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【第3章】俺だけを見ていればいい
4.視線の先は、いつも俺だった
今日は朝から夕方まで、バラエティの撮影だ。
「純さん、よろしくね」
「よろしくお願いします」
共演者は俳優の桐谷さん――爽やかで人当たりがいい。
今日の収録について色々と話す。
トークの細かいニュアンスとか、カメラワークとか。
こういう話ができる共演者は貴重だ。
今回、俺が桐谷さんにダンスを教える企画があって、立ち位置を確認するために距離が近くなる。
「ここ、もう一歩前ですね」
桐谷さんの肩に、軽く手を置いて示す。
ジャケット越しでも体温が伝わってくる距離。
「こう?」
「はい、そのまま腰落として……そう」
今度は背中にそっと触れて、角度を直す。
「純さん、近いと緊張するよね」
「そうですね」
腕が一瞬絡む。
ターンのタイミングで、手首を掴んで引き寄せる形になった。
「今の、いいですね!」
スタッフの声が飛ぶ。
桐谷さんが俺の手を離さず、「もう一回、お願いします」と楽しそうに言う。
――そのときだ。
ふと、視線を感じる。
振り向くと、直人がカメラの後ろでこっちを見ていた。
その目が、はっきりと冷たい。
……また、かよ。
俺が誰かと話してると、直人の機嫌が悪くなる。
「カット! OKです!」
スタッフの声が響いて、ようやく緊張が解ける。
桐谷さんが一歩引いて、軽く頭を下げた。
「ありがとうございました。純さん、ほんと教えるの上手いね」
「いえ、覚え早かったですよ」
自然と手が離れる。
さっきまで触れていた体温が、すっと消えた。
「じゃあ、また」
「はい、お疲れ様でした」
桐谷さんと別れて、直人のところへ向かう。
「お疲れ」
「……うん」
そっけない。やっぱり、怒ってるよな。
「どうした?」
「別に」
明らかに不機嫌なのに、隠す気もないらしい。
「……楽しそうだったよね」
「あのさ、仕事だろ」
「そんなのわかってるよ」
なんだか棘がある。
……俺が悪いのかよ。
どう言えばいいのかわかんねぇけど、胸の奥がイライラしてくる。
「じゃあ、なんでそんな顔してんだよ」
「してない」
「してるだろ!」
思わず声が大きくなって、周りの視線が集まった。
まずい。
「……外で話そう」
直人に手を引かれて、人気のない廊下へ連れて行かれる。
「直人さ。なんだよ、さっきから」
「お前こそ」
「あのさ、俺が他の奴と話してるだけで、そんな顔すんのやめろよ」
言い返すと、直人が黙り込む。
沈黙が、重い。
耐えられなくなって、口を開く。
「直人は俺のこと信じてないのかよ」
「信じてるよ」
「だったら、なんでそんな顔すんだよ。俺は……」
言いかけて、やめた。
どうせ何を言っても、平行線だ。
「……帰る」
「純――」
伸ばされた手を振り払って、その場を離れた。
直人が嫉妬深いのは、わかってる。
でも――仕事にまで踏み込まれるのは、正直、きつい。
スマホが震える。
……直人。
何度も着信が来るけど、全部無視した。
その夜、直人は家に来なかった。
……なんだよ。
いつもなら、何も言わなくても勝手に来るのに。
胸の奥に浮かんだ感情を、無理やり押し殺す。
寂しい、なんて。
思ってる自分が嫌だった。
*
翌日、現場に着くと、直人の姿はまだない。
「おはようございます」
「おはよう、純さん」
桐谷さんが、いつも通り爽やかに声をかけてくる。
「今日も頑張りましょう」
「はい」
準備を進めていると、遅れて直人が入ってきた。
目が合う――はずだった。
けれど、直人は視線を逸らした。
「……純、おはよう」
「……おはよ」
そっけなく返す。
それきり、言葉は続かなかった。
空気が重い。息苦しい。
撮影が始まっても、噛み合わない。
セリフのタイミングが微妙にずれる。
視線も合わない。
いつもなら、無意識にできていたことが、全部ぎこちない。
「カット! 純さん、もう少し笑顔で」
ディレクターの声に、慌てて口角を上げる。
でも、上手くいかない。
作り笑いになってる自覚がある。
直人のことが、頭から離れない。
集中できない。
昼休憩になって、楽屋でいきなり腕を掴まれた。
「ちょ、直人――」
抗議する間もなく、壁に押し付られた。
両腕で逃げ道を塞がれて、顔が近い。
「……純。話、聞いて」
直人の目が、真剣だった。
いつもの明るさは全然ない。
「昨日は悪かったと思う。でも、どうしようもないんだ」
直人の目がさらに暗くなる。
まるで、何かを堪えてるみたいに。
「お前が他の奴と笑ってるの、やっぱり我慢できない」
「仕事だって言ってんだろ」
「わかってるよ」
直人の手が俺の頬に触れる。
温かい。優しい。
「純を苦しめたいわけじゃないよ。だから――」
耳元に唇が近づく。
吐息がかかって、ゾクリとした。
「プライベートでは、俺だけを見て」
有無を言わさない口調。
「仕事が終わったら、お前は俺のもの」
「……お前、本気で言ってんのか」
「本気だよ」
直人の目が、俺を捉えて離さない。
「……わかったよ」
頷くと、直人の表情が一気に緩んだ。
「ありがとう」
そのまま抱き込まれて、耳元に直人の唇が近づいてくるのがわかる。
「仕事、頑張ろうね」
「……お前のせいで集中できねぇよ」
「それも含めて、全部」
そう言って笑う直人。
その笑顔が、悔しいくらい眩しかった。
「純さん、よろしくね」
「よろしくお願いします」
共演者は俳優の桐谷さん――爽やかで人当たりがいい。
今日の収録について色々と話す。
トークの細かいニュアンスとか、カメラワークとか。
こういう話ができる共演者は貴重だ。
今回、俺が桐谷さんにダンスを教える企画があって、立ち位置を確認するために距離が近くなる。
「ここ、もう一歩前ですね」
桐谷さんの肩に、軽く手を置いて示す。
ジャケット越しでも体温が伝わってくる距離。
「こう?」
「はい、そのまま腰落として……そう」
今度は背中にそっと触れて、角度を直す。
「純さん、近いと緊張するよね」
「そうですね」
腕が一瞬絡む。
ターンのタイミングで、手首を掴んで引き寄せる形になった。
「今の、いいですね!」
スタッフの声が飛ぶ。
桐谷さんが俺の手を離さず、「もう一回、お願いします」と楽しそうに言う。
――そのときだ。
ふと、視線を感じる。
振り向くと、直人がカメラの後ろでこっちを見ていた。
その目が、はっきりと冷たい。
……また、かよ。
俺が誰かと話してると、直人の機嫌が悪くなる。
「カット! OKです!」
スタッフの声が響いて、ようやく緊張が解ける。
桐谷さんが一歩引いて、軽く頭を下げた。
「ありがとうございました。純さん、ほんと教えるの上手いね」
「いえ、覚え早かったですよ」
自然と手が離れる。
さっきまで触れていた体温が、すっと消えた。
「じゃあ、また」
「はい、お疲れ様でした」
桐谷さんと別れて、直人のところへ向かう。
「お疲れ」
「……うん」
そっけない。やっぱり、怒ってるよな。
「どうした?」
「別に」
明らかに不機嫌なのに、隠す気もないらしい。
「……楽しそうだったよね」
「あのさ、仕事だろ」
「そんなのわかってるよ」
なんだか棘がある。
……俺が悪いのかよ。
どう言えばいいのかわかんねぇけど、胸の奥がイライラしてくる。
「じゃあ、なんでそんな顔してんだよ」
「してない」
「してるだろ!」
思わず声が大きくなって、周りの視線が集まった。
まずい。
「……外で話そう」
直人に手を引かれて、人気のない廊下へ連れて行かれる。
「直人さ。なんだよ、さっきから」
「お前こそ」
「あのさ、俺が他の奴と話してるだけで、そんな顔すんのやめろよ」
言い返すと、直人が黙り込む。
沈黙が、重い。
耐えられなくなって、口を開く。
「直人は俺のこと信じてないのかよ」
「信じてるよ」
「だったら、なんでそんな顔すんだよ。俺は……」
言いかけて、やめた。
どうせ何を言っても、平行線だ。
「……帰る」
「純――」
伸ばされた手を振り払って、その場を離れた。
直人が嫉妬深いのは、わかってる。
でも――仕事にまで踏み込まれるのは、正直、きつい。
スマホが震える。
……直人。
何度も着信が来るけど、全部無視した。
その夜、直人は家に来なかった。
……なんだよ。
いつもなら、何も言わなくても勝手に来るのに。
胸の奥に浮かんだ感情を、無理やり押し殺す。
寂しい、なんて。
思ってる自分が嫌だった。
*
翌日、現場に着くと、直人の姿はまだない。
「おはようございます」
「おはよう、純さん」
桐谷さんが、いつも通り爽やかに声をかけてくる。
「今日も頑張りましょう」
「はい」
準備を進めていると、遅れて直人が入ってきた。
目が合う――はずだった。
けれど、直人は視線を逸らした。
「……純、おはよう」
「……おはよ」
そっけなく返す。
それきり、言葉は続かなかった。
空気が重い。息苦しい。
撮影が始まっても、噛み合わない。
セリフのタイミングが微妙にずれる。
視線も合わない。
いつもなら、無意識にできていたことが、全部ぎこちない。
「カット! 純さん、もう少し笑顔で」
ディレクターの声に、慌てて口角を上げる。
でも、上手くいかない。
作り笑いになってる自覚がある。
直人のことが、頭から離れない。
集中できない。
昼休憩になって、楽屋でいきなり腕を掴まれた。
「ちょ、直人――」
抗議する間もなく、壁に押し付られた。
両腕で逃げ道を塞がれて、顔が近い。
「……純。話、聞いて」
直人の目が、真剣だった。
いつもの明るさは全然ない。
「昨日は悪かったと思う。でも、どうしようもないんだ」
直人の目がさらに暗くなる。
まるで、何かを堪えてるみたいに。
「お前が他の奴と笑ってるの、やっぱり我慢できない」
「仕事だって言ってんだろ」
「わかってるよ」
直人の手が俺の頬に触れる。
温かい。優しい。
「純を苦しめたいわけじゃないよ。だから――」
耳元に唇が近づく。
吐息がかかって、ゾクリとした。
「プライベートでは、俺だけを見て」
有無を言わさない口調。
「仕事が終わったら、お前は俺のもの」
「……お前、本気で言ってんのか」
「本気だよ」
直人の目が、俺を捉えて離さない。
「……わかったよ」
頷くと、直人の表情が一気に緩んだ。
「ありがとう」
そのまま抱き込まれて、耳元に直人の唇が近づいてくるのがわかる。
「仕事、頑張ろうね」
「……お前のせいで集中できねぇよ」
「それも含めて、全部」
そう言って笑う直人。
その笑顔が、悔しいくらい眩しかった。
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