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【第四章】隣にいるのが当たり前
1.俺の恋人、独占欲強めです
side 折井 颯太
「リボン、おいで」
呼ぶと、ぱたぱたと走ってくるのが可愛い。
ご飯をあげると、嬉しそうに尻尾を振りながら食べてる。
リボンが来てから、もう数週間か。
ここ、気に入ってくれてるよね。
「さて、夕飯の支度だ」
鯛に火を入れて、餡を仕上げる。
……これ、涼好きなんだよね。前もやたら嬉しそうだったし。
調理開始してしばらくたった頃。
そろそろ帰ってくるかな。
涼の顔を思い浮かべながら味噌を溶いてると、ちょうど玄関の扉が開く音がした。
……帰ってきた?
「リボン、パパかも」
「ワン!」
パパ、と聞いてリボンが嬉しそうに玄関に走っていく。
俺も後を追うと――あれ、和真さん?
涼と和真さんが並んで立ってる。
「ただいま」
涼の声に思わず駆け寄ると、涼がすぐに俺を抱きしめた。
「いい匂いする。……今日も」
抱き寄せたまま、そんなことを言ってくる涼は平常運転だ。
「……料理の匂いだよ」
「うん、それも好き」
ちょっと、和真さんが見てるから……!
「涼、和真さん……」
「ああ、わかってる」
涼がゆっくり腕を離す。
和真さんは肩を震わせて静かに笑ってる。
「お前ら、毎回こうなの?」
「え……! あ、和真さん。こんばんは」
「こんばんは、颯太くん。ちょっとリボンの様子見に来たよ。はい、お土産」
和真さんが笑顔で袋を差し出してくれた。
「ありがとうございます」
リボンが和真さんを見つけて、尻尾を振りながら近づいていく。
「リボン、元気そうだな」
和真さんがリボンを撫でてるのを見て、涼と二人で顔を見合わせた。
「じゃ、様子も見たし帰るわ」
「あの、和真さん。よかったら夕飯食べていきません?」
あ、待って。
涼に聞かなきゃダメだったかな。
慌てて涼の方を見ると、にこにこ笑ってる。
「颯太がいいなら、俺も大歓迎だよ」
涼がそう言うと、和真さんが目を輝かせた。
「マジで? 颯太くんの料理、食べてみたかったんだよね。涼がいっつも話してるから」
……涼が?
え、ちょっと待って、外で俺のこと話してるの?
なんか恥ずかしいんだけど。
テーブルに並べた料理を見て、和真さんが目を丸くした。
「……すごいな、これ」
「今日は鯛を酒蒸しにして、生姜あんかけです。あと、なめこと三つ葉の赤だし」
「なにこれ、店じゃん。涼、毎日これ? ずるくない?」
「うん。颯太の料理、最高だから」
涼が嬉しそうに笑ってる。
なんかちょっと自慢気だよね。
「じゃあ、いただきます」
和真さんが一口食べた瞬間、箸が止まった。
「……うまい」
小さく呟いて、もう一口。
「めちゃくちゃうまい。颯太くん、これプロレベルだよ」
「そんな、そこまでじゃ……」
「いや、マジで。あー……これダメだわ」
「え?」
「外食戻れなくなるやつ」
和真さんが本当に嬉しそうに食べてる。
よかった。
「あの、和真さん。おかわりします?」
聞くと、和真さんが顔を上げた。
「いいの?」
「はい、たくさんあるので」
「じゃあ、遠慮なく」
お茶碗を受け取って、ご飯をよそう。
「はい、どうぞ」
渡すと、和真さんがじっと俺を見てきた。
「……颯太くん、可愛すぎるんだけど」
「え?」
「涼、こんな可愛い子が毎日ご飯作ってくれるとか、羨ましすぎる」
和真さんが笑いながら言う。
「颯太くん、俺んとこ来ない? 給料倍出すよ」
「は?」
和真さんが笑ってる。
でも涼が――
「それ無理だから」
「即答かよ」
「無理なものは無理。颯太は俺のだから」
「ふはっ、冗談だっつーの」
なんか今日の涼、いつもより独占欲強い気がする。
「でも本当に羨ましいわ。颯太くん、料理上手だし可愛いし、気が利くし。俺も颯太くんみたいな子、欲しいなぁ」
和真さんがため息をつく。
「和真、諦めろ」
「諦めるよ。だってお前、絶対渡さないだろうし」
涼が少しだけ不機嫌そうな顔をしてる。
「涼は颯太くんのことになると、すぐそうなるよな」
「当たり前だろ。颯太は俺の大切な恋人だから」
涼がそう言って、俺の頭に手を置いた。
何さらっとすごいこと言ってるのさ。
ああもう……顔が熱い。
「颯太くん、涼に大事にされてるね。なんか顔赤いよ」
和真さんに言われて、もっと熱くなる。
顔を上げると、涼がすごく優しい顔で笑ってて、そのまま頬にも触れてきた。
「和真さんいるんだけど……」
「わかってるよ」
でも手を離さず、髪を優しく撫でてくれる。
和真さんが笑ってる。
「……料理、冷めますよ」
話を逸らすと、涼がくすっと笑った。
でもやっと手を離してくれた。
食事が進むにつれて、和真さんの表情がどんどん穏やかになっていく。
「颯太くん、涼と付き合ってから表情明るくなったよね」
「え、そうですか?」
「うん。最初に会った時、すごく不安そうな顔してたから。でも今は――」
和真さんが俺と涼を交互に見る。
「二人とも、幸せそうだし」
その言葉が胸に沁みた。
……そんな顔してたんだ、前。
全然知らなかった。
「ところで、颯太くん。大学、再入学するんだって?」
和真さんが聞いてくる。
「え、はい。涼が勉強教えてくれてるので」
「そっか。頑張ってね。何かあったらいつでも連絡して。涼だけじゃなくて、俺も颯太くんの味方だから」
「……ありがとうございます」
涼の手がテーブルの下で俺の手を握った。
和真さんが帰った後、涼が俺を抱きしめた。
「颯太」
「ん?」
「今日、ありがとう」
涼の腕が少しだけ強くなる。
「和真、すごく喜んでた。あいつ、普段一人で外食ばっかりだから」
「うん、よかった」
答えた瞬間、唇にキスが落ちてきた。
「颯太、好きだよ」
耳元で囁かれて、心臓が止まりそうになる。
リボンが俺たちの足元で尻尾を振ってた。
*
涼が休みのある日の午後。
「リボン、散歩行く?」
聞くと、リボンがリードを咥えて玄関に座り込んだ。
……もう散歩行く気満々なんだけど。
「じゃ、行こっか」
「俺も行くよ」
「え、涼も?」
顔を上げると、「当然でしょ」みたいな顔をされた。
「颯太と散歩したいんだ」
さらっと言わないで、そういうこと。
リボンはもう待ちきれないらしく、玄関をくるくる回り始めている。
外に出た瞬間、リボンのテンションが一段階上がったらしく、尻尾がずっと高速で揺れてる。
「そんなに嬉しい?」
リボンはご機嫌で、匂いを嗅いだり尻尾を振ったりしてて見てるだけで癒される。
「楽しそうだね」
「うん。この子、散歩好きなんだろうね」
しばらく歩いていると、大学の前を通った。
久しぶりに見るキャンパス。
学生たちが楽しそうに話してる。
「颯太?」
「……ちょっと懐かしいなって」
「もうすぐ戻れるよ」
思わず視線を落とした。
なんか、ちゃんと頑張ろうって思ってしまう。
「颯太!」
突然、名前を呼ばれて振り返る。
見覚えのある顔。
「……春樹?」
大学で仲良くしてた友達だ。
「久しぶり! 颯太、元気だった?」
春樹が笑顔で駆け寄ってくる。
「うん、元気。春樹は?」
「俺も。って、颯太……」
春樹の視線が、俺と涼の繋いだ手とリボンに向く。
あ、どうしよう。
「こんにちは。颯太の恋人、掛水です」
涼がさらっと言って、春樹は目を丸くした。
……涼、躊躇いなさすぎ。
「恋人!? マジで!?」
「……うん」
「よかったじゃん! なんか、前より表情明るいし」
「ありがとう」
「あ、そういえば颯太。また連絡してもいい? ちょっと相談があって」
春樹がこそっと聞いてくる。
「相談?」
「うん。詳しくは後で連絡するね」
「……わかった」
「じゃあ、また! 恋人さんも、颯太をよろしくお願いします」
春樹が手を振って去っていく。
その後ろ姿を見送って、俺は涼を見上げた。
「……友達?」
「うん。昔、大学で仲良くしてた子」
「そっか。いい友達だね」
家に帰ると、リボンが嬉しそうに部屋中を走り回ってる。
「楽しかったね、リボン」
「ワン!」
「颯太」
「ん?」
「今日、友達に会えてよかったね。再入学、頑張って。颯太なら大丈夫だよ」
その言葉が、嬉しかった。
涼がいてくれるから、頑張れる。
その夜。
二人でベッドに入ってからも、春樹のことが気になってた。
相談ってなんだろう。
あいつ、あんな言い方するタイプじゃなかったのに。
「颯太、まだ起きてる?」
「うん。ちょっと考えごと」
涼に顔を向けると、優しい目で見つめられた。
「何かあったら、俺にも話してね」
「……うん」
涼の腕の中で、少しずつ眠くなってきた。
また春樹から連絡来るかな。
そう思いながら、意識が遠のいていった。
「リボン、おいで」
呼ぶと、ぱたぱたと走ってくるのが可愛い。
ご飯をあげると、嬉しそうに尻尾を振りながら食べてる。
リボンが来てから、もう数週間か。
ここ、気に入ってくれてるよね。
「さて、夕飯の支度だ」
鯛に火を入れて、餡を仕上げる。
……これ、涼好きなんだよね。前もやたら嬉しそうだったし。
調理開始してしばらくたった頃。
そろそろ帰ってくるかな。
涼の顔を思い浮かべながら味噌を溶いてると、ちょうど玄関の扉が開く音がした。
……帰ってきた?
「リボン、パパかも」
「ワン!」
パパ、と聞いてリボンが嬉しそうに玄関に走っていく。
俺も後を追うと――あれ、和真さん?
涼と和真さんが並んで立ってる。
「ただいま」
涼の声に思わず駆け寄ると、涼がすぐに俺を抱きしめた。
「いい匂いする。……今日も」
抱き寄せたまま、そんなことを言ってくる涼は平常運転だ。
「……料理の匂いだよ」
「うん、それも好き」
ちょっと、和真さんが見てるから……!
「涼、和真さん……」
「ああ、わかってる」
涼がゆっくり腕を離す。
和真さんは肩を震わせて静かに笑ってる。
「お前ら、毎回こうなの?」
「え……! あ、和真さん。こんばんは」
「こんばんは、颯太くん。ちょっとリボンの様子見に来たよ。はい、お土産」
和真さんが笑顔で袋を差し出してくれた。
「ありがとうございます」
リボンが和真さんを見つけて、尻尾を振りながら近づいていく。
「リボン、元気そうだな」
和真さんがリボンを撫でてるのを見て、涼と二人で顔を見合わせた。
「じゃ、様子も見たし帰るわ」
「あの、和真さん。よかったら夕飯食べていきません?」
あ、待って。
涼に聞かなきゃダメだったかな。
慌てて涼の方を見ると、にこにこ笑ってる。
「颯太がいいなら、俺も大歓迎だよ」
涼がそう言うと、和真さんが目を輝かせた。
「マジで? 颯太くんの料理、食べてみたかったんだよね。涼がいっつも話してるから」
……涼が?
え、ちょっと待って、外で俺のこと話してるの?
なんか恥ずかしいんだけど。
テーブルに並べた料理を見て、和真さんが目を丸くした。
「……すごいな、これ」
「今日は鯛を酒蒸しにして、生姜あんかけです。あと、なめこと三つ葉の赤だし」
「なにこれ、店じゃん。涼、毎日これ? ずるくない?」
「うん。颯太の料理、最高だから」
涼が嬉しそうに笑ってる。
なんかちょっと自慢気だよね。
「じゃあ、いただきます」
和真さんが一口食べた瞬間、箸が止まった。
「……うまい」
小さく呟いて、もう一口。
「めちゃくちゃうまい。颯太くん、これプロレベルだよ」
「そんな、そこまでじゃ……」
「いや、マジで。あー……これダメだわ」
「え?」
「外食戻れなくなるやつ」
和真さんが本当に嬉しそうに食べてる。
よかった。
「あの、和真さん。おかわりします?」
聞くと、和真さんが顔を上げた。
「いいの?」
「はい、たくさんあるので」
「じゃあ、遠慮なく」
お茶碗を受け取って、ご飯をよそう。
「はい、どうぞ」
渡すと、和真さんがじっと俺を見てきた。
「……颯太くん、可愛すぎるんだけど」
「え?」
「涼、こんな可愛い子が毎日ご飯作ってくれるとか、羨ましすぎる」
和真さんが笑いながら言う。
「颯太くん、俺んとこ来ない? 給料倍出すよ」
「は?」
和真さんが笑ってる。
でも涼が――
「それ無理だから」
「即答かよ」
「無理なものは無理。颯太は俺のだから」
「ふはっ、冗談だっつーの」
なんか今日の涼、いつもより独占欲強い気がする。
「でも本当に羨ましいわ。颯太くん、料理上手だし可愛いし、気が利くし。俺も颯太くんみたいな子、欲しいなぁ」
和真さんがため息をつく。
「和真、諦めろ」
「諦めるよ。だってお前、絶対渡さないだろうし」
涼が少しだけ不機嫌そうな顔をしてる。
「涼は颯太くんのことになると、すぐそうなるよな」
「当たり前だろ。颯太は俺の大切な恋人だから」
涼がそう言って、俺の頭に手を置いた。
何さらっとすごいこと言ってるのさ。
ああもう……顔が熱い。
「颯太くん、涼に大事にされてるね。なんか顔赤いよ」
和真さんに言われて、もっと熱くなる。
顔を上げると、涼がすごく優しい顔で笑ってて、そのまま頬にも触れてきた。
「和真さんいるんだけど……」
「わかってるよ」
でも手を離さず、髪を優しく撫でてくれる。
和真さんが笑ってる。
「……料理、冷めますよ」
話を逸らすと、涼がくすっと笑った。
でもやっと手を離してくれた。
食事が進むにつれて、和真さんの表情がどんどん穏やかになっていく。
「颯太くん、涼と付き合ってから表情明るくなったよね」
「え、そうですか?」
「うん。最初に会った時、すごく不安そうな顔してたから。でも今は――」
和真さんが俺と涼を交互に見る。
「二人とも、幸せそうだし」
その言葉が胸に沁みた。
……そんな顔してたんだ、前。
全然知らなかった。
「ところで、颯太くん。大学、再入学するんだって?」
和真さんが聞いてくる。
「え、はい。涼が勉強教えてくれてるので」
「そっか。頑張ってね。何かあったらいつでも連絡して。涼だけじゃなくて、俺も颯太くんの味方だから」
「……ありがとうございます」
涼の手がテーブルの下で俺の手を握った。
和真さんが帰った後、涼が俺を抱きしめた。
「颯太」
「ん?」
「今日、ありがとう」
涼の腕が少しだけ強くなる。
「和真、すごく喜んでた。あいつ、普段一人で外食ばっかりだから」
「うん、よかった」
答えた瞬間、唇にキスが落ちてきた。
「颯太、好きだよ」
耳元で囁かれて、心臓が止まりそうになる。
リボンが俺たちの足元で尻尾を振ってた。
*
涼が休みのある日の午後。
「リボン、散歩行く?」
聞くと、リボンがリードを咥えて玄関に座り込んだ。
……もう散歩行く気満々なんだけど。
「じゃ、行こっか」
「俺も行くよ」
「え、涼も?」
顔を上げると、「当然でしょ」みたいな顔をされた。
「颯太と散歩したいんだ」
さらっと言わないで、そういうこと。
リボンはもう待ちきれないらしく、玄関をくるくる回り始めている。
外に出た瞬間、リボンのテンションが一段階上がったらしく、尻尾がずっと高速で揺れてる。
「そんなに嬉しい?」
リボンはご機嫌で、匂いを嗅いだり尻尾を振ったりしてて見てるだけで癒される。
「楽しそうだね」
「うん。この子、散歩好きなんだろうね」
しばらく歩いていると、大学の前を通った。
久しぶりに見るキャンパス。
学生たちが楽しそうに話してる。
「颯太?」
「……ちょっと懐かしいなって」
「もうすぐ戻れるよ」
思わず視線を落とした。
なんか、ちゃんと頑張ろうって思ってしまう。
「颯太!」
突然、名前を呼ばれて振り返る。
見覚えのある顔。
「……春樹?」
大学で仲良くしてた友達だ。
「久しぶり! 颯太、元気だった?」
春樹が笑顔で駆け寄ってくる。
「うん、元気。春樹は?」
「俺も。って、颯太……」
春樹の視線が、俺と涼の繋いだ手とリボンに向く。
あ、どうしよう。
「こんにちは。颯太の恋人、掛水です」
涼がさらっと言って、春樹は目を丸くした。
……涼、躊躇いなさすぎ。
「恋人!? マジで!?」
「……うん」
「よかったじゃん! なんか、前より表情明るいし」
「ありがとう」
「あ、そういえば颯太。また連絡してもいい? ちょっと相談があって」
春樹がこそっと聞いてくる。
「相談?」
「うん。詳しくは後で連絡するね」
「……わかった」
「じゃあ、また! 恋人さんも、颯太をよろしくお願いします」
春樹が手を振って去っていく。
その後ろ姿を見送って、俺は涼を見上げた。
「……友達?」
「うん。昔、大学で仲良くしてた子」
「そっか。いい友達だね」
家に帰ると、リボンが嬉しそうに部屋中を走り回ってる。
「楽しかったね、リボン」
「ワン!」
「颯太」
「ん?」
「今日、友達に会えてよかったね。再入学、頑張って。颯太なら大丈夫だよ」
その言葉が、嬉しかった。
涼がいてくれるから、頑張れる。
その夜。
二人でベッドに入ってからも、春樹のことが気になってた。
相談ってなんだろう。
あいつ、あんな言い方するタイプじゃなかったのに。
「颯太、まだ起きてる?」
「うん。ちょっと考えごと」
涼に顔を向けると、優しい目で見つめられた。
「何かあったら、俺にも話してね」
「……うん」
涼の腕の中で、少しずつ眠くなってきた。
また春樹から連絡来るかな。
そう思いながら、意識が遠のいていった。
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