴族の一人息子だという彼は、自分を助けてくれたアインに懐いたらしい。
冒険者育成学校に所属していることを知り、こうして度々敷地内に侵入しては会いに来るのだ。
最初の内は見つけ次第教師に突き出していたのだが、二、三度目に『仲良くしてさしあげて』という言葉と共に返却された。
どうやら学校の運営資金を、ビリーの親が一部寄付しているらしい。
世の中結局金か、とアインは大層やさぐれた気分になったものだ。
「お前は悩みがなさそうでいいよな」
呟きつつも、いまだ型を止めない木刀を振るいながらビリーの薄い身体をそっと後ろへ下がらせる。
身に纏うシャツは手触りからして上等なものだ。
頭を揺らすたびに石鹸のいい香りがして、毎日身だしなみを整えていることは嫌でもわかる。
道具の調達に苦労したことなど一度もないのだろう、と、かつて頭皮の脂でべたべたになった己の髪を思い出してアインはうんざりとため息をついた。
「失礼な。いつも能天気に木の枝をブンブン振ってるアインさんよりはありますよ」
「お前のほうが失礼だし、これはちゃんとした練習方法なんだよ! ほんとに俺に懐いてんのか!?」
子供特有の取り繕わない言葉が、先ほどできたばかりの心の傷に突き刺さる。
叫んだアインの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「でも、他の人達がそんなことしてるの、見たことないですよ?」
教本通りの型が、乱れた。
かひゅ、と喉から空気が抜けていく。
言い返すだけの言葉はアインの中に存在しない。
なぜなら全て事実だからだ。
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