【完結】俺の相方、実は甘々執着系でした~BLアイドルの溺愛日常~

砂原紗藍

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【第3章】俺だけを見ていればいい

3.囲われてるって、こういうことか

それは数日前のこと。
雨の中の収録で、びしょ濡れになった。

「大丈夫? 着替え持ってきたから」

スタッフが気を遣ってくれたけど、その時点で体は既に冷え切っていた。

帰宅後、案の定体が怠く、熱っぽさを感じた。

「なんか風邪引いたかも」

メッセージで何気なく零したら、直人は即座に俺の様子を見に来た。

「大丈夫?」

額に手を当てられて、次の瞬間には体温計を突きつけられる。

結果は38度超え。

「……マジか」

そこから三日間、俺は仕事に出られていない。
スマホには、マネージャーからの進捗確認のメールが毎日届く。

「気にしなくていいから、ゆっくり休んで」

……そう言われてもな。
本来なら、こんなことで立ち止まってる暇はねぇんだけど。

そして、今日も直人は家に来た。
何かあった時のためにと渡しておいた合鍵で、静かに部屋に入ってきたらしい。

寝室のドアが小さく開く音がした。

「……純、起きてる?」

確かめるような柔らかい声。
本当は起きていたのに、なぜか反射的に寝たふり。

近づいてくる足音。
ベッドが、わずかに沈む。

起こさないように、細心の注意を払っているのが伝わってくる。
次の瞬間――頬に、あたたかい感触。

今の、唇?

「……っ」

思わず身じろぐと、直人が小さく息を漏らして笑った。

「あ、ごめん。起きてた?」
「……今の、何」
「純が可愛かったから」

毛布をそっと掛け直されて、額に手が触れる。

「まだ熱っぽいね。ちゃんと休まなきゃ」
「……子ども扱いすんな」
「今は病人扱いだよ」

笑いながら、髪を指で梳かれる。

「俺がいない時に無理されるの、一番嫌だから」
「別に。無理してねぇし」

直人はそれ以上踏み込まず、静かに部屋を出ていった。

どうせこのあと、また戻ってくる。

案の定、しばらくして湯気と一緒に、いい匂いが寝室まで流れてきた。

「今日は煮込みうどんにしたから」
「……過保護だな」
「純に関しては、ずっとそうだよ」

そう言って笑う直人に、何も言い返せなかった。

そんな看病のおかげで、翌朝には平熱に戻った。
夕方には普通に食事ができるまで回復して、体も随分楽になっていた。

「熱も下がったから、今日は収録行く」
「だめ」

は?  即答すんなって。

勝ち目なんかないのに、なんとなく無駄に反抗したくなる。

「もう平気だって」
「完全に回復するまで、外出禁止ね」

ここまで来ると、一周回って面白い。
けど、仕事の疲れとはまた別の徒労感が湧いてくるのも事実で。

「お前が決めることじゃねぇだろ」
「ぶり返したら、ファンも悲しむし、現場にも迷惑かかるでしょ」
「……それは、まあ」
「あと――」

直人が一歩近づいた。
そっと俺の顎に指を添えて、顔を上げさせる。

「純に何かあったら、俺が耐えられないから」

距離が詰まる。
逃げる暇もなく、唇が重なった。

ゆっくり絡んでくる舌と熱が、ふわふわと快感を運んでくる。

「またここに帰ってくるから、純はちゃんと待ってて」
「……行ってきます、だろ」
「いってきます」

笑いながら収録に向かう直人の背中を見送って、ドアが閉まる。

一人になった部屋で壁に寄りかかり、口元を押さえた。

「……風邪、うつるっての」

そう呟きながら、胸の奥の熱を誤魔化す。

嬉しかった、なんて。
独占されてるみたいで安心した、なんて。

……そんなこと、絶対に言えるかよ。



仕事復帰の朝。

久しぶりに外に出るだけなのに、直人の準備がやたらと念入りだ。
マスク、のど飴、保温用のストールまで用意されている。

「……もう平熱だって言っただろ」
「念のためね」

そう言って、俺のストールを整える手つきが自然すぎる。

「……マジで過保護だな」
「純限定だって言ったでしょ」

声が近い。
首元をいじる直人の顔が目の前にあって、思わず視線を逸らした。

「ん?  どうかした?」
「別に」

見とれてました、なんて言えるわけがない。

楽屋に着くと、スタッフが次々に声をかけてきた。

「純さん、大丈夫?」
「無理しないでくださいね」
「顔色戻りましたね」

そのたびに、直人がほんの少しだけ前に出る。
俺を隠すわけじゃない。
けど、さりげなく“境界線”を引いているような。

「ありがとうございます。ちゃんと俺が見てますから」

――“俺が”。
何言ってんだよ、こいつ。

収録前、二人きりになった楽屋で、直人がドアを閉めた。

「……何するつもりだよ」
「体調チェック」

そう言って近づいてきたかと思うと、額同士をくっつけてくる。

「……ちょ……っ」
「うん、熱はなさそうだね」
「体温計使えよ」
「俺の方が正確だから」

何の根拠だよ、それ。

今度は頬に両手を添えられて、じっと顔を覗き込まれる。

「うん。平気そう」
「それ、医者でもやらねぇよ」
「俺は純専門医だから」
「意味わかんねぇ」
「本当に無理したら、即帰るから」

言葉が強いのに、声は驚くほど優しい。

「……仕事だろ」
「お前の方が大事」

いつもの、俺を甘やかすような笑顔。

言いたいことは山ほどあるのに、言葉にできない。

「純って、自分がどれだけ見られてるか気づいてないよね」
「何の話だよ」
「だから、俺がちゃんと守らなきゃ」

……いや、おかしいだろ。
勝手に決めんな。

そう言おうとしたのに、直人の目を見た瞬間、言葉が出なくなった。
逃げる暇もなく、額に軽くキスが落ちる。

「ちょ……」

ドアの向こうから声がした。

「直人さん、純さん、そろそろ本番です!」
「はーい、今行きます」

何事もなかったように返事をして、直人が俺の手を引く。

「行こ」
「……あぁ」

なんか納得いかねぇ。

その気持ちが、完全に消えたわけじゃない。
でも――。

“自分がどれだけ見られてるか気づいてない”
“俺が守る”

さっき言われた言葉を思い出すと、否定したいのに安心する。

……俺、マジでやばいな。​​​​​​​​​​​​​​​​

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