【完結】クズ御曹司に嵌められた俺が、スパダリ社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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【第三章】さよなら過去、こんにちは未来

3.あなたからのお守り

床に落ちたスマホの画面が光ってる。
着信履歴とメールの通知が点滅を繰り返している。

「颯太」

涼の手が肩に触れた瞬間、少しだけ現実に引き戻される。

「何かあった?」

心配してくれてる。
……言わなきゃダメだよな。

でも、俺の過去のことで涼に迷惑はかけられない。
それにせっかく安心できる場所を見つけたのに、また面倒事を持ち込むなんて。

「颯太、教えて」

優しい声が、逆に胸に突き刺さる。

“なんでもない”
そう言おうとしたのに、声が出なかった。
涼が床に落ちたスマホを拾い上げる。

画面が二人の間で光り、健人からの着信履歴が全てを語っていた。
メールの通知も並んでて、涼の表情が硬くなった。

「……健人だね」
「うん」

小さく答えると、涼の表情が変わった。
怒ってる。
でも、俺にじゃない。

「何て言ってきたの?」

スマホを俺に返しながら問いかけてくる。

「……まだ見てない」
「じゃあ、一緒に見よう」

涼が隣に座り、その温もりが少しだけ心を落ち着かせてくれる。
スマホを開いてメールアプリを立ち上げると、健人からのメッセージがいくつも並んでいた。

『颯太、本当にごめん』
『両親があの日のことを知って、颯太に謝罪したいと言っている』
『窃盗の件も誤解だったと父が認めた』
『弁護士を通してもいいけど、直接話したい』
『颯太の名誉を回復させたい』

……え? 
本当に?

「颯太。これ、罠だよ」

罠?
断言する涼の声は、いつになく冷たかった。

「え……でも」
「健人が本当に反省してると思う?」

涼が真っ直ぐ俺を見つめてくる。

「わからない。でも、弁護士って言ってるし……」

言いかけると、涼の表情が少しだけ柔らかくなった。

「颯太は素直だね。でも俺は、信じない。健人は颯太を利用しようとしてる」

やっぱりそうなのかな。
でも、涼は簡単に人を信用しないって言ってたし。

……もし本当に謝罪してくれるなら。
俺の名誉が回復するなら――

「颯太、健人たちに会いに行くつもり?」
「会いたくない。でも、もし本当に謝りたいなら……」

拒否したら、それこそ俺が悪い人間になってしまう気がする。

「じゃあ俺も一緒に行くよ。颯太一人で行かせない」
「ううん。これは俺の問題だから」
「颯太の問題は俺の問題でもあるよ」

そんなこと言われたら、心が揺れる。
でもダメだ。
これ以上、涼に迷惑はかけたくない。

「大丈夫。一人で行く」
「颯太……」
「涼は仕事もあるし、忙しいでしょ」

視線を逸らしたまま言葉を重ねる。

「それに俺、子供じゃないから」
「……わかった」

静かに答える涼の声に、少しだけ罪悪感が湧く。

「でも、必ず人の多い場所で会って。何かあったらすぐに連絡して」
「うん」

頷いた瞬間、涼がぎゅっと抱きしめてくれた。
その腕の中で、そっと目を閉じる。

本当は一緒に来てほしい。
だけど、これは俺が自分で決着をつけなきゃいけないことだから。



翌朝。
昨夜、健人からのメールに返信して、ご両親とカフェで会う約束をした。
涼は今日も仕事だ。

「颯太、本当に大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「何かあったら、必ず連絡して。絶対に健人と二人きりになっちゃダメだよ」

真剣な表情で、何度も念を押してくる。

「わかってるよ」
「……うん。あ、颯太」
「なに?」
「出かけるとき、俺が選んだあのジャケット着ていって。お守りだと思って」
「わかった」
「うん。あ、それと……何時にどこで会うか、教えてくれる?」
「え? でも――」
「心配だから。場所だけでも知っておきたい」
「……うん」

涼にカフェの場所と時間を伝えると、少し安心したような表情を見せた。

「じゃあ、くれぐれも気をつけてね。行ってきます」
「行ってらっしゃい」

涼はそう言って出て行った。
ドアが閉まって一人になると、急に部屋が広く感じる。

「……大丈夫」

自分に言い聞かせて、涼が言っていたジャケットに手を伸ばす。

一緒に出かけた時に買ってくれたんだよね。
涼が選んだだけあってサイズも色味も俺にぴったりだ。

……お守り、か。
たしかに、なんとなく安心感があるかも。

カフェの場所、待ち合わせの時間。
もう一度確認しようとスマホを見ると、涼からメッセージが届いていた。

『何かあったら、すぐに連絡してね』

……ありがとう、涼。


カフェに着くと、窓際の席に健人が座っていた。

あれ、一人……?

深呼吸して向かいの席に座ると、健人が表情を緩めた。

「颯太、久しぶりだね」

この顔を見ると、色々なことを思い出してしまう。

「……はい。あの、ご両親は……」
「ん? ああ、ちょっと用事できちゃって来れなくなったんだ」

その言葉に、少しだけ違和感を覚える。

……用事?
おかしいじゃん。
メールには「両親が謝罪したい」って書いてあったのに。
でも、もしかしたら本当に急な用事だったのかも。

「俺が代わりに謝るよ。窃盗の件も、誤解だったって父さんが認めた。写真も動画も消したし」

その言葉に、少しだけ胸が揺れる。

「だからさ、うちに戻ってきてほしいんだよね」
「え……?」
「颯太がいないと、家の中がぐちゃぐちゃでさ。颯太の料理もまた食べたいしな。な、作ってくれよ」

……何それ。
話、違くない?
今日は謝罪のために来たんだよね?

「あの、窃盗疑惑の件、謝罪するって……」
「ん? ああ、それは後日でいいじゃん。まずは颯太が戻ってきてくれれば」

その瞬間、何かが引っかかった。

本当に謝罪したいなら、両親のどちらかでも来るはずだ。
なのに、謝罪より先に「戻ってこい」って、何……。

「俺はもう戻りません」

はっきり答えると、健人の笑みが消えた。

「……そういえばさぁ。俺の知り合いに会ったらしいな」
「え?」

あの、街で絡んできた男たちか。
……思い出したくもないけど。

「で、今どこで働いてるわけ?」
「……それは」
「新しい雇い主がいるんだろ?」

健人が少しだけ身を乗り出してくる。
テーブル越しなのに、息がかかりそうなくらい顔を近づけてくる。

「そいつ、金持ってんの?」
「は?」
「颯太、前より綺麗になってるし、服もいいもん着てんじゃん」

上から下まで舐めるように見る健人の視線が、気持ち悪い。

「でも、俺のほうが金持ってるからな。早く戻って来いよ。なんなら付き合ってやってもいいぜ?」
「断ります」
「なんで? 俺は倉城家の跡取りだ。お前みたいな奴が俺と付き合えるなんて光栄だろ」

その言い方に吐き気がする。
上から目線の口調も、何も変わっていなかった。

「颯太。お前も楽しんでたんじゃねぇの?」
「は?」
「ほら、嫌がってないし」

見せられたスマホの写真に、息が一瞬止まった。

「なんで……さっき、消したって……」
「嘘に決まってんじゃん。こんな可愛い写真、消すわけないだろ」
「……っ」

声を落とし、周囲に聞こえないように囁いてくる。

「むしろさ、お前が俺のこと訴えたら、これネットにばら撒くけど?」

酷い。完全に、脅迫じゃん……!

「そしたら颯太、恥ずかしくて生きていけないよねー」

……悔しい。

得意げに笑う健人の顔を見て、涼の言葉を思い出す。

『これ、罠だよ』

……そうだ。涼の言う通りだった。
健人は最初から俺を陥れるつもりで呼び出したんだ。

「黙って戻ってこいよ。颯太は俺のこと好きだったんだろ? だから従ってたんじゃないの?」

その言葉に、怒りが湧き上がる。

「違う、そんなんじゃない!」

思わず声が漏れ、周囲の視線が一瞬集まる。

「おい、声でかいってー」

笑いながら手を振る健人の態度に、さらに怒りが熱を帯びる。

「じゃあさ、なんで俺の言うこと聞いてたの? 嫌なら断ればよかったじゃん」

答えられない。
……クビになりたくなかったから。
生活できなくなるのが怖かった。
でも、それを言えば、きっとこいつはこう言う。
“じゃあ合意だ”って。

「ほら、答えられないじゃん」

悔しい。なんで……。
言葉が出ない。

「そうやって“断れない状況”を作ったのは誰?」

その声に、心臓が跳ねた。

え……?

聞き覚えのある、低い声。
振り返ると――スーツ姿の涼が立っていた。

なんで、ここに? 
仕事は――

「涼……!」

涼の手が、俺の肩にそっと触れた。

「颯太、もう大丈夫」

その声は優しくて、でも健人を見る目は冷たかった。
張り詰めていたものが緩みそうになる。

「う、うん……」

涼は俺の隣に腰を下ろすと、ゆっくりと健人へ視線を向ける。

「君が、倉城健人?」

冷えた声だった。
涼がこんな声を出すのを、初めて聞いた。

「は? お前誰だよ」

健人がわずかに動揺を見せる。

「颯太を守る人」

その一言が、胸の奥に静かに沁みた。


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