【完結】クズ御曹司に嵌められた俺が、スパダリ社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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【第五章】甘やかされて、愛されて

7.大丈夫の、そのあと

振り向いた瞬間、子どもたちがばたばたと駆け寄ってきて、そのまま勢いよく抱きつかれた。

「そうたおにいちゃん、やさしいんだよ!」
「さっき折り紙してくれた!」

小さな手が服をぎゅっと掴んでくる。
袖を引っ張られたり、背中にぴたっとくっつかれたりして、完全に身動きが取れない。

「颯太はお料理できて、かっこいいの!」
「ちゃんとお話聞いてくれるもん!」

別の子が叔父さんのほうを見ながら、悪気ゼロの顔で続けた。

「颯太のこといじめたら、ゆるさない!」

……え。

座敷の空気が、ピシッと止まる。

視線を上げると、周りの大人たちがなんとも言えない顔をしていた。
苦笑というか、「あー……」って納得してる顔というか。
そして叔父さん本人は、言葉を失ったまま固まっている。

静かに口を開いたのは、親戚の女性だった。

「子どもって正直だからね。誰が良くて誰が悪いかなんて、ちゃんと分かってるのよ」

その一言にあちこちで小さな笑いが漏れて、子どもたちからはまたぎゅうっと抱きしめられた。

叔父さんの顔が、みるみる居心地悪そうに曇っていった。

「……ま、まあ、悪く言うつもりじゃなかったんだ」

歯切れの悪い言い訳だけ残して、観念したように俯いた。

「そうたおにいちゃん、またあそぼ?」
「ぜったいだよ!」

腕を引っ張られて、完全に次の約束まで取り付けられてる。

「ほら、そろそろ颯太くんを離してあげなさい」

大人が笑いながら助け舟を出してくれて、ようやく解放された。
そして、さっきまで張り詰めていた空気なんてすっかり消えていた。

俺、言い返したわけでも、助けを求めたわけでもないのに。
気づけば自然と守られていた。
しかも、涼を筆頭に。

……なんだよ、それ。
胸の奥がじわっと熱くなって、涙が出そうで、慌てて瞬きをした。

横を見ると、涼がこちらを見ていた。

「颯太、大丈夫?」
「……うん」

いつも通りの柔らかい声。
だけどその直前、叔父さんのほうへ一瞬だけ視線を流したのを、俺は見逃さなかった。

あれはたぶん、牽制。

言葉にしなくても分かる。
“これ以上、余計なことは言うな”という、静かな圧。

「無理しなくていいから。疲れたらすぐ言ってね」
「うん、大丈夫だよ」
「……本当に?」

もう一度確かめるみたいに聞いてくる。

体調も気持ちも、どっちも見透かされてるみたいだ。
少しでも無理してたら、本気で抱えて連れて帰りそうな聞き方。

「ほんとだって」

そう言うと、涼はようやく小さく息を吐いた。
向かいで仁さんがくすっと笑う。

「涼、颯太くんのこと好きすぎだろ」
「好きだよ」

涼が即答した。
その言葉に顔がどんどん熱くなる。

「今の颯太くん、いい顔してるんだけどなぁ。撮ったら涼に怒られるし」
「当たり前。颯太は俺のだって言ってるだろ」
「独占欲強っ。じゃあ、あっちの皆さん撮ってくるか」

仁さんが笑いながら席を立った直後、涼のスマホが震えた。

「……すみません、少し外します」

画面を確認した涼が静かに立ち上がる。

「仕事の電話。すぐ戻るね」

俺の耳元に近い距離で、小さく囁くみたいに言う。
そのまま自然な手つきで、俺の頭を優しく撫でてから出ていった。

涼、行っちゃった……。

さっきまであんなに楽しかったのに、ちょっと心細い。

「颯太くん、だっけ?」

向かいに座っていた年配の男性が話しかけてきた。

「あ、はい」
「さっき台所でよく動いてたなぁ。偉いねえ」
「いえ、できることをしただけで」
「それができない若いの多いんだよ」
「ほんとほんと」

隣のおじさんも笑いながら頷く。

「涼くんはな、昔から賢くて要領いいけど、家事だけは苦手でな」
「そうなんですか?」

思わず、ちょっと笑ってしまった。

「あ、でも……」
「ん?」
「食べる専門なのは、たしかです」
「ははは! それは間違いない!」

笑いが起きて、場の空気が一気に和む。
気づけば、料理の話や仕事の話、「どこ出身なんだ?」とか、次々に話しかけられていた。

いいな、こういうの。
たしかに堅苦しさは全然ないし、ちゃんと受け入れてもらえてる感じがして、正直嬉しかった。

「颯太くん、飲める?」

すっと、徳利を差し出される。

「あ、いえ、あまり強くなくて……」
「ちょっとだけならどうかな?」
「せっかくだし」

おじさん達に笑顔で勧められて、これ以上断るのも悪い気がしてしまう。

「……じゃあ、少しだけ」

差し出された盃を受け取る。

くい、と飲んだ瞬間、舌から胃まで熱くてピリピリするような感覚。

あ、これ……思ったより強い……。

体が一気に温まって、酔いがすぐに回る。

「お、いい飲みっぷり」
「いや、全然です……」

笑って返しながらも、すぐに次を注がれてしまう。
断りきれず、もう一口。

その頃にはもう、頭がふわふわと軽くなっていた。
会話の音が少し遠く感じて、なんとなく体が揺れてる気がする。

……やばいかも。

「すみません……」

ゆっくり立ち上がると、一瞬足の感覚が分からなくなる。

「どうした?」
「ちょっと……酔い冷ましてきますね」

頭を下げて座敷を出る。
襖を閉めた瞬間、賑やかな声が遠ざかって、
急に静かになった。

「はぁ……」

廊下の空気がひんやりして気持ちいいはずなのに、視界がうまく定まらない。

……あれ、真っ直ぐ歩いてる、よな。

足に力が入らない。
目の前がぼやけてきて、しっかりしろ、と心の中で叫んだ。

壁に手をつこうとしたけど距離感がずれて、ぐらっと体が傾いた。

「――危ない」

低い声と同時に、腕を掴まれる。

「颯太」

次の瞬間、強く腕を引かれ、硬い胸板にぶつかって支えられる。

「……涼……?」
「うん。颯太、こんなになるまで酔って、どうしたの」

耳元に落ちてくる、低くて甘い声。
ぎゅっと抱き寄せられて、そのまま自然に体重を預ける形になってしまう。

「ほら、立てる?」
「……むり、かも」

涼が一瞬黙って、それから小さく笑った。

「わかった」

ひょい、と体が浮いたと思ったら、軽々と抱き上げられてた。

「えっ、ちょ……」

視界が高くなって、慌てて涼の胸元を掴む。

「大丈夫。落とさないから」

顔を胸に近づけたら、涼の心臓の鼓動がはっきり聞こえる。

「無理しちゃ駄目って言ったよね?」
「ごめ……」
「謝らなくていいよ」

……やっぱり怒ってるよね。

ちゃんと“大丈夫”って言ったのに、全然大丈夫じゃなかったから。
俺、自業自得じゃん……。

でも、ぎゅっと胸に引き寄せられるその力は、乱暴じゃないのに確かで。
落ちないように、離れないように、守るみたいに強かった。

「……涼」

呼んだ瞬間、視界がゆっくりぼやける。

……ごめん。

もう一度謝ろうとしたけど、その言葉は出ないまま。
涼の胸のぬくもりの中で、意識が静かに沈んでいった。

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