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勇者のプロローグ 発端・ウェイティングエキセントリック
しおりを挟むSchool of Bravers in hope of Country development (国の発展を願う勇気ある者達の学校)
――通称B&Cスクールといえば、その手の世界で知らない者はいない程の冒険者育成機関である。
そこで育った者は冒険者になるための全面的な支援を保障され、いまや世界で活躍している冒険者の半数はB&Cスクールの出身者と言っても過言ではない。
「残念だけど……君の志望は全て却下されたよ」
艶のあるピンクブラウンの髪を腰まで伸ばし、黒いスーツに白いフリル付きのローブを羽織る少女がそう言ったのは、そんなB&Cスクール、コーコ国支部の執務室の中での事だった。
「え」
執務室にしては豪勢な造りの部屋で、繊細な彫りの入ったデスクにちょこんと収まる少女を前に、少年は反射的に声を漏らす。
大きく見開かれた眼は、心なしかどこか濁って見えた。
「却下……っていうと」
「言葉通りの意味。
二年からの実習で行われる実戦・冒険プログラムにおいて、特に成績優秀な者数名が選ばれる一軍チームAからEまで、君は協議の結果選ばれなかった」
勇者・戦士・格闘家・魔法使い・僧侶・盗賊・商人。
それぞれの専門学科から選出されて作られる実習チームメンバーは、今後の授業においてより重要な間柄となる。
特に優秀な冒険者達が集う一軍は、少年がなんとしても入りたいと思っていた五チームだった。
そして今日がチームメンバーの発表の日。
二軍以下のチームは張り出しでの発表だったにも関わらず、自分はわざわざ執務室まで呼び出しを受けた。
少なからず期待をする少年のどこを責められようか。
ゆっくりと時間をかけて、明るいオレンジの頭に情報が伝わっていく。
息を吸いこもうとして喉が変な音を立てた。
「そ、んな。
まさか、どうして!」
次に彼の眼に浮かんだのは、事実を拒む感情だった。
疑問の語尾は跳ね上がり、高そうな机である事も失念して、ワックスのかかった木目に両手を叩きつける。
「たくさん勉強もした、テストにだって自信はある。
実習だってミスはなかった!
僕のどこがいけなかったんですか!」
「確かにね。
君の知識、実技共に問題はなかった。
充分一軍に入れるレベル、いや、むしろ一、二を争うトップクラスといっても申し分ない」
「ならどうして!」
苛立ちによる攻撃にも我関せずといった態度を保ち続けていた少女の手が止まる。
規則的にめくられていた書類はある位置で少女に情報を提示し、それを読み取った瞼はゆっくりと開かれ、現れた瞳が剣呑な光を帯びた。
「君には酷な真実かもね。
だけど、受け入れないとは言わせないよ。
都合のいい夢だけ見たいお子様はうちにはいらない」
B&Cスクールの生徒会長、ソマイ。
達人級の技能を持ち、卒業後は王宮に就職も決まっている生徒の頂点は、学校内ではいささか不似合いの威圧感をもってして冒険者見習いを黙らせた。
豪華な装飾の入った本や楯が並ぶ棚は絶壁、毛並みの揃ったカーペットは足をとられる沼地。
悠然と構える敵が立つそこは、既に戦場だった。
少年の額に冷や汗が伝う。
机を間に挟み、書類を持って座っているにも関わらず、生徒会長は数十センチの距離を一瞬で詰めることができる。
そしてそれを確認した時、既に自分は死んでいる。
彼はそれを感じ取っていた。
格の違いをまざまざと見せつけた後、生徒会長は軽く息を吐いて一枚の書類を取りだした。
「理由、だったね。君が一軍に選ばれなかった理由。
聞きたいかい?」
「はい」
真実を受け入れられずに動揺、そして先ほどの衝撃を経て少しばかり落ち着いた少年が肯く。
そこに迷いがないことを読み取って、生徒会長は視線を書類へと落とした。
「あえてオブラートなしで、ここ最近生徒会に来た意見を言うね。
まず一つ目、魔法使い科のA子ちゃん(仮名)。
『最近戦闘訓練の演習で一緒になったスタームって奴の事なんですけどぉ……あいつまじキモい!
あたしを見た瞬間に『何故とんがり帽子をかぶらないんですか!』って詰め寄ってきて、それから魔術繰り出す度に『リトルファイアGJ!』とか叫ぶし、最後には『あなたにはこの帽子が似合うと思います』ってトンガリ帽子のカタログさしだしてきたし!
まぁすすめてきた帽子は魔力効果アップだけど安かったし、あたしにちょっと似合ってたかもだけど……
ああでもやっぱムリ、目も合わせたくない』」
「はう!」
「次、戦士科のB男くん(仮名)。
『や、正直勇者としてはすごいと思いますよ? 指示の出し方も的確だし、なにより仲間の能力とモンスターの詳細を完全に把握しているのはほんとに脱帽です。
事実、演習では前衛一人だった俺が無傷で生還できた訳ですし。
ただ……うん、本当、戦闘中に俺を見て『うほっ、いい戦士』って真顔で興奮気味に呟くのだけは止めてもらえませんか。
ちょっと、あの時のサブいぼが今も治まらないんです……』」
「うぐふ!」
「とどめ、僧侶科のC美さん(仮名)。
『ごめんなさい、戦闘中に効率のいい回復のコツを教えてもらった方にこんな事を言うのもあれなんですけれど……
私が回復術を使っている間中、ビデオカメラを回しているのはどうしてなんですか?
それでその日は少し短めの靴下にロングスカートだったんですけど、戦闘で少しめくれる度に『生足キタァァァァァァ!』って……あ、あの人冒険者よりむしろモンスターに近いんじゃないですか?
私が戦士だったらモンスターと一緒に消滅させてやりたいです!』」
「ふぶろどだはっ!」
生徒会長の声真似は上手かった。
ゆえに余計攻撃力は高かった。
血反吐を吐きそうな程にダメージを受け、床に倒れ伏した少年を特に構うことなく、生徒会長はやれやれと肩をすくめた。
地に伏すモンスター予備軍に憐みを感じたか、鋭く光っていた眼は既に糸のように閉じられている。
「知識もある。
勇者としてパーティを導く才能も確かにあるし、体術の面も農民の出ながらよくやっている方だろう。
能力面では問題ないんだ、能力面だけなら」
「だ……だって……憧れの僧侶、しかもロングスカートでキュアブラッド教、性格も清楚で控えめ!
これが萌えずにいられますか、いいやいられない! (反語)」
「その清楚で控えめな当人は君のこと消滅させてやりたいと言ってたけどね」
反省の色皆無な少年が熱弁をふるうも、生徒会長が机の裏から取り出してきた書類の山によってそれは掻きけされた。
乗せられた書類は結構な重さを予想させる音をたて、重厚な机がわずかに振動する。
「これ全部、君が入学してから今まで生徒会に寄せられた『スターム=レリリオットをなんとかしてくれ』って苦情」
「ぜっ! 全部ですか?」
「君は冒険者を好きすぎるんだよ、色んな意味で」
入学志望理由は『冒険者が好きだから。大好きだから!』
二度押しする必要はあるのか少し首を傾げたが、理由としてはメジャーだ。
その時の彼女はさして気にも留めず履歴書を置いた。
今思えばあの時気付いていれば良かったかと後悔するが、時は戻るはずもなく生徒会長はため息をついた。
勇者科二年、スターム=レリリオット。
彼は世間一般的に言う、冒険者オタクという奴であった。
「いいえ、会長は冒険者の奥深さというやつを分かっていません!
彼女、ああいやもちろん男女差別をするつもりはありませんよ別に彼でもいいんですけど、冒険者の職は性別によって装備や能力面、なにより魅力が全く違います!
本当なら双方ともに一晩ずつ、特に僧侶という職について語りたいところなんですが今ここで語るには時間がなさすぎるのであえて彼女ということにさせていただきます、それでですね」
「今その話題は必要ない、黙りなさい」
彼の入学時とチーム選抜のテスト時に少しだけ姿を見ただけだが、数分話しただけで生徒会長は苦情を申し出た生徒に同情を禁じ得なかった。
なるほど、これはうざい。
若干殺気を放つ糸目に黙りはしたものの、まだ不満そうなスタームに手ごわい、と生徒会長は心でうなる。
「とにかく、君が一軍チームA~Eに選ばれなかった理由は分かったね?」
「はい。だけど、あれ? では何故僕は執務室に呼び出されたんですか?」
ようやく話が序盤に戻る。そもそも掲示板で事実が確認されていれば、スタームとて余計な期待をせずに済んだのだ。
「一言で説明するとこうなる。君は選ばれなかったけれど選ばれたんだ」
「はあ?」
真意の見えない台詞に眉をしかめれば、細い双眸は秘密を明かすいたずらっ子のように弧を描いた。
「今年は特に実力者が豊富でね。
たった五チームの枠から外すには惜しい人材がいるんだ。
そこで、B&Cスクールは実験的にもう一つ、一軍のチームを発足させることに決定した」
一度裏切られたばかりの経験がそれを押さえつけようとする。
が、まさか、と上辺だけの否定を呟く口の端は防ぎきれない期待で不自然に持ちあがっていた。
「チーム『F』の勇者枠に、君が選ばれたということだよ、スターム=レリリオット」
今度こそ押さえつける必要のなくなった期待で、生徒会長の目の前であることも忘れてスタームの眼は星の輝きを見せた。
重厚な雰囲気の漂う執務室で、場違いな歓声があがる。
「本当に、本当ですか! 僕、一軍に入れるんですね!」
「さっきも言ったけれど、君は実力だけならトップクラスだ。
コミュニケーション能力の問題も実戦で矯正していけばいいという結論に達した」
少年らしい満面の笑みを浮かべて喜びを表現するスタームに、おめでとうと祝いの言葉をかける。
ただ、それ以外にも言っておかねばならない事項が数点あることを、生徒会長は理解していた。
「チームFは試験的に発足されたチームだ。
扱いとしては一軍のそれと同じだが、学校側の事情で突然解体することもありえる。
そこら辺の可能性は君たちの活躍次第で左右されるだろうが、ね。
重々理解しておくように」
「はい!」
「それと……」
君の突発的な萌語りは好き嫌いが分かれるからなるべく抑えるように。
冒険者候補の頂点である自分にすら臆することなく語り始めた事実を思い出し、生徒会長はこの注意点を無駄であると切り捨てた。
「えー……」
どんな人がチームメイトでも仲良くするように。
色んな意味で。
生徒会長はこの注意点も切り捨てた。
スタームの冒険者好きによるコミュニケーションの問題もそうだったが、それ以外の問題を言ったところで、彼がどうにかできるとも思わなかったからだ。
「うん……」
とにかく強く生きて欲しい。
いや、いきなり言われても意味が分からないだろう。
もう注意でもなんでもないし。
説明したいが説明できないもどかしさに、生徒会長は悩んでいた。
「…………怪我とかしないように、気をつけて」
「え? は、はい、もちろんです」
急に抽象的になった注意に戸惑いながらも、スタームは肯いた。
スクールに入学した際に耳にタコができるほど言われた鉄則だ。
とにかく希望は叶えられた。これから頑張ろう!
めいっぱい夢と未来に満ち溢れた眼は何を決心しているか丸分かりで。
ありがとうございました、と下げられたオレンジの頭が重厚な作りの扉に隠れて見えなくなった頃、生徒会長はため込んでいたもどかしさや疲れを二酸化炭素に乗せて吐きだした。
「問題を詰め込めるだけ詰め込んで……ごみ箱でも作る気か、教官達は」
B&Cスクールと銘打ってはいるが、その管理元は魔法使いなら魔法研究所、僧侶なら回復術協会と専門科ごとに全く異なる。
一歩間違えれば内乱時に国の脅威となりかねない彼らをまとめる勇者科は唯一の国家直属専門科、いってしまえば高給を約束された体のいい監視役なのだ。
先ほどまでここに立っていた少年は、就職先が国家直属となるメリットや、政治間にうずまく暗い陰謀にはまったく無知であるように見えた。
おそらく彼は開拓目的の遠征から作られた冒険譚に登場する『勇者』という幻想への憧れのみで行動している。
さて、純粋な少年の心はいつまで汚れずに済むだろうか。
不謹慎であるとは分かっていたが、会長は思わずにはいられなかった。
ちょうど良い硬さの背もたれが会長の身体を支え、部屋全体を会長の視界に映させる。
価値のありそうなカーペット、年季の入った家具と飾られた肖像画。
頂点とはいえ所詮生徒でしかないにも関わらず、教官室よりもグレードの高い部屋が既に馴染み深い中間管理者は、少しばかり自虐的な笑みを浮かべる。
嗜好と発言が問題なだけで、君はまだましな方なのだよ、スターム=レリリオット。
「……強く、生きてくれ」
小さな呟きは、厚く造られた壁に阻まれ誰に聞えることもなく消えた。
『試験的にとはいえ、これで君も一軍チームの勇者だ。
実習を引率してくれる教官はいない。規則に従って、実習を説明してくれるナビゲーターを貸与する』
手のひらに収まるサイズの硬質な円盤。
一軍を目指すための理由でもあったそれを、スタームは震える手で包み込んだ。
「二年勇者科、スターム=レリリオット。
ナビゲートを申請します」
上気する頬と共に、円盤の中央に設置された金色のボタンを押しこむ。
途端に響く機械の起動音。
『実習期間中の保持者の声紋を確認しました。
電脳天使name:K、通信用の疑似体をダウンロードします』
真っ白な羽が、目の前に広がった。
それがダウンロードによるデータの残滓である事に気付いたのは次の瞬間で、だがその事実は目の前に広がる光景の美しさに何の支障もきたさなかった。
視界を覆い尽くす程の羽の合間から、輝く金糸が姿を現す。
ウェーブを描く髪は肩の辺りで軽く跳ねて、白い肌に包まれた疑似体の顔を露わにした。
長い睫毛で縁取られた大きな金の瞳は満足げに弧を描いた。
眼の中心を貫く十字の線もそれにならう。
空中で形作られていた疑似体は、軽く音を立てて床に着地した。
舞い散る白が完全に姿を消した頃、ようやくスタームは想いを言葉にする。
「ちっさ!」
「初対面でなかなか好き勝手抜かしやがるですね、少年」
思わず口をついて出た台詞に、天使の営業スマイルが引きつった。
半ばお試しのようなナビゲーターなのだから、疑似体が教科書に載っているような大人の姿をしていないかもしれないと、考えなかった訳ではない。
ただ、きちんとしていない度合いが予想を少しばかり超えていただけだ。
身にまとう白衣の裾は床に広がり、背中にはためく天使の証はスタームの両手程。
小さな鼻に掛けられた眼鏡はこれまた小さく、職人の技巧を見たような気がした。
目の前で構成された疑似体は、六歳程度の身体で面白くなさげに腕を組んでいる。
「これがせめて体長十センチの妖精さんとかだったらまだテンション上がったのにな……」
「てめーのテンションなんて知ったこっちゃないです」
人間と意思疎通をするための疑似体なのだから妖精さんはないだろうことはスターム自身にも分かってはいたが、小さな電脳天使は鼻を鳴らしてその冗談を一蹴した。
なかなかにはっきりとした性格のようだ。
「とりあえず自己紹介ですよ。
実習時にフィールドの展開やステータス情報の提示など戦闘のサポート、遠征のためのマップ提供、アイテムの預かり、その他諸々チームFのお手伝いをさせてもらうデータ・Kという電脳天使なのです。
気軽にK様とでも呼ぶがいいのです、この見習い勇者が」
おまけに口も悪い。
何気に罵倒された気がする。
だが、憧れの電脳天使にナビゲートしてもらうというスタームの夢と、どんな外見であれ目の前に電脳天使がいるという事実は少しも揺らがなかった。
多少びっくりしたが、スタームは徐々にいつもの調子を取り戻し始める。
「分かった、Kちゃんだね!
僕はスターム=レリリオットっていうんだこの際呼んでもらえるならスタームお兄さんだろうが呼び捨てだろうが見習い勇者コノヤロウだろうがなんでもいいよ!
いやぁ授業で教えてもらってからずっと憧れてたんだ、一目見れただけでももう感激ものだよ、ちょ、まずは握手かサインしてもらってもいいかな?
箸にも棒にもかからないふつつか者だけどよろしくお願いします!」
「K様っつってんのにいきなりちゃん付けしてんじゃねーですよ、崇めたてられるのは満更でもないですけどとりあえずお前にはこの言葉をくれてやるです、『落ち着け』」
ちゃん付けされてむずがゆいやら憧れられてちょっぴり嬉しいやら、データ・Kの頬にほんのり赤みがさしたが、それ以上に彼女は期間限定の所有者のテンションにどん引きしていた。
「大体お前、ここがどこでどういう時間帯か分かってるですか」
「執務室前の廊下、一軍チームと僕だけ呼び出されたからまだ授業中だね」
「しっかりがっつり状況把握してんじゃねーですか」
教師も生徒もいない沈黙が広がっている訳である。
授業中の教室は離れているとはいえ、それを床のタイルが振動するほど叫ばれては、呼び出されたばかりなのに気も遣うというものである。
傍の窓から見える常緑樹を見て、ちょっぴり遠い眼をしたくなったデータ・Kであった。
壁の塗装が禿げた跡がちょうど枝に繋がっているように見えて面白かった。
「遅刻したって静まり返った教室に何のためらいもなく入ってくタイプと見たのですよ」
「え、何の話?」
気付いていたとしても確信犯だが、本人のまるで無自覚な様子に脱力する。
出会って数分で会話を諦めようかと考え始めたデータ・Kの思考を途切れさせたのは、壁のひび割れを隠したパーカーだった。
「よお、冒険者マニアの根暗ヤロウ。幼女に鼻息荒くして通報待ちか?」
わざわざ窓を遮るようにして立ち、逆光をスポットライト代わりにポーズを決めるのは、スタームと同じような年恰好の少年であった。
ド派手な蛍光色のフードからは人を小馬鹿にした目つきと、若さゆえのそばかすが覗いている。
「……ダイス」
スタームが苦々しげに口にした名前に、データ・Kは覚えがあった。
二年生の一軍チームに所属が決定した時から既に情報は詰め込まれている。
自分の所有者と同じく、実習の一軍に属する勇者科の生徒。
Bチームのダイス=フラッターだ。
「聞いたぜ、お情けでFチームなんてお試しチームに入れてもらったんだってな。
俺達はちょうどチーム内のメンバーと顔を合わせて来たところさ。
ついでにお前のとこの奴らも見といてやったけどな……」
最後まで言い終わる事もなく、ダイスは大げさに噴き出してみせた。
「一軍どころか普通よりも劣ってるダメ集団じゃねぇか!
冒険者になるよりも曲芸集団にでもなった方がいいぜ、お前も含めてな」
ダイスの憎まれ口に気を取られていて見ていなかったが、彼の傍らには他の科の生徒とおぼしきメンバーが数人待機していた。
彼らもチームBに属していて、顔合わせの延長でついてきたのだろう。
体格も年齢もバラバラな人間がこれだけ集まっているところを見て、スクールの年齢制限無しの入学条件、そして冒険者を希望する入学者の幅の広さをデータ・Kは再認識した。
特にチームBのメンバーは壮年や幼年が多く、この場で青年層に位置しそうな人間はスタームとダイスの二人だけのように見えた。
同じ一軍に入れるほどの実力者、似た年齢層だからダイスはスタームに突っかかってくるのかもしれない。
いや、もう一人、青年と呼べそうな若者もいない訳ではなかったが。
データ・Kはハナから高身長の彼を度外視していた。
おそらく自分が不快な想いをする原因になるだろうし、なにより彼が人間でない事を知っていたからだ。
「ナビゲーターだって、なんだよその有り様!
ちゃんと言葉は分かるのか?
怪我しない内にとっととおうちに帰るんだな、チビ」
「Mr フラッター、疑似体は仮の姿だし学び屋での仲間にそのような言い草は……」
「ああ、悪い悪い。ついお前を自慢したくなってな、J」
困ったように眉をひそめる青年と、ダイスは見せつけるように肩を組んだ。
どうやら自分が貸与してもらった電脳天使がまともな外見をしていることがよっぽど喜ばしいらしい。
向こう側の電脳天使も言っていたが、そもそも疑似体は人間との会話が主な目的であるため、人間の言葉を話せる外見ならば支障はきたさないのだ。
ガキめ、とデータ・Kは吐き捨てた。
なんなら疑似体が正常に機能している証拠にそのニヤけた面めがけて唾でも吐いてやろうか、と思っていた時。
「ダイス。君は怒るかもしれないが、僕は何度でも言うぞ」
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スタームの台詞で分かったことがいくつかある。
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その忠告には繊細さとかデリカシーとか、そんな感じの対人関係において重要な物が大分欠けていること。
ダイスがスタームに嫌味な言葉を吐きかけてくるのは、百パーセント彼だけが悪いのではないということ。
案の定烈火のごとく怒りだし、ひきつけを起こした豚のような叫び声を上げたダイスから逃げるべく、データ・Kはその外見に似合わない力をもってしてスタームを引きずりながら廊下を脱出した。
火事場の馬鹿力というやつである。
これからスタームと付き合っていくにあたり、何度も発揮しそうな気がしてとても怖い。
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