【完結】クズ御曹司に嵌められた俺が、スパダリ社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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【第三章】さよなら過去、こんにちは未来

4.嬉しいのに、切ない

涼。
やっぱり来てくれたんだ。
ていうか、仕事は……?

「心配性でごめん。でも、こうなる気がしてたんだ」

涼は俺にそう言って微笑んでから、健人の方に向き直った。

「今までの会話、全部録音させてもらったよ」

えっ……録音?

健人は明らかに動揺してる。

「は? 嘘つくなよ、そんなわけ……」
「嘘じゃない」

涼は俺の肩から手を離し、ゆっくりと俺のジャケットに視線を落とす。

俺が何……?

「お守り、役に立ったかな」

そう言って、俺のジャケットの内ポケットに指を入れる。

「ちょ、涼……?」

取り出されたのは、指先に収まるほどの小さな黒い機器だった。

「これ、何……?」
「ボイスレコーダーだよ」

頭の中で、朝の会話が繋がる。

――「お守りだと思って」

……あ。
朝のやつ。
これのことだったんだ。

涼は俺のジャケットにボイスレコーダー仕込んでたのか。
最初からこうなるって分かってて、全部計算してたんだ。

「窃盗の濡れ衣は名誉毀損。……それと、さっきのも普通にアウト」

感情を挟まない声が、逆に怖い。
こんな涼、初めて見る……。

「誘いを断られて腹が立った。だから颯太に窃盗の罪を着せてクビにした。違う?」
「知らねぇよ、そんなの……」
「同じ手口で解雇されたハウスキーパー、何人もいる」
「……っ」

健人の顔色がはっきりと変わった。

……俺だけじゃなかったんだ。

「そもそも俺の言うこと聞かねぇからだろ!」
「それで颯太を嵌めたの?」
「ああ、クビになる前に泣きついてくりゃよかったんだよ!」

言った。
自分で認めた。

「今の会話も、全部録音させてもらったよ」

健人が立ち上がろうとする。

「おい……その機械、渡せよ!」
「無理だね」

涼は即答して、レコーダーをポケットに仕舞う。

「お、俺の父さん、金持ってんだぞ……! あんたがどこの誰かは知らねぇけど、簡単にクビにできるんだからな!」

健人は声を張り上げるけど、さっきまでの勢いはもうない。
怒鳴っているというより、焦りを隠そうとしているだけ。

涼は隣で小さく息を吐いた。

「へぇ……クビに、ね」
「なんだよ、その態度。あんた、どこの会社だよ、言ってみろよ」
「株式会社イノベートテック」
「……ああ? あのイノベートテックか。じゃあちょうどいい。父さんの会社、あそこに発注してるからさ。社長に言えば、あんたみたいな社員はすぐ――」
「無駄だよ、それ」

涼が、淡々と遮った。

「倉城商事。去年の十月にうちと基幹システムの更新契約、三年で結び直してる」
「……は?」
「サーバー移行が遅れたって、十一月にクレーム入れただろ。夜間処理が終わらないって」
「なんで……それ、知って……」
「その説明に行った責任者、俺だから」
「え……」

健人が目を見開いてる。
すっかり傍観者になってた俺も、さすがに驚いて、涼の方を向いた。

「応接室にあったよね、でかい船の絵。あれ、君の父親がやたら自慢してた」
「それは……」
「最初は担当者だけで話す予定だったのに、“自分も聞く”って途中から入ってきたんだ。支払い条件の相談も、その場でされた」

涼はポケットから名刺を取り出し、静かに差し出した。

「株式会社イノベートテック。代表取締役、掛水涼」

受け取った健人の手が震えてる。

「――俺が、その社長」

涼が静かに言う。
健人は名刺を見たまま、動かない。

「……う、そだろ……」
「来月も君の父親と会うよ。契約見直しの打ち合わせが入ってる」

健人の顔から血の気が引いた。
取引先として“上にいるのがどちらか”を理解したって顔してる。

「君、さっき言ったよね。“社長に言いつける”って。その社長が、俺だよ。……理解できた?」

健人はもう、何も言い返せなかった。

「じゃあ本題に戻ろうか。今すぐ、颯太の写真を全部削除して。ここで確認させて」
「……チッ」

舌打ちして、スマホを操作し始める健人。

「“消したふり”は通用しないよ。バックアップ含めて、完全削除」

涼は確認すると、小さく頷いた。

「録音もあるし、状況証拠も揃ってる。今後、颯太に接触した場合は、すぐ弁護士を通して対応する」

淡々とした口調のまま、続けた。

「それから、君の会社との取引についても、社内で正式に再検討に入ることになると思う」

健人は何も言えなくなって、口をパクパクと開閉させるだけ。

「二度と連絡しないで。電話もメールも、SNSも全部」
「……わ、わかった。もう……近づかない」

絞り出すみたいな声だった。
涼は少しだけ視線を下げて、静かに言った。

「もし約束を破ったら、その時はもう個人間の問題じゃ済まないから」

それ以上は言わなかったけど、十分すぎる意味があった。

健人はガタンと大きな音をたてて立ち上がると、こちらを見もしないまま足早に店を出ていった。
ガラス扉が閉まる音がして、ようやく周りのざわめきが耳に戻ってくる。

……終わった。

力が抜けて思わず涼のほうに寄りかかって、ほっと息を吐いた。
肩から伝わってくる温かさで、ようやく実感が湧いてくる。

健人との関係が本当に終わった。
もう、支配されない。
これからはあいつに怯えなくていいんだ。

「颯太」

名前を呼ばれて顔を上げると、さっきまでの冷たさはもうなくて、いつもの優しい涼に戻ってる。

「……よく頑張ったね」

その一言を聞いた瞬間、我慢していたものが一気に溢れて視界が滲んだ。

「あ……」

自分でも気づかないうちに、涙がこぼれていた。

「……ありがとう」

笑顔を作ると、涼が少しだけ心配そうな顔をした。

「とりあえず、ここ出ようか」
「うん」


夕飯は近くのパスタ屋で済ませて帰ってきた。
本当は俺が作らなきゃいけないのに。
たぶん、涼は気を遣ってくれたんだと思う。
こういうこと、何も言わずにやるんだよね、あの人。

夜。
いつもと同じように寝室の灯りを落として、二人でベッドに入った。
隣に涼の気配があるだけで、昼間の出来事が少しずつ遠ざかっていく。

「涼」
「ん?」
「……ありがとう。守ってくれて」
「いや。一人で行かせるって言ったけど、やっぱり心配で。仕事、早退した」
「え、本当に?」
「うん。颯太のこと心配で、仕事に集中できなかった」
「ご、ごめん……」
「謝らなくていいよ」

涼はすぐにそう言って、俺のほうを向く。

「颯太を守るのは、俺の役目だから」

……役目。

そうだよな、と思う。
俺は雇われている側で、涼は雇い主で。
守るのも面倒を見るのも、きっとその延長線上にあるだけ。

「颯太?」

涼が不思議そうに顔を覗き込んでくる。

「……なんでもない」

答えた瞬間、涼の腕が俺を抱き寄せた。
ぎゅっと抱きしめられて、涼の温もりが伝わってくる。

「俺には、思ったことはちゃんと言って。嫌なことがあったら嫌、不安なら不安だって。……ちゃんと聞くから」
「……うん」

涼がそういうことばっか言うから。
余計、勘違いしそうになるんだって。

背中に回された手が、ゆっくりと撫でるように動く。

俺は、涼のことが好きだ。

……大事にされてるのも、わかってる。
甘やかされてる自覚だって、ある。
でも、それが“特別”なのかどうかはわからない。

「涼」
「ん?」
「……キスして」

言ってしまった。

涼の腕の中にいるのに、心の距離は遠い気がして。
触れたい。確かめたい。
俺のこと、どう思ってるのか――。

「え……?」

涼の動きが止まる。

「この前みたいに」

自分で言ったくせに、心臓が落ち着かない。

断られたらどうしよう。
いや、断られる可能性……普通にあるよね。

涼は、すぐには何も言わなかった。
背中にあった手もそのまま止まってる。

視線だけが、まっすぐ俺を捉えていた。


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