【完結】クズ御曹司に嵌められた俺が、スパダリ社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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【第一章】住む場所も仕事も、ゼロからの一歩

1.失くした居場所と、見つけた人

倉城家を出て、どのくらい経ったんだろう。
リュックひとつを背負って、当てもなく歩く。

行く場所は、ない。
お金もほとんど残っていない。

「……笑えない」

暗くなった街をふらふら歩きながら、頭の中が真っ白になっていく。

健人のこと。身に覚えのない濡れ衣のこと。
全部がぐちゃぐちゃに混ざって、考えがまとまらない。

「……疲れた」

小さく呟いて立ち止まると、視界が少し揺れた。

あれ。
体が、妙に重い。
足が前に出ない。

「やば……」

膝が、がくんと折れる。

――あ、倒れる。

そう思った瞬間、視界が傾いた。

地面に叩きつけられる――その直前、誰かの腕に支えられた。

「君、大丈夫?」

低くて、落ち着いた声。
顔を上げようとするが、力が入らない。

「……すみま、せん」

それだけ言うのが精一杯だった。
意識が、ゆっくり遠のいていく。





目を覚ました瞬間、最初に感じたのは――ぬくもりだった。

え……?

体を起こそうとして、動けないことに気づいた。
背中に回された腕。胸元に押し寄せる体温。

――だ、抱きしめられてる。

心臓が、どくんと大きく跳ねる。

誰かわからない男性の腕の中。
密着した体。呼吸が、すぐそばで聞こえる。

な、なんで……?

混乱しながらそっと顔を上げると、男性の横顔があった。

思わず息を呑む。

やば……。
まさか、ワンナイトしちゃった……?

そう思った瞬間、頭の奥がズキリと痛んだ。
記憶を辿ろうとするけど、倒れた後のことがまるで思い出せない。

慌てて距離を取ろうとした、その時。

「……ん」

低い声。
男性がゆっくりと目を開く。
視線が絡んで、空気が止まった。

「……っ」

……綺麗な顔。
寝起きなのに、整いすぎてる。
瞳が、じっとこちらを見つめている。

「……うわ、かっこいい」

場違いな感想が口から出た。

「え? あ、俺?」

照れてるのか驚いてるのか、目を丸くしている。
それを見てふと我に返る。

なんでこんなイケメンさんが目の前にいるんだろう。

その瞬間、ようやく状況を思い出そうとして、視界を動かす。

白い天井。
包み込むみたいに柔らかいベッド。
暖かい毛布。
ホテルみたいに整った、無駄のないインテリア。

……ここ、どこ……?

一気に現実が押し寄せてくる。

「気分はどう?」

低い声に、心臓がどきりと鳴った。

「どこか痛いとこはない?」

心配そうに覗き込まれて、胸がぎゅっとなる。

「え……?」

反射的に上体を起こして、自分の体を確認する。
シャツのボタンを外して胸元を触る。

……大丈夫。
打った感じもない。

視線を下に落として、ズボンを少しずらす。

よかった、何かあった形跡はなさそう。

そんな俺の様子を見て、この人は小さく息をついた。

「……何もしてないよ。安心して」

イケメンさんは口元を押さえて視線を逸らした。

「え?」

はだけたシャツに気づいて、慌てる。

やば……。

「あっ……すみません……」
「うん」

急いでシャツを整える俺に、イケメンさんがふわっと笑った。
その表情に、また心臓が跳ねる。

「あ、あの……ここ……」
「俺のマンション。倒れたから、連れてきた」

……マンション?
ここが?
この広さで?

「……あなたが助けてくれたんだ。ありがとうございます」

知らない人なのに。
それなのに、こうしてベッドで休ませてもらってる。

「いや。休ませてあげられる場所が、ここしかなくてさ」

視線を巡らせると、改めて目に入る室内。

……完全に、お金持ちの部屋だよね。

こんな場所に俺みたいなのがいていいのか、急に不安になる。

「いえ、助けていただいて……ありがとうございました」

掠れた声が、自分でも驚くほど小さい。

「俺は掛水涼。よろしく」
「折井颯太です……」

慌てて深く頭を下げる。
そのまま顔を上げると、涼さんがじっと俺を見ていた。
探るような、考え込むような視線。

……なにか、変なとこあったかな。

「とりあえず、身支度整えよう」

その一言で、少しだけ緊張が解けた。

「あっちが風呂場ね。これタオルと着替え。ゆっくりしてきな」

差し出された服を受け取る。

「……はい」

短く返事をして、浴室へ向かう。

涼さん、か。
本当にかっこいいし、命の恩人かも。

シャワーを浴びながら、温かいお湯に包まれて、ようやく実感が追いついてくる。

助けてもらったんだ。せめて、ちゃんとお礼しないと。
俺にできること、何かないかなぁ……。


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