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【第3章】俺だけを見ていればいい
6.周囲の目と、俺たちの覚悟
今日は雑誌の撮影だった。
「純くんと直人くん、ほんと仲いいよね」
スタイリストさんが笑顔で話しかけてくる。
「そうですね」
「うん。なんか、最近特に。すっごい親密っていうか」
その言葉に、心臓が早く打つ。
……やばい。
できるだけ自然に笑ったつもりだけど、顔が引きつってないか不安だ。
「気のせいじゃないですか?」
「そうかな? まぁ、仲がいいのはいいことだけどね」
……俺たちの関係、気づかれてるのか?
いや、でも確証はない。
ただの勘ぐりかもしれないし。
でも――胸の奥に不安が引っかかった。
“BL設定”のはずが、本物の恋人同士だってバレたらまずくないか?
俺たちはアイドルだし、やっぱりそれぞれのファンは離れてくんじゃねぇの。
「純、どうしたの?」
「……え?」
直人が心配そうに覗き込んでくる。
顔に出てなくても、いつも一緒にいるからこそ、なんとなく雰囲気でわかるんだろう。
「……なんでもない」
反射で言ってしまった自分にちょっとイラッとする。
直人の前だと、素直になれない自分が嫌だ。
仕事が終わると、二人でタクシーに乗って直人の家へ向かう。
外の景色をぼんやり見ていると、沈黙が意外と落ち着く。
「純、今日、何食べたい?」
直人の声にハッとして、俺も現実に戻る。
「……お前が決めるんだろ、どうせ」
「うん。鍋にしよう。寒いし」
直人が笑いながら、そっと俺の手を握った。
「運転手さん、見てるだろ」
「大丈夫。ミラー越しじゃわかんないよ」
頷きながら、目を閉じた。
直人の手が俺の頭を抱き、肩に寄りかかる形になった。
ほんとは、周りを気にせずにくっついていられれば良かったんだけど。
そんなこと恥ずかしくて言えるわけない。
直人の家に着いて、一緒に料理を作る。
「純、ネギ切ってくれる?」
「わかった」
「切るの上手くなったね」
「いやこれくらい、前から出来るっつうの」
こういう時間が、最近増えた。
気づけば、当たり前になってるし。
食事を終えて、ソファでくつろぐ。
直人の肩に頭を預けると、髪を撫でられた。
……心地いい。
こいつは俺の心の中にどんどん入ってくるからタチが悪い。
「……なぁ、直人」
「ん?」
「俺たち、このままでいいのかな」
「どういうこと?」
「周りが気づき始めてる」
なるべく普通の声でそう言ったはずなのに、直人は困った表情になる。
「純は、怖い?」
その問いに、少し考える。
自分の気持ちがよくわからない。
「……わかんねぇ。でも、お前と離れたくはない」
そう言った瞬間、直人の目が優しくなった。
「俺も」
引き寄せられて、胸に顔を埋める形になる。
「何があっても、離さない」
その言葉が静かに染み込んでくる。
黙り込む俺を見て、直人がふっと笑った。
*
「二人とも、ちょっといい?」
翌日、マネージャーに呼ばれた。
声のトーンがいつもと違う。
その時点で、なんとなく察してしまう。
「はい」
廊下を歩きながら、直人と目が合った。
……意外と落ち着いてるな、こいつ。
俺の方が、たぶん顔に出てる。
個室に通されて、マネージャーと向かい合って座る。
一瞬の沈黙、重たい空気。
「……最近、二人の関係について、色々と噂が出てるんだ」
「噂、ですか?」
「うん。設定じゃなくて、本当に付き合ってるんじゃないかって……スタッフの間で、ちらほら」
やっぱりか。
隠してるつもりでも、隠しきれてなかったってことだ。
あの距離感もあの空気も。
たぶん、全部。
「あの、俺たちは――」
俺が言いかけた瞬間、直人が俺の手を握った。
「ダメなんですか?」
唐突な直球に、マネージャーが眉をひそめる。
「……直人、そういう話じゃ」
「付き合ってるのは事実です」
被せるように言う。
「それに、純は悪くない。全部俺の責任です」
「おいおい……」
「公表したいんです」
「ちょ、直人」
「隠しながら活動する方が、俺には無理です」
……こいつ。
こんなときまで、一直線かよ。
マネージャーは深くため息をついた。
額に手を当てて、首を振る。
「簡単な話じゃないぞ。仕事も、スポンサーも、世間も全部絡んでくる」
「それでもです」
直人は一歩も引かない。
マネージャーはもう一度、大きなため息。
「……覚悟はあるんだな?」
「はい」
「純は?」
視線がこっちに来て、心臓がドキッと跳ねた。
正直、めちゃくちゃ怖い。
仕事も立場もファンも、全部失う可能性だってある。
――でも。
握られた手の温度が、全部押し流した。
「……直人と、離れる気はありません」
それだけ言った。
マネージャーはしばらく黙ってから、小さく苦笑した。
「ほんと、扱いづらいコンビだな」
そして肩を落とす。
「……わかった。こっちで段取り組む。覚悟決めろよ」
「ありがとうございます」
直人が少しだけ安心した顔をした。
……やっぱり、こいつのことが大好きだ。
照れくさくて言葉にはできないけど。
言わなくてもたぶん、ちゃんと伝わってる。
――そして数日後、急遽開かれた記者会見。
控室でネクタイを直しながら、俺は大きく息を吐いた。
「緊張してる?」
隣の直人が、低い声で聞いてくる。
「……そりゃするだろ。人生で一番、人前で私事さらす日だぞ」
苦笑すると、直人は小さく笑った。
「大丈夫。俺が隣にいるから」
そう言って、そっと俺の手を握る。
本当は怖い。
何が起きるかなんて、わからない。
でも。
直人の体温があるだけで、立てる気がした。
スタッフがドアをノックする。
「お時間です」
俺と直人は顔を見合わせて、軽くうなずき合った。
「純くんと直人くん、ほんと仲いいよね」
スタイリストさんが笑顔で話しかけてくる。
「そうですね」
「うん。なんか、最近特に。すっごい親密っていうか」
その言葉に、心臓が早く打つ。
……やばい。
できるだけ自然に笑ったつもりだけど、顔が引きつってないか不安だ。
「気のせいじゃないですか?」
「そうかな? まぁ、仲がいいのはいいことだけどね」
……俺たちの関係、気づかれてるのか?
いや、でも確証はない。
ただの勘ぐりかもしれないし。
でも――胸の奥に不安が引っかかった。
“BL設定”のはずが、本物の恋人同士だってバレたらまずくないか?
俺たちはアイドルだし、やっぱりそれぞれのファンは離れてくんじゃねぇの。
「純、どうしたの?」
「……え?」
直人が心配そうに覗き込んでくる。
顔に出てなくても、いつも一緒にいるからこそ、なんとなく雰囲気でわかるんだろう。
「……なんでもない」
反射で言ってしまった自分にちょっとイラッとする。
直人の前だと、素直になれない自分が嫌だ。
仕事が終わると、二人でタクシーに乗って直人の家へ向かう。
外の景色をぼんやり見ていると、沈黙が意外と落ち着く。
「純、今日、何食べたい?」
直人の声にハッとして、俺も現実に戻る。
「……お前が決めるんだろ、どうせ」
「うん。鍋にしよう。寒いし」
直人が笑いながら、そっと俺の手を握った。
「運転手さん、見てるだろ」
「大丈夫。ミラー越しじゃわかんないよ」
頷きながら、目を閉じた。
直人の手が俺の頭を抱き、肩に寄りかかる形になった。
ほんとは、周りを気にせずにくっついていられれば良かったんだけど。
そんなこと恥ずかしくて言えるわけない。
直人の家に着いて、一緒に料理を作る。
「純、ネギ切ってくれる?」
「わかった」
「切るの上手くなったね」
「いやこれくらい、前から出来るっつうの」
こういう時間が、最近増えた。
気づけば、当たり前になってるし。
食事を終えて、ソファでくつろぐ。
直人の肩に頭を預けると、髪を撫でられた。
……心地いい。
こいつは俺の心の中にどんどん入ってくるからタチが悪い。
「……なぁ、直人」
「ん?」
「俺たち、このままでいいのかな」
「どういうこと?」
「周りが気づき始めてる」
なるべく普通の声でそう言ったはずなのに、直人は困った表情になる。
「純は、怖い?」
その問いに、少し考える。
自分の気持ちがよくわからない。
「……わかんねぇ。でも、お前と離れたくはない」
そう言った瞬間、直人の目が優しくなった。
「俺も」
引き寄せられて、胸に顔を埋める形になる。
「何があっても、離さない」
その言葉が静かに染み込んでくる。
黙り込む俺を見て、直人がふっと笑った。
*
「二人とも、ちょっといい?」
翌日、マネージャーに呼ばれた。
声のトーンがいつもと違う。
その時点で、なんとなく察してしまう。
「はい」
廊下を歩きながら、直人と目が合った。
……意外と落ち着いてるな、こいつ。
俺の方が、たぶん顔に出てる。
個室に通されて、マネージャーと向かい合って座る。
一瞬の沈黙、重たい空気。
「……最近、二人の関係について、色々と噂が出てるんだ」
「噂、ですか?」
「うん。設定じゃなくて、本当に付き合ってるんじゃないかって……スタッフの間で、ちらほら」
やっぱりか。
隠してるつもりでも、隠しきれてなかったってことだ。
あの距離感もあの空気も。
たぶん、全部。
「あの、俺たちは――」
俺が言いかけた瞬間、直人が俺の手を握った。
「ダメなんですか?」
唐突な直球に、マネージャーが眉をひそめる。
「……直人、そういう話じゃ」
「付き合ってるのは事実です」
被せるように言う。
「それに、純は悪くない。全部俺の責任です」
「おいおい……」
「公表したいんです」
「ちょ、直人」
「隠しながら活動する方が、俺には無理です」
……こいつ。
こんなときまで、一直線かよ。
マネージャーは深くため息をついた。
額に手を当てて、首を振る。
「簡単な話じゃないぞ。仕事も、スポンサーも、世間も全部絡んでくる」
「それでもです」
直人は一歩も引かない。
マネージャーはもう一度、大きなため息。
「……覚悟はあるんだな?」
「はい」
「純は?」
視線がこっちに来て、心臓がドキッと跳ねた。
正直、めちゃくちゃ怖い。
仕事も立場もファンも、全部失う可能性だってある。
――でも。
握られた手の温度が、全部押し流した。
「……直人と、離れる気はありません」
それだけ言った。
マネージャーはしばらく黙ってから、小さく苦笑した。
「ほんと、扱いづらいコンビだな」
そして肩を落とす。
「……わかった。こっちで段取り組む。覚悟決めろよ」
「ありがとうございます」
直人が少しだけ安心した顔をした。
……やっぱり、こいつのことが大好きだ。
照れくさくて言葉にはできないけど。
言わなくてもたぶん、ちゃんと伝わってる。
――そして数日後、急遽開かれた記者会見。
控室でネクタイを直しながら、俺は大きく息を吐いた。
「緊張してる?」
隣の直人が、低い声で聞いてくる。
「……そりゃするだろ。人生で一番、人前で私事さらす日だぞ」
苦笑すると、直人は小さく笑った。
「大丈夫。俺が隣にいるから」
そう言って、そっと俺の手を握る。
本当は怖い。
何が起きるかなんて、わからない。
でも。
直人の体温があるだけで、立てる気がした。
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「お時間です」
俺と直人は顔を見合わせて、軽くうなずき合った。
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