誰が勇者と認めるかっ!

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神のプロローグ 虚誕・ゴーイングマイウェイ

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ピリリリリリ。ピッ。

「兄貴ってさ、優柔不断だよね」
『……出張中の兄に対する第一声がそれか』

電話の相手は不快感よりも呆れを滲ませていた。
妹の突拍子もないセリフはもはや日常であるらしい。

「いやね、兄貴が今作ってる奴をちょっと覗いてやろうと思ってさ、見てみたんだけど……
なにこのボツネタの量。
ダークヒーローはいるわ、和風ものはあるわ、SFはあるわ。
これだけで一つの歴史ができそうよ?」
『製作途中にはお蔵入りという名の犠牲が出るものなんだよ!』

声の音量が上がった。
どうやら気にしていたらしい。

『全く、なんだって急に俺の趣味に首突っ込んでくるんだ。
まさかお前、遊び半分でいじくりまわそうなんて魂胆じゃないだろうな?』
「あははは、心配性だなぁ。
そうじゃなくて、ボツネタの中にね、『電脳天使』っているじゃない。
あれ、ナビゲーターとしてリサイクルしない? 
誰かが説明してくれた方がやりやすいでしょ。
ナビゲーターだから世界全体を把握してて、情報収集も楽ちん。
アイテムも預かってくれて、好きなときに電脳空間から取り出せるの! 
どう、採用してみない?」
『ナビゲーターと情報収集のくだりは分かったが、アイテムの預かりは無関係じゃないか』
「お助けキャラなんだから、ついでよついで。
武器を変えたい時に、いちいち武器屋や倉庫やらを往復させる気? 
面倒くさいじゃない!」

畳み掛けるように反論したところで、相手は納得したようであった。
ふむ、と思案げにうなる電話の向こうでは自分の頭を引っ掻く兄の姿がある事だろう。
みっともないから直せと口を酸っぱくして言っているにも関わらず、頭皮を傷つける悪癖は相変わらずだ。

いつか禿げろ。

『いいアイデアだとは思うが……少々世界観に不釣り合いじゃないか?』
「ああ、まあ、剣と魔法のファンタジーにはね。
あんだけ道を模索しといて結局王道に落ち着いちゃうってどうなの」
『どう寄り道しようが、俺はこいつを完璧にしたいんだよ!』

王道はそのための第一歩なんだ、ほっといてくれ! と叫ぶ電話口からは、物を漁る音や衣擦れのBGMが派手になってきた。
相手の声も段々と切羽詰まった物へと変化していく。

『とにかく、ありがたいアドバイスだが電脳天使は保留だ。
俺が帰ってくるまで勝手に動かさないでくれよ!』

同意は求められず、懇願に近い命令を最後に兄の声は一方的に切れた。
発信音を放つ電話口に向かって高いトーンではーい、とだけ返しておいた。
返事だけはいい子ちゃんだとよく言われる由縁だ。

さて、と妹は椅子に付いているキャスターを利用して体の向きを変えた。
適当に放り投げた携帯は運良くベッドに落下。
無造作に重ねられた雑誌の上でバサリと音をたてる。

兄は心配性だ。
さして間を空けずに産まれた妹がおてんばの許容限界を超えたトラブルメーカーであった事も原因の一つだろうが、その心配は結構な確率で当たる。

まさに先程の電話で懸念した彼の勘繰りは、ピタリと的中していたのである。

「いいアイデア出せばいじっていい許可貰えると思ったんだけどなー……甘かったか」

妹が座っている椅子は、いつもは兄が使用している物。
そこから見下ろす光景を兄貴はよく見ているのかと、現実逃避で感慨深くなったりならなかったり。

暇潰しに兄の部屋へ遊びに来たのが三十分前で、本棚もベッドの下も漁り尽くしたのが十分前の事。
自分はまだ買ってもらえない高価な物に興味本意で手をつけたのが運の尽き、よもや短時間の内にここまで大きく変わってしまおうとは――己のトラブルメーカーぶりにはもはや感心するばかりである。

要は本人が気づかない内に電話で事後承諾を得ようとしただけだ。
悪いか。

ビフォアー、自分が見た時は確かにフォルダとかいうやつが二つあったはずだ。
製作途中の物とボツネタ用の物の、二つ。
それがアフター、今は一つしかない。
ミキサーをかけたように二つの中身はいっしょくたになって、一つのフォルダに入っていた。

あいにくビフォアーの状態に戻すことは不可能、というかそれができたら悩みはしていない。
フォルダとやらの中身も綺麗好きな兄が制作したとは思えない散らかりよう、ボツネタと製作途中のものがどれかすらも分からない具合だ。
短時間であれだけ見やすかった物をここまでぐちゃぐちゃにできた功績を考えると、自分にこういう類いを製作する技術はなさそうだと妹は判断した。
ついでに片付けの才能も。

「……よし、諦めよう」

深い思索の後、妹は放置を決め込むことにした。
これ以上悪化するよりマシだ。

自分が訪問した跡をうわべだけでも整えて、兄の部屋を後にする。

ドアを閉める直前、兄が言った事を思い出した。

『俺はこいつを完璧にしたいんだよ!』

悩みも思案も寄り道も、全て混ざった一つのフォルダ。

「全部受け入れてこそ、完璧と言えるのではないだろうか……なんて」

かっこよさげに仕立てたいたずら娘の言い訳は、自分がたてた封鎖音にかき消された。



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