【完結】俺の相方、実は甘々執着系でした~BLアイドルの溺愛日常~

砂原紗藍

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【第1章】相方との距離

3.ちょっとだけ甘えてみる

side 純

今日はテレビ番組の収録日だ。
事前に聞いていた通り、司会者は距離感近めで、軽口を叩きながら場を回すタイプらしい。

隣の席には直人。
いつもと同じはずなのに、カメラが回っているせいか、少しだけ落ち着かない。

「さあさあ、今日はお二人のユニットについて、たっぷり聞かせてもらいますよ!」

明るい声に促されて、軽く頭を下げる。

「よろしくお願いします」
「お願いします」

最初のうちは無難な質問ばかりで、収録は順調に進んでいた。
曲の話、今後の活動、ファンへのメッセージ――。
しかし、司会者の目が光った瞬間、嫌な予感が胸をよぎった。

「ところでですね」

……来た。

「お二人って……仲、良すぎませんか?」
「仲、ですか……?」

曖昧に返しつつ、隣をちらりと見る。
直人は相変わらず余裕の笑顔だ。完全に楽しんでる。

「だって、撮影中や仕事中の距離感とか、ファンの皆さんも気になってますよ。本当にそうなんじゃないかって」
「いや、まあ……俺たちはあくまでユニットですから」

そう答えながら、心臓がちょっと早くなる。
直人は何も言わず、俺の方を見て目を細めている。

「……まあ、その辺は想像にお任せしますよ」
「え? ちょ、直人……」

思わず小声で突っ込むが、拾われない。
司会者は微笑んだまま、さらに言葉を重ねる。

「いやぁ、直人くんも純さんも、お互いのこと好きなんですねぇ」

その一言で、直人が小さく吹き出した。
視線が絡んだ瞬間、顔に熱が集まるのが自分でもわかる。

落ち着け。
そう言い聞かせても、どうしても表情が硬くなる。

幸い、司会者が軽く笑いに変えてくれて、収録はそのまま終了した。

「……ふぅ」

思わず息が漏れる。
横を見ると、直人は何事もなかったみたいに微笑んでいる。

「直人さん、今回も素晴らしかったです!」
「ありがとうございます」

スタッフに向けるその表情は完璧で、隙がない。
……カリスマ性も、プロ意識も、本当に非の打ちどころがないと思う。

「お疲れ様です」
「お疲れ様です。じゃあ行こうか」
「……ああ」

そのまま次の雑誌撮影へ移動。
スケジュールは相変わらず詰め込まれていて、正直、体の重さをごまかしきれなくなってきていた。

車に乗り込むと、張りつめていた緊張が一気に抜ける。
それに引きずられるみたいに、眠気がじわじわと押し寄せてきた。

「純、眠そうだね。疲れてる?」
「……別に。たいしたことない」

口ではそう言ったけど、内心では図星だった。
ただ、直人の前で弱ってるところを見せるのは、なんとなく癪で。

「疲れてるんだろ?  着くまで寝てていいよ」
「……悪いな」

直人は自然な動作で俺の肩に寄せてきて、頭を軽く撫でた。
寝かしつけるみたいな、その手つき。

……本当は、俺がこういう役回りのはずなのに。
今日は完全に立場が逆だ。

まあ、でも。車内には俺たちしかいない。
誰も見ていないし、今くらいは少しだけ甘えてもいいか。
そう思って、直人に凭れたまま目を閉じた。



車が信号で止まる。
窓の外では、夕暮れの街がゆっくりと色を変えながら流れていた。

「純」

耳元で、直人の声が落ちる。

「ん……」
「起きてる?」
「……起きた」

身体を起こした瞬間、直人がいたずらっぽく口角を上げた。

「今日、可愛かったよ」
「……は?」
「司会者にいじられて、顔真っ赤でさ」
「……うるせぇ」

視線を逸らすと、直人が小さく笑う気配がする。

「なぁ、純」
「……なんだよ」
「俺のこと、どう思ってる?」

声色が違った。
いつもの冗談混じりじゃない、真っ直ぐな声。

「……相方だろ」
「それだけ?」
「……わかんねぇよ」

正直に言うと、直人は小さく息を吐いた。
ほんの一瞬浮かんだ寂しそうな表情が、なぜか胸に引っかかる。

「……でも」
「ん?」
「お前といると……楽しいけどな」

言った途端、直人が目を見開いてこっちを見る。

「純、それって……」
「深い意味はねぇよ」

慌てて付け足すと、直人はふっと笑った。

「でも、嬉しい」

そう言って、直人の手が俺の手をぎゅっと握る。
そのまま、言葉もなくしばらく繋いだままでいた。

車の小さな振動と、隣から伝わる体温。
その感触が妙に落ち着く。

「……もうすぐ着くよ」
「ああ」
「雑誌のBL企画。楽しみだね」
「……お前、絶対楽しんでるだろ」
「バレた?」

悪びれもせず笑う直人に、ため息が出る。
よくわかんない奴だなぁと思うことは結構ある。
例えば今みたいな時。

「……もう知らねぇ」

そう言いながらも手は離さなかった。
直人も、当然みたいに握り返してくる。

車は、そのまま次の現場へ向かって走り続けていた。

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