二度目の語りはどうあれ花よ

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18語り

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『堅志郎日記』はここで終わっている。
後はどこそこの渓谷で死んだらしき情報と、解説や後書きしかない。

最後のページ。
子供の頃には多少のよれや崩れはあったものの、今まで等間隔で綺麗に並べられていた文字たち。
その片鱗は欠片もなくなり、墨を思い切り吸わせた筆で加減なく押しつけたと思われる、下手な三文字だけが書きなぐられている。

「……引かないで聞いてほしいんだけど」
「引くものですか」

結構な沈黙の後に深刻な顔つきで放たれた申し出に、真剣な眼差しでロッテは頷く。

「熊様が結婚するって言い出した時さ、すごくいやだったんだよね。
それまでもうお暇を出されてる私に構ったところで診察したり多少の情報しか渡せるものがないんだから、小姓や婚約者でも作って繋がりを広げればいいのに、なんて思ってたのにさ」
「はい」

変わらず、ロッテは真剣な眼差しで肯首する。

「『力』の限界で衰弱していった時もそうだった。
自分が大した役割をこなせないままいなくなるのは申し訳なくてたまらなかったけど、ある程度は折り合いをつけてたんだ。
なのに、熊様が結婚してお世継ぎが誕生して、熊様が私の知らない顔をして、私のいない時間を過ごすことを想像したら、いやだった」
「はい」

余計な言葉は挟まずに、静かに言葉を聞く。

「だから、……私はどうも、熊様のことを、その、そういう意味でもお慕いしてたみたいで……」
「存じております」
「えっ?!」

宇宙空間にて愕然とする獣第二弾。
まさかの知ってた発言に、ケンシローはどうして?! と戦慄を覚える。
一方で、何故そんなに驚かれるのか理解できないロッテは原因を推察し、こちらも驚愕した。
宇宙空間にて愕然とする獣は連鎖する。

「まさか、自覚がなかったのですか?
ご自分が熊様のことを好きだということを!」
「いやーーーっ、待ってそんな直接的な言葉にしないで!
なんで?! いつから分かったの?!」
「お寺で家来になる宣言あたりで既にメロメロだなぁ、と」
「嘘でしょそんな前から?」
「逆にケンシローさんはいつから自覚したのです、自分の気持ちに」

ここへ来て急に当初の目的であるコイバナが現実となってきた。
とはいえその話し手であるのはダークサイドに堕ちかけた三十路のおっさんである。

「…………。
死ぬ直前」
「熊様が報われなさすぎる」

遅いとしても衰弱していた辺りだろうか、と予想をつけていたロッテは相手が結構な年上であることを忘れてストレートな感想を口に出してしまった。
これにはアントニアちゃんも『バカ』と三回叫ぶ。

「ちょっと待って、なんでそこで熊様が出てくるの」
「えっ」
「熊様の方は私に家来である以上の感情はないんだから関係ないでしょ」

まあ、今となっては主の意向も察せずに卑怯な手で暗殺を企てた愚か者を家来だなんて思ってないだろうけど。
と暗い影が差すケンシローに、ロッテは口を手で覆い、叫びかけた感情を押さえた。

そこもまだ気づいてないのか?!

「好きでない方を……わざわざ夜伽の相手に選ぶとは、思えないのですが」
「だからあれは千景様との戦の影響で人のことを信用できてなかったから消去法で選ばれただけだって!」
「そんなことは」
「もしそれが本当だったらこれまでに胸がざわざわして、後から『あれは熊様が好きだと感じていたのでは……?』と感じたところ全部暴露してもいいくらいあり得ないよ!」
「あっ」

ロッテは後に語る。
あんなに見事なフラグ建設、初めて見た、と。
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