【完結】俺の相方、実は甘々執着系でした~BLアイドルの溺愛日常~

砂原紗藍

文字の大きさ
23 / 23
エピローグ

ステージの外では、相方が甘すぎた

会場に入った瞬間、空気が変わった。

フラッシュの光。ざわつく声。
無数の視線。

……うわ、無理。

席に座ると、直人がさりげなく俺の椅子に近づいてきた。
それだけで、少し呼吸が楽になる。

マネージャーが軽く咳払いをして、会見が始まった。

「本日はお集まりいただきありがとうございます。本日は、二人の関係についてご報告があります」

直人は一度俺を見てから、まっすぐ前を向いた。

「俺たちは、お付き合いしています」

空気が止まった。
次の瞬間、シャッター音が一斉に弾ける。

「仕事としてのBLユニットではなく、一人の人間として惹かれました。隠すつもりも、誤魔化すつもりもありません」

淡々としてるのに、言葉が重い。

「純は、俺にとって唯一の存在です」

……ちょっと待て。
ここ会見だぞ。

耳が熱くなるのがはっきりわかる。

俺は深く息を吸って、ようやくマイクを握った。

「……全部、直人の言う通りです」

質問は、待ってましたとばかりに飛んでくる。

「いつからですか?」
「きっかけは?」
「ファンの反応についてどう思われますか?」
「ユニットは続けるんですか?」

横を見ると、マネージャーが額を押さえてる。

……ほら、言っただろ、って顔。

直人と視線を交わしながら、一つずつ答える。

「これからも仕事は真剣にやります。ファンの皆さんを大事にする気持ちも変わりません。ただ――俺たちは、本気です」

最後の直人の一言で、場の空気が変わった気がした。



全部終わって控室に戻った瞬間、力が抜けてソファに座り込む。

「はぁ……終わった……」

直人が隣に腰を下ろす。

「よく頑張ったね」
「お前もな」

肩にもたれると、直人は自然に受け止めてくれた。

マネージャーが腕を組んでため息。

「だから言っただろ。地獄みたいになるって」
「でも止めなかったじゃないですか」
「止められるわけないだろ。もう後戻りできないからな。腹括れよ」

直人が即答する。

「とっくに括ってます。なぁ、純」
「ん?」
「もしもファンが減ったらさ、そのときは二人でやり直せばいいでしょ」
「……ああ」

控室で少し落ち着いてから、スマホを開く。
通知の数が、異常だった。

「うわ……」

画面いっぱいに並ぶタグとコメント。

炎上してるかもしれないって一瞬身構えたけど、目に入ってきたのは――。

《設定じゃなくて本物だったの尊い》
《勇気出してくれてありがとう》
《ずっと応援する》
《二人が幸せならそれでいい》

……え。

思ってたのと、違うよな。

「直人……」

隣を見ると、直人もスマホを見ていて、少しだけ目を丸くしていた。

「……増えてるね。カップル推し」
「離れてくと思ってたんだけどな」
「俺も」

顔を見合わせて、同時に小さく笑った。
怖かったのは、きっと俺だけじゃない。

「良かった」

直人が俺の頭をぽん、と軽く叩く。

「ちゃんと受け止めてもらえてる」
「……だな」

俺たち、思ってたより愛されてたらしい。



――それから数週間後。

白々とした朝日が昇りはじめて、ベッドの上で思わず目を細めた。
カーテンの隙間から、遠慮なしに光が差し込んでくる。

まぶし……。

そう思いながら隣をちらっと見る。
同じ光を浴びて、まだぼんやりした顔の直人。

「純、そろそろ起きないと」
「んー……あと五分……」

自分でも驚くくらい、素直に甘えた声が出た。

こうして朝を迎えるのが、もう当たり前になっている。
……というか、ほぼ同棲。

今は直人の腕に包まれていて、その体温が心地よすぎて現実感が薄れる。

昔なら、こんな距離感、落ち着かなかったはずなのに。

「このままだと遅刻するね」
「だな……起きるか」

ベッドの上で重なっていた体をそっと離して、名残惜しさを振り切るように立ち上がる。

着替えながら、ふと視線を感じて振り向いた。

……やっぱり見てる。

「なんだよ」
「純の寝顔、もうちょっと見たかったな」
「……っ、バカ」

そう返しながら、頬が熱くなるのが自分でもわかる。

トースターの音と、フライパンの軽い音。
気づけば、こういう朝もすっかり日常だ。

「ほら、朝飯できたぞ」

トーストとスクランブルエッグを差し出す。

「お、純の手料理」
「……別に、大したもんじゃねぇし」

そう言った瞬間、後ろから抱きしめられる。

「ちょ、食えないだろ」
「でも純の方が美味しそう」
「意味わかんねぇ!」

……ほんと、こういうとこ。

でも。
直人の腕の温度に、少しだけ力が抜けた。

結局俺は、こうやって簡単に絆される。
それが悔しくて、それでも嫌じゃない自分が、もっと悔しい。

「なぁ、直人」
「ん?」
「お前……甘すぎる」

直人は一瞬きょとんとしてから、優しく笑った。

「俺ね、純が側にいるから幸せなんだ」

真っ直ぐ言われて、言葉に詰まる。

「……そっか」
「純は?」
「悪くない……」

我ながら可愛くない返事。

「それって、幸せってこと?」
「……ああ、幸せ」

小さく認めた瞬間、抱き寄せられた。
胸に押し付けられて、耳まで熱くなる。

「俺だって……直人のこと大事に思ってるから。辛いときはちゃんと言えよ」

直人は一瞬だけ目を細めて、それから安心したみたいに微笑んだ。

「ありがとう。でも俺はもう十分。純がいるだけで満たされてる」

そのまま、囁くように続く。

「純の好きなものも嫌いなものも。体調の変化も、スケジュールも。全部、俺が把握してる」
「……なんか、監視されてる気分」
「愛されてる、の間違いでしょ?」
「……バカ」

……ほんと重い。
普通なら引くところだ。

でも、むしろ守られてる感覚の方が強い。

距離が縮まって、自然に唇が重なる。
確かめ合うみたいに、何度も。

この腕の中が一番落ち着くなんて、もう認めるしかなかった。



ステージ袖で、俺は深く息を吸った。

横を見ると、直人は相変わらず落ち着いた顔をしている。

「今日も……いい感じだな」
「うん。純がいるから」

誰もいないのを確認して、短いキスを交わす。

「これからも、よろしくね」
「……ああ」
「行こう」

二人並んでステージ中央へ。

「直人ー!」
「純ー!」
「おめでとうー!」

無数のペンライトが揺れて、歓声が押し寄せる。 

俺たちは、相変わらずBLユニットとして立っている。

でも――もう、演技じゃない。

歌い出すと、不思議なくらい身体が軽かった。

曲の合間、直人が俺を見る。
その目が怖いくらい真っ直ぐで。

ステージの上で肩が触れた瞬間、腰に回された手がきゅっと力を込めた。

「純は俺のだから」

マイクに入らないくらいの声。

……やっぱり重い。

でも、その腕から逃げようなんて思えなかった。

最後の曲が終わって、深く頭を下げる。
割れんばかりの拍手。

ステージ袖に戻ると、直人は何も言わずに俺の手首を掴んだ。

「ちょ、直人」
「離さない」

控室に入るなり、抱き寄せられる。

「ファンがいても、仕事があっても、純は俺の。そこは変わらないから」

逃げ道なんて、とっくに塞がれてた。

腕の中はあったかくて、居心地が良すぎて。
気づけば、俺の方から服を掴んでいた。

「……責任取れよ」
「取るよ。一生」

――重たいのに、甘い。

顔を埋めると、直人の指が髪を撫でる。

「純は強気な顔してるくせに、俺の前じゃ全部許すよね」
「うるせぇ……」

でも否定できない。
俺はもう、直人のいない生活なんて考えられない。

ステージの上でも、ベッドの上でも。
仕事でも、プライベートでも。

全部、直人に持っていかれてる。

……終わったな、俺。

最初はビジネスで、ただの設定だった。

それなのに。
気づけば心ごと掴まれて、離れられなくなってた。

「なぁ、直人」
「ん?」
「……俺、もう逃げないから」

直人は少し驚いたあと、嬉しそうに笑った。

「最初から逃がす気なかったけど」

そう言って、額にキス。

俺の相方は、甘々で。
重くて。
独占欲の塊で。

そして。

俺はもう、完全に堕ちてる。




End.

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

愛を感じないのに絶対に別れたくないイケメン俳優VS釣り合わないので絶対に別れたい平凡な俺

スノウマン(ユッキー)
BL
 平凡顔・ヒモ・家事能力無しの黒は、恋人であるイケメン俳優の九条迅と別れたがっている。それは周りから釣り合ってないと言われたり、お前の事を愛してない人間なんて止めておけと忠告されたからだ。だが何度黒が別れようとしても、迅は首を縦に振らない。  迅の弟である疾風は、兄は黒の事を特別扱いしてると言うが――。黒は果たして迅と別れることが出来るのか!?

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

束縛彼氏から逃げたのに、執着が想像以上に重すぎた

鱗。
BL
愛されても、満たされない。 それでも彼は、相手を手放さない。 空虚な社会人、湊と。 彼に執着する、後輩の悠真。 そして二人の関係を見抜く占い師、榊。 三人の想いは交錯し、やがて静かに壊れていく。 選ばれるのは、愛か、それとも支配か。 ——誰のものにもならない男が、最後に選んだのは。 歪んだまま成立する、逃げ場のない関係。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話

ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生 Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158 ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/ fujossy https://fujossy.jp/books/31185