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【第2章】下から大好きって言われたい
2.俺の相方は、優しくて油断ならない
今日は事務所の合同イベント。
いくつかのグループが集まって、トークにミニライブに、いかにも“賑やかになります”って感じの顔ぶれだ。
俺は楽屋の壁にもたれて、ぼんやり出番を待っていた。
「純ー!」
聞き覚えのある声が飛んできて、反射的に顔を上げる。
視界に入ったのは、見慣れた笑顔。
ああ、ヒロキか。
元グループのセンターで、やたら声がでかい男。
「おう、ヒロキ」
「純! 久しぶり!」
次の瞬間、勢いそのままに抱きつかれる。
「おいっ……」
「相変わらずだなー! 全然変わってねぇ!」
……変わってねぇのは、お前の距離感だろうが。
なんて心の中で突っ込みつつ、肩に回された腕を振りほどけずにいる。
「元気だったか?」
「元気元気! 純も相変わらずだな!」
ヒロキは昔からこうだ。
明るくて悪気はない。でも、距離が近い。
グループにいた頃もこんなふうにやたら絡んできては、場をかき乱すタイプだった。
案の定、肩を組まれたまま楽屋の隅へ引っ張られる。
「なぁ純。今の相方、直人くんだっけ?」
「ああ」
「優しい?」
「……まぁ、いい奴だよ」
自分で言っておいて、なんか照れるのはなんでだ。
「ちゃんと仲良くやれてる?」
「問題なくな」
他愛ない会話。
本当に、それだけだった――はずなのに。
ふと視界の端で、人影が動く。
……あ。
直人が真っ直ぐこっちに向かって歩いてくる。
「……純」
「ああ直人、紹介するよ。元グループのメンバーで、ヒロキ」
「はじめまして、直人くん! ヒロキです。今日はよろしくお願いします」
ヒロキがいつもの調子で手を差し出す。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
直人も、いつも通りの柔らかい笑顔で応じる。
……けど、気のせいか。
その立ち位置、俺とヒロキの間に自然に入るような距離感だった。
「じゃ、またあとでな、純!」
「ああ。またな」
ヒロキが離れていくと同時に、直人の手が俺の腕に添えられる。
「なぁ、純。さっきの人だけど」
「ヒロキが何?」
「……距離、近い人なんだね」
「昔からあんな感じだって」
「ふーん」
直人の声は軽い。
表情も、笑顔のまま。
「でもさ」
「……なに」
「今は、俺が純の相方だから」
さらっと言って、視線を前に戻す。
……なんだそれ。
でもまあ、たしかに今の相方は直人。
元グループのメンバーとあまりベタベタしてたら、ユニットとしてのイメージもよくねぇか。
「……これからは、気をつける」
「ありがと」
その瞬間、直人の表情が少しだけ緩む。
まるで、それを待ってたみたいに。
……ほんと、よくわかんねぇな。
*
そして収録開始。
司会者がにこやかにマイクを向けてきた。
「ヒロキさんと純さんは元メンバーで、昔からのお知り合いなんですよね?」
この振り、嫌な予感しかしねぇ。
「そうなんですよ! 純のことはもう、いろいろ知ってます」
やめろ。
その“いろいろ”が一番危険なんだって。
「例えば、どんなことですか?」
「純、寝相めちゃくちゃ悪いんですよ」
……ほら来た。
「おい!」
反射で声が出る。
スタジオが笑いに包まれて、俺は思わず天を仰いだ。
「あと、寝言で『腹減った』って言うんです」
「言わねぇよ!」
よりにもよって、今ここで出す話か、それ。
俺、一応アイドルなんだけど。
もうちょいこう……夢とか、キラキラとか……。
ああもう。
ヒロキは満足そうだし、完全にしてやられてる。
スタジオの空気は完全に“いじりモード”。
その中で、なんとなく――嫌な気配を感じて、隣を見る。
……直人。
口元はちゃんと笑ってる。いつもの、感じのいい営業スマイル。
でも……目だけが全然笑ってない。
「ヒロキさん、他には?」
「あ、純と一緒にお風呂入ったこともあります。お互い洗いっこして――」
スタジオがざわつく。
笑いが一段、色を変えかけたのが分かる。
その瞬間だった。
「それ、合宿中の大浴場でしょ? みんな一緒のやつ」
直人の声が、自然に割って入る。
そして笑顔のまま、少しだけ首を傾げて俺を見る。
「あ、そうそう。懐かしいな」
「でも今はないよね、そういうの。ユニットだからいつも二人で動いてるし」
直人は俺だけが変に目立つ前に、話を“日常ネタ”に戻してくれた。
あれがなかったら、たぶん俺は“アイドルとしてアウト寄り”のいじりゾーンに入ってた。
フォローしてるのに、“守った”感じが前に出ない。
しかも、“純は俺の相方”っていう位置だけは、ちゃっかり誰にも譲らない。
……ほんと、なんなんだよ。
空気を壊さず、笑いも止めず。それでいて、ちゃんと俺を“自分の位置”に戻す。
そんなこと、無意識でやるなよな。
「ま、とにかく純は可愛いんですよ」
直人がそうまとめると、スタジオはあたたかい笑いに包まれた。
「は?」
思わず素で返すと、また笑いが起きる。
隣を見ると、直人も普通に笑ってる。
さっきのことなんて、もう忘れたみたいに。
でも、たぶんこのあと――何か起きる。
そう確信しながら、俺は直人の横顔から、そっと視線を逸らした。
いくつかのグループが集まって、トークにミニライブに、いかにも“賑やかになります”って感じの顔ぶれだ。
俺は楽屋の壁にもたれて、ぼんやり出番を待っていた。
「純ー!」
聞き覚えのある声が飛んできて、反射的に顔を上げる。
視界に入ったのは、見慣れた笑顔。
ああ、ヒロキか。
元グループのセンターで、やたら声がでかい男。
「おう、ヒロキ」
「純! 久しぶり!」
次の瞬間、勢いそのままに抱きつかれる。
「おいっ……」
「相変わらずだなー! 全然変わってねぇ!」
……変わってねぇのは、お前の距離感だろうが。
なんて心の中で突っ込みつつ、肩に回された腕を振りほどけずにいる。
「元気だったか?」
「元気元気! 純も相変わらずだな!」
ヒロキは昔からこうだ。
明るくて悪気はない。でも、距離が近い。
グループにいた頃もこんなふうにやたら絡んできては、場をかき乱すタイプだった。
案の定、肩を組まれたまま楽屋の隅へ引っ張られる。
「なぁ純。今の相方、直人くんだっけ?」
「ああ」
「優しい?」
「……まぁ、いい奴だよ」
自分で言っておいて、なんか照れるのはなんでだ。
「ちゃんと仲良くやれてる?」
「問題なくな」
他愛ない会話。
本当に、それだけだった――はずなのに。
ふと視界の端で、人影が動く。
……あ。
直人が真っ直ぐこっちに向かって歩いてくる。
「……純」
「ああ直人、紹介するよ。元グループのメンバーで、ヒロキ」
「はじめまして、直人くん! ヒロキです。今日はよろしくお願いします」
ヒロキがいつもの調子で手を差し出す。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
直人も、いつも通りの柔らかい笑顔で応じる。
……けど、気のせいか。
その立ち位置、俺とヒロキの間に自然に入るような距離感だった。
「じゃ、またあとでな、純!」
「ああ。またな」
ヒロキが離れていくと同時に、直人の手が俺の腕に添えられる。
「なぁ、純。さっきの人だけど」
「ヒロキが何?」
「……距離、近い人なんだね」
「昔からあんな感じだって」
「ふーん」
直人の声は軽い。
表情も、笑顔のまま。
「でもさ」
「……なに」
「今は、俺が純の相方だから」
さらっと言って、視線を前に戻す。
……なんだそれ。
でもまあ、たしかに今の相方は直人。
元グループのメンバーとあまりベタベタしてたら、ユニットとしてのイメージもよくねぇか。
「……これからは、気をつける」
「ありがと」
その瞬間、直人の表情が少しだけ緩む。
まるで、それを待ってたみたいに。
……ほんと、よくわかんねぇな。
*
そして収録開始。
司会者がにこやかにマイクを向けてきた。
「ヒロキさんと純さんは元メンバーで、昔からのお知り合いなんですよね?」
この振り、嫌な予感しかしねぇ。
「そうなんですよ! 純のことはもう、いろいろ知ってます」
やめろ。
その“いろいろ”が一番危険なんだって。
「例えば、どんなことですか?」
「純、寝相めちゃくちゃ悪いんですよ」
……ほら来た。
「おい!」
反射で声が出る。
スタジオが笑いに包まれて、俺は思わず天を仰いだ。
「あと、寝言で『腹減った』って言うんです」
「言わねぇよ!」
よりにもよって、今ここで出す話か、それ。
俺、一応アイドルなんだけど。
もうちょいこう……夢とか、キラキラとか……。
ああもう。
ヒロキは満足そうだし、完全にしてやられてる。
スタジオの空気は完全に“いじりモード”。
その中で、なんとなく――嫌な気配を感じて、隣を見る。
……直人。
口元はちゃんと笑ってる。いつもの、感じのいい営業スマイル。
でも……目だけが全然笑ってない。
「ヒロキさん、他には?」
「あ、純と一緒にお風呂入ったこともあります。お互い洗いっこして――」
スタジオがざわつく。
笑いが一段、色を変えかけたのが分かる。
その瞬間だった。
「それ、合宿中の大浴場でしょ? みんな一緒のやつ」
直人の声が、自然に割って入る。
そして笑顔のまま、少しだけ首を傾げて俺を見る。
「あ、そうそう。懐かしいな」
「でも今はないよね、そういうの。ユニットだからいつも二人で動いてるし」
直人は俺だけが変に目立つ前に、話を“日常ネタ”に戻してくれた。
あれがなかったら、たぶん俺は“アイドルとしてアウト寄り”のいじりゾーンに入ってた。
フォローしてるのに、“守った”感じが前に出ない。
しかも、“純は俺の相方”っていう位置だけは、ちゃっかり誰にも譲らない。
……ほんと、なんなんだよ。
空気を壊さず、笑いも止めず。それでいて、ちゃんと俺を“自分の位置”に戻す。
そんなこと、無意識でやるなよな。
「ま、とにかく純は可愛いんですよ」
直人がそうまとめると、スタジオはあたたかい笑いに包まれた。
「は?」
思わず素で返すと、また笑いが起きる。
隣を見ると、直人も普通に笑ってる。
さっきのことなんて、もう忘れたみたいに。
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そう確信しながら、俺は直人の横顔から、そっと視線を逸らした。
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