【完結】クズ御曹司に嵌められた俺が、スパダリ社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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【第三章】さよなら過去、こんにちは未来

1.隣にいるのに抱けない夜

side 掛水涼

目が覚めると、隣はもう空だった。

颯太……

キッチンから、小さな物音が聞こえる。
起きて時計を見ると、まだ6時前。
相変わらず早いな。

昨日の夜のこと――
颯太の柔らかい肌、震える声、俺の名前を呼ぶ表情。

「……参ったな」

ベッドを出てリビングに向かうと、颯太がキッチンに立っていた。
肩が少しこわばってるのがわかる。

……緊張してる?

「颯太、おはよう」

声をかけると、颯太の肩がびくっと跳ねた。

「……おはよう、涼」

振り返った颯太の顔が、ちょっと赤い。
視線が合わない。
あ、思い出してるな、これ。

「颯太、顔赤いよ?」

少し意地悪く言うと、颯太が目を丸くした後、ムッとした。

「っ……なんでもないよ」

こんな顔初めて見た。
可愛すぎる。

「朝ごはん、ありがとう」

颯太の頭に手を置くと、颯太が固まった。

「え……あ、うん」
「颯太のご飯、好きだから」

そう言うと、颯太がさらに俯いた。

朝食を並べて、向かい合って座る。
颯太は相変わらず俺の顔を見ない。
なんか、ぎこちない。でも明らかに照れてる。

「颯太」
「ん……」
「昨日、俺に話してくれてありがとう」

その言葉に、颯太の手が止まった。

「……うん。涼も、ありがとう」
「え?」
「話、聞いてくれて」

立ち上がって、颯太の頭をもう一度撫でる。

「じゃあ、俺は出勤するね」

玄関に向かうと、颯太が追いかけてきた。

「……涼、いってらっしゃい」
「行ってくるね。晩ご飯、楽しみにしてる」
「うん」

颯太の小さい返事を聞いて、ドアを閉めた。



会社に着いて、エレベーターでオフィスへ。
ドアが開くと和真が待っていた。

「おはよう、涼」
「おはよう」

和真がタブレットを見せてくる。

「今日の予定。9時から開発定例、11時から新規SNSアプリのプレゼン、午後はVCとの面談」
「プレゼン資料の最終チェックは?」
「昨夜のうちに済ませた。投資家向けのデモも問題ない」
「VCとの面談、先方の懸念事項は?」
「収益化モデルの具体性。こっちで想定問答を用意してある」

社長室に入り、デスクに座る。
開発資料に目を通すけど、頭に入ってこない。
颯太の顔が浮かんで消えない。
早く帰りたい。

「涼、聞いてる?」

和真の声で、我に返る。

「ん?」
「お前、全然聞いてなかっただろ」

和真が、呆れたように笑う。

「……悪い」
「絶対颯太くんのこと考えてたよな。顔に出てる」

和真がニヤニヤしながら言う。 
バレてるのか。

「涼さ、最近ずっとそんな顔してるね」
「そんな顔って?」
「幸せそうっていうか、満足してる顔」

……そうかもな。
颯太がいるだけで、こんなに満たされるなんて思わなかった。

「しかも、このところお前、颯太くんの話しかしないからな」
「……別に」
「昨日の開発会議でもボーッとしてたしな」
「してないだろ」
「してたって。エンジニアチームが新機能のバグ報告してる時、お前、全然反応してなかったぞ」

……マジか。

「ちゃんと仕事しろよ、社長」

怒るかあきれるか、と思ったら、どっちも違った。
和真は笑いながらコーヒーを淹れてくれる。

「颯太くんのこと、好きなんだろ?」

和真が真っ直ぐ聞いてくる。
少し迷ったけど、正直に答えた。

「……ああ、好きだよ」
「涼はさ、試用期間とか関係なく、最初から本気だったもんな」

本気か……。
そうだな。颯太を見つけた瞬間から、何か違った。
今となっては、仮にそっくりなやつが来たってお断りだ。

「涼、颯太くんに気持ち伝えたの?」
「……いや。まだ」
「まだって、お前――」

和真が呆れたように笑う。

「好きって言わないと、颯太くん不安になるんじゃない?」
「颯太が俺のこと、好きかどうかわからないだろ」
「好きだと思うけどな。あんなに一生懸命お前の世話してるじゃん」

世話ってなんだよ。
和真に言われたら腹が立つな。

「ハウスキーパーっていうか、もうお嫁さんだよな」
「うるさい」
「颯太くんはお前のこと“違う意味で”意識してるよ」

……本当に、そうなのか?

「だから、ちゃんと気持ち伝えろよ」

和真が言うこともわかる。
でも、颯太は健人にされていたことを引きずってる。
昨日だって、あの男たちに絡まれて嫌だったろうし。

「颯太はまだ傷が癒えてない。焦らせたくないんだよ」
「涼、お前それ本気で言ってる?」
「本気だよ。颯太が安心できるまで、俺が側にいる。それだけ」
「ふうん」

なにか言いたげな和真が、コーヒーを置く。

「涼らしいな。でも、あんまり待ちすぎると後悔するよ」 
「どういう意味だよ」
「あの子可愛いからさ、他の奴に取られるかもよ? 例えば、俺とか」
「は?」

……和真が?
いやちょっと待て。
何言ってるんだ、こいつ。

「お前、それ……」
「颯太くんってさ、笑顔が可愛いし、料理上手で、素直で献身的だろ。俺もそんな子と毎晩一緒に暮らしたいよ」

よくまぁぺらぺらと並べられるもんだ。

「おい、和真」
「冗談だって」
「洒落になんねえよ。他の奴に渡すわけないだろ、颯太は俺の……」

思わず声に出しかけて、気づく。

颯太はまだ俺のものじゃない。
……でも、誰にも渡したくないな。

早起きして作ってくれる美味しい朝食。
仕事から帰ると、「お帰り」って迎えてくれる笑顔。
温かくて俺好みの夕飯を作ってくれて、一緒に食べながら、他愛もない話をする時間。
それは、俺が今までずっと当然のごとく享受してきた幸せだ。

颯太がいない生活なんて、もう考えられない。
俺の隣にいてほしい。ずっと。

でも、颯太は俺のことを“雇い主”としか見てないかもしれない。

「涼、ミーティングの時間だぞ」

和真の声で現実に戻る。

「ああ、行こう」

資料を持って立ち上がる。
会議室に向かうと、エンジニアチームが待っていた。

「おはようございます、社長」
「おはよう。じゃあ、始めようか」

さあ、仕事に集中しないと。

でも――
早く、颯太に会いたい。



仕事を終えて家に帰る。
ドアを開けると、颯太が玄関で迎えてくれた。

「お帰り、涼」

その笑顔を見た瞬間、今日の疲れが全部消えた。

「ただいま」

颯太の頭を撫でると、颯太が少しだけ照れたように笑う。

「今日も可愛いね」
「っ……涼、急に何言うの」
「事実だよ」

颯太が真っ赤になって俯く。

「夕飯、できてるから」
「ありがとう。颯太の料理、楽しみにしてた」

リビングに入ると、テーブルに料理が並んでいた。

肉じゃが、味噌汁、ほうれん草のお浸し。
全部、俺の好きなものだ。

「わ、うまそう」

向かい合って座って、箸を取る。

「やっぱり美味しい」
「よかった」

颯太が嬉しそうに笑う。
この笑顔が見たくて、俺は家に帰ってくるんだ。

食後、颯太が食器を片付ける。

「涼」
「ん?」
「俺、先にお風呂に入ってくるね。いい?」
「うん」

しばらくして風呂上がりの颯太が現れた。

濡れた髪から、水滴が首筋を伝っていく。
パジャマから見える鎖骨のラインが綺麗だ。

「……っ」

昨日の夜のことが頭をよぎる。
颯太の柔らかい肌、甘い声。

……ダメだ。思い出すな。

「涼、どうしたの?」

颯太が不思議そうに俺を見つめる。

「何でもないよ」

そう言って、視線を逸らす。
危ないな。このままだと我慢できなくなる。

「颯太」
「ん?」
「今日から……しばらく、別々に寝よう」

その言葉に、颯太がきょとんとした顔をした。

「え……?」

颯太の目が、少しだけ不安そうになる。

「なんで……?」
「颯太はまだ疲れてるだろ? ゆっくり休んでほしいからね」

嘘だ。
本当は、颯太と一緒に寝たら我慢できなくなる。
颯太が望まないことを、俺の欲望で押し付けたくない。

「……そっか」

颯太が少しだけ寂しそうに笑った。
その表情が胸に突き刺さる。

「じゃあ、おやすみ」
「……おやすみ」

俺は寝室に、颯太が自分の部屋に向かう。
ドアが閉まる音が聞こえた。

一人になって、深く息を吐く。

颯太のいないベッドが、急に広く感じる。
この時間をどうやって過ごしたらいいんだろう。

「……寂しいな」

小さく呟いてベッドに横になる。

颯太の匂いがまだ枕に残ってる。
俺の名前を呼ぶ声、あの表情。

颯太を抱きしめたい。もっと触れたい。
でも、今は――我慢だ。
俺の気持ちを押し付けるわけにはいかない。

颯太が俺を信じてくれるまで。
俺を求めてくれるまで。

「早く、そうなってくれ」

小さく呟いて、深く息を吐いた。


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