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【第四章】隣にいるのが当たり前
8.独占される俺の一日
テーブルには三人分の鯖の竜田揚げが並び、味噌汁の湯気がふわりと立ちのぼる。
揚げたての香ばしい匂いが、部屋の空気を満たしていた。
「いただきます」
仁さんが箸を伸ばし、一口食べた瞬間、ぴたりと動きが止まる。
「……なにこれ。うま」
「よかったです」
「いや、想像してた“家のご飯”のレベルじゃないな。涼、お前さ、これ毎日食べてんの?」
「ああ」
「は? ずるくない?」
仁さん、本気で羨ましがってる。
そういえば和真さんも似たようなこと言ってたよね。
勢いよく食べ続ける仁さんと、そんな様子を横目で見ながら、ゆっくり味わうように箸を進めている涼。
兄弟なのに、食べ方違うんだ。
……あ、そうだ。
「これ、どうぞ。さっき作った浅漬けなんですけど」
小鉢を差し出すと、涼が少し意外そうに眉を上げた。
「へぇ。いつの間に」
「あ、これも美味い」
「兄貴、先に食うなよ……」
同時に箸を伸ばして、軽く取り合いになる二人を見て、思わず吹き出しそうになる。
……こういう所はそっくりだ。
小鉢が空になる頃、仁さんがふっと箸を止めてこちらを見た。
「なるほどね。涼が本気になるわけだ」
「え?」
「可愛いし、優しいし、料理できるし。そりゃ離したくないよな」
「兄貴」
涼の声がまるで牽制するみたいに低く響く。
気づいたら、自然に俺の腰へ手が回っていた。
「颯太は俺のだから。ね? 颯太」
「あ、うん」
俺に向けられた声は、さっきまでと全然違って、やけに優しい。
張りつめてた空気がふっとゆるんで、それにつられるみたいに肩の力も抜けた。
気づいたら、自然と涼の方に体を寄せていた。
そんな俺たちを見て、仁さんが呆れたように笑う。
「人をダシにして、いちゃつくなっての」
……この言い方なら、普段からこうって思われたわけじゃないんだろうけど。
ほっとするどころか、逆に妙に意識してしまって、笑顔が少しだけ引きつった。
食後、リビングで一息ついていると、仁さんが思い出したみたいに口を開いた。
「なぁ、涼。今晩、泊まっていい?」
「は?」
あまりに唐突で、涼が露骨に顔をしかめる。
「週末、親父の法事じゃん」
「ああ。兄貴は海外にいたから帰って来ないと思ってたけどな」
「いや、予定調整した。早いよな、もう3年だって」
その言葉に、胸の奥が少しだけ引っかかる。
お母さんを早くに亡くしたとは聞いていたけど、お父さんも3年前に……。
「でさ、泊まるとこなくてさ。涼なら泊めてくれると思って来た」
「……ホテル取ればいいだろ」
「この時間からじゃ厳しいって。頼む」
しばらく無言で睨んでいた涼が、深くため息をついた。
「……わかった。ゲストルーム使っていいよ」
「マジで? 助かる」
仁さんがほっとしたように笑う。
涼はちょっと不機嫌そうな顔のままだけど。
二人が法事の話を始めたのを横目に、俺は先に風呂に入ることにした。
湯船に浸かりながら、今日一日のことをぼんやり思い返す。
お兄さんが来るなんて、まったく予想してなかった。
でも、仁さんって面白い人だよね。
涼とは全然タイプが違うのに、ふとしたところが似てる気もする。
それに、涼のちょっと子どもっぽい顔なんて初めて見たかもしれない。
……なんだか、変に印象に残る一日だった。
風呂から上がると、涼がリビングで待っていた。
「颯太。寝室、行ってて」
「え? でも――」
「兄貴は俺が案内するから。先、行っててね」
有無を言わせない口調なのに、目だけがやけに優しい。
「……わかった」
ベッドに腰掛けて待っていると、しばらくしてドアが開いた。
「仁さん、もう大丈夫?」
「ああ。あいつ、寝る気満々だった」
そう言いながら、涼が隣に腰を下ろす。
いつもならそのまま布団に入る流れなのに、今日はどこか空気が違っていた。
「颯太」
「なに?」
「今日さ、兄貴に颯太見られて……すごく嫌だった」
「え……」
思いがけない言葉に、胸がどくんと鳴る。
次の瞬間、ぐっと腕を引かれて、そのまま抱きしめられた。
「俺だけが知ってればいいのにって思った」
「……そんなの」
力が抜けて、少し甘えるみたいに顔を擦り寄せた――その途端。
いきなり視界が反転して、ベッドに押し倒される。
「え、ちょ……涼?」
「颯太」
顔がすぐ近くにある。息が触れそうな距離。
体重を預けられて、もう逃げ場なんてない。
「好きだよ」
その言葉と同時に、唇が重なった。
「んっ……」
いつもより、少しだけ強引なキス。
離れたと思ったら、またすぐ触れてくる。
明るいままの照明の下で、涼の真剣な目がまっすぐ俺を捉えていた。
「颯太は俺の」
包み込む腕も触れてくる指先も優しいのに、どこか余裕がない。
……いや、押し倒してる時点で、全然余裕なんてないよね?
そんなことを考えていると、また顔を覗き込まれて、涼の手がゆっくり体をなぞる。
「あ、あっ……ちょ、だめ」
「なんで?」
「仁さん起きてるかも。それに……」
「いいから。俺だけ見て」
そう言って、また唇を奪われる。
そのまま、涼の手が俺の服の中に滑り込んできた。
「ひゃ、あ……んっ……」
思わず声が漏れてしまって、涼が満足そうに目を細めた。
「可愛い」
「もう……」
困るはずなのに、嫌じゃない。
むしろ、こうして独り占めしたがる涼がどうしようもなく嬉しくて。
すぐ近くで俺を見つめている涼が、ただ綺麗だなと思った。
翌朝、目が覚めるといつも通り、隣に涼。
……そっか、昨日。
思い出しただけで、顔が熱くなる。
涼の腕は、相変わらず俺の腰に回ったままだ。
動いたら起きちゃうかな。
そっと体を離そうとしたら、涼の腕に力が入った。
「……どこ行くの」
「あ、起きてた?」
「うん。颯太が動いたから」
寝起きなのに、声は低くてちょっと甘い。
なんだか昨日の続きみたいな空気が漂う。
「朝ご飯、作らなきゃ」
「もうちょっとだけ」
そう言って、涼が俺を引き寄せる。
甘えた声で言われたら、断れるわけない。
「……五分だけだよ」
「うん」
涼は満足そうに笑う。
結局そのまま十数分、腕の中で甘えて過ごした。
ようやく体を起こして、キッチンに立つ。
今日はシンプルに焼き鮭と、だし巻き卵と、ほうれん草と油揚げの味噌汁。
「颯太」
後ろから抱きつかれる感触に振り向くと、涼だった。
「ちょ、涼。料理してるんだけど……」
「わかってる」
いや、わかってないよね、絶対。
でも離れる気配がない。
「……仁さん、起きてくるよ?」
「まだ寝てる」
「なんでわかるの」
「兄貴、朝弱いから」
そう言いながら、涼が俺の首筋に顔を埋める。
やばい、これ。くすぐったい……
「ひゃっ……あっ……だ、だめ。朝だし、仁さんいるし」
「じゃあ、キスだけ」
振り向かされて、唇を奪われる。
「んっ……」
朝からこんなの、反則すぎる。
「おっと、これは失礼」
突然の声に、心臓が跳ねた。
慌てて涼から離れると、リビングの入り口で仁さんが腕組みして立っていた。
揚げたての香ばしい匂いが、部屋の空気を満たしていた。
「いただきます」
仁さんが箸を伸ばし、一口食べた瞬間、ぴたりと動きが止まる。
「……なにこれ。うま」
「よかったです」
「いや、想像してた“家のご飯”のレベルじゃないな。涼、お前さ、これ毎日食べてんの?」
「ああ」
「は? ずるくない?」
仁さん、本気で羨ましがってる。
そういえば和真さんも似たようなこと言ってたよね。
勢いよく食べ続ける仁さんと、そんな様子を横目で見ながら、ゆっくり味わうように箸を進めている涼。
兄弟なのに、食べ方違うんだ。
……あ、そうだ。
「これ、どうぞ。さっき作った浅漬けなんですけど」
小鉢を差し出すと、涼が少し意外そうに眉を上げた。
「へぇ。いつの間に」
「あ、これも美味い」
「兄貴、先に食うなよ……」
同時に箸を伸ばして、軽く取り合いになる二人を見て、思わず吹き出しそうになる。
……こういう所はそっくりだ。
小鉢が空になる頃、仁さんがふっと箸を止めてこちらを見た。
「なるほどね。涼が本気になるわけだ」
「え?」
「可愛いし、優しいし、料理できるし。そりゃ離したくないよな」
「兄貴」
涼の声がまるで牽制するみたいに低く響く。
気づいたら、自然に俺の腰へ手が回っていた。
「颯太は俺のだから。ね? 颯太」
「あ、うん」
俺に向けられた声は、さっきまでと全然違って、やけに優しい。
張りつめてた空気がふっとゆるんで、それにつられるみたいに肩の力も抜けた。
気づいたら、自然と涼の方に体を寄せていた。
そんな俺たちを見て、仁さんが呆れたように笑う。
「人をダシにして、いちゃつくなっての」
……この言い方なら、普段からこうって思われたわけじゃないんだろうけど。
ほっとするどころか、逆に妙に意識してしまって、笑顔が少しだけ引きつった。
食後、リビングで一息ついていると、仁さんが思い出したみたいに口を開いた。
「なぁ、涼。今晩、泊まっていい?」
「は?」
あまりに唐突で、涼が露骨に顔をしかめる。
「週末、親父の法事じゃん」
「ああ。兄貴は海外にいたから帰って来ないと思ってたけどな」
「いや、予定調整した。早いよな、もう3年だって」
その言葉に、胸の奥が少しだけ引っかかる。
お母さんを早くに亡くしたとは聞いていたけど、お父さんも3年前に……。
「でさ、泊まるとこなくてさ。涼なら泊めてくれると思って来た」
「……ホテル取ればいいだろ」
「この時間からじゃ厳しいって。頼む」
しばらく無言で睨んでいた涼が、深くため息をついた。
「……わかった。ゲストルーム使っていいよ」
「マジで? 助かる」
仁さんがほっとしたように笑う。
涼はちょっと不機嫌そうな顔のままだけど。
二人が法事の話を始めたのを横目に、俺は先に風呂に入ることにした。
湯船に浸かりながら、今日一日のことをぼんやり思い返す。
お兄さんが来るなんて、まったく予想してなかった。
でも、仁さんって面白い人だよね。
涼とは全然タイプが違うのに、ふとしたところが似てる気もする。
それに、涼のちょっと子どもっぽい顔なんて初めて見たかもしれない。
……なんだか、変に印象に残る一日だった。
風呂から上がると、涼がリビングで待っていた。
「颯太。寝室、行ってて」
「え? でも――」
「兄貴は俺が案内するから。先、行っててね」
有無を言わせない口調なのに、目だけがやけに優しい。
「……わかった」
ベッドに腰掛けて待っていると、しばらくしてドアが開いた。
「仁さん、もう大丈夫?」
「ああ。あいつ、寝る気満々だった」
そう言いながら、涼が隣に腰を下ろす。
いつもならそのまま布団に入る流れなのに、今日はどこか空気が違っていた。
「颯太」
「なに?」
「今日さ、兄貴に颯太見られて……すごく嫌だった」
「え……」
思いがけない言葉に、胸がどくんと鳴る。
次の瞬間、ぐっと腕を引かれて、そのまま抱きしめられた。
「俺だけが知ってればいいのにって思った」
「……そんなの」
力が抜けて、少し甘えるみたいに顔を擦り寄せた――その途端。
いきなり視界が反転して、ベッドに押し倒される。
「え、ちょ……涼?」
「颯太」
顔がすぐ近くにある。息が触れそうな距離。
体重を預けられて、もう逃げ場なんてない。
「好きだよ」
その言葉と同時に、唇が重なった。
「んっ……」
いつもより、少しだけ強引なキス。
離れたと思ったら、またすぐ触れてくる。
明るいままの照明の下で、涼の真剣な目がまっすぐ俺を捉えていた。
「颯太は俺の」
包み込む腕も触れてくる指先も優しいのに、どこか余裕がない。
……いや、押し倒してる時点で、全然余裕なんてないよね?
そんなことを考えていると、また顔を覗き込まれて、涼の手がゆっくり体をなぞる。
「あ、あっ……ちょ、だめ」
「なんで?」
「仁さん起きてるかも。それに……」
「いいから。俺だけ見て」
そう言って、また唇を奪われる。
そのまま、涼の手が俺の服の中に滑り込んできた。
「ひゃ、あ……んっ……」
思わず声が漏れてしまって、涼が満足そうに目を細めた。
「可愛い」
「もう……」
困るはずなのに、嫌じゃない。
むしろ、こうして独り占めしたがる涼がどうしようもなく嬉しくて。
すぐ近くで俺を見つめている涼が、ただ綺麗だなと思った。
翌朝、目が覚めるといつも通り、隣に涼。
……そっか、昨日。
思い出しただけで、顔が熱くなる。
涼の腕は、相変わらず俺の腰に回ったままだ。
動いたら起きちゃうかな。
そっと体を離そうとしたら、涼の腕に力が入った。
「……どこ行くの」
「あ、起きてた?」
「うん。颯太が動いたから」
寝起きなのに、声は低くてちょっと甘い。
なんだか昨日の続きみたいな空気が漂う。
「朝ご飯、作らなきゃ」
「もうちょっとだけ」
そう言って、涼が俺を引き寄せる。
甘えた声で言われたら、断れるわけない。
「……五分だけだよ」
「うん」
涼は満足そうに笑う。
結局そのまま十数分、腕の中で甘えて過ごした。
ようやく体を起こして、キッチンに立つ。
今日はシンプルに焼き鮭と、だし巻き卵と、ほうれん草と油揚げの味噌汁。
「颯太」
後ろから抱きつかれる感触に振り向くと、涼だった。
「ちょ、涼。料理してるんだけど……」
「わかってる」
いや、わかってないよね、絶対。
でも離れる気配がない。
「……仁さん、起きてくるよ?」
「まだ寝てる」
「なんでわかるの」
「兄貴、朝弱いから」
そう言いながら、涼が俺の首筋に顔を埋める。
やばい、これ。くすぐったい……
「ひゃっ……あっ……だ、だめ。朝だし、仁さんいるし」
「じゃあ、キスだけ」
振り向かされて、唇を奪われる。
「んっ……」
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