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【第二章】拾われ男子、スパダリ社長に囲われ中
3.結論はもう出ている
side 掛水 涼
目を覚ますと、キッチンの方から漂ってくる匂いで、自然と意識が浮上した。
「……颯太」
ベッドを抜けてリビングへ向かうと、案の定、キッチンにエプロン姿の颯太が立っていた。
「おはようございます」
振り向いて向けられる笑顔。
それだけで、胸の奥の力がふっと抜ける。
「おはよう」
ソファに腰を下ろし、料理する颯太を眺める。
卵焼きを巻く手つきは綺麗で無駄がない。
料理は相変わらず美味しい。
派手じゃないけど、毎日ちゃんと違う。
魚は丁寧に焼かれていて、炊き立てのご飯と、出汁の香りがする味噌汁。
部屋はいつも整っている。
シャツにはきれいにアイロンがかかっていて、仕事から帰れば温かい夕飯が待っている。
颯太は俺の家に“生活”だけじゃなく、確実に“温もり”を持ち込んでくれた。
そしてそれはもう――
気づかないふりができないくらい、俺の日常に根付いている。
「朝ごはんにしましょう」
「うん。いただきます」
卵焼きを一口。
……ほんのり甘くて、うまい。
「俺の好み、ど真ん中だね」
「あはは。そうなんですか」
「うん、今日もありがとう」
「いえ。どういたしまして」
こんな顔で笑われたら、嫌でも思う。
――この子を、“他人”に戻したくないな。
ふとスマホを見ると、和真からメッセージが入っていた。
『颯太くんの件、続報あり』
胸の奥が、ざわりと波立った。
『倉城健人、24歳。倉城家の一人息子。過去に複数のハラスメント疑惑』
……やっぱりな。
嫌な予感が確信に変わった。
怒りより先に、胸の奥が冷えていく。
テーブルの向こうでは颯太が朝食の片付けをしている。
食器を丁寧に洗って、拭いて、揃えて棚に戻す。
誠実で、控えめで。
誰かの役に立つことを、疑いなく当たり前だと思っている。
……こんな子が、使い捨てみたいに扱われていいわけがない。
「涼さん?」
振り向いた颯太が不思議そうに首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「……颯太」
「はい」
「今日で試用期間、終わりだけど……夕飯のあとに話したいことがあるんだ」
颯太の手が止まる。
「……え?」
一瞬、言葉を失ったあと、小さく息を吸った。
「話……ですか」
「うん。ちゃんと、伝えたいこと」
「わかりました」
颯太は少し不安そうにしながらも、頷いた。
「行ってくるね」
「いってらっしゃい。気をつけて」
ドアが閉まる音を背中で聞きながら、スマホをポケットにしまう。
……今夜。ちゃんと、話そう。
*
「おはよう、涼」
「おはよう」
「涼? どうした」
「颯太、完璧だった」
「だろうね」
和真の声が、少し楽しそうだ。
「ソファの財布は連絡くれたし、封筒も開けなかったし」
「そうか。でもさ、普通ちょっとくらい見たくなるだろ? 財布の中身とか、書類の内容とか」
「颯太は、そういうことしない」
「どこから来るんだろうな、その自信は」
少し考えてから、答える。
「根拠なんかないよ。でも、あの子の目を見てれば分かる」
論理でも経歴でもない。
書類の数字でもない。
颯太が向けてくる、あの真っ直ぐな視線。
それだけで十分だった。
理由が崩れたら消えるものは、自信とは言わない。
俺の中にあるのは、“信じたい”じゃなく、“信じられる”って感覚だ。
それに、説明なんていらない。
資料を閉じると、和真がにやにやしながら言う。
「涼、最初から信じてたくせに」
「……まあな。でも、確信は欲しかったし」
「分かるよ。涼は慎重だから」
慎重――それはつまり、失うのが怖いってこと。
「でさ、倉城健人の行動パターンなんだけど。気に入った相手に執着して、拒まれると嫌がらせをする。颯太くんも、その被害者の可能性が高い」
「根拠は?」
「倉城家で働いてたハウスキーパー、過去に五人。全員、窃盗の疑いをかけられて解雇されてる」
「……全員?」
「うん。颯太くんも、多分嵌められたんだと思う」
……最低だ。
胸の奥に、鈍い痛みが広がった。
和真が資料をめくりながら続ける。
「颯太くん、住み込みで雇われてるだろ。逃げ場がない状況を作られて、じわじわと追い詰められてたんじゃないかな」
拳が、静かに握られた。
「……颯太は半年間、そんな環境にいたのか」
「ああ。詳しいことは本人から聞かないと分からないけど、相当きつかったと思う。前職の話になると顔、強張るだろ?」
脳裏に浮かぶ、視線を伏せる癖。
「対等に扱われることに慣れてないんだな」
「うん。雑に扱われるのが当たり前だったんじゃない?」
それなら尚更。
俺はあの子にそんな思いはさせない。
「で、告白するの?」
「告白って……」
「“実は試してました”って」
「……ああ。それは、する」
颯太にはちゃんと伝える。
試したことも、本当は最初から疑ってなかったことも。
そして――。
「涼、それ完全に惚れてる目だから」
「ん?」
「あの子のこと、好きなんだろ?」
図星を突かれて、言葉に詰まる。
和真が意味ありげに笑った。
「否定しないんだ」
「できない」
正直に答えると、和真が笑った。
「素直でよろしい」
「うるさい」
立ち上がって、コーヒーを淹れる。
「倉城健人の現在の動向は?」
「週三でクラブ通い。あと、颯太くんのSNSアカウントを探してるらしい」
「……諦めてないのか」
胸の奥で、颯太への想いが確かに膨らんでいる。
守りたい。
そばにいてほしい。
あの子のいない部屋は、もう想像できなかった。
「涼、顔に出てるぞ」
「……黙れって」
和真の笑い声が、静かなオフィスに響いた。
カップを手に取る。
“颯太くん、多分嵌められたんだと思う”
その言葉が、まだ胸に残っている。
もし本当なら――
倉城健人は、絶対に許さない。
目を覚ますと、キッチンの方から漂ってくる匂いで、自然と意識が浮上した。
「……颯太」
ベッドを抜けてリビングへ向かうと、案の定、キッチンにエプロン姿の颯太が立っていた。
「おはようございます」
振り向いて向けられる笑顔。
それだけで、胸の奥の力がふっと抜ける。
「おはよう」
ソファに腰を下ろし、料理する颯太を眺める。
卵焼きを巻く手つきは綺麗で無駄がない。
料理は相変わらず美味しい。
派手じゃないけど、毎日ちゃんと違う。
魚は丁寧に焼かれていて、炊き立てのご飯と、出汁の香りがする味噌汁。
部屋はいつも整っている。
シャツにはきれいにアイロンがかかっていて、仕事から帰れば温かい夕飯が待っている。
颯太は俺の家に“生活”だけじゃなく、確実に“温もり”を持ち込んでくれた。
そしてそれはもう――
気づかないふりができないくらい、俺の日常に根付いている。
「朝ごはんにしましょう」
「うん。いただきます」
卵焼きを一口。
……ほんのり甘くて、うまい。
「俺の好み、ど真ん中だね」
「あはは。そうなんですか」
「うん、今日もありがとう」
「いえ。どういたしまして」
こんな顔で笑われたら、嫌でも思う。
――この子を、“他人”に戻したくないな。
ふとスマホを見ると、和真からメッセージが入っていた。
『颯太くんの件、続報あり』
胸の奥が、ざわりと波立った。
『倉城健人、24歳。倉城家の一人息子。過去に複数のハラスメント疑惑』
……やっぱりな。
嫌な予感が確信に変わった。
怒りより先に、胸の奥が冷えていく。
テーブルの向こうでは颯太が朝食の片付けをしている。
食器を丁寧に洗って、拭いて、揃えて棚に戻す。
誠実で、控えめで。
誰かの役に立つことを、疑いなく当たり前だと思っている。
……こんな子が、使い捨てみたいに扱われていいわけがない。
「涼さん?」
振り向いた颯太が不思議そうに首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「……颯太」
「はい」
「今日で試用期間、終わりだけど……夕飯のあとに話したいことがあるんだ」
颯太の手が止まる。
「……え?」
一瞬、言葉を失ったあと、小さく息を吸った。
「話……ですか」
「うん。ちゃんと、伝えたいこと」
「わかりました」
颯太は少し不安そうにしながらも、頷いた。
「行ってくるね」
「いってらっしゃい。気をつけて」
ドアが閉まる音を背中で聞きながら、スマホをポケットにしまう。
……今夜。ちゃんと、話そう。
*
「おはよう、涼」
「おはよう」
「涼? どうした」
「颯太、完璧だった」
「だろうね」
和真の声が、少し楽しそうだ。
「ソファの財布は連絡くれたし、封筒も開けなかったし」
「そうか。でもさ、普通ちょっとくらい見たくなるだろ? 財布の中身とか、書類の内容とか」
「颯太は、そういうことしない」
「どこから来るんだろうな、その自信は」
少し考えてから、答える。
「根拠なんかないよ。でも、あの子の目を見てれば分かる」
論理でも経歴でもない。
書類の数字でもない。
颯太が向けてくる、あの真っ直ぐな視線。
それだけで十分だった。
理由が崩れたら消えるものは、自信とは言わない。
俺の中にあるのは、“信じたい”じゃなく、“信じられる”って感覚だ。
それに、説明なんていらない。
資料を閉じると、和真がにやにやしながら言う。
「涼、最初から信じてたくせに」
「……まあな。でも、確信は欲しかったし」
「分かるよ。涼は慎重だから」
慎重――それはつまり、失うのが怖いってこと。
「でさ、倉城健人の行動パターンなんだけど。気に入った相手に執着して、拒まれると嫌がらせをする。颯太くんも、その被害者の可能性が高い」
「根拠は?」
「倉城家で働いてたハウスキーパー、過去に五人。全員、窃盗の疑いをかけられて解雇されてる」
「……全員?」
「うん。颯太くんも、多分嵌められたんだと思う」
……最低だ。
胸の奥に、鈍い痛みが広がった。
和真が資料をめくりながら続ける。
「颯太くん、住み込みで雇われてるだろ。逃げ場がない状況を作られて、じわじわと追い詰められてたんじゃないかな」
拳が、静かに握られた。
「……颯太は半年間、そんな環境にいたのか」
「ああ。詳しいことは本人から聞かないと分からないけど、相当きつかったと思う。前職の話になると顔、強張るだろ?」
脳裏に浮かぶ、視線を伏せる癖。
「対等に扱われることに慣れてないんだな」
「うん。雑に扱われるのが当たり前だったんじゃない?」
それなら尚更。
俺はあの子にそんな思いはさせない。
「で、告白するの?」
「告白って……」
「“実は試してました”って」
「……ああ。それは、する」
颯太にはちゃんと伝える。
試したことも、本当は最初から疑ってなかったことも。
そして――。
「涼、それ完全に惚れてる目だから」
「ん?」
「あの子のこと、好きなんだろ?」
図星を突かれて、言葉に詰まる。
和真が意味ありげに笑った。
「否定しないんだ」
「できない」
正直に答えると、和真が笑った。
「素直でよろしい」
「うるさい」
立ち上がって、コーヒーを淹れる。
「倉城健人の現在の動向は?」
「週三でクラブ通い。あと、颯太くんのSNSアカウントを探してるらしい」
「……諦めてないのか」
胸の奥で、颯太への想いが確かに膨らんでいる。
守りたい。
そばにいてほしい。
あの子のいない部屋は、もう想像できなかった。
「涼、顔に出てるぞ」
「……黙れって」
和真の笑い声が、静かなオフィスに響いた。
カップを手に取る。
“颯太くん、多分嵌められたんだと思う”
その言葉が、まだ胸に残っている。
もし本当なら――
倉城健人は、絶対に許さない。
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