【完結】クズ御曹司に嵌められた俺が、スパダリ社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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【第六章】大事なものは、もう離さない

1.こんな関係、想像もしてなかった

「颯太、準備できた?」

リビングから聞こえる声に、鏡の前で髪を整えていた手を止める。

「うん、もういいよ」

今日は大学の再入学手続きの日。

ただ書類を出して説明を受けるだけなのに、変にそわそわしてる。
それを見透かすように、スーツ姿の涼がネクタイを直しながらこっちを見た。

……ていうか、なんでこの人、朝からこんなに格好いいんだろ。

別に一人で行けるから大丈夫だよって言ったのに、涼は「たまたま休みだから」って譲らなくて。
正直一人じゃ心細かったから、一緒に来てくれるのは嬉しいんだけど。

「颯太、緊張してる?」
「……ちょっとだけ」

そう言うと、涼は小さく笑った。

「今日は書類出すだけだよね。面接も試験も、もう終わってるでしょ?」
「それはそうなんだけど」

大学に戻ると決めたのは自分の意志だ。
でも学費も受験料も、必要なお金は全部、涼が迷いなく出してくれた。
「未来のために投資したい」なんて軽く言ってたけど、誰より本気で応援してくれた。

夜遅くまでテーブルに並んで座って、問題集を広げた。
俺が眉をひそめると、すぐに覗き込んできて。

――どこで詰まった?
――……ここ。全然わかんなくて。
――なるほどね。じゃあ一回、基礎からやり直そうか。

眠そうな顔ひとつ見せず、何度も同じところを丁寧に教えてくれた。
俺が「もう一回いい?」と聞くと、必ず笑って答える。

――何回でもいいよ。颯太が分かるまで。

努力したのは自分。
でも、隣に涼がいてくれたから最後までやりきれたんだ。

「じゃあ行こうか」
「リボン、行ってくるね」
「ワン!」

車の中では特別な会話はなかった。
でも信号待ちのたびに、涼がさりげなく俺の手を包んでくれる。

「着いたよ」 

見慣れた校舎。
久しぶりのはずなのに、まるで昨日まで通っていたみたいな顔をして立ってるって、なんだか不思議な気分。

俺、ここに戻るんだな。

事務室で名前を書いて、必要事項を確認して説明を受ける。
本当にそれだけのことなのに、じわじわ実感が湧いてくる。

「では、この日から授業開始になります」

職員の笑顔に応えながら、心の中で小さく息を吐く。

……俺の人生が、また動き出した。

「頑張ろう」

外に出た瞬間、肩の力が一気に抜けた。

「颯太」

名前を呼ばれて振り向くと、涼がすぐそばに立っていた。

「おめでとう」
「ありがとう。ほんと、涼のおかげ」
「俺は少し手伝っただけ。頑張ったのは颯太だよ」

次の瞬間、軽く引き寄せられて抱きしめられた。

「ちょ、ここ外……」
「わかってるよ」

いや、“わかってる”じゃないでしょ……。

人通りはあるのに、涼はまったく気にしていない。

「よくやったね」

耳元で静かに言われて、思わず目を閉じる。

「……うん」

それ以上は言葉が出てこなくて、ただ涼が側にいる安心感に浸っていた。

「今日は夕食は外で食べようか。颯太はゆっくり休んで」
「ありがとう」

いつの間にか、涼はフレンチのレストランを予約してくれていた。

「でも、涼って和食好きなのに。なんでフレンチ?」
「和食は颯太が作るやつが一番好きだから。家で食べたいんだ」

思わず笑ってしまう。

そんなこと言われたら、またご飯作りに張り切っちゃうじゃん。

料理をゆっくり味わいながら、会話の合間に視線が何度も交わる。
少し照れるけど、こういう時間が心地よい。
コースの最後、デザートを食べ終えたころには、今日一日が夢みたいだって思った。

帰宅してソファに並んで座ると、涼がコーヒーカップをそっと置いた。
その音が、何か一区切りの合図みたいに響く。

俺が顔を上げると、涼は優しい目で俺を見つめていた。

「颯太、少し話していい?」
「あ、うん」

なんだろう。嫌な話じゃないといいけど。

涼は一瞬だけ間を置いてから、まっすぐ俺を見る。

「実は来週、関西に出張になったんだ」
「え?」
「向こうの企業と最終段階の調整で。一週間くらいかな」
「……そうなんだ」

一週間。
数字にするとたった七日でも、毎日隣にいる人がいない生活を考えると、胸がぽっかり空くような気持ちになる。

「本当は颯太も連れていきたいけど、リボンがいるからさ」
「うん、わかってる」
「……寂しい?」

からかうようじゃなく、ちゃんと聞いてくれる。

「……うん。寂しい」

正直に答えた。だって隠したところで、涼には分かる。
すると、柔らかく微笑んで手を握ってくれる。

「そっか。俺も寂しいよ」
「でも待てるよ。だって仕事だし。大事なところなんだよね」
「うん。直接顔を合わせたいって言われてるから。俺もその方がいいと思ってる」

社長としての顔が、ほんの少しのぞく。

俺はその顔が好きだ。
こうやってちゃんと自分の仕事に向き合っているところも尊敬してるから。

「頑張ってね」
「うん。頑張るよ。早く終わらせて帰る」
「無理しなくていいよ?」
「無理はしない。でも早く帰りたいのは本音。颯太がいる家が好きなんだよ」

そう言いながら、涼は俺の手を握って指を絡めてくる。

前の自分だったら、たぶんこんな関係は想像できなかった。
それに、誰かの帰る場所になるなんて思ったこともなかった。

「……ちゃんと、帰ってきてね」
「当たり前だよ」

次の瞬間、肩を引き寄せられる。
耳元で落ちる声が、低くてあたたかい。

「俺が帰る場所はここだし、隣にいるのは颯太」

涼が少し身体を離して、俺の額にそっとキスを落とす。

「好きだよ」
「……俺も」

一週間って、たぶん思ってるより長いよね。
でも、帰ってくる人がいる時間は、待つことも含めて悪くないと思えた。

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