16 / 44
7語り
しおりを挟む
そうして、ケンシローは熊様と数年ぶりの再会を果たした。
修行僧用の無地の作務衣ではなく、上等と一目で分かる着物に男らしい茶筅の髪型。
背筋を伸ばしてどしりと座る姿は安定感があって、大人になられたのだなとしみじみ実感したものだった。
「熊様の元服にはお目通りできなかったからね、お祝いの言葉の一つも贈れなかったけど……」
「ケンシローさん……」
「まさかあれから更に成長するとは思ってなかったんだけど……」
「ケンシローさん……」
当時は齢十三から十五に行うとされていた成人の儀式である元服の後も、成長を続けるのは生物として当然のこと。
更に子供の頃は華奢だと陰口を叩かれていたとはいえ、向こうは鬼の一族である。
最終的に鬼松 千熊は百九十センチを超える偉丈夫であったと伝わるまでになる。
「寺では私と剣術の稽古して負けて泣いたり、城の模型作ろうとして持ち込んだ土で寝床をぐしゃぐしゃにして怒られたり、戦の練習をしようとしてお堂の壁に穴開けたりそれを誤魔化そうとして悪化させて柱折ったりしてた熊様があんなに立派になって……」
「ケンシローさん、背丈超されたの根に持ってるのですか」
昔を懐かしむふりをして主人を貶めているケンシローはといえば、百八十センチ足らずといったところか。
そういえば、とロッテは思いついたことを口に出して熊様の情報流出を止めた。
「褒賞というのは、臣下の方全員に渡されたのですか」
「いや、ある程度の武功が確認できた者にだけだったかな。
首実検っていう……うん、まあこの話は止めとこう」
「? 他の方も屋敷を所望されたのですか」
「いいや? 普通は治められる土地だったり、刀や茶器の物だったり、あとは氏名をもらったりかな」
「氏名」
「檜山家みたいに実績のある家柄じゃない人は、跡継ぎのいない別の家に養子に行ったりすることがあったんだよね。
氏名を賜るってのは、その仲介をしてもらう、ってことかな。
お父様が亡くなられたばっかりで、まだ守護代の跡を継いでない熊様が好きにできることは少なかったけど、全員の希望に誠実に対応してくれたよ」
なるほど、と一つ頷いたロッテは、言いにくそうにそろりと視線を上げた。
「アントニアちゃんが言っていたのですが」
「うん」
「その褒賞で氏名をもらって、檜山家の四男ではなく別の家の長男、のような立ち位置になれば熊様のお側に仕えることは可能だったのでは、と……」
「……」
「あの、もちろんケンシローさんのご家族は健在でしたでしょうし、それでややこしくなったかも、でしょうし!」
部外者が口を出してすみません、さすがに考えてましたよね!
と、言いかけたロッテは口を閉じる。
目の前の男は逆に口をポカンと開けて、目の瞳孔すら開き気味。
ぶわぶわと逆立った毛は、いつぞや流行った宇宙を背負う獣のようであった。
顔には『その発想はなかった』とでかでかと書かれている。
「考えて……なかったんですね」
ロッテは提案を口に出したことをちょっぴり後悔した。
修行僧用の無地の作務衣ではなく、上等と一目で分かる着物に男らしい茶筅の髪型。
背筋を伸ばしてどしりと座る姿は安定感があって、大人になられたのだなとしみじみ実感したものだった。
「熊様の元服にはお目通りできなかったからね、お祝いの言葉の一つも贈れなかったけど……」
「ケンシローさん……」
「まさかあれから更に成長するとは思ってなかったんだけど……」
「ケンシローさん……」
当時は齢十三から十五に行うとされていた成人の儀式である元服の後も、成長を続けるのは生物として当然のこと。
更に子供の頃は華奢だと陰口を叩かれていたとはいえ、向こうは鬼の一族である。
最終的に鬼松 千熊は百九十センチを超える偉丈夫であったと伝わるまでになる。
「寺では私と剣術の稽古して負けて泣いたり、城の模型作ろうとして持ち込んだ土で寝床をぐしゃぐしゃにして怒られたり、戦の練習をしようとしてお堂の壁に穴開けたりそれを誤魔化そうとして悪化させて柱折ったりしてた熊様があんなに立派になって……」
「ケンシローさん、背丈超されたの根に持ってるのですか」
昔を懐かしむふりをして主人を貶めているケンシローはといえば、百八十センチ足らずといったところか。
そういえば、とロッテは思いついたことを口に出して熊様の情報流出を止めた。
「褒賞というのは、臣下の方全員に渡されたのですか」
「いや、ある程度の武功が確認できた者にだけだったかな。
首実検っていう……うん、まあこの話は止めとこう」
「? 他の方も屋敷を所望されたのですか」
「いいや? 普通は治められる土地だったり、刀や茶器の物だったり、あとは氏名をもらったりかな」
「氏名」
「檜山家みたいに実績のある家柄じゃない人は、跡継ぎのいない別の家に養子に行ったりすることがあったんだよね。
氏名を賜るってのは、その仲介をしてもらう、ってことかな。
お父様が亡くなられたばっかりで、まだ守護代の跡を継いでない熊様が好きにできることは少なかったけど、全員の希望に誠実に対応してくれたよ」
なるほど、と一つ頷いたロッテは、言いにくそうにそろりと視線を上げた。
「アントニアちゃんが言っていたのですが」
「うん」
「その褒賞で氏名をもらって、檜山家の四男ではなく別の家の長男、のような立ち位置になれば熊様のお側に仕えることは可能だったのでは、と……」
「……」
「あの、もちろんケンシローさんのご家族は健在でしたでしょうし、それでややこしくなったかも、でしょうし!」
部外者が口を出してすみません、さすがに考えてましたよね!
と、言いかけたロッテは口を閉じる。
目の前の男は逆に口をポカンと開けて、目の瞳孔すら開き気味。
ぶわぶわと逆立った毛は、いつぞや流行った宇宙を背負う獣のようであった。
顔には『その発想はなかった』とでかでかと書かれている。
「考えて……なかったんですね」
ロッテは提案を口に出したことをちょっぴり後悔した。
0
あなたにおすすめの小説
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる