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8語り
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「効国」
初めて出てきた国の名を、唇に乗せた。
これまで思いつきもしなかった衝撃的な提案により、床に敷いたラグへ倒れ伏すケンシローの姿を、ロッテはちらりと観察する。
陽翔国の文化が染み付いているからか、毛の長いラグに上がり込む足は履き物を脱いでいた。
魔方陣の隣にきちんと揃えられる草履と脚絆、そしてそのすぐ側にラグの敷かれたゆったりリラックス空間。
半分以上は己が作り出した光景とはいえ、大変にシュールである。
だというのに、湯呑みや菓子を摘まむ手は手袋をしたままだ。
まだ信用されていない証だろうか。
そこまで用心深いケンシローが敵わなかったのが、効国の地を治める竜野家である。
特に当時の当主であった竜野 幻水に至っては、後に鬼松 千熊のライバルと言われるほど切っても切れぬ関係となっていく。
檜山 堅志郎は彼の策略によって命を落としたとも、自身の薬師による知識を渡さぬように自死したとも、
……実は彼のスパイであったともまことしやかに語られている。
とはいえ、ここまでケンシローの話を聞いていたロッテは、確信をもってその説はないと否定した。
あれだけはっきりと熊様を慕う様子を見せておいて、その実全てが嘘であるならばもはや全てが信じられない。
ロッテは拍手喝采と共にケンシローを有名どころの俳優学校に推薦するだろう。
そんな冗談を心の中で浮かべられるくらいには、彼の人となりがわかってきていた。
だからこそ、胸が痛む。
ケンシローの服毒現場は第二次野春島の合戦、その渦中よりやや離れた山間の渓谷。
一体何を使用したのかは分からないが、ケンシローが死亡した後、その一帯を流れていた小滝はしばらく飲用水や田畑の水として使えないほどに質が悪化したらしい。
そんな強い影響を及ぼす毒を使用した本人の苦しみは、いかほどの物だったのか。
(できるだけ苦しくなかったように)
人はいつか死ぬ。
そもそも本人が既にそれを終えた状態でここにいる。
そう分かっていたとしても、ロッテは実際に言葉を交わした人に向けて、願わずにいられなかった。
「ところで、酔っぱらって幻覚を見たと言ってましたけど。
本当に熊様が来ていた可能性は……?」
「まっさかぁ、橡緒城と正反対の方向だし、熊様が来るわけないって!」
「……」
「いやいや、ほんとに」
「……」
「…………、
あれがほんとに熊様だったら私、不敬罪で死んじゃう……」
「どんな幻覚見たんですか」
初めて出てきた国の名を、唇に乗せた。
これまで思いつきもしなかった衝撃的な提案により、床に敷いたラグへ倒れ伏すケンシローの姿を、ロッテはちらりと観察する。
陽翔国の文化が染み付いているからか、毛の長いラグに上がり込む足は履き物を脱いでいた。
魔方陣の隣にきちんと揃えられる草履と脚絆、そしてそのすぐ側にラグの敷かれたゆったりリラックス空間。
半分以上は己が作り出した光景とはいえ、大変にシュールである。
だというのに、湯呑みや菓子を摘まむ手は手袋をしたままだ。
まだ信用されていない証だろうか。
そこまで用心深いケンシローが敵わなかったのが、効国の地を治める竜野家である。
特に当時の当主であった竜野 幻水に至っては、後に鬼松 千熊のライバルと言われるほど切っても切れぬ関係となっていく。
檜山 堅志郎は彼の策略によって命を落としたとも、自身の薬師による知識を渡さぬように自死したとも、
……実は彼のスパイであったともまことしやかに語られている。
とはいえ、ここまでケンシローの話を聞いていたロッテは、確信をもってその説はないと否定した。
あれだけはっきりと熊様を慕う様子を見せておいて、その実全てが嘘であるならばもはや全てが信じられない。
ロッテは拍手喝采と共にケンシローを有名どころの俳優学校に推薦するだろう。
そんな冗談を心の中で浮かべられるくらいには、彼の人となりがわかってきていた。
だからこそ、胸が痛む。
ケンシローの服毒現場は第二次野春島の合戦、その渦中よりやや離れた山間の渓谷。
一体何を使用したのかは分からないが、ケンシローが死亡した後、その一帯を流れていた小滝はしばらく飲用水や田畑の水として使えないほどに質が悪化したらしい。
そんな強い影響を及ぼす毒を使用した本人の苦しみは、いかほどの物だったのか。
(できるだけ苦しくなかったように)
人はいつか死ぬ。
そもそも本人が既にそれを終えた状態でここにいる。
そう分かっていたとしても、ロッテは実際に言葉を交わした人に向けて、願わずにいられなかった。
「ところで、酔っぱらって幻覚を見たと言ってましたけど。
本当に熊様が来ていた可能性は……?」
「まっさかぁ、橡緒城と正反対の方向だし、熊様が来るわけないって!」
「……」
「いやいや、ほんとに」
「……」
「…………、
あれがほんとに熊様だったら私、不敬罪で死んじゃう……」
「どんな幻覚見たんですか」
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