【完結】クズ御曹司に嵌められた俺が、スパダリ社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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【第三章】さよなら過去、こんにちは未来

6.可愛すぎる君に、全力で

side 掛水涼

朝、目を覚ますと、最初に視界に入ったのは隣で眠っている颯太の横顔だった。

いつもは俺より先に起きてキッチンにいるのに、まだ静かに寝息を立てているのが、少し珍しい。

……昨日、無茶させたかな。

起こさないようにそっと顔を近づける。
柔らかい髪が視界にかかって、思わず指先で整えた。

「……ん」

小さく身じろぎした颯太が、うっすら目を開ける。

「おはよう」
「……おはよう」

寝起きで掠れた声。まだ少し眠そうだ。

「昨夜は無理させたよね」

自然と出た言葉に、颯太は数秒だけ固まってから布団をかぶった。

「してないよ、大丈夫……」
「照れてるの? 顔見せてよ、颯太」
「ちが……っていうか、朝ご飯作らなきゃ……!」

勢いよく起き上がろうとする颯太の手首を、反射的に掴んでいた。

「今日くらいゆっくりしてていいよ」
「でも……」
「いいから」

颯太は捕まえた俺の手を見て、顔を上げる。

「……涼が言うなら、ちょっとだけ」

それだけ言って布団に入り直したけど、結局、五分もしないうちにキッチンに立っていた。
意地でも動こうとする子だ。

「今日はね、鰆の西京焼き。味がちゃんと入るように、二日前から漬けてて。お味噌汁は少し甘めにしてみた。涼、そっちの方がいいかなって思って」

テーブルに皿を並べながら、よく喋る。
絶対、照れてる。こういうとこほんと可愛いね。

「……そんなに頑張らなくていいのに」
「頑張るよ、だって涼が好きなんだから」

言ってから、颯太がわずかに黙った。
“好きなんだから”って言うのは、俺の好みの話か、それとも。

「……涼、ほら、食べて」
「ああ、うん。美味しそうだね」

笑いが込み上げてきて、ふっと息を漏らすと、颯太がちょっと不満そうだ。

「なんで笑うの」
「いや、可愛くて」

向かい合って座ると、颯太が少しだけ視線を逸らした。
でも、口元は嬉しそうに緩んでいる。

「いただきます」
「いただきます」

一口食べて、思わず息をついた。

「……うまい」
「ほんと?」
「うん。店出せるレベル」
「それは言い過ぎだよ」

そう言いながらも、明らかに嬉しそうだ。
こういう顔、俺にしか見せないんだろうな。
颯太にどんどん溺れていく。



颯太に見送られて会社へ。
オフィスに着くと、和真がデスクの前で待っていた。

「おはよう、涼」
「おはよう」

席に着く前に、タブレットを一枚差し出される。
夜中にまとめた資料らしい。
画面には先方の仕様変更の内容がずらりと並んでいる。

「API連携の件、仕様変わってきた。朝イチで判断ほしいって」
「……またか」

ざっと流し見て、そのまま答える。

「条件はOK。でもスケジュールはこっち基準に戻して。開発負担増えるから」
「いいのか? 向こうは次も同じことやるぞ」
「わかってるよ。でも今は市場取りに行く」
「……自信は?」
「七割。外したら俺が責任取る」
「了解、じゃあ法務にも伝えとくわ」
「助かる」

腰を下ろしたタイミングで、コーヒーが置かれる。

うん、ちょうどいい温度、いつもの濃さ。
こいつ、本当にタイミング完璧だ。

「サーバー移行の進捗は?」
「問題なし。今夜リハ、本番は週末予定通り」
「じゃあ最終承認だけ出す。現場判断は任せる」
「ああ」

和真はメモを取りながら、ちらっとこっちを見た。

「で? 昨日どうだった? 珍しく早退するなんて言うから驚いたよ」
「健人との決着はついた」

答えると、和真がコーヒーカップを置いた。

「マジで? どうやって?」
「録音とイノベートテックの名前」
「……あー、なるほど。お前が社長だって知らなかったのか、あいつ。で、どうなった?」
「完全に青ざめてた。写真も全部削除させた。もう颯太に近づかないって約束もさせた」

そう言うと、和真が満足そうに頷いた。

「よかったな。颯太くんも安心できるだろ」
「ああ」

本当によかった。
颯太を守れたし、健人との関係もこれで終わった。

「で?」

和真がニヤニヤしながらこっちを見てる。

「……何?」
「告白はしたの?」

こいつ、絶対聞いてくると思ってた。

「……した」

そう答えると、和真が手を叩いた。

「やっと! で、どうだった?」
「両想いだった」
「そりゃそうだろ。颯太くん、お前のこと好きすぎて分かりやすかったもん。でも、よかったな」
「……ああ」
「お前、颯太くんのこと本気で好きだもんな」
「当たり前だろ」
「じゃあ、これからも大事にしてあげなよ」
「言われなくてもそうするよ」

俺の恋人は優しくて少し寂しがり屋。
強がって笑顔を作るけど、本当は傷つきやすい。
そんな颯太を俺は抱きしめて守る。
絶対に離さない。

「これで、仕事に集中できるね、社長様」
「余計なお世話」
「いや、マジで。ここ最近、お前ボーッとしてること多かったから」
「してない」
「してたよ。会議中に颯太くんのこと考えてただろ」

……図星すぎて何も言えない。

「やっぱりな」

和真がやれやれとため息をつきながらも、楽しそうに笑ってる。
こいつ、本当にいい奴だ。

「和真」
「ん?」
「ありがとう」

そう言うと、和真が少しだけ驚いたような顔をした。

「……何、急に」
「いろいろ、助けてもらってるから」
「別に。俺、お前の秘書だし」

そう言って、また笑う。

「でも、お前が幸せそうで、俺も嬉しいよ」

その言葉が嬉しかった。



仕事を終えて、家に帰る。
ドアを開けると、颯太が迎えてくれた。

「お帰り、涼」

その笑顔を見た瞬間、今日の疲れが全部消えた。

「ただいま」

頭を撫でると、颯太が照れたような顔をする。
夕飯を食べ終わり、リビングのテーブルに颯太の教科書とノートを広げる。

「じゃあ、まずは経営戦略の基礎から」

颯太が真剣な顔でメモを取る。

「よし。次は、マーケティングの基礎ね」
「涼、この部分がよくわからなくて……」
「ああ、ここはね――」

丁寧に説明すると、颯太が「なるほど」と目を輝かせた。

「飲み込み早いね」
「そうかな」
「うん。颯太は素直だから教えやすいよ」

間を置かずに答えると、颯太がまた視線を落とした。

「涼、ありがとう」
「いや、俺も楽しいから」

わからないことはちゃんと聞いてくるし、変に虚勢を張らない。
目の前で表情がころころ変わるのを見るのが楽しい。

颯太が少しだけ首を傾げて、また質問してくる。

「じゃあ、この事例は……」
「それは――」

答えながら、さりげなく隣に座り直す。
距離が近いほうが説明しやすい、それは事実。
でも、それだけじゃない。

「涼、近いんだけど……」
「説明しやすいから」
「そう……?」

颯太が、少し首を傾けたまま俺を見てる。

「よし、ちょっと休憩しようか」
「うん。じゃあ、涼の肩借りていい?」

言い終わる前に、もう凭れてきた。
重さと体温が同時に肩に伝わってくる。

こういう時、この子は自分が何をしてるかわかってるのかな。
いや、たぶんわかってない。それが一番タチが悪い。

そっと顔を近づけたのはどっちが先か分からない。
颯太の目がゆっくり閉じかけた。

その瞬間。

――ピンポーン。

「え……?」
「……こんな時間に?」

颯太と顔を見合わせる。

心当たりは一つしかなかった。

「たぶん和真」
「たぶんっていうか絶対そうだよね」

おかしいな。
特にメッセージも来てなかったし、何か緊急か?

モニターを確認すると、案の定、画面いっぱいに和真の顔。
切羽詰まった感じはないけど、なぜか少し下を気にしている。

……嫌な予感しかしないな。

ドアを開けた瞬間、それは確信に変わった。



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