【完結】クズ御曹司に嵌められた俺が、スパダリ社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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【第五章】甘やかされて、愛されて

6.君の優しさが、全部俺の味方

「本日はお忙しい中、父の三回忌にお集まりいただき、ありがとうございます。おかげさまで、無事にこの節目を迎えることができました」

俊さんが挨拶を始めた。
そっか、長男だからこういうのは全部背負う立場なんだ。

「食事は、親戚の皆さんが中心になって用意してくださいました。手伝ってくださった方も含めて、本当にありがとうございます。どうぞ気楽に、ゆっくり過ごしていってください」

最後にほんの一瞬だけ、こっちを見てくれた。
直接名前を出されたわけじゃないけど、ちゃんと御礼を言われたような気になる。

俊さんの挨拶が終わり、人が動き出したタイミングで隣にいた涼が小さな声で言った。

「颯太、色々ありがとう」
「うん。大したことしてないけど」

そう返したら、涼は「十分だよ」と静かに笑って、ぽん、と俺の頭に手を乗せた。

え……ここで撫でるの? 

親戚の前だけど大丈夫なのかな、と思わず周りをちらっと見る。
でも、目が合った人たちはなぜかみんな、にこっと優しく笑い返してくるだけだった。

あんまり気にしなくてもいいのかな……?

やがて食事が始まり、座敷全体に落ち着いた空気が広がる頃。

「すごい料理だなぁ」
「こっちは颯太くんが作ってくれたのよ」
「へぇ」

向かいの席の人がそんなことを言って、視線が一斉に俺に集まる。

「うん、美味い」
「煮物の火の通り方、ちょうどいいな」
「颯太くん、料理上手なのね」
「いえ、皆さんが用意されてたものに、少し手を出しただけで……」
「いい子ねー。涼くんも助かってるでしょう?」

不意に話を振られた涼を見る。
どう答えるんだろうと思ったら、涼はまったく迷う様子もなく口を開いた。

「はい。毎日、こういうの食べさせてもらってます。幸せ者ですよね、俺は」

え、ちょっと待って。
そんな律儀に返事しなくても……。
なんか俺が、とんでもなく世話焼いてる人みたいじゃん……。

「いや、助けられてるのは俺の方なんです。涼さん優しくて、俺は毎日甘やかされてて。気づいたらすぐ隣にいて、最近は涼さんがいないと落ち着かないっていうか……」

はっとして顔を上げると、涼は嬉しそうな顔でこっちを見てた。
満面の笑みじゃないのに妙に満たされた顔をしてて、余計に恥ずかしくなる。

「あら、仲いいのねぇ」
「え、あっ……変な意味じゃなくて、ただその、すごく大事にされてるなって思うだけで……」

取り繕ったつもりなのに、全然取り繕えてない。
自己嫌悪で俯きかけたとき、涼が当たり前みたいに言った。

「これからも大事にするよ?」
「あ……うん」

反射で頷いてしまってから、またやらかした気がして固まる。

「まあ、恋人同士みたいね」

誰かの一言に、思わず箸を落としかけた。
隣では、涼がくすっと息を漏らして笑っている。

この人、絶対否定する気ないよね?
このままだと、そのうち根掘り葉掘り聞かれる未来しか見えないんだけど。

「その辺のことは、またきちんと話しますよ」
「……え」

言葉が出ないまま俯くと、周りは「そうなのねぇ」と、とりあえず納得した様子でまた箸を動かし始めた。

……というか、“その辺のこと”って何を話すつもりなのかな。

少し離れたところでは、俊さんが静かに食事をしていた。
もともと多くを話す人じゃないらしく、周りの会話に加わることもなく、淡々と箸を動かしている。

しばらくして、その俊さんがぽつりと呟いた。

「……美味いね」

たった一言。
それだけなのに、不思議なくらい場の空気がやわらいだ。

「ほんとこれ、いい味してるわぁ」
「仕出しより美味しいねぇ」

そんな声が重なって、さっきよりもずっと“家の食卓”みたいな雰囲気になった気がする。

――そのときだった。

「ずっと思ってたんだけどさぁ」

その声が妙に大きくて、周りの何人かが箸を止めた。

顔を上げると、さっき涼に話しかけていた嫌味な叔父さんが、こちらを見ている。
口元にうっすら笑みを浮かべたまま。

「君、涼くんとこのお手伝いさんだっけ。ずいぶん台所で動いてたよね」

え。俺に言ってる?

「あ、はい」

戸惑いながら返事をすると、叔父さんはさらに言葉を重ねた。

「皿並べたり、煮物混ぜたりさ。ああいう細かいこと、ずっとやってたじゃない。最近は男もああいうのやるの? 流行りなの?」
「えっと……」

別に特別なことをしたつもりはない。
炊事は慣れてるし、手が足りなさそうだったから動いただけなんだけど。

なんて説明すればいいのか迷っていると、その沈黙を埋めるように、叔父さんが笑った。

「いや、男があんなにちまちま動いてると、なんていうか……男らしくないなぁって思ってね」

ああ……そういう意味か。

嫌だなと思ったけど、こういう場で空気を乱す方がもっと嫌だった。

どう反応するのが正解なのか分からなくて、何も言えずにいると叔父さんはくつくつと笑った。

「いっそ可愛いエプロンでもつけてさ、女装でもしたら似合うんじゃないの?」

――ピシッ、と。
何かにヒビが入るみたいな感覚がした。
なんでそんなこと言われなきゃいけないんだ。

「叔父さん、それはさすがに駄目です」

そのとき、涼が静かに口を開いた。

怒鳴っているわけじゃない。
むしろ声量は抑えられているのに、場の空気が一瞬で張り詰める。

「颯太がどんな人間か、何をしてくれたか、俺は全部知ってます」

座敷が、しんと静まり返る。
涼は言葉を選ぶでも飾るでもなく、ただまっすぐ続けた。

「今日一日見ていれば、皆さんだって分かると思います」

視界の端で何人もがうんうん、と頷くのが見えた。

「俺にとって、颯太は大事な人なんです。男らしいとか、らしくないとか……そういう基準で見てほしくない」

きっぱりと言い切ったあと、涼はそれ以上何も足さなかった。
睨みつけるでもなく、ただ真っ直ぐ叔父さんを見ている。

すると、視線から逃げるみたいに叔父さんが咳払いをした。

「いや、その……」
「正人さん」

落ち着いた、よく通る声が重なる。
清美伯母さんだった。

「さっきから聞いていれば、何を言ってるのかしら」
「え、いや……」
「颯太くんがどれだけ助けてくれたか、あなた分かってないでしょう?」

間髪入れず、隣の女性も口を開く。

「そうよ。準備も料理も、ほとんど手伝ってくれたのよ?」
「重たい物だって持ってくれたし、気が利くし、本当に助かったんだから」
「え、マジ? それなのに正人叔父さん、文句言ってるの?」
「男らしさとか、意味わかんないよねぇ」

次々と声が重なっていく。

「いや、でも――」
「“でも”じゃありません」

ぴしゃり、と言葉を切られて、叔父さんが黙り込んだ。

「料理できる男の人の何が悪いのよ」
「ほんと、何が女装だか。くだらない」
「むしろ何もできない人の方が困るわよねぇ?」

周りが一斉に頷く。
さっきまでとは、まるで風向きが違っていた。
完全に、包囲されている。

――と、そのとき。

「そうたー!」

場違いなくらい元気な声が、座敷に飛び込んできた。

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