【完結】クズ御曹司に嵌められた俺が、スパダリ社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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【第三章】さよなら過去、こんにちは未来

2.寂しくて、我慢できなくて

side 折井颯太

朝、目が覚めた。
隣に誰もいない。

……あ、そっか。
昨日から別々に寝たんだった。
涼は、俺が疲れてるからゆっくり休んでほしいって言ってたけど――温もりがちょっと恋しい。

涼の腕の中で眠るのが好きだったから。
やっぱり、一緒に寝たかったな。

頭を振って考えを打ち消す。

「よし」

キッチンに立って、朝ご飯の準備を始める。

涼の好きなものを作ろう。
涼が喜んでくれるならそれでいいや。

冷蔵庫を開けると、鶏肉と野菜、卵。

……親子丼にしようかな。

たしか、涼が好きだと言っていた。
それだけで決めてしまう自分に、少しだけ苦笑する。
雇い主の好みに合わせるのは、ハウスキーパーとして当然だからね。

……いや、嘘だ。
それだけじゃない。

涼の喜ぶ顔が見たい。
その気持ちは仕事の範囲を越えているような気がする。

「颯太、おはよう」

足音とともに背後から声がして、振り返る。

「おはよう、涼。朝ご飯は親子丼だよ」
「わ、嬉しいな」

子供みたいに笑う涼を見て、心臓がきゅってなった。

「颯太は俺の好きなものばっかり作ってくれるよね」
「うん。だって涼が喜んでくれるから」

なんの躊躇いもなくそう言うと、涼の表情が一瞬だけ揺れた。

「……可愛いね。ありがとう」

また可愛いって言ったよね、この人。
嬉しいんだけど、可愛いって子供扱いされてる気もして複雑だよね。

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、親子丼を頬張る涼は満足そうだ。

「卵、ちょうどいいね。この味も好き」

褒められると、やっぱり照れる。
なんかくすぐったくてニヤニヤしてしまう。
だって、目の前の好きな人が俺の作った飯を喜んでくれているんだから。

食べ終わって洗い物を済ませ、台を拭く。
最後にシンクを流して、ふっと息をついた。

「ごちそうさま、颯太。そろそろ仕事行くね」
「うん」

手を拭きながら、ふと涼を見たら目の下に薄っすらクマがある。

「涼、ちゃんと寝れた?」
「……ああ、大丈夫」

今の間は何?
それに、涼が少しだけ視線を逸らした。
これ絶対嘘ついてるよね。

「どうしたの?」
「気にしなくていいよ。じゃあ行ってくるね」
「あ、うん」

朝の時間は短くて、涼はもう離れていく。

「いってらっしゃい」
「いってきます」

ドアが閉まったあと、部屋が急に静かになる。

涼、なんか様子がおかしかったな。
クマもあったし、本当に大丈夫かな。

「なんだろ……」

仕事、大変なんだろうか。心配だな。

やっぱり健人の時とは、まったく違う。
涼といると心が落ち着く。
信じてもらえて、守られて、安心できる。

スマホを手に取り、検索する。

“好きな人の特徴”

画面に並ぶ項目を、黙って追う。

会えない時間が寂しい。
相手の好みを覚えている。
笑顔を見ると嬉しい。
そばにいると安心する。

全部、当てはまるじゃん。

「……でもさ」

雇い主とハウスキーパー。
涼は大企業の社長で、俺は……何?
立場の差は、簡単に越えられない。

涼に大事にされてるとは思う。
守られてるし、可愛がってくれてる。
でも、ただの保護対象として見られているだけかもしれない。

俺のこと、恋愛対象として見てるわけじゃ……。

「あー……」

なんで好きになっちゃったかな。

……だめだ。
切り替えて、掃除だ。

涼のために部屋を綺麗にしよう。
涼が帰ってきた時、気持ちよく過ごせるように。
それが、今の俺にできることだから。

リビングに掃除機をかけて、拭き掃除。
寝室も掃除しなきゃ。

「あ……」

涼のベッド。
ここで、一緒に寝てたんだよな。

「……涼」

縋るようにシーツに顔を埋める。
涼の匂いがして、余計に寂しくなった。

また抱きしめてほしい。
でも、俺から誘うなんて恥ずかしいな。
それに、涼が望んでないことかもしれないし。
仮に誘えたとしても、涼のことだからやんわり断ってくるかもしれない。

苦笑いしながら布団を整えようとした時、スマホが鳴った。

涼からのメッセージだ。

『今日、早く帰れそう』

すぐに次のメッセージが来る。

『夕飯楽しみにしてる。颯太に、早く会いたい』

その一文を見た瞬間、胸が熱くなった。
早く会いたいって。
またそういうこと、さらっと言う……。

『涼が好きなの作って待ってるね』

送信して、スマホを置く。
急に上がったり下がったり変なテンションで、感情の持って行き場がない。

今夜のメニューは豚カツに味噌汁、サラダ。
さ、頑張って作ろう。
涼の喜ぶ顔を思い浮かべながら。



「ただいま」
「おかえり」
「ご飯、もうすぐできるよ」

そう言ってから、油の様子をもう一回確認。
うん、大丈夫。

「いい匂い」
「楽しみにしててね」

キャベツを盛って、トマト添えて。
味噌汁も温め直して。
テーブルに皿を置くと、涼の目が少しだけ明るくなる。

「豚カツだ。いただきます」
「好きだって言ってたよね」
「うん。覚えててくれたんだ」
「当たり前」

ちょっとだけ得意げになるの、抑えきれなかった。

「やっぱりうまい」
「ほんと? よかった」

箸の進み方で、もうわかる。
涼が満足してくれてるって。

食事が終わり、片付けもお風呂も済ませてリビングに顔を出すと、ソファに座った涼がこっちを見る。

「終わった?」
「うん。じゃあ俺、寝るね」

今日も一人で。
涼がソファから立ち上がったと思ったら、

「あ」
「おっと」

ちょうど涼と鉢合わせる。
すれ違いざまに手の甲が触れた、ほんの一瞬。
反射的に足がもつれて涼の方に倒れ込んだら、そのまま抱きとめられた。

「わ、ごめん……」
「大丈夫?」
「うん。ありがとう」

涼の匂い。
今日は一人寂しくベッドで香った匂いだけど、今は俺の体を包み込んでくれてる。
胸元に顔が当たって、慌てて身を起こそうとするけど、腕がほどけない。

……抱きしめられてる。

「ちょ……涼?」
「あの日も、颯太をこうして受け止めたんだ、俺」

え? あの日って……
俺が倒れて、涼がここに連れてきてくれた日のこと?

「その日から、俺は――」

涼は何を言おうとしてる?

心臓がドクドク鳴る。
涼の次の言葉が、怖いような、期待するような。

そっと、髪に指がかかる。
やっぱり涼に触れられたらドキドキするんだよね。
温かさも心地よくて、ずっと固まってた体が溶けていくみたい。

「颯太」
「……何?」
「ごめん」

低い声が、すぐそばで聞こえる。
涼はなんで謝るんだろう。

「仕事、全然集中できなくてさ。颯太のことばかり考えてた」
「え?」
「やっぱり、夜は颯太がいないと無理だ」

俺が思っていたよりも真っ直ぐな涼を見て、なんだか嬉しくなった。

「……俺も」

小さく答えると、涼の腕が緩んだ。
顔を上げると涼が優しく笑っていた。

「涼がいないと、寂しかった」

正直に言ったらまた強く抱きしめられて、嬉しいのに恥ずかしくて、涼の肩で顔を隠した。

「そっか。本当に?」
「ん、涼の隣がいい」
「じゃあ、やっぱり一緒に寝よう」
「うん」

二人で寝室に行って、ベッドに入るとすぐに抱き寄せられる。
それで分かった。
体じゅうが待ち望んでいたってこと。

「颯太といると、落ち着く」
「……俺も」

涼の腕の中は、温かくて安心できる。
俺、やっぱり一人じゃ嫌だ。

涼のためなら何でもしたい。
涼が喜ぶなら、それでいい。
この人と一緒にいたいな、ずっと。

でも、さっき涼は何を言おうとしたんだろう――
そう思った瞬間、テーブルのスマホが何度も震えた。

「颯太、スマホすごい鳴ってるよ」
「あ、うん」

スマホをとって画面を見たら、メールアプリの通知。
差出人の名前を見て、血の気が引く。

……健人。

その直後、着信。
また健人。

「っ……」

手が震えて、スマホを落としてしまった。

「颯太? どうしたの?」

……嘘。
今更、なんで?

やっと、幸せを感じられるようになったのに。

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